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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第三章:ラガーポート Scramble
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ラガーポート Scramble 13

「すみません……先、部屋に戻ります」


 意外にも一番最初に動いたのはレルカさんだった。

 去り際「おやすみ」とだけ言って動こうとしないこの男を、どこか思いつめた顔で見つめていた。


「……ついていかないんですか?」

「どうしてだ?」

「っつ……あなたは!」


 出来上がったマントのような布の縫い目を確認しながらごく当たり前のようにそんな事を聞いてきた。

 あんな目で見られてなお無視するなんて、ヤクのやりすぎで脳が死んでるんじゃないでしょうかね?


 やっぱり一発殴っておいた方が――。


「――それはレルカが俺を好いているからか?今から俺が追いかけて耳元で愛してるの一言でも呟けばそれで収まるとでも?」

「そうは言いませんが……」

「いや、そんな事を言ってるも同然だ。そしてそれで収まる問題じゃないのさレルカの問題は」


 彼女の……問題?


「もちろん先ほどの俺とお前の話ではない。もっと前から表面化せずに、レルカが見ないようにしてきた物だ」

「なんだって言うんですか」


 正直な話を言えば彼女とは数日前にあったばかりだ、そんな事は心当たりがなかった。私が分からないと見るとこれ見よがしな溜息を上る。


「判らないのか?お前なら判ると。いや、経験していると思っていたんだが……まあ良いか」


 それだけ言って彼は席を立つ。向かう先は二階へ続く階段――ではない?


「ちょっと、どこ行くんですか!」

「ヤミ、君に言うのもなんだが"メメント・モリ"だ。君が覗いてるスコープよりも世界は広いぞ?」


 それだけ言うと彼は剣を取ってウェルナンを出ていった。


「……なんだって言うんですか」

「――にゃー寝たふりしてればクレナイは相変わらず隠蔽体質だにゃ」


 酔っぱらって寝ていると思っていたマリオンさんが起き出す。

 いえ、元から起きてたんですかね?


「起きてたんですか?」

「自分の部屋以外じゃ寝ないにゃ……っんく、薄まって飲みやすいにゃーねそれに冷たくて美味しいにゃ」


 マリオンさんは残っていたグラスの中身を一気に飲み干すとニヘっと笑う。


「それで隠蔽体質って?何となく色々隠してそうなのは分かりますが」


 この笑みにいつも誤魔化されそうになる。そうならないように先手を打っておかないと。


「クレナイもレルカちゃんも兄弟みたいに過ごしてるから忘れがちだけどレルカちゃんはエルフでクレナイはヒトだにゃ」

「ええ、そうですね」

「本当に判ってるにゃ?あっ今は良いにゃ」


 相づちを打ちながら空いたグラスに注ごうとするとグラスの上に手を重ねられた。

 エルフと人?耳の長さが違うだけと思ってますが。


「エルフってのは本来あまり森から出ない種族にゃ。それは加護を与えてくれる森が大事って話もあるし元から引きこもり体質なのもあるけどにゃ」


 元から引きこもり体質……?


「私達亜人やヒトとは寿命が違い過ぎるのにゃ」

「――!」


 そうか、医療が発達して300年ほどヒトがが生きる私たちに対して。医療が発達していないこの世界のヒトは長くて60年……いや魔物も含めればもっと短い。

 対してエルフは大体同じで300年だ。


 同じ時を過ごせる割合が違う。


「分かって無視していたのはそういう事ですか」


 つまり彼は彼女のことを思って好意を無視していたと……。


「まあ私に言わせるならば、"二人とも"考えすぎにゃ」

「考えすぎ?ですか?」

「始まる前から別れを思ってちゃ意味無いって思うだけどにゃー」

「それでメメント・モリですか……」

「メメン?にゃにそれ、さっきクレナイも言ってたけどにゃ」

「死を思えっていう古代語ですよ」


 古代まだ人の寿命が短かった時の言葉らしい、ライブラリの中の辞書にあった。その意味を軽く説明する。


「にゃ!いい言葉にゃ」

「いい言葉ですか?」


 死を思えなんてなんて言葉が良い言葉?私には後ろ向きな言葉に思えるのですが。


「だって明日死ぬなら今日楽しく生きなきゃ無駄だにゃ?」


 そう言ってマリオンさんはカラカラと笑うのだった。









 そんな事もありながらウェルナンでの生活は続いていく。


 朝起きて、酒場のホールで給仕をして夜は特にできる事も無く待機する生活。だと言っても依頼の期間だけですが。


「そういえば姉ちゃん知ってるか?」

「なんでしょう?」


 こうやって客と色々と話をして情報収集が出来る事がこの仕事の良い所でしょうか?商人からはどこどこからの貿易品と言う話や冒険者たちからは他の町の話が聞けた。


 戦争も起こってないですしこの辺りを支配している王家への信頼も厚い、実に良い国ですね。

 この王家からも宇宙への支援が貰えればいいと思うんですが……まず会う方法からでしょうかね?


「なんでも最近辻斬りが出たって話だ」

「辻斬りですか?」

「そう、見た話によるとフードを被ってサーベルで相手の剣ごと一刀両断していったんだってよ」

「サーベル……ですか?」

「船員がよく使う片刃の剣の事だ。今のところだと斬られたって数はあんまり居ないが。冒険者、商人関係なしって事で結構ピリピリしてるのよ」

「夜道に気を付けないとですね」

「良ければ俺が守ってやるから今夜……」

「いえちょっとすみません。ハイいらっしゃいませ~」


 どっかの海賊が暴れてるんですかね?そう思いながら客をさばく。そろそろ昼も遅くなって人も減ってきた。


「おや、この店はずいぶん店員のレベルが高いですね、これからはここで昼を取るとするかな?」

「すみません、私は日雇いなので」

「なるほど、冒険者の方でしたか」


 それは残念だという身なりのいい客とその連れを席に案内する。


「ヤミさん計算教えてもらってありがとうございます。おかげでお会計が楽ですよ」


 新たな客をさばいているとレルカさんが近づいてきた。彼女はあれからも何もない、何か吹っ切れたのかは分かりませんが。


「いえいえ」

「そういえば教わったって言ったらクレナイさんからこんな表を貰ったんですよ」


 渡された皮紙をにはひたすら共通語で数字を羅列した表が書いてあった。私もようやく覚えてきた共通語を見ると掛け算表のようだ。


「ああ、9かける9までの掛け算の表ですね、覚えておくと楽ですよ」

「その横の数字は?」


 見れば確かに票の横にこちらも覚えておくようにと書置きがあって10個の数字がある

121、144、169……?。


「ああ、これは20までの同じ数を掛け合わせた数ですかね、これも覚えておくといいですね」

「ほえー……」

「まあゆっくり覚えていけばいいですよ、ところで明日からですが」

「あっ今日まででしたね?」


 そう、マリオンさんにもらった依頼も今日までだ。明日からはただの宿の客になってしまう。


「レルカさんが良ければ一応継続しようかと思ってますが?」

「んー……できれば衛兵とかそう言うのをやりたいです」


 衛兵?イメージとは違いますが。


「冒険者の正式登録には警備の仕事とそこでの訓練が必要なんですよ」

「へえ、どうして急に」

「早く追いつきたいですから」


 なるほど……。


「そのためには明日早起きしてギルドに行きましょ――」

「失礼、話を聞かせていただいた」


 突如先ほど席に通した身なりのいい客から声をかけられる。少し嫌な予感を感じレルカさんの前に立つ。


「えっとどなたです?」

「失礼、申し遅れました私、ユベール・ロジェと申します。ロジェ商会と言う商会を経営しております」


 そう言って腰を折るのは身なりが完全に整った男だ。一応大通りから1本入った所にあるからこのような貴族のような人も来ない事は無いのですが――。


 だが違和感を持つのはその目だ。どこかこちらを値踏みしてくるような目をしている。その目が原因でどうしても信用できなかった。


「そのロジェさんが何用で?」

「当商会は冒険者の方々にも門戸を開いていまして、その一環として警備の依頼を出させていただいております」

「それで……?」

「宜しければ受けていただけないかと。……おい」


 護衛に一声かけて依頼書が用意される。手際よく依頼書が出されるのは冒険者相手が多いからですか?


「出来ればご一考ください。では――」


 彼は依頼書を渡すと去って行った。


「良かったですね、早起きしないですみそうですよ?」

「え、ええそうですね」


 あの男がやけに親切なだけか?それとも……。

 答えの出ないまま、私は彼の去って行った出入り口を睨んでいた。

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