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討伐、そして第5の街へ

いやあ、ヴォルケーノ・ゴーレムは強敵でしたね。

「はぁぁっ! とどめですっ!」


 メグルさんが気合いと共に放った一撃がヴォルケーノ・ゴーレムの胴体に炸裂し、ついにそのHPを削りきる。

 バギィッ! と音を立てて、胴体心臓部にあったらしいゴーレムの核が砕け散り、そのまま全身が崩れるようにゴーレムは消滅した。



「お疲れ様〜」


「ふぅ……お疲れ様です。なんだかんだで第三形態は強かったですね」


「シンプルに強かったね。動きが単純だったから私は戦いやすかったけども」


「スクナさんは結局第二形態の時からほぼノーダメですからね」


「マグマが一番めんどかったよ」


 ヴォルケーノ・ゴーレム討伐の余韻に浸るメグルさんと共に、ゴーレム戦の感想を語り合う。

 なかなか面白い相手だった。今の私ならソロでもそんなに苦戦はしなさそうだけど、いくつかの大技を回避できたのはメグルさんの情報ありきだったから、完全に初見なら苦戦したことだろう。

 情報を逐一伝えてくれたメグルさんには感謝しなきゃだ。


「とりあえず、巨竜戦でレベルアップした分の試運転ができて良かったよ」


「なんだかんだイベント後半をレベリングに当てたおかげで、私自身も前回の負けに比べれば余裕があった気がしますね。とはいえスクナさんの功績がほとんどですが」


「そんなことないって。ダメージソースになってくれて助かったよ」


 私の攻撃も通ってはいたけど、なんだかんだで氷属性の通りが良かったのか、ダメージの6割くらいはメグルさんが削ってくれている。

 彼のレベルは現在81らしいから、童子であるのも含めて純粋にステータスも高いんだろう。一撃一撃がしっかり威力を持っていて、なかなかに頼もしかった。


「あ!」


「どうかしましたか?」


「結局宵闇のギミック使ってない……」


 今回の戦いの切り札になるに違いないと思っていたのに、想像以上にシンプルボスだったせいで使うのを忘れていた。


「ギミックですか? 暗器カテゴリの武器なんですね、それ」


「そうなんだよ」


 メグルさんはギミック付きの武器についてそれなりに知識があるのか、私の言葉に反応を返してくれた。


 はるるがちょくちょく作成しているギミック付きの武器は、正確には《暗器》カテゴリを持つ武器という扱いになる。

 かつて私が一日で破壊した斬打一体型暗器の《クーゲルシュライバー》の場合、《打撃武器》《両手棍》《暗器》という3つのカテゴリを持つ武器という扱いだった。

 《暗器》カテゴリというのは要するに仕込み武器ですよという証明のようなものであり、暗器を作成するには通常の鍛冶スキルとは別のスキルが必要になったりするらしい。


 ちなみに《メテオインパクト・零式》に関してはちょっと例外で、あれは暗器という扱いにはならないんだとか。

 武器破壊時に大爆発、というのはギミックというよりは素材の問題と判定されるらしい。

 繰り返し使える仕込みでなければならない、みたいな縛りがあるのかもしれないね。

 純ヘビメタ製とはるるが謳っていたメテオインパクト・零式の作成素材に火薬が入っていたことについてはちょっと言いたいこともあるけれど、結局はそれに助けられてる訳で。


 なんにせよ、宵闇に搭載されているギミックは繰り返し使えるタイプのものだ。

 重力属性との併用ができない訳じゃないんだけど……使った時に周りを巻き込みかねない性能だから、巨竜戦では使えなかった。


「どんなギミックなんですか?」


「うーん……内緒!」


「えぇー……いいじゃないですか教えてくださいよ」


「まだ配信でも見せてないしさ、切り札は最後までとっとかないと」


「思わせぶりなことだけ言うのはずるいですよー」


「うふふふふ」


 残念がるメグルさんには申し訳ないけど、せっかくなのでもう少し引っ張らせてもらうことにした。

 配信のネタになるからね。


「さて、これでメグルさんはなんかのクエストが終わったんだっけ?」


「そうですね。鬼人族の限定スキルに関連するクエストなんですが、これが人によって難易度が変わるんですよ。ヒミコさんなんかは私から見るとものすごく簡単な感じでしたね。あの人レベルが異様に低いので、多分まだ最初の試練も突破してないと思いますけど」


「誰か助けてあげればいいのに……」


「いや、なんかこう……面白くて」


 いじられキャラと言うんだろうか。

 ヒミコさん、鬼人の里に着いた順番では相当早かったらしいのに、もう軽く1ヶ月近くは里から出られてないらしいからね。


「ああ見えて根性ある人ですよ。なんだかんだ楽しそうですしね」


「まあ本人が楽しんでるならいいのかな?」


 ちなみにレベルは40を超えたくらいだそうだ。

 フィーアスのプレイヤーくらいの強さだから、もうひと踏ん張りかもしれない。



「そう言えば、帰りはどうするの? ロッククライミングする?」


「多分それで登れるのはスクナさんだけですよ。安心してください、あそこにワープポイントがありますから」


 あまり周りを見てなかったんだけど、メグルさんの指し示す方向には確かにワープできそうな魔法陣が出現していた。


「なるほどね。とはいえここからダンジョンを攻略するのはちょっとしんどいなー」


「いや、攻略はしないですよ。あのワープポイントはグリフィス側の出口に直行ですから」


「おお! って、それだと私ボス討伐のボーナスステータスポイント貰えないよね!?」


 ありがたいような勿体ないような。

 今は早く鬼人の里に行きたいからグリフィスの方に行けるのは嬉しいんだけど、ダンジョンボスを討伐した時に貰えるボーナスステータスポイントがちょっと惜しかった。


「また来ればいいんですよ」


「ああ、それでいいんだ」


「あくまで初回討伐ボーナスですから」


 ダンジョンの初クリアではなく、ボスの初討伐報酬なんだもんね。そっか、無駄にならないならいいや。

 また機会があったら攻略しよう。

 そんな現金な思考でさっくりと気持ちを切り替えると、私とメグルさんはワープポイントから焔の古代遺跡を脱出するのだった。





「第5の街グリフィスからは、プレイヤーやNPCの強さが一段と上がります。そしてそれを前提としているのか、出てくるモンスターが格段に強化されます」


 古代遺跡を抜けてグリフィスへと向かう途中、私はメグルさんから説明を受けていた。


「巨大迷宮を抜けられる実力があるということもありますが、何よりもこの街に辿り着いたプレイヤーの大半がレベル50を超え、上位職へと転職しているからです」


 大抵の職業は職業の習熟度が30を超えると、上位職が解放されて転職することができるようになる。

 習熟度はレベル21からレベルアップするごとに1ポイントずつもらえるから、転職可能なラインはレベル50になる訳だ。

 上位職はそのほとんどが下位職の上位互換であり、下位職と上位職でレベルアップに必要な経験値が変わったりもしないので、転職しないのはほとんどの場合損にしかならない。


 もし転職しないのだとしたら、それは転職可能な習熟度に関する特殊な条件の達成を目指している場合くらいだろう。

 例えば、剣士から剣豪へと転職せずにレベル70を超えると、《剣鬼》という職業への道が開けるらしい。

 転職の条件が難しければ難しいほど職業の性能は上がると言われてるから、それを狙って下位職を維持し続けるプレイヤーもいない訳ではなかった。


 ただまあ、こんな話をしていても、ここにいる2人には縁がないんだけどね。


「転職かぁ……羨ましいなぁ」


「ですよねぇ。スクナさんから教えていただいて、童子も転職はできるらしいということはわかりましたが……レベル90は流石にしんどいです」


「私はもう少しなんだけどね。あのゴーレムの経験値でもレベルアップまでの半分くらいしか貰えなかったし、ここからが長そうだよ」


 共に童子という特殊な職業を選んでしまったプレイヤー同士、ため息をつきながらグリフィスへの道を行く。

 童子という職業は現状、かろうじて存在するステータスへのパッシブ効果を除けば、足枷以外の何物でもない。

 いやまあ、私は童子であるおかげでいくつかのエクストラクエストを受けていたりレアスキルを入手したりしてるから一概に足枷とは言えないんだけどね。



「さて、見えてきましたね」


 メグルさんの言葉を受けて、私は正面に目を向ける。

 遠目に見える外壁は、これまで見てきたどの街とも違う赤褐色だ。普通の外壁とは素材が違うということなんだろうか?


「あれが第5の街、グリフィスです」


 あれがグリフィス。5番目の街か。

 これまでいくつかの街を見てきた訳だけど、外壁以外にも一目見て分かったことがある。

 

「……小さいね?」


「これまでの街が大きすぎた、という方が正しいでしょうね。先程も言いましたが、グリフィス周辺からは出てくるモンスターが格段に強くなります。その分プレイヤーが減るんですよ。巨大迷宮のあっちとこっちで、フィールドのモンスターの平均レベルが15も違いますし」


 つまりふるいにかけられる分、ここまでたどり着けるプレイヤーの数が単純に減っているということだろうか?

 そんな風に考えたんだけど、それだけが理由ではないのか、メグルさんは言葉を続ける。


「それに、拠点が街しかないフィーアスまでと違って、ここから先は鬼人の里のように拠点となる町や村が爆発的に増えます。単純にプレイヤーの分散が発生するので、あまり大きな街である必要がないんですよ」


 確かにフィーアス辺りまでは、利便性の高い街の方にほとんどのプレイヤーが集まっていた。

 特に始まりの街は、数万人という大規模なプレイヤーをすんなりと受け入れられるくらいには大きな街だった。

 今も第三陣、第四陣あたりのプレイヤーでごった返しているのかもしれないが、それはさておき。


 始まりの街までは、ちゃんとしたアイテム補充や回復や休憩を取れるスポットが大きな街しかなかった。

 でも、ここからはそうじゃない。

 種族の隠れ里や辺境の村村、宿場町なんかもあるかもしれない。

 要するに、冒険の拠点となりうる場所が爆発的に増えるのだ。


 だから、始まりの街やデュアリス、トリリアのように街を大きく作ってプレイヤーの受け皿になる必要がない。

 メグルさんの説明から察するに、グリフィスがそこまで大きくないのはそういった理由なのだろう。


「それでも、グリフィスはグリフィスでかなり便利なんです。クラン《竜の牙》のクランホームはグリフィスにありますし、最近は《円卓》のマスターもグリフィスを拠点にしてるらしいですよ」


「へー、ドラゴさんのとことアーちゃんのとこか。そう言えばシューヤさん元気かな」


 アーちゃんに関しては結構懐かしいな。

 クラン《円卓の騎士》のクランリーダー、アーサー。

 本人曰くクラン最強の剣士らしいし、実際にそうなんだろうとは思っているけど、戦っているところは見たことがない。

 そして、ついこの間のレイドバトルで共闘したシューヤさんもまた、円卓のプレイヤーだ。

 飄々とした人だったけど、リンちゃんを守るために命をかけてくれた恩人。

 案外情報通でもあって、レイドバトルの前にプレイヤーの紹介をしてくれたりもした。多分いい人だ。


「この後の予定ですが、私たちはグリフィスには立ち寄るだけですぐに移動します。理由はもちろん鬼人の里に向かうためです」


「鬼人の里って遠いの?」


「かなり遠いです。地図だけを頼りに行くと徒歩で3時間、戦闘込みで4時間かかるかもしれません」


「うわ、それは遠いな」


 そんなのもう、巨大迷宮をもう一個クリアするようなものだ。

 こうしてみると、ヴォルケーノ・ゴーレムを討伐した後に転移できてほんとによかった。

 今はまだお昼前。ここから4時間かけて里についても、夜の来客には充分間に合う。


「しかも鬼人の里は翼の効果対象じゃないので、こっちから飛んでいくことも出来ませんし、私もちょっと頑張らなきゃですね」


「あー……そっか、旅人の翼って「街」にしか飛べないんだっけ」


 WLOにおいて「街」というのはつまり、ナンバリングシティのことだ。始まりの街を含めた第○○の街という名前の街に限定して、旅人の翼は転移を許してくれる。

 もちろん、あくまでも目的地として街しか選べないと言うだけで、村や里から街に飛ぶのは自由だ。


 そう考えると、メグルさんはあのゴーレムと戦う度に相当な時間を奪われていたのかもしれないね。

 確かメグルさんは、リスポーン地点を鬼人の里に設定してるはずだから。


「まあ、それでも通り抜ける程度にはグリフィスも見て行けると思います。鬼人の里は幸い、街の向こう側ですからね」


「ん、やっぱり新しい街は楽しみだな」


 メグルさんから色々な説明を聞きながら、グリフィスの正門へと到着する。

 入場手続きの代わりにメニューカードを提示して、私はようやく第5の街へと辿り着いたのだった。

あくまでも帝都やら始まりの街に比べて小さく感じると言うだけで、グリフィスもそれなりにはでかい街です。

とはいえ今回、2人はグリフィスをスルーして鬼人の里へ。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうこれは異世界物な気がする 異世界物と考えて配信については脳死すれば完璧
[一言] という事は血滴子は投擲か投剣のカテゴリで峨嵋刺は刺突・打撃カテゴリになるのかな? 錘は打撃だろうけど流星錘は投擲と打撃のどちらになるんだろう?
[一言] ゴーレムがナレ死で草
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