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使徒討滅戦:集合

 10日目、イベント最終日。

 と言っても、やる事は何も変わらない。

 ダンジョンに潜って、星屑の欠片を集めながら経験値を稼ぐ。私とリンちゃんはすっかり慣れてしまった周回作業を淡々とこなしていた。


 10日間に及ぶ周回作業も、ようやく終わりが見えてきたのだ。あと30分もすれば午後5時を回る。

 それはつまり、イベントの終わりと共に使徒討滅戦の始まりを意味していた。



「少し早いけど、ここらで締めとしましょうか」


「ん、そうだね」


 これ以上は周回したところで大した欠片の足しにもならないからと、私とリンちゃんは早めに周回を切りあげた。

 これで、1人当たり24万個くらいの星屑の欠片を集めてイベントをフィニッシュすることになる。

 ランキング上位に載ってるかは分からないけど、せっかく頑張ったんだし載ってたらいいなとは思う。

 なんだかんだ時間も労力も割いたしね。


 ともあれ、私はイベントの間ずっとリンちゃんと一緒にいられたから楽しかった。

 進行度はともかくレベル的にはリンちゃんとそう変わらないところまで来たし、始めた時にあった2週間の差はだいぶ埋まったと言えるだろう。


 そんなこんなでセーフルームに戻った私たちは、カタログを片手に使えそうなアイテムをかき集める。

 この後始まるのは、恐らくほぼ全員がアタッカーの異色のレイドバトルだ。

 役割分担なんてクソ喰らえと言わんばかりの絶望的な戦いに備えて、できることはしなければいけない。


「そう言えば、武器は届いたの?」


「うん。間に合わせてくれたよ」


 配信中だからと主語を隠して聞いてくるリンちゃんに、私は同じように配慮を込めた言葉を返す。

 はるるから「いい素材があったらよろしくお願いしますぅ……」という伝言と共に送られてきた新武器。

 ざっと性能を確認しただけでも影縫以上のポテンシャルが見て取れた。はるるは本当にいい仕事をしてくれる。

 とはいえ、この子を初手から出すことはしない。いや、この子に関しては初手から出せないというべきか。

 でも、その分の見せ場は作れるという確信がある。それを見せる機会がなければ、それはそれでいい事だしね。


「アイテムは集めたし、装備の耐久も問題なし。うん、万全だね」


「ま、あまり気負わず行きましょう。最悪私たちが討伐失敗しても、今の始まりの街には結構強いプレイヤーも集まってるんだから」


「気負ってはないけどね〜。むしろワクワクしてるくらい」


「それは私も一緒よ。ようやく、ようやく私の火力を本気でぶつけられるモンスターが現れたんだから」


 本当に嬉しそうに笑うリンちゃんに、私も思わず頬を綻ばせてしまう。


 ガッチガチの純魔ビルドにしてネームド素材の杖を持ち、多数のレアスキルを使いこなす魔道士プレイヤーがリンちゃんだ。

 目指す先はただ一点。「強力な魔法を使うために」。

 そうして育て上げたステータスを存分に振るえる状況がついにやってきたのだ。

 興奮してしまうのは仕方のないことだった。


「そろそろ時間だね」


「ええ、始まるわよ」


『アラート:間もなく使徒討滅戦が始まります』

『アラート:間もなく使徒討滅戦が始まります』

『アラート:門の周辺住民は離れてください』


 アナウンスではなくアラートなんだ。

 セーフルーム内に校内放送のように響き渡る大音量に、思わず顔を顰めてしまう。大音量は苦手なのだ。

 リンちゃんはというと、全く動じることなく装備の調子を確かめていた。ほんと頼もしいね。


『異空への転移ルートの確立を確認、星屑の迷宮の門を閉鎖します』

『続けて、試練の大鍵による転移を開始いたします』


 音声に合わせて、インベントリに入れていたはずの試練の大鍵がふわりと浮かび上がる。

 私とリンちゃんは、それぞれ自分で所有する大鍵が放つ光の円に包み込まれた。


『ご武運を』


 なるほど、強制ワープか。

 この10日間で慣れ親しんだワープの浮遊感を感じながら、私たちは使徒討滅戦の地へと飛ばされるのだった。





 一瞬の閃光に思わず目を閉じる。

 目を開けた時、広がる景色は焦土だった。

 ひとつの街が丸ごと破壊されたような、焦げ付いた瓦礫に覆われた大地。

 その一部にぽっかりと空いた円形のフィールドの上に、私たちは立っていた。

 わかりやすいスペースを作るなぁなんてことを思いつつ、燻る大地から立ち上る黒煙で、どす黒く染まった空を仰ぐ。

 視線を下に戻してみれば、転移の光がポコポコと湧き出した。私とリンちゃんは来るのが早かったみたいで、私は続々と現れるプレイヤーたちをぼんやりと眺めていた。


 転移してきた人数は私たちを含めて15人。30人という制限人数にさえまるで届いていない。

 もしかしたら30人以上のプレイヤーがいて、その上で第一陣として私たち15人が派遣された説……なんて、ありもしない妄想はやめよう。

 制限人数があったのかもとか、考えるだけ無駄だ。

 たとえ控えがいようといなかろうと。

 私たちが15人で使徒と呼ばれるモンスターと戦い、勝たなければならないことに変わりはないのだから。


 とはいえ人数が少ないのは素直にキツい。レイドバトルである以上、敵モンスターのHPは普通のボスモンスターの5倍はゆうに超えてくると思う。

 なぜならレイドバトルは、本来5パーティフルメンバーまで参加が許される総力戦なのだ。

 単純に人数が5倍いれば、火力は当然5倍どころではなく跳ね上がる。これはヘイトと標的が分散し、攻撃を挟める隙が多くなるからだ。

 もっとも、これは洗練されたレイドの場合の話であって、寄せ集めのメンバーだけで戦う今回に当てはまるとは言いきれないけどね。


 ともかくプレイヤー側の戦力に対抗するために、あらゆるゲームにおいてレイドバトルのボスモンスターというのは例外なく特大のHPを付与される。

 それは恐らくこのゲームにおいても例外ではなく、これから戦うモンスターはこれまで出会ったことがないほど莫大なHPも持っていることだろう。

 30人で2時間かけて戦うことを前提にしたHPだ。それを半分の人数で削りきるのは、はっきりいって至難の業と言えた。


 いざ集まりはしたものの、各々で最終確認を始めるプレイヤーたち。

 その内のひとりが悠然とした足取りでこちらに向かってくる。

 クラン《竜の牙(ドラゴンファング)》のリーダー、ドラゴ。

 このゲームにおいて初めてネームドボスモンスターを討伐したプレイヤーであり、同時に初めてネームドウェポンを所持したことで有名になった重剣士だった。


「やぁ、2人とも」


「あら、ドラゴ。防具少し変えた?」


「目敏いね。ガントレットを更新したんだ」


 それなりに沢山の人がいる中でも、やはりこの2人はよく目立つのか、周囲の視線を集めている。

 リンちゃんは言わずもがな、ドラゴさんも現状最大規模のクラン《竜の牙》のクランリーダーと言うだけあって注目度は高い。

 2人とも緊張の欠片もない様子で雑談を交わしているあたり、流石の精神力と言わざるを得なかった。


 とはいえ、この場に集っているのはあの試練を乗り越えて使徒討滅戦に参加する、現状のトッププレイヤーたちだ。

 そこに実力や立場の上下関係はなく、現時点では間違いなくゲームのトップ集団に位置する廃人の集まりである。

 案外2人がとりわけ有名かつ美人なアバターだから、目の保養になると思ってみているだけかもしれなかった。



 何だかんだみんないい表情をしているなーと思って観察を続行していると、不意に声を掛けられた。


「スクナ、久しぶりっすね」


「あ、シューヤさん」


 クラン《円卓の騎士》の団内序列第3位。

 紛れもない強者だけど、どこか掴みどころのない人物。

 トーカちゃんと初めて遊んだ時、彼女をデュアリスまで案内してくれていたのがシューヤさんだった。


 相変わらずなんとも言えない緩い雰囲気だけど、今日の彼は前にあった時とは違い全身を鎧で覆っている。

 まさに騎士、といったシルバーのメイルだった。

 完全な重戦士ではなく動きやすさも確保しているようではあるけど、てっきり軽鎧を扱う軽戦士なんだと思っていたから、その装備のチョイスは意外だった。


「なんか意外だな」


「意外っすか?」


「うん、装備もだけど、シューヤさんってこういう周回とかあんま好きじゃなさそうだと思ってたから」


 仮にも攻略トップクラスのクランで幹部のような立ち位置にいる割には自由人であるシューヤさんだ。

 むしろ周回とか大っ嫌いなタイプなんだと思ってた。


「間違いじゃあないっすね。普段なら絶対やらないっすよ。でもまあ、リーダーの頼みなんで」


「アーちゃんの?」


「円卓からもランキングに載せたいんだそうで。ま、レオとえるみがいるんで心配はなかったっすけど、まあ保険はかけるに越したこともないし。ちなみにレオとえるみってのはあそこの虎の獣人と猫の獣人コンビっすね。一応ウチの1位と4位なんで、そこそこ強いっすよ」


 レオさんは……両手剣かな? えるみさんとやらはまさかの二刀流か。しかもあれ、細剣(レイピア)の二刀流?

 ものすごく珍しいものを見たような気がするんだけど。


「じゃあ円卓からは3人なんだね」


「そうなるっすね。んで、あっちの3人は社畜機動部隊かな。社畜と言いながらメンバー全員がフリーランスか自営業の不思議なギルドっす」


「えぇ……」


 クラン《社畜機動部隊》。シューヤさんの言葉を信じるなら、あの名前で社畜のいないクランらしい。


「リーダーのテツヤはタンクなんで、今回のレイドに彼らがいるのはありがたいっすね」


「他のふたりは?」


「流石にそこまで詳しくはないっす。後で聞いてみたらいいんじゃないっすか?」


「そうする」


 これでえーと、9人の素性が割れたかな。

 円卓から3人、社畜機動部隊から3人、私とリンちゃんとドラゴさんで9人だ。


「ちなみに、竜の牙は4人いるっす。一度試練で壊滅したって聞いてたっすけど、ドラゴさんのとこはパーティ全員試練突破できたんすね」


「全員って凄いねぇ」


「実際凄いと思うっすよ。ついでに言うとヒーラーバッファータンクが揃ってるのがマジでありがたいっす」


「流石は廃人パーティ……隙がないね」


 ドラゴさんは、リンちゃん情報だと確かフルアタッカーのはずだ。

 サポート3人に火力ひとりとなるとバランスはあまり良くない気がするけど、それでもそのパーティでこの10日間を乗りきったんだろう。

 何よりヒーラーとバッファーをこのバトルに参加させたことそのものがドデカイ功績と言えた。


「あとはあっちのが……おっと!?」


「うわっ!」


 シューヤさんに集まったプレイヤーについて教えて貰っていると、轟音と共に大地が揺れた。

 地震ではない。それは瓦礫の山の中から、何かが勢いよく飛び出したことによる余波だった。


 周囲で湧き起こる悲鳴や驚きの声を聞き流しつつ、一瞬リンちゃんの無事を確認してから、私はその何かを追うように空を見上げた。


「……あぁ……」


 思わず声が漏れてしまう。

 嫌な記憶が蘇る。

 それはもう2週間以上も前のことだというのに、未だに鮮明に残る敗北の記憶。


 その両翼は空を震わせ、爪牙は全てを切り裂く刃。

 尾のひとつで優に人を殺せるであろう、絶対的な強者の証明。


「あの時のとはちょっと違うけどね……形の違うリベンジマッチと行こうかな」


《波動の巨竜・アルスノヴァLv90》


 再び相見えるは、蒼い甲殻を持つドラゴン。

 わずか15人のプレイヤーによる、絶望的なレイドバトルが始まろうとしていた。


『これより、使徒討滅戦を開始いたします』

因縁の対決。

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コミックでは童子関連の試練だったアルス=ノヴァ戦が、 ここでやってきましたかー
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