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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第三章:ラガーポート Scramble
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ラガーポート Scramble 18

――さて、ヤミもいい物を貸してくれたな


 俺はロジェ商館の別館、その隣の館の屋根の上。ヤミから有難く借りたリボルバーのシリンダーの弾を入れ替えていた。


 眼科の館はやけに多く、そして貴族街にもかかわらずやけに柄の悪そうな奴らが警備に徘徊している。


――でも寄せ集めか……。


 だが隣の館の屋上なんてやけに目立つ位置にいる俺に気がついているものは居ないようだ。

 一様に中を気にしているのはレルカ達を気にしているからか……。


「おい、"晩餐"が始まったらしいぞ」 

「おっ始まったか、ぜひ少しお味見でもしたいものだ」


 警備達がにわかに活気付く。彼らはこれでも暗号を言っているつもりなんだろうか。

 その下卑た笑みのせいで何を言っているのかは丸わかりだ。


――さて、もう時間も無さそうだ。さっさと仕事を続けないとな


 窓からからのぞく食堂。一人を除いて動くものの居ないその部屋に俺はゆっくりとリボルバーの照準をあわせた。

 









 さて、時間は数日前、夜の酒場でネストと飲んでいた時まで遡る。


 ラガーポートの裏通りにあるガストという、この世界では珍しい深夜にやっているバー。

 盗賊からネストを助けたあとそこで彼に報酬をもらうと同時にこんな提案を受けた。


「俺の所でちょっと仕事をしないか?」


「仕事?」


「そう、世の中を少し良くする仕事だ、たぶんお前にぴったりだと思うぜ?」


 聞けば悪い奴らの中でも一定のルールがあって。しかもそのルールすら守れない奴はいるらしい。

 いや、そんな奴らだからこそ表のルールも守れずに裏に堕ちてきたんだろうが――。


 そんな奴らを元締めからお金をもらって"掃除"する仕事。


「そんなゴミ共を掃除して少しでも世の中を良くしていこうぜ?」


 つまり暗殺の仕事だった。


「そんな、殺しじゃないか!?」


「さっきの手並みを見てお前なら天職だと思ってな」


「……」


「そもそもお前みたいな奴は珍しいんだ。腕が立って、器用で、名が売れてねえ奴はな……」


 そこでネストは一つ区切ると一口酒を含む。


 そんな会話をしていても酒場には何も変化はない。どうやらこのバーではこの程度の事は一般的な話題らしい。

 

 さてどう返すか。俺も一口グラスの中身を含んで考え込む。


 正直言えば彼の話を受けるのもそこまで悪い選択肢ではないと思っている。

 

 もし受ければ恐らく今ウェルナンにいる彼女達くらいなら養って余裕のある金は稼げるのだろう。たぶんヤミは自立した女だから俺の施しは受けようとしないだろうが。

 だがレルカは違う、イリヤさんから彼女を預かり、そして彼女の親を殺した者の関係者として。俺としては親代わりを勤める責任があるはずだ。


 いや……本当にそれだけが理由なのか?頭の中にあの時、魔人に言われたことがよみがえる。


『見返させてやりましょう、あなたを陥れた世界の全てに』


 俺の中に眠っている魔王の血がひたすら血を求めているだけではないのか……?


 頭の中に浮かんだ魔人の虚像を消して、口の中ですっかり温くなったラム酒を飲み込む。

 思考は酒を飲んだと言うのにやけに冴えていた。


「まあ、もし受けたいと思ったら明日俺のところに来てくれればいい、今は考えるのはよそうや」


 ネストはグラスを上げて乾杯を促してくる。

 確かに彼の言うとおりだな。汗をかいたグラスを小さく持ち上げると俺は答えた。


「……そうだな、考えておく」


「よーし乾杯のし直しだ。俺のおごりで朝まで飲むぞ、新たなる友人のクレナイに!」

「ああ、ネストとブリッジ商会に!」


 俺は気持ちを持ち直して少し笑うと再び小さくグラスを打ち鳴らすと俺たちは飲み始めた。









「でなぁ?今計算を教えてるんだがなぁ、あいつ等ときたらうちの商品のほうがまだ根性がぁ」


「計算?計算ってどんなだ?」


「足し引きと掛け算だなぁ、これだけあれば商人として生きてけるのになぁ、クレナイぃお前にも教えてやろうかぁ?」


「いや知ってるからいい」


「ホントうかぁ?」


 すっかり出来上がったネストに酒を注ぎ足し。自分のグラスに継ぎ足して氷を入れる。

 正面にたった店主は氷を出すたびにビクついていたが慣れてきたらしい。


「じゃあ12銀かける11はなんだぁ?あと俺にもくれ」


 俺がロックにしてるのを見たネストが乱暴にグラスをこっちによこしてくる。自分もしろということらしい。


「はいはい……氷よ」


「はぁ冷たくてうめえな……」 


「あと1金32銀な」


「はぁ?」


「さっきの問題の答えだよ」


 氷を入れてやりつつ問題に答える。一瞬ほうけた後に思い出したのか、ネストは指をグラスに入れると水で机に文字を書いて計算し始めた。

 

 筆算にも似た独特の計算法を見つつ口に含む。ネストとほぼ同じ量を飲んでいるが頭は冴えている。


 何時も飲んでいるときに思っていたが俺はどうやら相当な酒豪なのか……?


「おお、あってる!あってるぞ店主!やっぱすげえよな」


「ええ、そ、そうですね……」


 ネストが近くの店主に同意を取る。あわせて笑顔を作る店主に、苦い顔をしつつ頭を下げておく。


 そんな風に飲んでいるとドアベルが鳴った。向けば今入ってきた客の後ろに少し明るくなった外が見える。

 どうやら思っていたより飲んでいたらしい。


「ああ、ブリッジの旦那、ここにいましたか」

 

 新しく入ってきた客がこちらに向かってくる。そのまま見ているとうつらとしているネストの肩をたたき始めた。

 どうやらブリッジ商会の誰からしい。


「おお、ジョンじゃねえかぁ、凄いんだぞクレナイは……」


「へえへえもう朝ですから帰りましょうや、すみませんブリッジの旦那が迷惑かけて」


 そう言うとこちらにペコリと頭を下げてネストを連れて行った。

 

 やかましいネストがいなくなってすっかり店が静かになる。残っているのは俺ともう数人、後は酔いつぶれて眠っているやつくらいか。

 さて、俺もこのグラスを飲んだら帰るか、二日も徹夜してずいぶん眠い。


「店主、ブリッジ商会持ちで頼むよ?」


「はい、わかっておりますよ」


 始めにネスト自身がおごりだと言っていたから問題ないだろう。


――ええっと瓶が……。


 空になった瓶を数えつつグラスを飲み干す。


 しかし二人で結構飲んだものだ。そう思っていると俺の隣、ネストがいた方とは反対側の席に座る気配があった。


「若いのにずいぶんと酒豪のようじゃのう」


「……ん?」


 隣に座ったのはこんな店には似つかわしくないずいぶんと小柄な女……いや子供だ。

 美少女といえば聞こえは良いが、もっと若いように見える。今もカウンターチェアに据わっているが足も届いていない。


「どうした?迷子か?」


「子ども扱いをするでない!っとそう言うという事は新顔か……」


 ちらりと店主を見るとカウンターの臆に逃げている。どうやらこの店に来るやつは全員一筋縄ではいかないらしい。


「まあそれは良い、ワシは……"ジェイ"じゃ。よろしく頼むぞクレナイ」


「どこで俺の名を――」


「先ほどからブリッジが散々呼んでいたじゃろうが」


 それもそうか、しかしジェイ……ね、聞いたことは無い名前だがどこか引っかかる。

 記憶を無くす前の知り合いか……?いや先程の返しは自然だったおそらく初対面だ。

 そう思っていればジェイが手に持っていたバックから瓶を取り出した。


「それよりもどうじゃ?一つワシのとっておきのワインでも飲まんか?」


「ワイン?」


 ほれ、といいながら俺の空いていたグラスに溶けたルビーのような液体を注ぐ。少し嗅いでみれば確かに上等なワインのようだ。

 彼女に勧められるがままに一口、口の中に含む。確かに上物らしい少し苦味のある赤ワ――!


 突如体がぐらつく、と同時に猛烈な眠気が襲ってくる。


「ぐっ……うぅ……」 


 俺は肘をカウンターについて何とか体をつなぎとめワインを吐き出す。喀血をしたかのようにカウンターが赤く染まる。


――この眠気はなんだ?酒で酔うとは違う……。


「そうそう言い忘れたがそのワインは少し酒精が強くての……」


 近くでジェイがおかしそうに笑う。酒精?いや違うこの感じまさか、毒か!?


「セバスにはいつも迷惑かけるのぉ」


「ひぃっ。い、いえめっそうもないです」


 ジェイがこちらを観察しつつ、どこからか取り出した皮紙に何かを書き込んでいる。俺は眠気に耐えながら小さく詠唱を始めた。


「そうかの、それは良かった。まあ、そなたの協力があって研究もずいぶん進んだ。ん?何か呻いておるの」


 ジェイは毒の効き具合を確かめているのか抵抗できない俺に近寄ってくる。

 体のいいモルモットというわけか。好き勝手やってくれる……。


『……バインド……ストリング』


「なっ魔法っ!?うぐっ……」


 途切れかける意識を気合で持たせ体に仕込ませておいた紐を一本だけ操る。

 細いケプラーロープは意識の隙間を付いてジェイの首筋にまきついた。


「うぁっ、なん……じゃ……なぜ……」


 形勢は一瞬で逆転する。首を絞められ呻く彼女。俺はそのまま忍ばせていた短剣の切っ先を首筋にあわせた。


「これだから……研究者は嫌いなんだ……ジェイ」

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