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とある喜劇に、悲哀を少々  作者: 陰鬱を体現せりし者
1/1

とある男の人生譚

朝、太陽が昇ると共に、起きて。


働いて、少し休んで、また働いて。


夜、太陽が沈んだずっと後に寝床につく。


そんな、何の変哲もない、くだらない人生。


いっそこのまま、

死んでしまえば、楽になれると思っていた。


それは、飽き飽きするほどの退屈さと、苦痛と苦悶に満ちていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




朝っぱらから騒々しい轟音が聞こえてきて、まったく嫌になる。

どうやら、近くで新設のビルか何かが建てられているらしい。

それにしても、こんな朝早くから工事する必要なんてないとは思うのだが。

騒がしい音に背を向けて寝起きで重たい体を持ち上げる。

傍らにあった簡素なデジタル時計に目を移すと、表示されている時刻は午前8︰30。

いつもならとうに、憂鬱な一日の始まりだとか何とか言って満員電車に揺られている頃だ。

「はぁ...」

自分に対して、溜息が出る。

どうしてこうも俺は何をやっても上手くいかないのか。

小さい頃から少しも要領を得ず、学問も運動も平均以下。

ルックスなんて下の上がいい所だ。

それにしても、もう少し自分に特別な何かがあってもいいのではないか、と益体の無いことばかり考える。

一つだけでも、自分にも自信の持てる何かがあれば、少なくともこんな無味無臭の、嫌な事ばかり吸い取るスポンジみたいな人生は送らなくて済んだのかもしれない。まあ、そんな事言っても何も変わらないし、そもそもは自分が何もしてこなかった結果なのだから、自業自得というのは分かっているのだが、どうしても、気持ちの悪い何かが自分の中にへばりついていて、落ちてはくれない。

こんな俺にもプライドがあるなんて、もはや笑えないレベルの滑稽な話だ。

うだうだと愚痴を垂らしていても、時間は俺の為に止まってくれたりはしない。いそいそと、家を出るための準備をする。

そういえば、色々と考えていたせいで会社へ連絡するのを忘れていた。あの嫌味ったらしくて気持ち悪い声音の課長と話さなければならないのは気が進まないが、仕方の無い事である。

俺は、電話越しにでもはっきりと見える課長の顔を必死で振り払いながら、何とか電話を終えた。

会社勤めは色々と気苦労が多い。

末端の、書類整理程度しか任されない雑用係の俺ですら、こんな会社なんて今すぐに辞めてやりたいと思うのに、俺より遥かに多くの仕事量をこなしていて、その上、上司の機嫌を取りながら、あわよくば取り入ろうとしている奴らなんて、一体どんな気持ちで毎日出社しているのだろうか。

きっと、社内で勝ち登ってゆく為に、日夜我が身を削って、貴重な人生をくだらない事に捧げているうちに、それが素晴らしい事だと思い込むようになってしまった、現代日本が産んだ悲劇のクリーチャー達である。

世知辛い世の中だ。

俺より辛い思いをしている奴らなんて世の中にはごまんと居るという事は知っているつもりなんだが、どうにも納得出来ない。

俺だけが、周りの環境に振り回されて、個性を殺して、卑屈になって生きているうちに、少し性能の良い量産型のロボットに成り下がってしまったという、少し先になると出てきそうなSFホラーの悲劇の主人公だと、そう思いたいだけなのだ。

そうだ、自己啓発ブログの1つでも書くとしようか。

そうすれば、俺の駄文を読んだ数少ない読者達が、「こうはなりたくない」

と思って少しは人生に対して躍起になってくれるかもしれない、そうすれば、ひと握りにも満たない、親指に乗る程度の人達は救われるかもしれない。

またこうして益体の無い考えが浮かぶ。

「はあ......」

今度はもっと大きな溜息をつく。

「...家、出るか。」

そうして、男は鈍器でも背中に乗せられているのでは無いかと勘違いするほどの気怠い感覚の乗った体をゆっくりと持ち上げ、少し錆びれたドアを開く。


よもや、男は今自分の開けた扉が、まさに「喜劇」への入口だとは知らずに―――。






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