同一性 6
アランが構えた、先ほどと同じように馴染ませるため、まずはじゃれあいの様に軽く打ち込んでいく。
強化のおかげか思ったより早さが出る。馴染ませるように数発打ち込んで……。
「行くぞ!」
「おうっ」
声をかけてから徐々に激しくしていく。
と言ってもアランにほとんど防御されてしまうが。
「見たことねえ型っ――だなっ!」
「そうっ――なのかっ!?」
型を覚えこんでいる体に逆らわず動く。片手で下から切り上げ、守られたと判ると同時に力を横に流す。常に相手の視点を確認し、死角を意識し反撃を受け流すとともに入り込む。
入り込んだ先で剣を、と見せかけて蹴りを入れる。少なくとも体勢を崩せたら、と思ったがそう甘くかった。足を蹴りこんだが木のように固く。蹴りをほぼ無視するような形ですぐに立て直され蹴り返される。
打撃力は求めていない振り回すだけの蹴りをよけると間合いを離される。アランもこちらの動きに合わせて位置を変え、上から重量を生かして打ち込んでくる。実直な剣だ、剣の腹を裏拳で叩き軌道を変え、前に踏み込んでやると、やはり振りづらいのか嫌そうな顔をする。
相手にされたら嫌な事をする、戦闘の基本だ。アランが入り込まれるのを嫌って後ろに飛んだ。
「嫌らしい……実践的な動きだな」
「そりゃどうも」
魔力で強化しているのだろう、人間の限界を軽く超えて一回の跳躍で十メートルほどの間をおかれた。
剣の構えは解かないが、この距離だと俺はどうしようもない。
「さてとじゃあそろそろ……やるか」
その一言でアランが外からわかるほどの魔力を纏う。
肌で感じる、これは敵わない。知識じゃない、森で得た感覚から勝ち目がないと見抜けてしまう。
「うおらああああああああ!」
アランが踏み出す、踏み出すと言うには早すぎるスピード。
鍛えられたその体を全て使って、木剣が大上段から振り下ろされ――。
「――まいりました」
鼻先を指された木剣の切っ先を前に、その言葉しか言えなかった。
遠くにアランに切られた剣先が空を飛んでいる。見れば自分の剣の切っ先が無い、どうやら防御した木剣ごと斬られたらしい。
強化が最後の最後で切れたか耐久力が足りなかったようだ。こんな人間離れした奴がこの世界には多いんだろうか?
多いんだろうな、そもそも人間より強い魔物がウジャウジャいる世界なんだ。人間も強くなくちゃ生きていけない。
強化も練習しなくちゃいけないし、遠距離の牽制手段も欲しい。足りないことだらけだ。
「まだまだ……だな」
「いや、十分だ十分、その腕なら少し鍛えればCランク位までなら十分に渡り合えるだろ」
「いや実際負けたから……」
「俺はもう引退したが元Aランクだから、手合せでも勝たれると俺が困る」
「アランおじさんAランクだったんです!?」
レルカ曰く、冒険者のAランクと言えば、一都市に一人いるか居ないかくらいの人数しかいないらしい。と言うか何で元Aランクがこんな地方の里に居るんだ。
「そこはまあギルドの人事だな、俺としては友人のイリヤのやってる里ってだけで十分来る理由はあったんだが」
なるほどアランさんはイリヤさんを追ってきたのか、しかしイリヤさんは何者だ?
レルカの祖父で、元Aランクの友人で、並みの魔法使いを凌駕する魔法使いで、ここの里長?
「それはさておき、これで仮登録でも冒険者になったわけだが。さっきも言った通り、今この支部に仕事はないからな?」
「そういえばクレナイさんはどうして冒険者に?」
「好きに居てくれと言われても、ただの居候で厄介になってるってのもな……」
「厄介なんて……」
レルカの質問に軽く答える、俺としては居候として、少しでも生活費を落としておきたいんだが。
何かいい案はないだろうか、そう考えていると……。
「そう言う事ならいい方法がある。この里の衛兵にならないか?」
そうアランが提案してきたのだった。
――――――――――――――――――――
その日の夜、俺ことアランは自宅で友人のイリヤを待っていた。
しばらくしてドアがノックされ、イリヤから一本のワインを貰いつつ迎え入れる。
「夜分にすまんな」
「いつでもいいさ、仕事は大丈夫なのか?」
「ようやくあの里の整理も一区切りついてな」
飯を持って着てくれた嫁と、久々に訪ねてくれた友人一緒にワインを開け飯を食う。
幸せだ、俺が最も好きな時間だ、いつまでも続いてほしいと思う。
テーブルの料理がほとんどなくなった頃、俺はイリヤがこの家に来た本題を聞くことにした。
「それで?どうしたよいきなりあんな紙を渡して」
「おお、忘れてた。クレナイ君を衛兵にしたんだって?」
「まあな、十分に使えるって判断できたからな」
もう一度皮紙を見る、書かれている内容は俺でも判るくらい簡単だ。
この紙を持ってクレナイと言う男が来る。彼に冒険者登録をしてほしい。
もし時間が有れば魔物相手に戦えるかどうかを見て欲しい。
これにそって俺は本来、本登録時くらいにしかやらない実力チェックをやったわけだが……。
「剣聖とまで言われた、元特Aランクのお前の見立てだ間違いはないだろうさ、それだけ剣の腕がよかったのか?」
「あぁ、十分だなこのままでもCランクくらいまでは行くだろう」
「それは凄いな」
Cランクと言えば冒険者として十分大成できるレベルだ。
おそらくあいつはそのくらいまでは行けるだろう。
「それでどう思った?」
「……どう思ったって?」
「記憶喪失だって書いてあっただろう?同じ剣士だ、どこの流派とかわかるものが無かったか?」
なるほど、あの手合わせにはそういう意図があったのか。
「ああ、そう言う事だったのな」
「……と言っても私は剣は管轄外だから詳しく聞いてもわからないかもしれないが」
笑いながら出された疑問に、俺は答えをすぐには出せなかった。
確かにクレナイの使っていた剣の型はあまり見たことの無い型だ。
まあ俺が隠居してからできた新しい流派かも知れない。だが――。
「イリヤ、例えば森の中で魔獣と戦う時はどんな魔法を使う?相手はフォレストウルフとかキックバックとかだ」
「……?ウィンドアローだな、それで十分だろう」
「開けた場所で盗賊が相手なら?」
「大きめのファイアボールとかで威圧するかな?それがどうした?」
複数属性を使いこなす前提で話をするイリヤ。
相変わらず普通の魔法使いには難しい事を簡単に言う友人に若干呆れながらも、俺は言葉をつづける。
「そうだな、場所や相手によって使う魔法を選ぶよな、それと同じで剣にも色々と種類ってものがある」
「たとえば?」
「たとえば俺の獲物は、知ってのとおり肉厚の両手剣だ。これを使って魔物を思いっきり叩き潰してた」
「ふむふむ……」
「逆に大きい街の衛兵、こいつらは片手剣を使った町の中での捕縛や乱戦を得意にしてる。そうすると大きく振り回さず細かく振るようになる」
「無力化するってことだな?」
「まあそうなるな、短剣は……まあ貴族様方の側近や護衛とかが良く使うな、あからさまに大きい剣を持っていると不自然だから。こんなふうに場所によって俺達は武器や振り方を選ぶ」
「武器ごとに振り方が違うって事か。そうすると、クレナイ君の武器はどうなんだ?」
「重量の無い片手剣、それも片刃剣だな」
これは断言できる。普通剣を扱う職業は訓練中など出来るだけ長く剣を持たせるために両方の刃をまんべんなく使うように訓練する。切りあいの途中、隙間の時間で手の中でひっくり返すのだ。
つまり木剣などは左右ほぼ平均的に消耗していくわけだが。あの後折れた木刀を見るとへこみが片方の刃の側にしかなかった。
「片刃剣?あまり聞かないな」
片刃剣を使う流派はあまりない、わざわざ片方の刃を潰すメリットがないからだ。
「そしてあまり作られていない、片手剣をメインとして使う流派もこれまた少ない。剣あっての剣の流派だ、逆はあり得ない」
――だが、あまり話とは関係ないな。
「俺もあまり知らないが、問題はそこじゃない」
「と言うと?」
これを俺は一瞬迷った。イリヤがあいつを見る目が悪い物になるかもしれないからだ。
少し悩んだ末、俺は正直にあの剣の印象を答えた。
「あれは……人殺しの剣だ」
お読み頂いてありがとうございます。




