十色コースター(ウワサ2)
「どこ行ったんだろう?」
「とりあえず、同じような絶叫系のジェットコースターにでも行くか」
ふらつきながら付いて行く来栖に不穏な言葉が届く。そのあからさまに嫌そうな顔を見ていたのは一人しかいなかった。
「こらこら、渋い顔してるよ」
「……悪い、つい」
苦笑しながら指摘した美作は無理そうなら下で待ってようかと付け加えた。
目的地であるジェットコースターにはすぐに着いた。
鋼鉄のレールが空間を支配していた。高く上に登ったり、円を描いたり、急降下したりとうねったレールが存在感を示す
しかし、来栖はまだ気分が悪いままだった。美作の提案を受け入れ、下で待っていることにしたが、それに付き合って美作が残った。
市ヶ谷が他の人を連れてジェットコースターへ向かっていく。列はそこまで並んではいなかった。
「皆を探してくるよ。とりあえず並んでて」
「任せとけー」
「いってらっしゃーい」
市ヶ谷が並んでいる列へと消えていく。しばらく時間が経過して次に乗れるってところまで列が進んだが、市ヶ谷は戻ってこない。
そこで、列に並んでいた人たちの意見は二つに分かれた。市ヶ谷を待つというのと、そのままジェットコースターに乗るという二つである。結局、来る気配もなかったため、そのまま乗り込んでしまった。
それが命運を分けた。
ジェットコースターに乗るために中に入っていくと、人が乗るところが丁度見えた。
乗り込んだ人たちはみな一様にヘッドギアを付けていた。なんだろうと思っていると順番が回ってくる。
「安全対策のために頭にこれ付けてください」
係員の人がヘッドギアを手渡してきた。風除けだろうか、視界全体を覆うようにカバーがある。
ヘッドギアを付けていると席へと案内される。席に座り、安全バーを下げて、体を固定した。
しばらくすると動き出す。まずは上へと向かって登っていくようだ。
登っていく途中でチラッと先を見ると、ぐるっと一回転するところがあったり、捻ったりと面白そうであった。
一番上まで来た。ゆっくりと体が平行になり、やっと下へと向かって動き出す。
落下速度と共に強烈な風を感じる――それが彼の最後だった。
ジェットコースターに乗る際に必ず付けさせられていたのはVRゴーグルであった。
乗る人は知らぬ間に、ゴーグルに映し出された架空の世界を見ていたのだ。
それ故に、現実の世界で道の先がなかったとしても気が付くことはできない。
しかも、VRゴーグルに映し出されていた世界は人によって違った。
十人十色のジェットコースターを楽しめることが出来る工夫がなされていた。もっとも、楽しむことが出来た時は死ぬ時だが。




