姉
一抹の不安を抱えたまま、姉の待つ故郷に帰郷するエリシア。
複雑な心境な中、故郷に戻ったエリシア。旅の途中で、姉の容態が、悪化したとの連絡が、オーブで知った。焦る気持ちと万一の覚悟で、帰郷する。瀕死の姉との対面。臣下の者達は、慌ただしく、最後の準備している。「姉[ねね]様!。」声をかけても、返答は、無い。ぎゅう!細く…か細い姉の手を強く握る。駆けつけたカイルも姉の手を握る。溢れる涙、無ぐっても無ぐっても…溢れる涙は、止まらない。「エリ…シ…ア…」か細い姉の声が、漏れた。「姉[ねね]様!。」躰に縋り付き、揺さぶるも返答は、無い。カイルが、そっとエリシアの肩を抱く。カイルの胸で泣き崩れるエリシア。侍女達も嗚咽を隠しきれず、袖で口元を覆う。
三日後…姉は、一度も目覚める事なく…静かに、息を引き取った。奇しくもその日は、姉の18歳の誕生日だった。姉の大好きだった栗のケーキを焼き…姉の枕元に、好物のりんごと共に置いた。
翌日、姉の生誕祭の為の飾りを慌ただしく外し…忌日の為の飾りを…大急ぎで、付けている。そんな中、姉の葬儀が、しめやかに…執り行われた。〈魔王シセリウス〉の名代として、〈十一の剣〉…〈白桃の剣〉が、参列した。人間離れした美しさに…感嘆の声が漏れ聞こえると共に…疑問や憶測が、飛び交う。王家として、正式に認められていない家の葬儀に、〈剣〉が、参列している為である。
「本ー当は、〈六〉が、来たかったですけど…。」歯切れの悪い〈十一の剣〉の言葉に不安を感じるエリシア。(そんなに悪いのか)…顔に出てしまう。にこっり笑顔を見せると、おちゃらけな声で、「マオの成人の儀を終えて、気が抜けたようです。」「マオ様の…」「帰る頃には、名を譲っている頃でしょう。」マオは、次代候補であるが、滅多に!〈剣〉側の建物から出ることが無い。いつも…顔の上半分から髪の毛の先迄、すっぽりと…隠す頭巾を被っている。肌も…見せないように、いつも…長服を着ている。風呂も…ミラ、カイリ、アオナの3人の侍女と、〈六の刀〉だけでしか務めていない。ただ…服の隙間から覗く肌の色は、褐色。砂漠の民に多い色彩をしている。スフィアナールにおいては、珍しい色彩である。一番多いのは、黄褐色。瞳と髪が、青みがかった黒色。次に多いのは、白色…白人。瞳が、青、緑。髪が、金茶・茶・茶金・赤茶。ミラの故郷、セテルセナだけは、赤い髪と赤い瞳が、多い。皆、王家の傍流。王家は、直系の女子のみ。男の子は、分家の女子か、従兄弟と結婚する。もしくは、腹違いの姉妹と、結婚する。血が濃くなるので、あまり…行われないが…。
「明後日、帰りますが…。」「………。」「私物を送りますね。」「私も……。」「エリシア…。」「私も!帰ります!。」きりっ!顔を真っ直ぐに上げると、即答するエリシア。「エリシア!!。」傍にいたカイルが、大声を上げた。「最後の我が儘…だから…。」「……。直ぐに!戻って…来るんですよね!。」一間、間を置いて…きつい物言いで、確かめるように言うカイル。「うん!。」真っ直ぐにカイルを見ると、力強くうなずき…「心配しないで!。後のこと…任せるね!。」視線を外すと、部屋を後にしようとするエリシア。一抹の不安が、心に燻っている事をカイルに知られたくない。今は、〈六の剣〉のことしか、考えられない。この想いが、何なのかは、エリシアには、分からない。ただ…ただ…不安でしかない。姉を失い、〈六の剣〉までも、失うかも知れない恐怖。それに囚われたエリシアの心は、揺れに揺れた。憔悴しきった顔で、部屋を後にする。その様を複雑な表情で、見送る〈十一の剣〉。忙しいそうに後片付けに奔走するカイル。