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初めての同士

「今我々がいるこの大空洞が焔の古代遺跡の深層に位置する場所なのはご存知ですよね?」


「たしか、地図に書いてあったような」


「焔の古代遺跡は一度深層まで潜ってから再度反対側の上層を目指す、典型的な洞窟タイプのダンジョンです。ダンジョンボスの《フレイム・ゴーレム》は出口付近に控えていて、初の炎属性ボスモンスターですが大して強くはありません。長すぎるダンジョンそのものが試練なので、ボスはここも世界樹洞もそう強くはありませんね」


「ふむふむ」


 確かに、5時間近くかけてボスにたどり着いたのに、ボスが強すぎて負けて全てパァになりましたって言うのは結構しんどいよね。

 グリフィスから先にだってまだまだ世界は広がってるんだから。


「ヴォルケーノ・ゴーレムが出てくるのはこのダンジョンの深層より更に下、最深部とでも呼ぶべき灼熱地帯です」


「あー、そしたらトマットンじゃなくて効果の強い薬の方を使わなきゃいけないかな?」


「そうですね。ただ、今回は私が依頼して付いてきてもらう訳ですから、ちゃんとそちらも用意してあります」


 私が今回食べてきた冷製トマットンは、暑さに対する耐性を高める効果も時間もそれほど高くない。

 それについて確認してみたら、メグルさんはより効果の高い耐暑用の薬を渡してくれた。


「さて、先程も言った通りヴォルケーノ・ゴーレムの属性は『獄炎』です」


「強調するってことは、火属性や炎属性とは違うんだね」


「はい。獄炎属性は炎属性の上位属性。水や氷属性を弱点とせず、弱点ではない下位の属性を無効化し、炎属性の攻撃を吸収するという特徴があります。対抗するには同じく上位属性の攻撃を利用するか、純粋な物理攻撃で戦うかの2択になります」


「あー……分かった。それで私なんだね」


 メグルさんが私を選んだ理由。

 それはレベルの高さもあるだろうけど、強力な打撃属性の物理攻撃を放てるプレイヤーであるということも大きかったのだろう。

 そこら辺を徘徊しているプロトゴーレムでさえ斬撃耐性を持っていた以上、ヴォルケーノ・ゴーレムが斬撃耐性を持っていないとは思えない。

 その耐性を回避して高火力をたたき出せるプレイヤーが、グリフィス周辺のプレイヤーのレベルでは見つからなかったんだと思う。



 WLOにおける斬撃武器の人気は高い。

 この前のレイドバトルでアタッカーのほとんどのプレイヤーが剣士であったように、現状の使用率1位が《片手剣》カテゴリの武器で、2位が《両手剣》カテゴリの武器だったはずだ。

 もちろんカテゴリ規模での話だから、一口に片手剣と言っても直剣やら曲刀、細剣といった全ての片手剣武器が含まれる。両手剣も同様に、大剣や刀といった複合武器が含まれている。

 この2つの武器カテゴリはとにかく人気で、魔法職を除いた全プレイヤーの6割を占めるほどの使用率を誇る。

 使用率3位の《弓》カテゴリが更に2割ほどいて、あとは群雄割拠というか好きな武器を好きなように使う人がいるような感じだった。


 なぜ剣が人気なのかと聞かれれば、属性攻撃が豊富で扱いやすいとか、使用者が多いため武器ごとのステータス配分のテンプレートがかなりカッチリしているとか、それらしい理由はいくつでも挙げられる。

 でもまあ、結局は何よりカッコいいからだろう。

 ものによっては防御手段もあるし、わかりやすい隙がない。

 ボスに対しての立ち回り指南みたいなのもいくらでも見つかるし、とにかく人気になるだけの理由はあるのだ。



 そして、肝心の打撃武器の使用率は現状1割にも満たない。弓の次に人気なのは《槍》カテゴリだし、打撃武器使いは片手両手に限らず全種類を合わせてもマイノリティだ。

 特に両手用は棍やらメイスやら使いづらい武器が多すぎて、もはやマイノリティを超えた何かと言いたくなるほどに使い手がいない。

 私の配信はあまり布教の役には立っていないようだった。悲しい。


 でも、そういう意味では今日初めての経験をすることになるのかもしれない。

 そう、メグルさんはなんと、私と同じ打撃武器使いなのだ。


「メグルさんは打撃武器を使うんだよね?」


「ええ、今回のイベントで新調しました。見ますか?」


「ぜひ!」


『遂に仲間が……』

『配信で初の打撃武器使いだ』

『たまげた』

『ほんと少ないもんな』

『スクナ、俺嬉しいよ』


「ほんとにね!」


 素直にワクワクする。自分の新しい武器もいいものだけど、人の武器を見せてもらうのも楽しいものだ。

 特に今回は打撃武器。それもおそらく店売りではない、プレイヤーメイドの武器だろう。


 メグルさんがメニューを操作して取り出したのは、極めて流麗なフォルムの片手用メイス。

 バットに近いフォルムの金棒とは違い、インパクト部分にあたる柄頭と持ち手にきっちりと分かれた構造で、とても幻想的な碧玉(へきぎょく)を中心に据えている。

 なんの金属を使っているのか、全体的にマットな色合いのメタリックブルーが印象的だった。


「銘を《アイスメイス・三式》。氷属性を纏った、属性付きの片手用メイスです」


「氷属性……! って、弱点は突けないんでしたよね?」


「ええ、それでも属性ダメージ自体は通るんですよ。私はスクナさんのようにずば抜けて高い筋力値を持っているわけではないですし、防具にもそれなりに数値を割いていますから。ある程度の数値までは属性を合わせた方が効果的ですね」


「あ、そっか。属性ダメージそのものが無効化されるわけじゃないのか」


 物理ダメージというのは武器の純粋な攻撃力で計算されるダメージのことで、属性ダメージというのはそれとは別に追加で計算されるダメージのことだ。


 例えば、普通に殴ると10の物理ダメージが通る武器があったとする。これに10のダメージが通るくらいの氷属性値が付与されると、合計20のダメージを与えられる。

 氷属性が弱点の敵に対しては、この氷属性ダメージの方が2倍の威力を発揮して、合計ダメージは30になる。

 反対に、氷属性を無効化するモンスターに対しては物理ダメージの分しか入らないので、ダメージは10しか与えられない。


 さっきメグルさんが言っていた「水、氷属性を弱点としない」というのはあくまでも弱点を突いた時の倍率にならないと言うだけで、水と氷の属性自体は普通に通るということなんだろう。

 逆に風とか雷とかそういう普通の属性は無効化されてしまうから、属性武器や属性攻撃を用いるなら水か氷、あるいは上位属性とやらを用意する必要があると。


 ちなみに打撃耐性や斬撃耐性は、物理ダメージの計算の方に関わってくる耐性だったりする。いわゆる物理耐性と言われるものだ。

 これらの耐性は逆に属性攻撃には関係ないので、物理耐性持ちのモンスターへは属性攻撃を使うのが非常に効果的だったり。

 まあ私は属性攻撃の手段を持ってないから、脳筋戦法をするしかないんだけどね。


「属性武器……綺麗だなぁ」


「アイスメタルを元に、属性結晶を使用して作成した属性値特化の武器なんですよ。やや脆いのが欠点ですが、まあ防御に使わなければ数戦で壊れるような耐久ではないですし」


「私の宵闇も一応重力属性があるけど、重力属性って物理ダメージの増減にしか関わらないし……属性武器って新鮮だな」


 メネアスから貰ったクリムゾンジュエルは宵闇の素材に使ってしまったし。もうひとつ、トリリアで貰った水の竜結晶は持っているけど、これに関してもなかなか使う機会が訪れないままだ。


「重力属性とはまた珍しいですね。どこでそんな属性のアイテムを?」


「イベントのモンスターハウスの報酬でね。使用にMPがいるタイプのやつで、今は呪いで使えないんだけど」


 ちなみに宵闇のギミックと重力属性はまた別のものだ。

 はるるがレア素材を使いまくって仕込んでくれたギミックに関しては、ヴォルケーノ・ゴーレム戦で活躍してくれるはずだ。


「なるほど……そういえば、その呪いを解くために鬼人の里に向かってるんでしたね」


「解けるかはわからないけど、一応そういうことかな」


 ぶっちゃけMPも魔攻も魔防も有って無いようなステータスだったから、呪いによる制限なんてないようなものだけど。

 でもリスナーのみんなから見た目について割と言及されたし、宵闇の性能を十分に引き出してあげられないのは少し可哀想だから。


「上手くボスを倒せたら、今度は鬼人の里が賑わいそうですね」


「私もみんなと会うのは楽しみだなぁ」


「みんなもきっと待ってますよ。さて、それではそろそろ向かいましょう。スクナさん、谷の底を覗いて見てください」


「谷?」


 橋の周辺でメグルさんと話していた私は、谷の底を覗けという言葉に従って下を見る。

 100メートルほど下をマグマが流れている以外に特に何があるわけでも……いや。


「何か入れそうな穴があるね」


「見えましたか。それがヴォルケーノ・ゴーレムの元へと続く隠し通路です」


「なるほど、これはいい感じの隠し通路だなぁ」


 普通なら行こうとは思わない、だけど確かに何かがありそうな気配がする場所に通路がある。ギリギリ着地できそうなくらいの足場もあるから、あそこに着地できれば問題なく中には入れるだろう。

 変にギミックがある訳でもない、少し注意深い人なら見つけられるくらいの隠し通路だ。

 こういうの、やっぱりワクワクするね。


「ところであそこにはどうやって行くの? この高さだと落下ダメージで死ぬよね?」


「グリフィスで売っている《フロートクリスタル》というアイテムがあります。これは非戦闘中の落下ダメージを一度だけ無効化する使い捨てのアイテムなのですが、今回はこちらを使います」


「それは便利な。悪用できそうな効果だね」


 メグルさんから手渡されたクリスタルを受け取って、視界の先にある隠し通路を見据える。


「それでは行きますか!」


「いざボス退治!」


『イクゾー』

『ぴょーん!』

『躊躇ないなぁ』

『ひぇぇこわい』


 躊躇なく谷底へと飛び込んでいったメグルさんが隠し通路の足場へと着地したのを見届けてから、私も谷底へとジャンプする。

 隠しボス、ヴォルケーノ・ゴーレム。

 ()()私の試金石にはピッタリの相手に、私は高揚する気持ちを抑えられないまま笑みを浮かべた。

ヴォルケーノ・ゴーレムの推奨討伐難易度はレベル70のプレイヤー4人以上。グリフィスにいるプレイヤーの平均レベルは55程度なので、メグルさんは共に戦う仲間をなかなか集められなかったのです。

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