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イベント情報の更新

「おかえりなさい、ナナ」


「ただいまー。ふぅ、疲れたぁ……」


 出口のワープゾーンから放り出されたのは、もはや見なれたセーフルーム。

 出迎えてくれたリンちゃんに倒れ込むように体を預けると、ふわりと受け止めてくれた。


「長引いたわね」


「まあねぇ……でも、これは手に入れたよ」


 試練で手に入れた大鍵をリンちゃんに見せると、リンちゃんもまた同じものを取り出して微笑んだ。


「流石リンちゃん」


「私のところのは簡単だったからね。というか、ナナのところが難しすぎるのよ」


「見てたの?」


「ええ、途中から。それまでの経過はリスナーから聞いたわ」


「おお、そうだそうだ。私も配信してたんだった」


 コメント欄を眺めると、私が見ないうちに随分と多くのコメントが流れていた。心なしかリスナーの同時接続数も増えてる気がする。


『尊い……』

『尊い……』

『尊い……』


「なにこれ」


 謎の「尊い」コメントに思わず怯む。

 一体感が謎すぎるんだけどこれは……?


「気にしなくていいわよ」


「そうなの?」


「ええ、よくある事よ」


「そ、そっか……」


 心なしか私を包む両腕に力が入ってるような……。

 そんな有無を言わさぬリンちゃんの言葉に気圧されて、私はそれ以上配信コメントに突っ込もうとするのをやめた。

 リスナーのコメントがよく分からないなんて日常茶飯事と言えば日常茶飯事だからね。

 私はネットスラングにはあまり強くないのだ。

 6年間ネット断ちに近い状態だったアルバイターを許してやってください。


「ところでナナ、イベントページが更新されたわよ」


「やっぱり試練関係?」


「ええ。ここを見てみて」


 リンちゃんがメニューカードを操作してホログラム投影した公式イベントページ。

 指で指し示された場所にあったのは、なにやら影絵になったモンスターのようなビジュアルが印象的なバナーだった。



☆ ダンジョンイベント:《星屑の迷宮 終幕〜使徒討滅戦〜》 ☆

迷宮に眠る使徒たるモンスターが遂に目覚める。

世界に降り立つ前に討伐し、始まりの街の危機を救え!


期間:星屑の迷宮イベント終了直後

参加資格:特殊アイテム《試練の大鍵》を所持し、かつイベント終了時にダンジョン内に存在しているプレイヤー及びNPC


※本イベントはランキング集計後に発生します。参加の有無によって最終順位に変動が発生することはありません。

※特殊アイテム《試練の大鍵》は、本日より星屑の迷宮内にて特定条件を満たすことで入手可能になっています。

※使徒討滅戦は公式生放送にて配信されます。詳しくは【コチラ】のリンクよりご確認ください。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「使徒討滅戦……公式生放送?」


「運営会社の社員がゲームのアップデート情報とかを発表したり、著名なゲーマーやら声優やらを呼んだり、ちょっとした催しをしたり、公式プレイヤーなんかに新要素のデモプレイをしてもらったりするのよ」


「へぇ、そんなのもあるんだぁ」


 そういえば私、リンちゃん以外の人の配信って見た事ないな。ゲームに夢中だったから、他の人のプレイを見ようと思ったこともなかった。

 今度適当に見てみようかな。配信者として学ぶべき点があるかもしれないし。


「具体的に試練に辿り着く条件が全く判明してないから、現時点で掲示板は大荒れよ」


「あらま。まあでも気持ちはわかるなぁ。今のところ隠し要素ばかりって感じだもんね」


「問題はそこよね。……いや、たぶん最終的にレイドバトルの公式配信みたいな流れにしたかったんだろうなっていうのはわかるのよ。今後のイベントで開催するレイドバトルに向けたお披露目って感じでね」


 珍しく顔を顰めてそう言うリンちゃんに、私は少しだけ驚いた。


 リンちゃんいわく。

 まず、公式生放送自体がそれなりにきちんとした計画の上で会場を決めたり時間を決めたりして行うものだから、そうそう突発的にできるものではないらしい。


 つまり、これに関してはイベント前くらいから予め決定していた計画。

 イベント終了後に「使徒討滅戦」を配信することで、技術の粋を集めたと謳うWLOのグラフィックとかシステム面とか、主に技術面をアピールする狙いがあるのではないかということだった。


 加えてゲームプレイヤーたちに対しては、β版から1度も行われたことがなかったレイドバトルのお披露目を行う。

 私がゴルドから得た情報から考察するに、恐らく使徒討滅戦はレイドバトル以上の規模になると思われるからだ。


 ついでに、わざわざ公式で配信をする以上、それ以外にも今後実装予定の新要素の発表もあるかもしれない。

 と、ここまでがリンちゃんが推測する今回の公式生放送の趣旨だった。


「問題はナナが言ったように、プレイヤー側に今回の使徒討滅戦がシークレット要素として隠されてたことね。……別にイベントに隠し要素を詰め込むこと自体はいいのよ。何度かイベントを重ねていくうちにそれが恒例になったりして、プレイヤーのやる気に繋がることもあるから」


「ふむふむ」


「ただ、今回の使徒討滅戦に関しては、プレイヤーの自助努力がなければ《参加者0人》だって有り得るのよ。そんな状態で公式生放送だなんて、さすがに説明努力が足りないわ。……NPCが自由に生きてる世界だから、運営の手をあまり入れたくないのはわかるけどね。《試練の大鍵》をランキング報酬にするとか、もっと工夫のしようはあったと思うわ」


 厳しい意見を述べるリンちゃんだけど、その主張そのものは頷ける部分も多い。

 実際掲示板は荒れているみたいだし、今回の使徒討滅戦に限らず、イベント期間の延長とかも含めて運営の手際は悪かった。


 まあ、そうは言ってもサービス開始から最初のイベントだ。何かしら不手際が出てしまうのも仕方ないのかもしれない。

 どの道私たちが《試練の大鍵》を手に入れた以上、使徒討滅戦が0人になることはない。

 後はなるべく多くのプレイヤーが、できるだけバランスのいい職業構成で大鍵を手に入れるのを祈るしかない。


 

「あ!」


 そんなこんなでリンちゃんのイベントへの愚痴に付き合っていたんだけど、イベントの説明を眺めててとんでもないことに気づいてしまった。


「どうかした?」


「この公式の文言を見る限り……使徒討滅戦に負けたら、始まりの街に使徒が出現するってことだよね?」


「そうでしょうね。始まりの街の危機を〜って書いてあるもの」


「これやばくない? NPCって死んだら生き返らないんでしょ? しかも昨日か今日あたりに第4陣の新規プレイヤーが入ってきたばかりだよね」


 10日刻みで新規プレイヤーを呼び込むようになったことで、既に第4陣の2万人が新たに始まりの街に降り立っている。

 確か今回はこれまでの倍の人数を受け入れるために、1万人ずつに分けてログイン可能時間を半日ずらしたんだったかな。

 プレイヤーの人数も5万人に達するようになるわけで、ゲームが盛り上がっていくのはいいことだと思う。


 けど、使徒討滅戦は明らかに「上級プレイヤー」用のコンテンツだ。

 さっきゴルドに聞いた時も思ったけど、万が一そのレベルのモンスターが始まりの街に降り立ってしまったら?

 初心者プレイヤーが死んだところでデスペナは軽いからいいとしても、NPCに被害が出たりしたら「討滅戦で負けてしまった」プレイヤーはどうすればいいのだろう。

 所詮はゲームだ。けど、命は命。「守れなかった」と後悔するのは避けられないことだと思う。


 このイベント、思ったよりエグいんじゃなかろうか。

 最悪、使徒討滅戦に参加できない上位プレイヤーには始まりの街に行ってもらった方が良かったりしない?

 戦闘職なら2時間あれば、フィーアスから始まりの街ならギリギリ行けると思う。


「ま、私たちにできるのはできる限りの準備だけよ。イベント回してレイドで使えそうなアイテムを集めて……その繰り返しをするしかないわね」


「そしたらリンちゃん、今日は午前中フリーにしてもらってもいいかな? 準備したいことがあるんだ」


「ええ。どの道モンスターフロアをクリアしたことで今日のノルマはほぼ達成してるわ。私もちょっとやりたいことがあるから、今日の周回は3時くらいからにしましょ」


 リンちゃんの許可を取って、2日後のイベント終了に向けた準備時間を貰えた。

 幸いリンちゃんも何かしらの準備はするみたいだし、ちょうどよかったのかもしれない。


 一度迷宮から出るために帰還札を交換して、私はリンちゃんより一足先にセーフルームから脱出するのだった。

本イベントには、運営も結構四苦八苦してたりします。

それでもプレイヤー側から不満が出るのは致し方なし。

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