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スキルの選択

前話のタイトルを修正しました。

投稿時に指先が少しバグったみたいです。

 イベント9日目。ぶっちゃけこの日、私とリンちゃんはほとんどやることがなかった。


 というのも、使徒討滅戦に向けた試練の大鍵は昨日2人とも手に入れてしまったし、アイテムの補充なんかも同じく昨日終わらせてしまった。

 はるるに頼んだ武器は最終日の昼頃に完成するらしいから、それを焦って待つ必要もないし。

 今やれることなんて、若干空気が薄くなってしまったランキング上位入賞の為に星屑の欠片を集めることくらいだ。


 もちろんそれはそれで構わないんだけど、明日に大勝負が控えているとなると昨日までのようにガンガン周回する気にはなれないのも事実で。

 迷いに迷った結果、私とリンちゃんは一旦カフェでお茶にすることにしたのだった。



「ナナは使徒討滅戦で使うスキルは決めたの?」


 クリームの乗った珈琲のようなものを片手に、リンちゃんがそんなことを聞いてきた。


「まだあんまり。レベルもだいぶ上がったから、手持ちのスキルで育ってるのはだいたい入れられるんだよね」


 レベル70を超えた私のスキル枠は10個ある。

 初期の2つと、レベル10ボーナスの2つと、20から70でそれぞれ1つずつの計10個だ。

 《打撃武器》《投擲》《探知》《餓狼》《瞬間換装》《鬼の舞》。ここまでの6個は私のプレイスタイル的に手放せないスキル群だ。


 《鬼の舞》は、実はレベル60を超えて初めてレギュラーとして追加したスキルだったりする。

 何故かと言うと、基本的にバフが短時間かつクールタイムがあるからだ。

 クールタイムがあると、咄嗟の時に使えないのが怖くてついついアーツを温存してしまう。

 結果としてよほどの戦闘じゃなきゃ使う機会がないし、かと言ってそういう戦闘が発生するのは日に1回あるかないかだ。

 しかもアーツの習得が熟練度じゃなくて筋力値依存だから育てるという概念が薄い。

 使わないスキルに枠を割き続けるのは勿体ないから、枠がギリギリだったレベル60まではレギュラー落ちのままだった訳だ。


 実際、2日目に初めてモンスターハウスに潜った時は、イベント中は使うこともなさそうだと思ってあえて《鬼の舞》を外していた。

 それを常時付けるようになったのは、単純にスキル枠が空いたのと《鬼哭の舞》という扱いやすい長時間バフが手に入ったからだった。

 その鬼哭の舞のチャージ分もだいぶ消費しちゃったから、今日中に10分くらいはリチャージしたいね。

 加えて、今回のイベントで新たに手に入れたレアスキル《歌姫の抱擁》。これも恐らくレイドバトルで使う機会が来るはずなので、現時点では優先的に組み込みたい。


 これ以外に私が育てたことのあるスキルは《片手用メイス》《両手用メイス》《両手棍》《素手格闘》が主だろうか。

 ここまでで11個とはいえ、当然他にも持っているスキルはある。残り4枠の検討は慎重にしなければならない。


「《素手格闘》は持っていきたいんだよね」


「ああ、それはいいわね。やっと本領発揮の場ができたんだもの」


 私の言葉に、リンちゃんは楽しそうに頷いた。


 まず、《素手格闘》スキルは必ず持っていきたい。

 なぜならこのスキルは、本来対ボスモンスター用の超火力が売りのスキルだからだ。


 レイドバトルという多人数での戦いである以上、ヘイトの分散は発生する。大きな隙を狙うチャンスさえあれば、このスキルのアーツなら特大のダメージを期待できる。

 下手にメテオインパクトなんかでハイリスクハイリターンを狙うよりは、安全かつ効果的にダメージソースにできると思う。


 それに加えて、初期からアーツが全部解放されているというのも大きい。スキルの熟練度で習得できるのが全て《無手状態でのステータス上昇》に絞られているこのスキルは、全部で10あるアーツが最初から解放されているのだ。

 最終的には無手で使うのが最強のスキルだけど、メリケンサックやグローブ、ガントレットのような武器を装備することもできる。

 《素手格闘》スキルの熟練度が低めな私は、今回も《ヘビメタ・ガントレット》とセットで使う予定だった。


 ともかくこれで8枠が埋まった。

 残り2枠のうち、《両手棍》と《両手用メイス》はお留守番の予定だった。

 これに関しては単純に武器がない。

 メテオインパクト・零式は破壊してしまったし、クーゲルシュライバー以降両手棍は入手していない。

 一応イベ限定武器は確保してあるものの、性能的に今回の戦いについてこられそうもないしね。


 そんな訳でそのふたつは今回はお留守番。

 《片手用メイス》に関してもそれほど熟練度は高くないんだけど、それでも300近くまでは育てていくつか属性付きのアーツも覚えているから、もしかしたら使い道はあるかもしれない。

 だから今回持っていく武器スキルは《打撃武器》《片手用メイス》《素手格闘》に決めた。


「それで、ラスト1枠は?」


「予定としては新しく覚えた《打撃の極意》スキルを持っていこうかと思ってるんだけど……」


「《打撃の極意》? 初めて聞いたスキル名ね」


「打撃武器スキルのコンプリートと、筋力値250が取得条件みたい」


 そう、それは昨日のリザルト確認の後、ふと気がついたら手に入れていた新スキルだった。



――


《打撃の極意》スキル

レア度:コモン(マスター)

熟練度:15/1000

《打撃武器》スキルを極め、十全な肉体を備えし者よ。

打撃の真髄、極意を授けん。

取得条件:《打撃武器》スキルの熟練度500達成、及び筋力値250以上


――



「マスターランクのスキルなのね」


「そうなんだよね」


 納得したようなリンちゃんの言葉に、私は素直に頷いた。


 スキルのレア度は基本的にコモンとレアの2つだ。

 もっと上位のレア度もあるのではないかとは言われてるけど、今のところはその2つだけである。

 ネームドの魂を利用した武具に付く《ネームドスキル》に関しては、特殊だから今は気にしない。


 ではリンちゃんの言ったマスターランクのスキルというのが何を指すのかというと、これは純粋に「コモンスキルの上位版」の事を指す。

 上位版と言っても、必ずしもその性能が普通のコモンスキルよりも高いとは限らない。

 どちらかと言うと、「習得するのに他のスキルの熟練度上げが必須なスキル」という表現が近いだろう。


 例えば《二刀流》スキル。これは習得条件が「片手用の剣カテゴリ武器スキルを熟練度200以上にする」となっている。

 つまり《片手剣》や《曲刀》、《細剣》といった片手用の剣スキルを育てるうちに習得できるスキルという訳だ。


 二刀流はその手数の多さから圧倒的なダメージを叩き出せる反面、片手が自由に使える片手剣に比べると柔軟性が著しく落ちる。

 片手剣であれば盾を装備したり、アイテムを使ったりできる場面で、二刀流ではそれができないのだ。

 これが、マスターランクのスキルが必ずしもコモンスキルより性能が高いと言えない一例である。


 とはいえ、マスターランクのスキルはどれも特化した性能を持つため、他のスキルやプレイヤーとのシナジーさえ上手く合わせられれば非常に強力なのは間違いない。

 何事も使い分けと組み合わせなのだ。


「今後どんなアーツが解禁されるのかはわからないけど……最初から《打撃武器攻撃力5%上昇》効果がついてるんだよね。だから、それだけでも積む価値あるかなって」


「パッシブ効果はいくらあっても困らないものね。みんな単一の武器スキルばかり上げるから《打撃武器》をちゃんと強化し続けてた人ってほとんどいないし、ナナが開拓者になっててちょっと笑えるわ」


「《打ち上げ花火》に関してはほんとラッキーだったけどね」


 リンちゃんが言うように、《打撃武器》スキルは実際それほど人気がない。

 その理由はいくつかあるけど、最大の理由は熟練度が500で打ち止めになるという点だろう。

 基本的に武器スキルは、熟練度の高さに依存してより強力なアーツを覚えるようになっている。

 他が1000まで伸ばせる中、打撃武器は500まで。

 その時点で未来が暗いと感じてしまう気持ちはよくわかる。


 その上、強力な技のツートップが《フィニッシャー》と《メテオインパクト》の2つだ。

 強力な技を発動する度に、常に武器破壊を強いられるのはなかなかに闇が深い。

 それ以外のアーツも基本的にはただの打撃なので、攻撃のバリエーションも確保しづらい。


 打撃武器スキルを上げることで《片手用メイス》などのスキルを習得できるとは言っても、打撃武器スキルから生えるような派生武器スキルは一通り店でも買える。それも相当安い値段で買える。

 序盤はお金をケチりたいから大抵のプレイヤーは打撃武器スキルを育ててから派生スキルを取るけど、一度派生スキルを手に入れてしまえば打撃武器スキルは用無しになりがちだった。


 ちなみに、はるるがメテオインパクトを見たのはβテスト最終日。

 たったひとりだけこのスキルの熟練度を上げきったプレイヤーに見せてもらったんだとか。

 まあ、βテストの期間で500上げたことがすごいのであって、その先のマスターランクスキルを開拓できなかったのは仕方ないと思う。


「でも、《打撃の極意》の習得条件を見るに、かなり筋力よりのステータスが前提の武器種なんだなって思うね。これまで情報がなかったのも仕方ないかもしれないよ」


 そう。現時点でこの《打撃の極意》スキルの情報が出ていないのは、恐らく筋力値の問題なんだと思う。

 打撃武器スキルを極めたのが私だけ、なんてことはありえない。

 だって私よりも2週間も前に始めたプレイヤーが1万人もいるのだ。

 どんなに少なかったとしても、1人は私よりも先に打撃武器スキルを極めているはず。

 マイナージャンルや不遇職に心血を注ぐプレイヤーというのは、集団があれば一定数存在するものなのだ。


 でも、そのプレイヤーが筋力値250に到達しているはずだ、とは断言できない。

 物理ステータス特化の鬼人族の私が、レベル30くらいからずっと筋力にステータスを振り続けて、ようやくたどり着いたのが300という筋力値だ。


 つまり『同レベル帯の、ステ振りで筋力に比重を多くかけていて、打撃武器使いで打撃武器スキルを極めているプレイヤー』でなければ《打撃の極意》スキルは出現しない。

 ここまで絞ってくるとさすがに先行組にそれが居ないと言われても納得がいくと思う。


 まあ、もしかしたらそんな奇特なプレイヤーがいて、あえて情報を隠してたのかもしれないけどね。


「装備重量の問題は前衛にとってものすごい神経を使う部分だもの。防具に割く分の筋力値と武器に割ける筋力値。敏捷、頑丈、器用の3つとのバランスも重要だし、魔防だって普通のプレイヤーは捨てないし。そういう意味でナナの赤狼装束ってずるいわよね。要求筋力値がほとんどないんだから」


「しかも敏捷補正もあるしねぇ」


 いや、もうホントにネタ抜きで、この装備にはお世話になりっぱなしだ。

 フィーアスレベルの敵相手なら十分すぎる防御力、10レベル分のステータスポイントに匹敵する敏捷値補正、そして何より要求筋力値5という破格の軽さ。

 そのおかげで私は武器に全てを費やせるし、筋力に大きくステータスを割り振れるのだ。

 リンちゃんが冗談とはいえずるいというのもわかる。

 装備してる私自身が頷けるほどに高性能な装備だった。


「ま、ナナがどう立ち回るつもりなのかは分かったからいいわ。今日は《打撃の極意》の熟練度をできるだけ上げましょう」


「リンちゃんは大丈夫そうなの?」


「ええ、昨日ひとりでやってた時に面白いスキルコンボを見つけてね。ま、明日のお楽しみってことで」


 とても楽しそうに笑うリンちゃんの反応を見るに、恐らくそれはとんでもなく凶悪なコンボなのでは。

 それについて突っ込みたかったけど、リンちゃんが明日のお楽しみと言った以上は教えてはくれないだろう。

 それに私もこのイベントを通してひとつ、絶対使えないだろうと思っていた「とあるアーツ」の使用条件をギリギリ満たせそうだったりする。


 全ては使徒討滅戦に向けての準備だ。

 どの道モンスターを狩らなければ始まらないので、私とリンちゃんはしばらく雑談してからダンジョンへと潜るのだった。

打撃武器の派生スキルはお店でスキルブックとしても買えちゃうよというお話。

二刀流などのマスターランクのスキルはスキルブックがないのです。違いはそのくらいですね。

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