空行く船と翠の風
大陸西部開拓地。だが開拓地とは名ばかりで、実際は人類圏に侵入してくる魔物怪物を押しとどめるのが精一杯の有様だった。その前線を支える町、テヘルには、いくつもの傭兵団が存在する。断続的に襲ってくる魔物達への対処には、一つの巨大戦力よりも、緩やかに統合する多頭体制の方が望ましい。そう判断したのは三代前の町長だった。多頭体制開始以来40年。今や10を越えるまでに増えた傭兵団の中で、少年だけで構成されたカイの傭兵団「暁の鹿」は、異例の早さで番付を駆け上り、瞬く間にテヘル最強の座を手にする。将来長きにわたりテヘルを支えてくれるだろう「暁の鹿」には、多少のやっかみが含まれる支持と賞賛が、惜しみなく注がれていた。「その日」が来るまでは。
その日。前触れもなく、西に広がる霧の森に巨大なデーモンが顕現する。顕れた虫型のデーモンはぐるんと辺りを見回すと、すいっとテヘルに目をとめて、そして歩み出したのだった。その足下を逃げ惑う魔獣たちの大暴走とともに。一路、テヘルを目指して。
その日。前触れもなく、西に広がる霧の森に巨大なデーモンが顕現する。顕れた虫型のデーモンはぐるんと辺りを見回すと、すいっとテヘルに目をとめて、そして歩み出したのだった。その足下を逃げ惑う魔獣たちの大暴走とともに。一路、テヘルを目指して。