花火師スクナ
「ちょっとマジで強いヤツだこれ……」
『どんな効果?』
『称号って大して意味ないしなぁ』
『上から見るか下から見るか?』
『↑それちゃうやつ』
『そんな強いんか』
『スクナが驚くって結構なモンでは』
『ゆーても称号ですわよ』
リスナーの反応がイマイチな感じなのには理由がある。
基本的に称号というものはフレーバー要素であり、ステータスに直接関わってくるのはかなり限定的なものばかりだからだ。
これまで私が手に入れた称号は、実のところアリアとの戦いで手に入れたものだけではない。
例えば到達した街を更新する度に貰えたり、モンスターの討伐数によって貰えたりと、いわゆる「トロフィー」のような実績解除系の称号は多く存在する。
これらは基本的になんの効果もないので、ただ持っているだけの称号と言った感じだ。
ただし、モンスターの討伐数に関してはギルド関連のNPCに若干好感度補正が入ったりするけどね。
私がアリアを倒した際に手に入れたいくつかの称号も、アレはアレでステータス自体には補正がかからないものだった。
そしてそれ以外にも武器スキルの熟練度を上げると貰える、武器補正系の称号がある。これがいわゆる、ステータスに直接関わるタイプの限られた称号というやつだ。
私の場合は《打撃武器》スキルを極めているので、それに関する称号も手に入れている。
――
称号《打撃武器プロフェッショナル》
《打撃武器》スキルの熟練度が500に達した者に与えられる称号。打撃武器装備時、攻撃力が5%上昇する。
――
と、具体的な効果はこんなところ。
見ればわかるように、補正こそかかるものの《打ち上げ花火》に比べれば微々たる上昇だ。
まあおかしいのは《打ち上げ花火》の方だけどね。
だからこそ、《打ち上げ花火》の性能は正直明かしちゃっていいのかな? と考えてしまう。
でも、打撃武器使いの少なさを考えるとこういうのは積極的に明かした方がいいかもしれない。
現状では打撃武器使いは相変わらずあまり見ないし、少しくらい増えてくれないと寂しいからね。
と言うわけで、私は称号の効果を素直に伝えることにした。
「打撃武器装備時攻撃力15%アップ、別武器種装備で攻撃力30%ダウンだよ」
『つっよw』
『普通に強くてワロタ』
『常時ならやばくね』
『クソ強』
『実質デメリットなしはずるでしょ』
『称号の中じゃぶっちぎりじゃね』
「手のひらくるくるだよねぇ、気持ちはわかるけど」
普通の称号の効果が控えめな理由は、基本的に持っているだけで効果を発揮するからだろう。
現状の設定だと全ての効果が常時発動で加算されていくから、あまり強い効果を出してしまうと取り返しがつかなくなる。
この辺り、多分そのうちアップデートで制限されるんじゃないかと思う。
現状だと効果がごちゃごちゃしすぎちゃうし、もうひとつの装備枠みたいな感じで上限数を設定されそうだ。
その分色んな称号が増えてくれればプレイスタイルの幅も広がると思うから、今の闇鍋状態はなんとかして欲しいところだった。
『取得条件とか……ぜひ……』
「口頭じゃ説明しにくいから、後でSNSに上げる感じでいいかな?」
『おけまる』
『助かる』
『やったぜ』
『どうせクソムズ難易度だぞ』
『↑簡単に手に入ったらやばいから残当』
『誰でも取れそう?』
「難易度高めだけど、打撃武器使いなら誰でもチャンスはあると思うな」
格上相手に単独戦闘。ここまでは誰でもできる。
それに勝利するのも、苦労はするだろうけど無理ではないはず。
トドメで《フィニッシャー》か《メテオインパクト》を使う……ここが地味に難しいんじゃないだろうか。
フィニッシャーもメテオインパクトも、どちらも「ぶっちぎりの高火力と攻撃速度」を誇る。
けれどその反面、1度でもスカせばその多大な技後硬直で詰むハイリスクハイリターンの技でもある。
格上相手とのギリギリの戦いの中でこれらの技を確実に当てるのは結構難しいんじゃないかな。
そもそも格上相手に勝つというのは、自分のレベルが上がるほどにしんどくなっていく。
そういう意味ではメテオインパクトを格上に当てて倒すのは相当に難しいだろう。
スキルの熟練度を500まで上げるのって、その時点でレベル60は優に超えちゃうからね。
「でもなんで打ち上げ花火なんて名前なんだろ」
『大爆発してたからじゃね』
『音 量 注 意』
『花火ねぇ』
『激遅音量注意兄貴絶対許さない』
『さっきの爆発からやけに世界が静かな感じするよな』
『鼓膜破裂兄貴は早く病院行って』
『爆発と花火くらいしか思いつかーん!』
私自身、この称号の名前が《打ち上げ花火》である理由がその爆発くらいしか思いつかない。
リスナーと一緒にうーんと唸っていると、不意に長文コメントが書き込まれた。
『武器は壊れる瞬間が最も美しいのだ。その一瞬の輝きを花火に例えているのではないかね』
「ああ、なるほど! ……ところでその独特な話し方は突っ込んだ方がいい?」
返ってきたなかなかそれっぽい答えに感心する。
思えば、はるるもわざわざ武器破壊を前提とした武器を作っていたくらいなんだから、そういうのを好む人は一定数いるのだ。
そして多分、運営にも似たような趣向の人がいるんだろうな。
《フィニッシャー》の武器破壊という特性自体がかなり特殊なアーツだというのに、わざわざ打撃武器スキルの最終アーツを《メテオインパクト》という武器破壊アーツにしてしまったのだ。
更にそれを使った特殊な称号まで用意して。
まあ、最大限活用させてもらった挙句称号まで手に入れた私がそれをどうこう言う資格はないんだけどね。
むしろありがとうと言いたいくらいだ。
アリアとの戦いもゴルドとの戦いも、これらのアーツがなければ勝てなかったしね。
「ふむ、今度から花火師って呼んでもいいよ」
『花火師スクナの爆誕?』
『血の花火が降りそう』
『スクナさん鉄塊飛び散らせるのやめてください』
『花火師(鬼)』
「こらぁ! 印象操作はやめなさい、ぶん殴るよ!」
『ひぇっ』
『ひぇっ』
『ひぇっ』
『ひぇっ』
全く、失礼なリスナー達である。
私が凶暴で血も涙もない鬼みたいな言い方だけど、それは全くの事実無根だ。
むしろモンスターが苦しまないよう、なるべく急所を突いて最速で殺しているくらいなのに。
そんな私の弁明は、リスナーに鼻で笑われて終わるのだった。
うーむ、私の印象ってそんなに怖いかなぁ。
ほとんどは冗談だと分かっていても、何割か本気で言ってる人がいるような気がして、私は3秒くらい悩むのだった。
ここで一息。
次は掲示板回の予定です。