閑話 どこかの森の奥のそのまた奥のさらに奥で
「汝の望みは、それでよいのか?」
「もちろんだ。これがかなうのならば何でもするさ」
こんな、化け物に頼ってもかなえなくてはならない。俺の人生で最も大切で重要で何が何でも達成しなくてはならないたった一つの望みなのだから。
「本当にこの望みでいいのだな?」
「くどいぞ。それで一字一句間違いない。お前こそ必ずかなえられるんだろうな!」
「ああ。汝が契約に違反しない限り、汝の望みは叶えられるだろう」
今までいくつものの方法を試したが、どれもダメだったのだ。これが本当に最後の希望なのだ。失敗は許されない。
「それにしても、我は3000年生きてきたが、己が欲望のため以外のことを望んだのは、汝が初めてだ。なぜそこまでする?」
「化け物のお前には、分からないかもしれないが人間には自分自身よりも大切なものがあるんだ!」
たとえこの命をこの化け物に捧げようとも達成しなくてはならない。絶対、絶対に!
「確かに我には理解することができない。我は我が最も大切なのだから」
「そんなことよりも、望みの代償を教えろ! 俺の命ならこの場で持っていけ!」
こんな問答をしている時間さえも惜しい。もう、今、この時間にもかなわぬ望みとなってしまうかもしれない。
「ハハハハハッハ。汝の命など貰ってもうれしくもないわ。そうだな……その望みの代償は、乙女の血と臓物にしよう。12人分だ。12人分、我に捧げよ」
「分かった。12人分だな。必ずお前のところに持っていく」
思いのほか簡単だ。これならすぐに達成できそうだ。
「それでは、契約に入ろうか」
化け物がニヤリと気持ち悪く口をゆがめる。
「我は、汝の望みをかなえよう」
化け物は、契約の呪文を唱える。俺もその言葉に続けて契約の呪文を唱える。
「我は、汝に代償を支払おう」
「「汝と我は、この契約を果たすことを共に誓約しよう」」
「汝の今の言葉をもって契約が成立した。この契約は、不履行にすることはできない。我が汝がこの契約を履行できないと判断したならば、汝の〝大切なもの〟を一つ失うことになるであろう」
「ああ、問題ない。お前こそ、後から望みがかなえられないは、なしだからな」
「心配するな。我にとって契約は絶対だ。違えることはない」
もし、こいつが契約を違えたら、まずは頭に生えている二本の角を頭蓋骨から剥がしとり、とがった口に並ぶ唾液まみれの歯を一本ずつ削り、腹を掻っ捌いてはらわたを引きずり出してカラスに食わせ、体中の骨という骨を一本ずつへし折った後、灼熱の油の中に放り込んで殺してやる。
「そろそろ我は、この世界に顕現できなくなる。次の新月の夜までに必ず用意しておけ」
この化け物は、新月の夜にしか姿を保てないのだ。次に会うのは、半月後だ。
そして東の空にまぶしい太陽が昇り始める。太陽が昇るのと反対に化け物の姿が薄くなっていく。
木々の間から朝日が差し込み、地面に描いた魔導陣が完全に照らされたころには、化け物の姿は、なくなっていた。
読んでいただきありがとうございます。
評価、ブクマ等何卒よろしくお願いいたします。
次話から新章に突入します。やっと物語が本格的に動き出します。