同一性 5
さて、魔法を使えるようになったって事は次は仕事だ。
知識にある"テンプレ"のように冒険者のギルドは有るらしいが知識の物と同じような物だろうか?
「そういえば冒険者ギルドってなんだ?」
「日雇いの斡旋所だな、まあ仕事とかは別にいいぞ?記憶が戻るまでゆっくりしてくれれば」
この里にもあるらしい。冒険者と言われる都市に属さない流浪の民達の協同組合のようだ。
「冒険者って協同組合が作られるほど人が多いのか?」
「人が足りてるところと、足りてないところはどこにでもあるって事だ。一応この里にも支部が有る」
「なるほど……あれ?でもここ辺境って言ってましたよね冒険者が来るのか??」
「だから一応だ、衛兵の詰所と兼任してる」
本来このサイズの里には作られないが、昔色々あったらしく小さなギルドが有るそうな。
「あとは都市間を移動するから魔物の討伐とか郵便の配達とかも行うな」
魔物の討伐とかは良い、とりあえず一般的な手伝いでもして金を稼ごう。
イリヤさんは良いと言うが、さすがに完全なる居候はあまりよろしくないだろう。
「まあでも簡易的な身分証明書になるから持っていても良いだろう」
「そうなのか?」
「まあ一応な、ランクの低いうちはほとんど効力は無いが……」
そう言うとイリヤさんは紙に一筆したためて魔法で封をするとこちらに渡してくる。
「これは?」
「簡単な紹介状だ、ギルドに着いたら居るであろうアランと言う奴に渡してくれ」
二つ折りになったただの紙が、袋とじのように引っ付いている。
てっきり蝋とかを使うかと思ったがこんな魔法も有るんだな。つくづくここが魔法文明なのだと思う。
「開けたらわかる封だ、まあ君なら開けないと思うがね」
そもそも俺は未だ字が読めないからな、恐らく開けてもさっぱりだろう。
そう思っているとイリヤさんがレルカを呼んだ。
「お爺ちゃん?あ、クレナイさん魔法は大丈夫でした?」
「ああ、おかげさまでな」
そう言うとレルカは自分のことのように喜ぶ。
「レルカ、クレナイ君をギルドの支社まで送ってやってくれ」
「はい、クレナイさん行きましょうか?」
しかし、この短時間に信頼されたことだな。そう思いながらレルカと里長の家を出た。
狭い里、特に何が起こるわけなく、レルカと適当に話していると詰所に着く。
村を囲む防壁の端、事務所のような建物と軽く囲った訓練場が有るだけの小さな詰所だ。
事務所を覗く。
「……寝てますね」
「だな」
中にはヒト族の大男が一人、受付に突っ伏して……寝ていた。
大丈夫なのかと思ってキイと音を立てながら、入り口のスイングドアをくぐった。
「「失礼します」」
「ん?冒険者か?すまんな昨日は忙しくてな……」
入るなりすぐに起き上がる大男。気配に鋭い、成程、油断はしていても業務に支障は無かったらしい。
――ん?油断?なんか思考がおかしくなかったか?
「どうした?依頼ならそっちの壁に貼って……無かったな、すまんここはほとんど仕事は無いんだ」
大男が指した掲示板には確かになにも貼っていない。本当に依頼が無いらしい。
そもそも俺達と大男以外誰もいない、大丈夫だろうかこのギルド……
「おはようございますアランおじさん」
「やあレルカちゃん、そっちの彼は誰だ??」
「魔人に立ち向かって私を助けてくれたヒト族の方です」
「ああ、イリヤのやつが起きないって言ってたやつか、もう大丈夫なのか?」
「ええ、おかげさまでな……」
田舎のネットワークは凄いなあっという間に話が回ってそういう話になっているらしい。
まあ正確には魔人から"見逃された"だが。
「遅れたな、アランだ」
「クレナイだ」
出された切り株みたいな腕を握り返して握手をする。
どうやらこの大男がイリヤさんの言っていたアランさんらしい。
「冒険者の登録?をしに来た。後これイリヤさんからの紹介状だ」
「イリヤからの紹介状だって?」
渡した紙の封をされている辺をなぞって開ける。
ああ、よく見ると封がされてた辺が光ってるな。なるほどそれでわかるのか。
「なるほどな、記憶が無いから冒険者の登録だけでもしようって事か」
「そう言う事です」
そう言ってアランはすこし劣化している登録用紙であろう紙を取りだした。
どうやら代筆してくれるようで、聞かれた質問に答えていく。
と言っても記憶が無いから、名前くらいしか書ける内容が無い。
レルカにも少し手伝ってもらい、ほどなくして、ほとんど空白の登録用紙を渡される。
「まあこれは仮登録だ、本登録はギルドの支社じゃできないからな。あとは最後にイリヤの奴がどのくらいできるか見てくれってよ」
「そうなのか?」
すぐに了承する、この世界でどのくらいのレベルなのかを見てもらえるのは良い。
外に出ると立てかけてあった訓練用の木剣を投げ渡された。
見ると向こうも同じような剣を持って構えている。
「ちょっと待ってくれ」
二人に少し待ってもらって剣を構え、ゆっくりと振る。
両手持ち、片手持ち、抜き打ちと一通り試してみる。
「どうですか?クレナイさん」
「うーん……」
動けなくは……ない、動けなくはないが、普段は鉛筆を使うのに、特別に羽ペンを使っているような感じだ。使えなくはないがどうもしっくりこない。
だが形にはなっているから、使えなくはないだろう。
そう思いアランに向かって構える。
「よし、来い!」
「胸を借ります」
そう言って同じく木剣を持ったアランに打ち込んでいくが、すぐに待ったがかかる。
「ちょっと待て強化をつかわないとすぐ木剣がダメになる、それに身体強化も使わないのか?」
「強化?」
「こういうことだ」
アランが片手で剣を胸の高さに持ち上げると威圧感を感じる。
集中して観察すれば持ってる剣やアラン自身から若干の魔力が漏れているようだ。
どうやら戦士の基本的な技能らしいが?
「身体強化と同じように剣に魔力を纏わせて強化するんだ、こうすると耐久力や切れ味が上がる。外からわかるほどには、あまり貼らないがな」
「なかなか威圧感があるな……」
「判るのか、なかなかの実力者なのかもな?ちょっと見てろ」
そう言うとアランが木剣を構え集中する。構えた先には何もないが……いや視線の先には恐らく弓の的であろう岩が有る。
岩との距離は10mほどだ、確かにアランほどの大男なら数歩で切れるだろうが。
「ふんっ!」
そう思っていると気合と共にその場でアランが剣を振り下し、同時に剣から魔力の塊が放たれる。
魔力の塊はそのまま岩へ飛んでいき岩の表面を削る。
「おお」
「極めればこんなことができるようになる」
振り返ってドヤ顔するアラン、まあここまで来るのは10年単位で修業しないとできないと言っていたが。
と言うかアランは何者なんだ?こんな田舎にいていい人には見えないんだが。
その考えは横に置いて強化とやらを練習しよう。
魔力を引き出す、ここまでは魔法を使う時と同じだ。
そして変換せずに体の表面に魔力を伸ばしていく、ここまでは身体強化だ。
木剣は少し抵抗があったが紐の時と同じ要領で伸ばし、頑丈になるように強化していく。
「こんな感じです?」
「ちょっと剣を出してみろ……そうだな、初めてにしては良い方なんじゃないのか?」
魔力で覆った木剣をアランは自分の木剣で軽くたたいて確認するとうなずいた。
あれ?イリヤさんはパッと見ただけでわかっていたようだが。
「イリヤを基準にするなよ?奴なら見ただけでわかるだろうが、そんなのはごくごく少数だからな……」
――顔に出てしまっていたか?
「よし来い!」
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