#昨日の件について
全編配信風景です。
どうしても苦手な方はご注意を。
読み飛ばしても……まぁ大丈夫です。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。散々暴れた挙句説明もなく寝落ちしちゃって……」
初手謝罪安定。それが私がリンちゃんから伝授された必殺技だった。
『ええんやで』
『昨日リンネから聞いたよ』
『お疲れさん』
『見てて楽しかったよ〜』
『寝顔配信して』
「うん、みんなありがと。寝顔配信はしません。というかなんで寝顔?」
WLOから2日間のログイン制限を食らってしまった私は、昨日の使徒討滅戦についての謝罪と説明の責任を果たすべくこうして雑談配信を開くことにした。
一度も実感したことがないというか実績も活動もしていないけれど、私には一応プロゲーマーという肩書きがある。
現状ただの配信者では? という疑問はあるものの、配信者であったとしても昨日起きたことについては説明しなければならないのに変わりはない。
想像を遥かに超えて疲れていたのか、リンちゃんの膝の上でいつの間にか寝てて気付いたら翌日の夜だったんだけど。
休み明けってことでどの道朝とか昼に配信してもリスナーの大半は見られないし、月曜日の夜という多くの人が見られる時間帯に謝罪と説明、ついでに質問とかに答える用の配信をやっているのだった。
いわゆる顔出し配信というやつで、リンちゃんがVRではないゲーム配信をするための部屋を借りている。
顔出ししていいのか聞いたら、リンちゃん曰く「心配することは何もないわよ」とのことだったので、特にマスクとかもせずに普通にカメラとマイクの前で喋ってるだけだ。
と、まあなんだかんだと言ってもだ。
昨日のことについては私にもわからないことがほんとに多い。
だから、どっちかと言うと質問に答える配信になると思う。
リンちゃんがHEROESの公式アカウントで質問を募集して選別しておいてくれたらしいから、その台本を元にコメントを上手く拾いたいなと思っていたりする。
「とりあえず、私のせいで被害が出るようなことがなくてよかったです。多分始まりの街にいたプレイヤーの多くに迷惑をかけちゃったと思うので、ほんとに申し訳ないです」
これは本当にそう思う。
奇跡的に人的被害は出なかったものの、あの時私を取り囲んでいた人々はよくよく思い返せばプレイヤーばかりだった。
それも、きっと始まりの街で巨竜を食い止めるために集まってくれた精鋭たちだ。
私による被害を出さないように、色々と駆け回ってくれたんだろうし、住人の誘導とかももしかしたらしてくれてたのかもしれない。
最終的には琥珀が私を止めてくれたけれど、メルティが張ってくれた防御結界も含めて、全てが噛み合ったおかげで何とかなったようなものだ。
あれに関しては本当に、完全に暴走していた私に100%の割合で非がある。
デッドスキル《憤怒の暴走》。アレの詳細に関してはよくわからないけど、これだって所詮は私の感情にシステムが反応しただけで、決して私がシステムに振り回されていた訳じゃない。
どちらかといえば私がシステムを悪用していたと取られてもおかしくないくらいの振る舞いだった。
「ほんとに、ほんとにごめんなさい。こういうことが二度とないように気を引き締めますっ」
『ええんやで』
『たまにはああいうのもアリかも』
『あれはあれですこ』
『今の雰囲気が一番好き』
『普段からひぇってなりがちだったけど普段のナナはNPC殺さない分優しいんやなって思いました(小並感)』
『反省してるならいいさー。被害は幸いなかったんだし』
『初手で女の子から狙うのはどうなん?』
「いや、あのはい。あの時の自分が何を考えてたのかはあんまり覚えてなくて……リンちゃんが死んじゃって、頭が真っ白だったんだよね」
冷静に考えると、確かに初手で女児を狙って投げナイフをぶん投げるのはどうなの?
あまりに極悪非道すぎて逆に笑えてくるね。
「とにかく批判やご意見は真摯に受け止めさせてもらいます。言い訳はしません!」
『よう言うた! それでこそ漢や!』
『↑漢女だぞ間違えるな』
『撲殺鬼娘の称号がより相応しくなってきた感あるな』
『精一杯柔らかくしても打撃系鬼っ娘とは……もう撲殺鬼娘でいいんじゃないかな(白目)』
『語呂もリズムもいいよね』
「ちょっと待って。それは批判とか意見とかそういうアレじゃなくない?」
『撲殺鬼娘やしなぁ』
『今まで撲殺してきたモンスターたちを思い出すんだ』
『鬼 哭 の 舞』
『↑5000はくだらなさそう』
『あきらめろん』
「くっ……リスナーの意見が胸に刺さるっ……」
思えばリンちゃんの配信に出してもらった初日から、私には撲殺鬼娘の称号が付いていたような……。
持ちやすいからと打撃武器を選んでしまったのが運の尽きか。今になってみると打撃武器って案外使いづらいの多いし。
「刃物を持つべきだった……?」
『斬殺鬼娘?』
『首斬り鬼娘?』
『辻斬り鬼娘?』
『妖怪首おいてけ』
『ダメだこりゃ』
「私のイメージはどうなってるんだろうねー。あ、言わなくて大丈夫ですわかってるから」
これは日頃の行いのせいなんだろうか。
日頃の行いのせいですねどうもありがとうございました。
「じゃ、じゃあ気を取り直して、リンちゃんが募集してくれてたらしい質問に答えていくやつやりますか!」
『投函ポストか』
『何件くらいあるの?』
『待ってた』
『リンネ様々やな』
『有能マネージャー』
「ほんと頼りになるよ」
ただただ単純な作業を繰り返せばよかったバイトの時と違って、配信者らしいこととかゲーマーらしいことって何をすればいいのかわからないんだよね。
ほとんどリンちゃん頼みなのはよくないから、自分でも研究しなきゃいけないなぁと思う。
「えーっと……125件? 多いのか少ないのかピンと来ないけど、とりあえず上から読んでみようか」
Q:リンネと親友って、いつくらいからの仲なんですか?
「だいたい3歳くらいの頃かな? 人生のほとんどっちゃほとんどだけど、ここ6年くらいは一人暮らししてたんだ」
『18年かぁ』
『長いなぁ』
『これは親友の風格』
『逆に6年前は違ったの?』
「そうだね。親が生きてた頃は実家で暮らしてたし、リンちゃんの部屋に泊まったり、私の部屋に泊めたり。毎日一緒だったよ」
あの当時はどちらかと言えば私がリンちゃんにべったりだったからね。
リンちゃんか両親が周囲にいないと、何をしたらいいのかさえわからなかった。
『あっ』
『えっ』
『そっかぁ……』
『ごめんなさい』
あ、今の言い方だと親が死んだからみたいな風に聞こえちゃったかな。いやまあ、実際きっかけはそうなんだけどね。
でも、私の中では昨日ようやく乗り越えられた話なのだ。
リスナーのみんなが気に病むようなことではない。
「まあ過ぎた話だからさ。次いこ次」
Q:ぶっちゃけあの最後の姿って何? チートなの?
「まず第一にチートではないよ。それだけは胸を張って言える。まあ私より先に公式から説明はあったらしいんだけど」
こればっかりは、というかこれこそ今日の配信で答えなきゃいけない質問だった。
ただ、私自身このスキルの発動条件とかはまるっきり分からない。ゲームシステムが勝手に発動してしまったスキルだからだ。
ただあのシステムアナウンスはどうもゲーム世界全体に届いていたらしく、私やリンちゃんの公式SNSアカウントやWLOの運営には、結構な問い合わせがあったんだそうだ。
そこでWLO公式運営は急遽隠しパラメータについて言及。それがあのアナウンスで言われていた《感情値》についてだった。
『せやな』
『感情の高まりをモニタリングして発動するスキルだっけ』
『ちょっと怖さあるけどね』
『最低限納得はした』
『実際闇堕ちみたいでかっこよかった』
「あはは、もう使えないんだけどね。一応ログインできなくてもキャラステータスは確認できるから確かめてきたよ。スキル名は《憤怒の暴走》。器用と敏捷に5倍のバフと、筋力と頑丈は10倍バフ。1秒につき5%のオートヒーリングと、受けるダメージを一律80%カット。SP消費無効にアーツの技後硬直無効。これに文字通りなんでも破壊できるようになるパッシブアビリティ《絶対破壊》の付与と、レアスキル《鬼の舞》の全アーツ解放だってさ」
『鬼過ぎて草』
『強すぎぃ!?』
『全部盛りすぎる』
『公式チートやんけ!』
『物理のやべーやつ』
『琥珀様よう戦ったな』
『技後硬直無効……??』
「すごいよねぇ」
何がすごいって、ここまで化け物じみたスキルが存在することそのものがだ。
ひとりのプレイヤーが使えていい力じゃない。一応鬼人族限定のスキルであること、本来であれば発動自体が不可能なはずだったということは公式で発表しているんだけどね。
まあそれはそれとしてだ。
「ぶっちゃけ無理ゲーだったよあれ」
『わかる』
『あれはずるい』
『情報あって戦うなら楽しかったんちゃう?』
「そうだねぇ……昨日私寝落ちちゃったんだけどさ、その前にリンちゃん割とマジなトーンで不貞腐れてたんだよ」
リンちゃんは使徒を討伐しきれなかったのが割とショックだったらしく、私を膝の上に乗せて弄り回しながら愚痴を言ってたのだ。
私が色々と大変だったのもそれはそれ、これはこれ。そんなサッパリした性格もリンちゃんのいい所である。
『あれは笑った』
『久々に不穏リンネを見た』
『ナナの寝顔配信しながら愚痴ってるリンネほんま草生えた』
『尊みに溢れてた』
「ちょっと待ってその話詳しく聞こうか」
え? 何私リンちゃんに寝顔配信されてたの?
何も聞いてないんだけど?
『夜の9時くらいにリンネが『ナナの寝顔配信する』ってタイトルでナマポやってた』
「嘘でしょ?」
いや別に私は寝顔見られたからって気にしないけどさ。
「えー知らなかった……リンちゃん私には昨日の夜配信してたとしか言わなかったのに〜」
『反応が楽しみとか言ってたし』
『寝顔見られるのはいいんだ?』
「それは別にいいよ。リンちゃんがやってたことだもん。でも一言くらい教えて欲しかったなーって」
『そういやトーカがSNSで狂喜乱舞してたわ』
『↑あの子最近毎日ナナのこと呟いてるよな』
『ナナを見る目がかなり怪しげ』
『トーカとのコラボもまた見たいな』
「トーカちゃんね。イベント中ちょっと忙しかったらしいんだよ。まだフィーアスのはずだから、今度一緒にグリフィス目指してもいいね」
『やったー』
『トーカと並ぶとみんなちっちゃく見えるの好き』
『色んなコラボ見たいよね』
『他ゲーやったりはしないの?』
「コラボはねぇ、リンちゃんが許可出したらかなー。他ゲーもリンちゃん次第かも。私はWLOが一番のびのびできて楽しいから」
『のびのび(迫真)』
『のびのび(殺戮)』
『のびのび(撲殺)』
『のびのび(狙撃)』
「こら! そのネタ2回目だよ!」
『ひぇ〜』
『高笑いしてたよ』
『クリップあるよ』
『暴走してたスクナめちゃくちゃかっこよ怖かったよ』
『↑本音漏れてるぞw』
『あの時ぶっちゃけキレてた?』
「ブチ切れてたと思うよ。ここ6年ぐらい怒ったことなかったんだけどね。ほら、システムが反応しちゃうくらいにはブチ切れてたんじゃないかな」
『たし蟹』
『わかりやすい』
『怒髪天って感じ?』
『本来は発動できないはずのスキルとかいうバグ』
『バフ中ってやっぱ制御難しいの?』
『グラップラースクナの再臨にワイは泣いたよ』
「私は別に操作感の違いはなかったかな。グラップラーね、素手で殴るのは気持ちいいけど、私は金棒で一方的に殴る方が好みかなぁ」
『しれっとそういうこと言う』
『基本戦法が肉に触れさせず骨を砕くだからね』
『カウンターだから(震え声)』
『そういやナナって目がいいんだっけ?』
「普通の人よりは良いらしいねぇ」
『どのくらい見えるの?』
『どのくらいって表現難しいよな』
「望遠鏡を覗かない方がよく見えるくらい?」
『それほんとにワイらと同じ目ですか?』
『ロボットとかではなく?』
『アンドロイドナナ』
『語呂はいいな』
『人類卒業試験クリアおめでとう』
「一応人間だから……多分……きっと……めいびー……」
『自覚あったんか』
『本人があやふやなのは草』
『やっぱりアンドロイドじゃないか!』
『やったー!』
「まあほら、私がなんであれリンちゃんの隣にいられるならそれでいいかなって。少なくとも目がいいのって便利だしね」
『尊いで殴られた』
『あら〜』
『すぐ惚気ける』
『リンネ程じゃない』
『リンネまじですぐ惚気に走るからね』
『彼氏自慢みたいにナナのこと見せたがるもんな』
『外堀から埋めてくのかと思ったら最初から素通りだったでござる』
『強い』
「リンちゃんは私のヒーローだからね」
『うっ』
『うっ』
『うっ』
『うっ』
『リンネと同じこと言うもんな!』
『仲良しかよ……』
「仲良しだよ」
『知ってる』
『知ってる』
『知ってる』
そんなこんなでだいたい2時間くらい。
初めてゲーム外でのんびりと雑談配信をして、反省したり楽しんだり質問に答えたりと、結構充実した時間を過ごしたのだった。
リンちゃんがやったことなら、で全部済ませてしまうナナも大概おかしい。実際リンネ以外の誰にどう見られようと基本的にナナは全く気にしない子です。
ただ、配信が楽しいと思えるようになってきた今、リスナーと険悪になるのもちょっと嫌だったり。そんなこんなで謝罪配信を開いたら暖かく迎えてくれてちょっと泣きそうだったとか。