#暇を持て余す
ログイン制限でWLOをプレイできない暇人がひとり。
「やることがないんだよ」
『草』
『草』
『今日も垢BANだもんなw』
『暇だからって配信するのイイゾー』
『さてはリンネに放置されてるな』
「垢BANじゃないよ! というかそうなんだよ寝て起きたらリンちゃんもうWLO潜ってるんだもん。ずるいよ〜」
リンちゃんの配信部屋を借りて、2日連続での顔出し配信。机にべたーっと張り付いて愚痴る私を、さすがに平日昼前とあって若干少ないリスナーが慰め……てはくれないものの、暇を持て余す私の相手をしてくれていた。
「ところでみんなは平日の昼なのに配信見てて大丈夫なの?」
『自営業です』
『飲食の夜勤組です』
『ぐふっ』
『有給です』
『ごはっ』
「え、何のダメージそれ?」
『無自覚とは酷い』
『今どきはリモートワークとかですね』
『ぶっちゃけニートやってます!』
『心壊れる〜』
『そういやナナってバイトとかやってたんだよね?』
「そうだねー。まあまあやってたよ」
そういう意味ではもう1ヶ月以上も働いてないのか。
狂ったようにアルバイトしてた頃は暇とは縁がなかったから、そのせいもあって私は暇に対する耐性が全然ないのかもしれない。
思えば、全部のバイト先が潰れちゃって途方に暮れてた時も、リンちゃんに誘われるまでは昼寝とかしてたもんなぁ。
『どんな仕事してたのー?』
『確かにちょっと気になる』
『人の職歴聞くのすこ』
「あー……そうだねぇ……最後の3年はカジノみたいなギャンブル系のお店と倉庫系の仕事がメインだったかな。私これでもカジノディーラーやってたことあるんだよ。その仕事はアルバイトではなかったけどね」
『嘘やんw』
『カジノって今は18から入れちゃうもんなー』
『バーチャルカジノはなかなか栄えないねぇ』
『小さい子に悪影響を及ぼす系配信者』
『トランプバララララララって奴できるの?』
「できるできる。なんなら今見せようか? 確かリンちゃんトランプとかヨーヨーとか持ってた気がする」
『見たい!』
『意外な一面やねぇ』
『じゃあナナは英語とかもできるんだー』
『リンネもトランプのシャッフルとか上手いよね』
『運動音痴だけど器用とかいうよくわからない生物』
『摩訶不思議やね』
「じゃあちょっと取ってくるよ」
リンちゃんは基本的にそういうおもちゃは捨てないタイプなので、多分倉庫に行けば昔遊んだ道具なんかがあるはずだ。
配信画面を放置して、一旦倉庫部屋を見に行く。
案の定、昔遊んだおもちゃが時期別にざっくりと分けてタンスに保管されていた。
「トランプとヨーヨーとけん玉見つけてきた〜」
『けん玉……?』
『リンネがけん玉やってるの想像して笑ってしもた』
『うわうっま何それ』
『玉が分裂してる……』
『片手でけん玉をしつつヨーヨーを巧みに扱う姿はまるで変態のよう』
「やってみると簡単だよ?」
『嘘おつ』
『嘘乙』
『ホンマに難しいねんな』
『みんな試して諦めるんだぞ』
『ペン回し見たい!』
「ペン回しも? まあその前にトランプで遊ぼうか」
昔リンちゃんにお願いされて覚えた数々のマジックが火を吹きますよ……!
ちなみにマジック自体はリンちゃんの方が遥かに上手だ。シャッフル系の技術は負けてないんだけど、私は視線誘導が下手くそなんだよね。
リンちゃんはそれはもう言葉巧みにやるから凄い。
ただ、1番の観客である私が仕込みも含めて全部見えちゃうから私相手にマジックやってもあんまり意味がなくて、リンちゃんは3日だけ練習して辞めてしまったのだ。
「パーフェクトシャッフルとか簡単だけど高速でやると見栄えがよくて便利だよねー」
『カードが舞ってる』
『ぱーふぇくとしゃっふるとは?』
『↑なんかすごいシャッフルや』
『↑ちゃんと説明しろやw』
『動き速すぎて怖いわ』
『漫画でよくあるカードをシュッと投げて渡すやつとかできそう』
「まっすぐ投げるのは無理だなー。回転かけていいならできるけどキャッチミスると最悪指飛ぶかも」
ちょっと待ってね、と声をかけてからリンちゃんの倉庫からダーツ盤を取り出しにいく。
ついでにダーツもいくつか持っていっちゃえ。
戻ってきて壁にダーツ盤をセットしてから、指にトランプを挟んで勢いよく投げつけた。
カッ! と小気味よい音を立ててダーツ盤に突き刺さったトランプをカメラに写るように見せる。
「ね?」
『わぁ……』
『どうやったらそんな勢いが付くの』
『回転は世界を変える』
『そのトランプ金属製??』
『トランプとか武器にしてそうだよな』
「これは紙製。まあ紙だって薄くすればするほど切れ味上がるって言うしね。確かWLOでは短剣カテゴリにトランプがあるんじゃなかったっけ?」
『短剣……?』
『投擲武器じゃないんだ』
『運営はトランプは武器派なんだろ』
「私は打撃武器しか興味ないからそこら辺はさっぱりだ」
『金棒しか造らないもんな』
『その金棒への拘りに愛を感じる』
『鬼に金棒ってそういう意味じゃないと思うんですけど』
『もっと錘みたいな武器も使って欲しい』
「なんかやけに金棒気に入っちゃった。ちなみに別の武器使うとしたら例えばどんな武器使って欲しい?」
『棒系がいい』
『杖』
『剣も見てみたい』
『両手メイスちゃんと使ってるとこ見たい』
『バーベル』
『薙刀とか』
『鉄扇!』
『錘を使ってるとこが見たい』
『ブラックジャックみたいな暗器って武器扱いなのかな』
『トンファー』
「暗器は暗器でスキルがあったと思うな。あんまりよく見てないから気のせいかもだけど。トンファーはあれはなんて武器カテゴリになるんだろ? そしてバーベルと扇子は武器なのかなそれ……」
『トランプが武器ならそいつらも武器でしょ』
「確かに」
そのコメントを見て納得した。
棒系の武器はクーゲルシュライバー以来触っていない。
最近少し斬撃系の打撃武器が欲しいんだよね。
暗器系の製作頼もうかなぁ。はるるなら喜んで作ってくれそうな気がする。
でもまだ宵闇の機構の方を使えてないんだよねぇ。あれも一応暗器カテゴリを持ってるから、実は隠された使い道があるんだよ。
巨竜アルスノヴァとの戦いでは使わなかったけどね。
「というか早くWLOに潜りたいよー」
『あと半日ちょい我慢だな』
『いつ制限解除されるの?』
『日付変わったあと?』
「そだねー。でも夜遅くに潜るとリンちゃんが怒るんだよ」
私がWLOを始めて以来、日付が変わるまでプレイしていたことは一度もない。
始める時間が朝の8時とか9時とか早い分、夜はだいたい6時前後には配信を切り上げてしまう。
夜用の配信オプションも結構前に買ってはいるものの、それでもどんなに遅くとも10時くらいにはやめている。
『なんで?』
『大人なのに』
『まあ一緒に暮らしてるならそういうこともあるんか』
「いやほら、リンちゃん一緒に寝たいって言うから」
リンちゃんが割と甘えんぼさんなのは今更な話だと思うんだけど、基本的に一緒に寝たがるのもひとつの特徴だと思う。
これに関しては昔っからずっとそうで、それこそ初めて会った時からそうだ。だいたい寝付くといつの間にか抱き枕にされていることが多い。
昔は力加減が出来なかったからそんなリンちゃんを傷つけてしまわないか怖くてすごい緊張したけど、今はそんなこともない。2人してグースカ寝てるだけである。
ちなみにリンちゃん曰く、温もりが欲しいらしい。
私は平熱がかなり高いので、湯たんぽみたいな扱いなのかもしれない。
私もリンちゃんと一緒に寝られるのは嬉しいので、これはウィンウィンの関係なのだ。
『はぁ……』
『毎日尊くするのやめろ』
『俺らの知ってるリンネとのギャップがエグいて』
『公式との解釈違い』
「そうなの? まあでも確かに、リンちゃん基本的にカッコイイもんね」
私にとってのリンちゃんは、強くてかっこいいところも弱くて可愛らしいところもあるとても魅力的な女性だけど、基本的に外向けのリンちゃんは強くてかっこいい人だ。
こうして配信でリンちゃんの隠された素顔……とまでは言わなくとも、珍しい姿を喋っちゃうのはイメージ的にあんまり良くないのかな?
いやでも私の個人情報の大半は確かリンちゃんの配信でのトークから判明したとかなんとか……。
『せやせや』
『俺らにとってもヒーローや』
『世界一何回取ったかわからんもんな』
『リンネは魅せプがほんと上手い』
『でもVRではいつもほど上手くはないよね』
『VRはなぁ』
『そういやナナってコンシューマーゲーはやらんの?』
「昔はやってたかなー。試しにどれかやってみる?」
コンシューマーゲームって言うのは家庭用ゲーム機でプレイするゲームのことで、VRのゲームが爆発的に栄えている昨今でも未だに根強く売れ続けている。
VRは時間も手間もお金もかかるけれど、コンシューマーゲームは買い切りだし電源をつけてコントローラーを握っていればプレイできるから、決して廃れることはない。
私が初めてリンちゃんと一緒にやったゲームもそうだったし、そもそも6年前まではVRよりも普通のコンシューマーゲームの方がずっとずっと人気だったのだ。
私は基本リンちゃんの後ろで見てただけだけど、全くやったことがないわけじゃない。
ちょこちょこリンちゃんのお手伝いのためにプレイしてたりもしたのだ。
『クロクロやってクロクロ』
『↑鬼畜すぎて草』
『時間足りなさすぎるぅ』
『アンドロイドフェスティバルとか』
『ゼロウォーズ4なんかいいんじゃない?』
『あーゼロウォか』
『ナナはゼロウォ知ってる?』
「ゼロウォーズ……ああ、あのサバイバルゲーム! 初代は確か私もやったと思うよ。リンちゃんと何度かペアでやった記憶があるなぁ」
リスナーからの提案の中から、私の記憶の中にあるゲームの名前をピックアップする。
ゼロウォーズというのは、かつて爆発的なヒットを飛ばしたサバイバルシューティングゲームのひとつの名前だった。
このサバイバルシューティングゲームの勝利条件は簡単で、最後のひとりまたは1チームになったら勝ち、だ。
大抵はオンラインゲームであり、戦う相手は当然別のプレイヤー。
バトルフィールドである孤島に100人前後のプレイヤーを空輸し、プレイヤーは好きな場所に降下して島中に落ちている武器やアイテムを拾いながら装備を整え、最後のひとりになるまで戦う、というのが基本的なルールになる。
初めてこのタイプのサバイバルゲームが出た時はとてつもなく人気が出て、パクリだったり改良を加えたりと幅広く展開したんだとか。
ゼロウォーズはその中では最後発の部類で、若干ブームが去った頃に出てきた作品らしい。
それでもシリーズが4まで出てるってことは人気タイトルとして根付いてるってことなんだろうけどね。
私のゼロウォーズプレイ歴といえば、リンちゃんがペアで達成しなきゃいけないミッションをクリアするのをお手伝いしていたくらい。
まあそんなに複雑な操作が要るわけじゃなかったし、銃を撃って敵を殺せば勝ちのシンプルさは私にもわかりやすくて好きだった。
『サバイバルゲームって表現は雑だけど的確やな』
『FPSとTPSの違いわからなさそう』
『初代とは流石に別ゲーに近いけどな』
『でもまあ銃と爆弾で戦うってとこは変わらんべ』
「まあまあ、時間あるしちょっとじっくりやってみようか。どのゲーム機でやるやつ?」
『右の黒いの』
『黒いの』
『大きくないやつ』
「いやもう少し説明を……これかな?」
『それ』
『それ』
『やったぜ』
さすがに名前自体は分からないものの、リスナーの力によってゼロウォーズをプレイするために必要なゲーム機は発見できた。
確かにゲーム機本体は黒で大きくないけども……とりあえずこれの電源を付ければいいんだね。
フォォンと小さな音を立てて起動したゲームの画面から、ゼロウォーズ4のパッケージを探す。
リンちゃんがコレクションとして持っているようなゲームソフトなんて概念は既になく、どんなゲームもインターネットでのダウンロード販売が常。
ゲームのデータは全てゲーム機本体の中を探れば見つかるので、この中にゼロウォーズ4のデータはあるはずなのだ。
「あーあったあった、これかぁ。おっ、このキャラ見覚えあるよ初代にもいたでしょ」
『いたよ』
『いなかったよ』
『いたよ』
『いたよ』
『いなかったよ』
「いたよ派が若干優勢……?」
いやそこは統一してよわかりづらいでしょ。
しょうがないなぁと思いつつ私はゲームを起動するのだった。
いわゆるPU〇Gの系譜。