ラガーポート Scramble 19
「これだから……研究者は嫌いなんだ……ジェイ」
全く異世界に来てまで、"また"人体実験しようとしやがって……。待て、また?どういう事だ?
俺は前にもこんなことがあったのか?
短剣を突きつけつつ考えようとする。だめだ、毒が回って頭が回らない
「うぁ……く、うるし……」
ジェイは首に巻きついたロープをとろうともがいている。俺が操っているロープは白い肌に巻きついて、顔がすっかり青くなっていた。
「俺の質問に答えれば……ロープを緩める、良いか?」
「……!……!」
ジェイが青い顔で激しく頷く、少しだけ緩めてやるとジェイはカウンターに突っ伏して嗚咽を漏らした。
その黒に近い茶髪を引っつかんで動けなくする。バーの店主は……店の奥からおびえた表情でこちらを見ている。様子から恐らく共犯ではないのか……。
「ごほっごほっ……うぁ……なぜ、なぜ動けるのじゃ――」
「質問に答えろ!この毒はなんだ!」
「ワシの開発した睡眠薬じゃ!」
気合を入れなおして怒鳴る。机に突っ伏したジェイの瞳を覗き込むと黒い瞳が怯えるようにゆれている。どうやら嘘のようには見えないが。
睡眠薬?これが本当にそんな柔な物か?
「本当だな?」
「あ、ああ保障する。死ぬような毒じゃないのじゃ、心配なら薬もある」
「出せ」
「あ、ああ任せよ」
ジェイの頭を離す。余裕ができてきたのか少しだけ嬉しそうに持ってきたバックの中をあさっている。
まだロープは首にかけているが動けることは嬉しいらしい。
カウンターに残っていたワインの瓶を手に取る。睡眠薬と言ったそれは中になみなみと残っている。
グラス半分取り出して匂いをかぐ、どう見ても赤ワインにしか見えなかった。
しかし、俺の知識にある睡眠薬は少なくとも数十分後、それも飲んでから利きはじめる様な物だ。断じて口に入れた瞬間にすぐ眠くなるような物ではない。
となるとこの世界の独自の何かか……?
「こ、これじゃ」
ジェイがもう一つの瓶をこちらに差し出す。これがどうやら解毒薬のようだが……。
いや、俺だったら解毒剤と偽って本当の毒を渡すか?
「これが解毒薬じゃ、さあ……」
解毒薬をカウンターに置いた瞬間ロープを使って一瞬、首を絞める。僅かにあいたジェイの口の中に赤い液体を流し込む。
「あっ止め……」
抵抗しようとするジェイに対して油断無く口を押さえる。ジェイは一瞬緊張で身を硬くすると、すぐに気絶するように動かなくなった。。
「……なんてもんだよ……」
ジェイは息も最低限、殆ど仮死のような状態た。改めて飲まされた薬の効力に驚く。
俺が気合で持っているのは、すぐ吐き出したのと体質によるのだろうが……とんでもない薬だ。
さて、すぐにこの解毒薬を試しても良いが――。いや、まずは安全な場所の確保か。
「店主、世話になったな……」
俺はマントで包んでジェイを担ぎ上げると、朝になりかけている裏通りに出て行った。
「くっ……ねみいな」
結局薬を飲まされようが無かろうが。俺が二日徹夜していることは変わりない。
沸き起こる眠気に耐えつつ、三番通りから一本入った道を歩く。朝だからかまだ少ないが大通りのほうからは馬車の音がする。この町はやはり朝が早いな。
結局ジェイはネストの知り合いのようだったからブリッジ商会に押し付けてきた。
出がけに解毒薬といっていた瓶の中身を垂らしておいた……。
もし瓶の中身が本当に解毒剤なら、そんな大事にはならないだろう。
もし毒だったら……自業自得だ。
少し驚いたのは彼女が魔導具屋として知られていたことだったが。
「しかしジェイ……ジェイね……?」
何か思い出すようなそうでもないようなそんな名前だ。まさか記憶を無くす前の知り合いか?彼女自身は初対面の様子だったが。
そんな事をふらふらと考えつつウェルナンの戸をくぐる。
昨日の夜は酒場の麺を強く出していたウェルナンは朝は冒険者向けの宿屋という側面を強く出していた。
「結局クレナイさん帰ってこなかったですね」
「街の外に行くとか言ってましたっけ?」
自分の名前を呼ばれ、その方を向く。ちょうど起きたのかヤミとレルカがロビーで話しているのが見える。
少し気になるが今は良い今は寝るのが先――。
「まあ大丈夫ですよ――って話してたら帰ってきましたね」
「えっ? ああっクレナイさん!」
気がつかれて手招かれる。無視するわけにもいかず彼女らのほうへに向かう。正直辛いんだが――。
――おおっと。
「うわっ!?」
レルカの前でふらついて彼女にもたれる様な抱きつくような形になる。
俺の中で何かあせっているレルカ。いや俺が原因か……?
「すまん昨日は徹夜でな……ちょっと眠らせてくれ……」
俺は持ち直すと少し逃げるように2階の借りている部屋に向かう。
暗殺と言うより掃除屋家業、それに過去に繋がりそうな研究者。今日はいろいろあったが今は考える気にならない。
何にしても今は休もう。それだけはハッキリしていた。




