百万人目の記念だってさ ー1ー
「おめでとうございます。田中咲哉、貴方はヒーロー作戦百万人目の登録者になりました。その記念の一つ目として、ナビ兼パートナー役として私、レムリアが一緒に行動する事になりました」
俺の部屋そっくりな場所で、美少女はそんな事を言ってきた。
予想外の事で混乱する。部屋に女の子を連れてきたわけじゃなく、ヒーロー作戦というVRゲームを起動しただけ。
それを始める前に様々な情報を調べて、チュートリアルは司令室のような場所から始める事だって知ってるし、説明は誰も登場せずに声だけが聞こえてくる事も。
「えっと……貴女は一体誰なんですかね? 俺の名前も知ってるみたいだけど」
俺はレムリアと名乗る美少女に尋ねた。まぁ、百万人目の参加者として、用意されてる言葉を言っただけかもしれない。答えるかは分からないけど、俺の名前を知ってるのはどうしてなのかは知っておきたい。
「もう……レムリアって名乗ったじゃない。聞いてなかったわけ? 一応ヒーロー作戦の公式キャラなんですけど!」
予想外にも、レムリアは怒った感じで返事をしてきた。公式キャラと言ってもゲーム内に出る事はなく、TVのCMや本の紹介部分で登場して、ヒーロー作戦を宣伝に出てくる。髪はツインテールで右と左の半分で赤と青で色が違い、瞳の色も同色。服装は黒と白を強調した魔法少女が着るような制服。正義と悪で分かれてる事を意味してるらしいけど。
確かにそのキャラにレムリアは似ているけど。
「咲哉の名前を知ってるのは、一周年記念のプレゼントをハガキを送って手に入れたでしょ。正義について暑苦しいコメントをハガキの裏にびっしり書くなんて引くぐらいの印象があったから」
「……軽くディスられてませんか?」
一周年記念のプレゼントはヒーロー作戦に必要な機器。VRゴーグルとかスマホを繋ぐコード等々が限定一名で貰え、それも応募方法がハガキのみ。複数応募も禁止。それなら、ハガキの裏面にアピールするしかない。一ミリぐらいの文字でぎっしりと正義のヒーローについて書いただけなのに。
「そんな事はないよ。そのおかげで咲哉に決まったわけだしね。百万人目の登録は事前にしておいたのよ。ハガキについた指紋で仮認証させてね」
レムリアはいつの間にか咲哉って下の名前で呼んでるし、指紋を勝手に使うなんて犯罪に近いような気がするんだけど。
「さてと、さっさとチュートリアルを終わらせるわよ。まずは正義か悪のどちらの味方になるか」
レムリアの両手に選択肢が出現した。右手には正義、左手には悪の文字が。
そんなの勿論決まってる。コメントを暑苦しいとまで言われたんだから。
「けど、残念。百万人目の咲哉には選択肢がないのよ」
そんな事言って、レムリアは選択肢の文字を握り潰した。
「うおっ! それなら選べるみたいに期待させないでくださいよ。まぁ……俺が選ぶのは一択だと分かってますもんね」
両方潰さず、正義だけ残せばいいのに。俺を驚かせたいのかもしれないけど。
「うん! そんな咲哉がなるのは」
両手を合わせたのは新しい何かを生み出すため? 開くのと同時に光が漏れ出す。正義の光の演出か。
「はい! 咲哉はこれから悪の組織の戦闘員よ」
「……はっ! 戦闘員って何だよ!」
「戦闘員を知らないの? 悪の組織の下っ端ね。無料ガチャに出てくる奴。誰もやった事がないのよ。これは戦闘員の衣装ね」
レムリアに渡されたのは無数の全身タイツ。戦闘員の衣装で、所属によって違うから、その全種類。
「アバターを決める必要もないよね。だって、戦闘員のタイツを着るだけだし。人のは君の姿をトレースしておくからさ。ちなみに戦闘員だから無所属ね」
「戦闘員で……しかも無所属……勝手に決めていくなよ」
ちょっと泣きそうになってきた。正義のヒーローになりたかったのに戦闘員とか。悪の組織とか言いながら無所属って。ただの犯罪者じゃないか。