お金がいっぱい
「ただいまー」
『わこ』
『おかえり』
『ただいま』
『おやすみ』
『グッモーニン』
『おばんです』
『わこつ』
「挨拶の見本市みたいなことしてないで」
はるるから送られてきた契約書を頼りにアイテムを送信し終わった私は、ちょうどいい感じの時間になった所で配信を再開した。
一応ここはセーフルームの中だ。ドロップ品を広げようと思ったら、どうしても街中では難しい。
まあゴルド戦のリザルト確認をしよう、以外にやることもないからね。
リンちゃんとの約束の時間まで3時間はあるし、それまでのんびりダンジョンアタックをするのも兼ねての場所選びだった。
「とりあえずさっきの戦闘のリザルト確認したいなって思ってさ」
『ほーう』
『ええやん』
『はよ』
『はよはよ』
『んほ〜』
「んじゃまー早速やってこっか。私もまだ見てないんだよねぇ」
メニューカードがやけにハイテクで便利だなんてことは今更だけど、最近気づいた機能の一つに「過去100戦までのリザルト表示機能」がある。
これは戦闘終了後に表示されるリザルト、つまり獲得経験値やイリスやドロップアイテムの内容を100戦まで保存して、後から確認できるというシステムだ。
基本的に通知から確認できるのはひとつ前の戦闘だけだから、これは地味にありがたい機能だった。
まあ、ゴルドとの戦闘はひとつ前だから通知から確認できるんだけどね。
『ゴルドってネームド扱いなの?』
「んにゃ、違うみたい。特にレアスキルのドロップもしてないし、何より《魂》がドロップしてないし」
《魂》に関しては私よりも前にゴルドを倒したプレイヤーがいたという可能性もある所だけど、どの道レアスキルのドロップがないからネームドではなさそうだ。
私がアリアを倒してからもう2週間以上。流石に新規ネームドや既存ネームドは討伐されていて、その全てでレアスキルのドロップが確認されている。
《魂》と違って、レアスキルはネームド戦の通常報酬みたいな扱いらしいね。
とは言ってもパーティネームドだと全員に行き渡るわけでもないらしいというのが、なんとも世知辛い話だった。
「とにかくゴルドからは経験値とイリスがめちゃくちゃ貰えてる。金ピカは伊達じゃないねぇ」
『どのくらい?』
『お金!』
『マネーイズパワー』
「経験値は3レベ上がるくらいで、お金は私の全財産が倍になるくらいかなー」
『どちゃくそ増えてて草』
『今のスクナの所持金の倍……?』
『レベル差考えると3くらいは上がるかー』
『家買えんじゃん!』
リスナーの反応は上々だけど、私も素直にこの経験値量とイリスの額はビックリした。
今の私の全財産って、イベント前にミステリア・ラビを狩りまくって稼いだ300万近いイリスの他に、このイベント中に延々と狩りを続けて稼ぎ続けたイリスが200万近く、それからいらない素材を売った分で100万ちょっとと、500万を優に超えていたりした。
ざっくり言うと、今の私の所持金は1000万イリスを優に超えている。
ゴルドから直接手に入ったイリスだけでこの増加量だ。
その前のモンスターフロアの宝箱分の金銀財宝も合わせると、ちょっと考えたくないくらいのお金持ちになっていた。
ちなみにレベルは75になった。
残り15レベルで《童子》の上位職へと進化できる……かもしれない。酒呑や琥珀との約束もようやく前に進み始めたような気がする。
ちなみに当然家も買える。買わないけどね。
「ドロップは実際に見せようか」
まず取り出したのは多数の金塊だ。
ガランガランと音を立てて降ってくる金の延べ棒をひとつずつ積み上げていく。
『多くね?』
『多い』
『えぇ……』
『お金ェ!』
『マジに大金持ちやん』
下段から順に積み上げた4段の金塊ピラミッド。
総数10個の金の延べ棒を見て、リスナーがドン引きしていた。
「ちなみに純金らしいよ」
『草』
『無駄設定で草』
『売値が変わったりすんのかな』
『リアルだったら3個くらいでしばらく暮らせそう』
『ゲームだと億単位がポンと消えたりするからなぁ』
なんだろう。こう、レアスキルやらレアドロップがない分のお詫び的な感じなのかわからないけど、お金を全力で押し付けられているようなこの感覚。
ホントはこう……「わぁっ」て感じに驚くところなんだと思うけど、ここまでドカ盛されると「えぇ……」って感じが先に来てしまう。
『リアルだと1キロの延べ棒で500万くらいらしいよ』
「500万!?」
『リアル換算5000万?』
『いや、サイズがどう見ても1キロに見えない』
『億単位のお金持ちかな?』
『ゲームクリアやん』
わー。お金持ちだー。
『いかんスクナたそが壊れた』
『あかん笑いが止まらん』
『リアルリンネはもっとお金持ちなんじゃ?』
『それでもスクナは庶民だからなぁ』
『赤狼の魂とかもっと価値あったはずだし……』
『↑魂はマジで値段つけられん』
『現行最レアだもんなぁ』
「ま、まあ……沢山あっても使い道がね……家買おうかな……」
この世界での金塊の価値はよく分からないけど、金っていうものはあらゆる時代で価値を持ち続けてきたものだ。
現実ほどの価値があるのかは分からないけど、それなりの値段がつくことだけは間違いないと思う。
「あ、後こんなアイテムが出たよ」
――
アイテム:砂金時計
レア度:ハイレア
美しい砂金が入った豪奢な砂時計。
フレームまで全てが純金で製作された至高の一品。
アイテムとして使用時、対象スキル又はアーツのクールタイムを50%短縮させる。
この効果は24時間に1度しか発動できず、1度のクールタイムで1回ずつしか使用できない。
このアイテムは何度でも使用することができる。
――
『何それ』
『すげぇ砂金だ』
『砂金を使った砂時計……夢があるな』
『換金アイテム?』
『時間を巻き戻せそう』
「そこまでの効果はないけどね。対象スキルのクールタイムを半減だって」
『うーん』
『弱くはないな』
『↑でも強くもないよね』
『スキルによっては数日間クールタイムがあったりするからそういうのには有用なんじゃない?』
『速タイ兄貴ちっすちっす』
「そんなスキルあるんだ」
砂金時計への反応は全体的に「悪くないんじゃない?」くらいの感じだった。
まあ、実際私もそう思う。
正直餓狼みたいな丸一日クールタイムが必要なスキルは半減したところでもう一度同じ日には使わないだろうし、かと言って10分やら20分のクールタイムを縮めるかと聞かれればそれもなんだかもったいない。
しばらくは観賞用かなーと思いつつ、今日の所は鬼哭の舞に使用してみた。
鬼哭の舞のクールタイムは《使用時間の3倍》。今回は40分弱くらい使ったから、だいたい2時間で回復する計算だ。
それを砂時計で半分にしたから1時間くらいで回復できる。
リンちゃんと合流してはるると武器の話をして……もうそろそろクールタイムも終わる頃だろう。
ま、鬼哭の舞が必要なシーンが今日中に来るとは思わないけどね。
でも餓狼なんかは尚のこと使う機会がないし、かと言って餓狼と鬼哭の舞以外にクールタイムのあるアーツは使っていない。
餓狼に使わないなら鬼哭の舞に使う以外に選択肢がないというオチが待ってたのだ。
「と、ざっくり気になるアイテムはこんなとこだね」
『もうひと声あるかと思った』
『ワイもそう思います』
『ゆーて金塊10個はでかいやん』
『↑でもボスのソロ討伐だよ』
『レアスキルとか欲しかったね』
リスナー的にはもっとド派手な報酬を期待してくれていたみたいだけど……まあ、目玉がとび出そうなレアアイテムとかは出なかったからね。
強い相手に勝っただけに拍子抜けしてしまったのはあるのかも。
途方もない大金の元手は手に入れたけど、お金は稼ごうと思えば稼げちゃうもんね。
「ん? あれ……なんか称号も手に入れてるな」
リザルトをよく見ると、まだもう1行見落としてた部分があった。
『ん?』
『ん?』
『今なんでもするって……』
『↑誰も言ってないんだよなぁ』
『どんな称号?』
「えっと、《打ち上げ花火》?」
名前から全然効果と取得条件が想像できないんだけど……?
――
称号《打ち上げ花火》
自身よりレベルの高いボスモンスターとの単独戦闘において、そのラストアタックで《フィニッシャー》と《メテオインパクト》をそれぞれ1回以上使用して勝利した者に与えられる称号。打撃武器を装備時に攻撃力が15%上昇するが、打撃武器以外を装備時に攻撃力30%減少する
――
「おお……!?」
それは、名前からは想像できないほどに強力な効果を持つ称号だった。
打撃武器以外は持たせないという固い意志。
《打ち上げ花火》は頑張れば誰でも取れますが、打撃武器スキルを極めたくらいのレベルで戦える格上のボスにメテオインパクトをぶち込んでソロ討伐するのが地味に難関です。
ちなみに投擲武器はあくまで手に持っているだけで《装備》していないので攻撃力減少効果は働きません。やったね。