#ゼロウォーズ4初見プレイ
前回の続きです。
「ふむふむ、基本的にサバイバルゲームなのは昔と一緒で、武器が色々増えたり防具の概念が追加されて、あと1発限定の必殺技が使えるようになったんだ」
『やり込み要素がえげつなく増えた』
『トロフィーしんどい』
『ストーリーもあるよ』
『オンでカジュアルにやるなら変化はそんなもん』
『やり込みえぐいよな』
配信用に借りてるリンちゃんのパソコンでゼロウォーズ4の情報を集める。
ゲーム画面は目の前に出てるんだけど、ヘルプを見ただけじゃどんなゲームかはわからないしね。
一番基本的なところは初代とそんなに変わってないかな。
敵を殺す。生き残る。やることはシンプルだ。
「ほうほう。あーキャラによって手にした武器の性能が若干変化したりするんだね。長射程タイプなら長射程武器を、短射程タイプなら短射程武器を狙って拾っていくのがいいんだ。でもこれ初代みたいなシステムだと最低限遠近に対応できる中射程最強環境にならない?」
『万能ではあるな』
『エクスギアでひっくり返るよ』
『長射は序盤強くて短射は終盤強いからどれもそんな変わんない』
『メガランチャーすこ』
『ステージが4つあって個々に特色があるから案外そんなでもない』
なるほど、その為の必殺技なんだ。
それでも中射程のキャラが扱いやすそうだし、最初はバランスのいいキャラで行こうかな。
「とりあえずこの初期キャラっぽいので行こう」
『初期キャラ(ED後解放)』
『最強キャラやぞ』
『初心者にはええやろ』
『序盤中盤終盤隙がないよね』
『エクスギアが強すぎるんだよなぁ』
『そういやそれリンネのデータか』
「データ消したりしなきゃ何しててもいいって言われてるからだいじょぶだよ」
えーと、ソロだとノーマルとランダムのふたつのマッチング形式があるみたい。
ゼロウォーズって基本的に飛行機みたいなのからヒューッと島に飛び降りて、そこから武器を拾ってバトルスタートって感じのゲームだ。
ノーマルは自分で落下点を選べる普通のモードで、ランダムはフィールドのどこに落とされるかが完全ランダムなモードっぽいな。
基本的に武器は建物の中にあるから、ノーマルマッチならまずは敵と被らない建物に降り立って安全に準備を整えるか、市街地のような激戦区に降り立って敵を蹴散らすかの二択になる。
前者のメリットは何より初動が安全であること。しっかり準備を整えて、慎重に戦いに赴くことができる。
デメリットは、安全地帯というものがたいてい島の端っこの方であるということだ。
この手のサバイバルゲームって、一定の時間で試合を終わらせるために、生存可能範囲がどんどん狭まるようになっている。
大抵の場合は円形の進入禁止ゾーンがマップに表示されて、その中に入ってしまうとスリップダメージを受けてしまう感じだ。
だからプレイヤーはその進入禁止ゾーンの圧縮から逃げつつ他のプレイヤーを倒す必要があるんだけど、この手のゲームで最も危険なのは移動中なのだ。
障害物があるならいいけど、草原を丸腰で突っ走らなきゃいけなかったりする。
大抵進入禁止ゾーンの中心は島の真ん中あたりに来るので、そこに移動する間に待ち受ける敵の攻撃を凌がなきゃいけない。
序盤は安全だけど終盤はしんどい。これが前者の利点と欠点だった。
逆に市街地戦は激戦区なので超絶危険地帯である反面、生き残った時のメリットが大きい。
敵を殺せば敵の持っているアイテムを奪えるから、市街地戦を制すればその時点で街中にあるアイテムは取り放題。
おおよそ最強装備で中盤以降を迎えられるから、ハイリスクな分ハイリターンもある訳だ。
更に街そのものが要塞としてもゲリラ基地としても使えるし、なんなら場合によっては進入禁止ゾーンの中心になることもある。
どの道リスクはどこに降り立つよりも高いので、実力に自信がある人だけが選べる選択肢と言えるだろう。
逆にランダムはノーマルと違って全てがランダムみたいだ。
スポーンして初めて戦うステージと自分の位置がわかる。
これはこれで上級者向けというか、ただ全員が平等の条件下でのランダム要素なので普通に面白そうではある。
「とりあえずランダムでやってみようか」
『草』
『落ち着け』
『初プレイでランダムは無謀や!』
『ステージも分からんのによーやるな笑』
『操作分かる?』
「やりながら覚えるかなー」
ランダムマッチを選択して、マッチングを待つ。
こういうゲームは本当に久しぶりで、少し心が踊った。
☆
【#ゼロウォーズ4初見プレイ】
イギリスに住む少女――カタリナがその配信を見かけたのはたまたま、本当に偶然のことだった。
今度の大会でゼロウォーズのVRリメイク版が使われるとあって、数日後に迫った発売に備えて適当に配信を見て情報収集でもしようと思った時のことだった。
日本語タイトルの配信の中、一際工夫のないタイトルが逆に目に付いてしまった。
『今どきゼロウォの初見プレイなんて珍しいわね』
とても流暢な英語でそう語るカタリナは、使い慣れたゲーミングチェアに背を預けながら配信の視聴ボタンをクリックする。
ゼロウォーズ4は彼女もやり慣れたゲームだ。
TPSサバイバルゲーム自体は過去に数多く存在したが、VRの台頭などもあり今生き残っているのはせいぜいが3種類。
そうなってくると、ゲーマーであればやったことがない人の方が少ないくらいになってくる。
だからこそ、今更の初見プレイという要素に興味を引かれた。それでも数分だけ初々しい姿を見て、あとはもっと意義のある上級者の配信を見に行こうと思っていた。
『ふーん、HEROESのメンバーなの。こんな子居たかしら?』
ちょうどマッチング中なのか、少し気を抜いたような表情でカチャカチャとコントローラーを弄ぶ配信主のプロフィールを見て、カタリナは少し驚いたような表情を浮かべた。
コンシューマーのFPSプレイヤーで、大会などに参加したことがあるプレイヤーならばHEROESの名を知らないものはいない。
『ああ、そう言えばあのリンネがスカウトした子がいるんだったっけ。じゃあその子かもしれないわね。えーと……名前は……NANA……ナナ。シンプルねぇ』
何となく語呂が気に入ったのか、ナナ、ナナとカタリナは配信主の名前を口ずさむ。
あのリンネのスカウトと言われるだけで自然に期待は高まってしまうな、と彼女はそんなことを思った。
HEROESはまだしも、リンネの名前を知らないゲーマーなど、世界を見渡してもいるはずもない。
プロゲーマーリンネ。弱冠21歳にして生涯獲得賞金金額1572万ドルのスーパープレイヤー。
もちろん米ドル換算における数値であり、彼女が住む日本の円に換算するならばざっくり16億円程か。
当然ながら女性プロゲーマーとしてはぶっちぎりのギネス記録であり、2位以下とは大きく差を開けている。
女性で唯一『あの大会』で優勝したのだ。その程度の名誉は当然と言えば当然なのだが。
『リスナーの数はまだまだ少ないけど、コメントが多いのはいいことね。それにしても初見プレイっていう割には様になってるけど、経験者かしら?』
ゼロウォーズ4のランダムマッチは、初心者から超上級者までが各所で入り乱れる混沌とした試合になる。
ノーマルマッチならば上級者は大抵市街地へと降りるし、初心者は安全地帯から慎重に進むので案外に整然とした戦いになることも多いのだが、ランダムマッチではとんでもない下克上が起こるのが割と日常茶飯事だ。
それが好きでランダムマッチに潜るプレイヤーは多い。かく言うカタリナもゼロウォーズ4をプレイしていた時は半々くらいの割合でランダムマッチに身を投じていた。
『手に入れた武器は短銃だけ。でも防弾バリアと投げナイフは拾えてるわね』
彼女の視線の先では、だだっ広い草原にスポーンしたせいで中々いい武器を手に入れられずにいるナナの姿が映っている。
ナナの使うキャラクター『ゼクト』は、中射程武器を得意とするバランス型。短射程武器にカテゴライズされる短銃を持っても、特に強化は発生しない。
短銃の射程距離は20メートル程度と短いが、その分火力は高めではある。連射性能もイマイチだが、仮にヘッドショットを決めれば防弾バリアを粉砕しきる。わずか2発で確殺を取れる武器はゼロウォーズでは稀有故に、その火力に取りつかれるプレイヤーは後を絶たない。
とはいえそれも短射程タイプのキャラクターを使用していればの話だ。
仮にそうだとしても、他にもっと扱いやすい武器がある。そういう意味で短銃は滅多なことでは使われない武器でもあった。
そんなこんなでアイテムを拾いつつ、ナナが郊外の街にたどり着いた。
そろそろ接敵するだろうか。
カタリナが経験からそんなことを考えていると、案の定ナナはビルの中でプレイヤーと鉢合わせた。
ガトリング系の武器を持った中射程型プレイヤーとの戦闘。乱射を嫌ったナナは近くにあった部屋に飛び込んだ。
『その部屋は袋小路よ〜』
カタリナは戦闘が始まってから勢いを増したコメントを見ながら、楽しそうに笑う。
短銃とガトリングでは圧倒的にガトリングに優位がある。
何せガトリングは連射武器だ。多少エイムが悪くても、それをゴリ押せるだけの弾数と威力がある。
対して短銃は連射性も射程もない。今ナナが飛び込んだ袋小路の部屋でなら射程こそほとんど関係はないが、ガトリング側としても狭い部屋の中であれば適当に打っていれば当たってしまう。
ただ、ナナの表情はすこぶる冷静で、それどころかほんわかとした空気さえ感じるほどで。
『え……?』
3発の銃声。たったそれだけで戦いは幕を閉じた。
『今の……狙ったのよね?』
ナナは最初、敵が強襲を仕掛けるべく顔を出したその瞬間に当たるというタイミングで銃弾を放ち、ヘッドショットを決めた。
これは音を聞けばできないことではないので、カタリナは素直に上手いなというだけの感想を抱いた。
元々少しバリアが削れていたのだろう。防弾バリアを一撃で粉砕された敵プレイヤーは焦ったのか、一度態勢を立て直すべく部屋の入口から離れようとした。
それを見たナナは、少しだけ笑みを浮かべて見当違いな壁に向かって2発の銃弾を放った。
そして、1秒ほど経ってから画面にキルスコアが表示されたのだ。
『跳弾……しかも偏差撃ちの跳弾でヘッドショットですって?』
理論上は確かに可能だと思う。
ナナが拾った短銃は、ゼロウォーズでは数少ない跳弾武器だ。射程が短い代わりにと言うべきか、それとも単純に威力の高さを反映しているのか、短銃のような実弾を放つ短射程武器は跳弾という特殊な弾の動きがある。
射程そのものは変わらず20メートル。多少の威力減衰はあるにしても、2発をヘッドショットで当てれば確かに倒すことはできるだろう。
ただ、それは。
ラッキーなどという言葉ではすまないほどの奇跡でしかない。
ついでにいうなら、一発でもヘッドショットで当たれば、それだけでも奇跡なくらいなのだ。
それを2発連続で、たった2発の弾で成し遂げた。
ここまで奇跡的なことが起きた以上、それはもはや奇跡ではなく、狙ってやったのだとしか思えない。
何よりも衝撃だったのは、カタリナがこの超絶技巧を見たことがあったからだ。
『……なるほど、リンネにアレを教えたのはナナだったのね』
そう。それはリンネがその名声を確固たるものにした大会でのラストシーン。
互いに満身創痍で絶体絶命のピンチ。
そのギリギリの死闘の末に、リンネは今の技で勝利を掴み取ったのだ。
とはいえ、リンネがあの時放ったのは別のゲームで、かつもっととんでもないドリームショットだった。
運勝ちだと言うプレイヤーもいるが、もし仮に運が良かったのだとしてもそこに放ったのはリンネ本人なのだから、結局はリンネの実力勝ちでしかない。
『あんなに平然と今のをやってのける……クレイジーね』
まるで当たったのが当然であるかのように、今のミラクルショットを喜びもしない。
どちらかと言えば敵のガトリングを奪えたことの方が嬉しそうだった。
カタリナの視界の先では中射程武器であるガトリングを敵から奪い取ったナナが、敵を蹂躙している姿が映し出されている。
まず耳がいい。音をよく聞いているのか、不意打ちの全てを先制で叩き潰している。
加えて、目も良さそうだ。彼女ですら見落としそうな程に小さな敵の影を見落とさず、裏を取らせずに立ち回れている。
危なっかしそうに見えてその実計算通りなその立ち回りは、本当にリンネを彷彿とさせる。
リンネに比べれば無駄な移動が多くはあるが、その分射撃の精度がとにかく異次元だ。
ガトリングですらほとんど外さない。スナイパーライフルに至ってはスコープなしでワンショットヘッドを決めていた。
近距離ではショットガンを使用し、時に短銃も織りまぜる。武器の切り替えはスムーズで、必要な時に必要な射程の武器を淡々と使っている。
何が初見プレイだと笑ってしまう。いや、ここまで来ると本当に初見プレイなのかもしれない。
『そっか。思い出したわ。確かそう、あれは初代のゼロウォーズの時……』
ナナが最後のタイマンを制するのを見届け、ふとカタリナの脳裏にある記憶が浮かんだ。
当時はリンネもそれほど有名ではなく、クロクロのRTA世界記録で一部の界隈を賑わわせていた程度だった。
だが、ゼロウォーズにおけるソロレート戦で月間1位に輝き、翌月にペアマッチで月間156戦無敗という偉業を成し遂げた時。
そのリンネがずっとペアを組んでいた謎のプレイヤー《SKN》。リンネいわく女性であったらしいそのプレイヤーのことを、当時のプレイヤーはこう呼んでいた。
『《魔弾の魔女》。ええ、今思えばそっくりだわ』
常にリンネを守るように立ち回り、その射撃精度は百発百中。リンネが倒れても必ず勝利をもぎ取り、連勝に貢献した真の立役者。
カタリナも、一時期その立ち回りを穴が空くほどじっくり見て研究したのだ。ゼロウォーズにおける最適解とまで言われた化け物のプレイングだ、見覚えがあるに決まっている。
『そう、そうなのね。そういうことなのね、リンネ』
抑えられない笑みを浮かべ、英国における総獲得賞金ランキング2位のプロゲーミングチーム《メタルハート》のエースプレイヤー、カタリナは心底嬉しそうにこう言った。
『HEROES。戦うのが楽しみだわ』
見逃さなくてよかった。
本当に見ていてよかったと思う。
忘れないようにチャンネル登録をしておこう。戦う時までの情報収集に使えるかもしれない。
そう考えたカタリナのチャンネル登録がSNSに通知され、ナナの外国人チャンネル登録者数はこの日を境にちょっぴり増えることになるのだった。
ナナが最も得意とするのは飛び道具。
リンネがそう判断する理由の一端はコレだったり。
コントローラーの有無は問題ではないのです。
ちなみにカタリナちゃんは「VR部門の」エースプレイヤーであり、ついでにリンネのお友達のひとりです。