同一性 4
さて、この世界で生きていくには何が必要だろう。
食料?水?それも必要だろうだがもっと必要なのは――。
「と言う訳で、魔法を教えてくれないか??」
「……何が、と言う訳で、なのかわからないのですが」
日付は変わって目覚めた次の日、時は朝食時だ、俺はいつも通り日の出前に目が覚めた。
そのまま下に降りて居候なら、せめて朝食くらいは作ろうかと台所に入り――。
「台所の道具の使い方が一切わからなかったんだ」
食材については似たようなものでわかる、まあ名前は違うのだが殆ど"地球"と似たようなものだった。だが道具が包丁とかわかりやすいものを除いて、どう使うのかすらわからない。
後に起きてきたレルカに使い方を教わったが。かまどの横にある魔力版に魔力を注ぐと火が付くと言われても、魔力がわからなくてどうしようもないと悟った。
こんな風に、このロアリルの技術は魔力がないと使えないものがほとんどだ
ちなみにトイレは汲み取り式だった。アナログ万歳だ、信頼性が違う。
「おはよう、二人とも早いな」
「「おはよう」ございます」
イリヤさんが遅れて起きてきて席に着く。これがこの家に住んでいる全員だ。
イリヤさんの奥さんは大昔に病で亡くなってしまったらしい。
「そうそう、昨日言ってた短剣だ」
イリヤさんが真新しいベルト付きの鞘に入った、短剣を食卓に置いた。
柄頭に見覚えのある文字がある、あの森で拾った短剣だ。
ありがたく身につけて置く。
「ありがとうございます」
「それで?何を話していたんだ?」
「実は、魔法が使えないからかなり不便だって話をしていたんだ」
そう言うとイリヤさんが一瞬驚いた。
そのまま少し考えると、笑いながらこう言ったのだった。
「それなら私が教えようか、私はこれでも魔法使いでね」
スパアアアアアン!
家の裏の庭にでた。
イリヤさんがゆっくり詠唱して生まれた水球で、突き立てた木の枝を飛ばす。
「このように魔法は発動する。判ったか?」
「ええ、なんとなくは」
彼の魔法講義をまとめるとこうだ。
魔法と言うのは3段階からなる現象のようだ。
まずは第一段階の引き出し、エーテルと言う世界から魔力と呼ばれる力を引きだすことから始まる。
引き出せる量は人によって個人差はあるが、引き出し続ければやがて引き出せる量が多くなる。
――要練習と言う事だろう。
次に第二段階の変換、引き出したばかりの魔力は純粋な魔力で、人が扱うにはいささか扱いづらい。
そのために、個人個人に扱いやすいように魔力を変換する必要がある。
これは主に火水風土光闇が多く、この六属性は基本属性と言われる。
そして三段階目、変換した魔力を詠唱と共に発現させる発動。
詠唱をしながら魔法を正確にイメージすることで、魔法を発現させる……と。
「まあ理論はあとからついて来る、とりあえずやってみたらどうだ?」
イリヤさんに促されて右手を再び突き立てた木の枝に向け目をつぶる。
「まずは引き出し」
イリヤさんの声に従い、心臓のあたりから感じる弱いつながりを意識して魔力を少しだけ引き出す。
初めてだと言うのに思ったよりスムーズに引き出せた。
そのまま腕を通し手の平に集める。これもスムーズにいく。
「そして変換」
手の平に集まった魔力を水属性に変えるようイメージする。
こちらは引き出しほどうまく行かなかったが、少しずつ変化させると手の平が冷たくなる感覚を得た。
そのまま、先ほどイリヤさんが言った通りの詠唱を開始する。
「我は望む……」
イメージは飛んでいく水球だ、速度は投げた石と同じくらい。
「……荒ぶる水よ、その力を持って……」
しかしこれ思っているより恥ずかしいぞ……。
必死に恥ずかしさを押し殺しながら詠唱を続ける。
「……ウォーターアロー!」
詠唱を止め手の平から魔力が離れたのを感じると目を開く。
見ると水球がずいぶん遅いスピードで飛んで、枝の表面を濡らした。
「勢いが足りないが、初めてにしては良い方だ」
初めて使った魔法は正直ショボク攻撃力もなにもないが、どうやら及第点らしい。
その後、火種を作る"ファイア"、水を作る"ウォーター"、光源を作る"ライト"、鍵をかける"ロック"など生活でよく使う魔法の詠唱を教えてもらった。
――しかしこの魔法の詠唱ってのは、結構恥ずかしいな。
「そうだな、これくらいだろう。詠唱をつっかえてるが、これは慣れの問題だろう」
「ウォーターアロー以外の攻撃魔法とかはないのか?」
「攻撃魔法はもう少し魔力操作を練習してからだな」
「……魔力操作?」
「そうだ、魔力はもうわかるだろう?」
「なんとなく」
「ならこれだな」
そう言ってイリヤさんがローブから取りだしたのは……紐?
その紐がどうかしたかと思っていると、紐が捕まった蛇のようにグネグネと動き出す。
何となく紐自体から魔力を感じる気がするが。
「こういうことが自在にできるようにならないと怪我するからな」
「これ?魔力で動かしているのか?」
そう聞くとイリヤさんがコクリとうなずいた。
成程、ビギナーである俺にはそういうのから手をつけるべきと言う事か。
早速紐を受け取り魔力を流してみようとするが、なかなか流れない。
「あれ?」
「流すんじゃなくて包み込むようにするんだ」
アドバイスを受けて魔力の流し方を変える。
紐を魔力で包み込み、優しく摘まむように……。
「ちょっと動いたか?」
垂れていた紐がピクリと動く、それだけだが妙に達成感があった。
魔力を少しずつ這わして徐々に動かせる範囲を広げていると、見ていたイリヤさんが思い出したように言った。
「そうだ、忘れてた身体強化もか」
「身体強化?」
「今紐をおおってる様に魔力で体をおおってみろ」
言われたとおりに手を血の流れと同じように魔力で覆っていく、こっちは自分の体だからかそんなに抵抗なく覆えた。握ったり離したりをしてみるが、もしかして握力が強くなっているか?
「こっちはなかなか上手いな、もしかしたら戦士だったのかもな?」
「そうなのか?」
「まあ後は暇な時間に練習していけば立派に使いこなせるようになるはずだ」
「ありがとうございました」
こうしてイリヤさんの魔法の授業は終わった。
言われた通り鍛錬は欠かさないでおこう。
お読み頂いてありがとうございます。




