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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第三章:ラガーポート Scramble
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ラガーポート Scramble 12

魔法についての彼からの説明回。

説明回って難しい。

「それで、結局受けちまったのか?」

「もうあの時間には依頼はないし、それ以外の選択肢がなかったんですよ。あんなの自由意志という名の強制です……」

「ふうん、あのマリオンがなあ……まあ世の中、ままならない事ばっかりだからな」

「言い方になんか実感こもってますか?」

「昨日からイロイロあってな」


 その日の夜、人が少なくなったウェルナンの酒場の隅で男は作業をしつつ疲れ切った表情で言った。

 それにしてもイロイロですか、私達が働いてる間に何かやってるんでしょうか。まあ、この男も何やってるか分からないんですが。


 ちなみに酒場はもう店じまいをしてテーブルだけ借りてる状態です。私の時間感覚的に言えばそんなに夜遅い時間ではないのですが、店の人たちにも明日がありますからね。

 そもそも、そんなに遅くまではやってる店はこの街に無いのですが。


「言っていた借金はどうなったんですか?」

「ああ、あれは昨日返して来た」

「早くないです?」

「早く返すに越したことはない。借金ってのは知らない間に膨れ上がってるものだからな。むしろまず借金しない方が重要なんだが――」


 ありゃ騙し討ちだ……とぼやく彼を視界から外してカウンターの方を見る。カウンターではレルカさんがマリオンさんの酌に付き合っていた。

 彼女も大概コミュ力高い、そう思っていていれば視線に気が付いたマリオンさんがグラスをもってこちらにやって来た。

 

「もう酒場は店じまいにゃー」

「見てくださいクレナイさん、マリオンちゃんがこんなにくれたんですよ!」


 マリオンさんがグラスを並べ、レルカが今日の稼ぎと思われる革袋を開ける。中からはジャラジャラと大銅貨交じりの山が出てきた。数枚鉄貨幣が混じってると言う事はそのあたりがマリオンさんからの今日の日当なのでしょうが。


「おー凄いな……ってこれヤミの分も混じってないか?マリオン日当は?」

「鉄貨7枚半にゃ」

「あっ!すいません、ええっと半だから……」


 レルカが指を折って計算している間にサッサと計算を終えた彼が鉄貨7枚と大銅貨5枚を山から弾きだす。


「ほら、確認してくれ」

「ええっと、いちにい……合ってます、はいヤミさん」

「ありがとう」


 彼女が詐欺をする恥も無いですが一応再確認して受け取る。


「それにしても計算早いですね、私なんてお金の計算が遅くって」

「そんなことないにゃクレナイがやけに早いだけで、レルカちゃんはできてる方にゃー」

「そんな早いってもんでもないだろ……」


 二人に褒められても彼は困惑している様子だ。捻くれてるというか、なんで褒められても素直に喜べないんですかね?

 そのまま彼は我関せずと言った様子でテーブルに広げた布の切れ端の上の空中で手を動かしている。


「と言うかさっきからあなたは何をやってるんです?」

「何って、見てのとおり裁縫だよ」


 ……はっ?


「いやいや」

「裁縫だったにゃ!?」

「裁縫なんですか?」


 なんて事も無いと言った様子で言って来た彼に全員でツッコミを入れる。


 それもそうだ、テーブルに広げた何か布切れの前に手を向けて、何かを念じている男がただの裁縫をしているとは思わない。


「布を使って裁縫以外の何をするんだよ」


 と言って掴んだ布の端そこには小さな針が勝手に厚手の布を這い回っていた。確かにそこだけを見れば裁縫……ですかね?布をよく見れば数か所で同じ光景が広がっている。


「私魔法は疎いんですが、裁縫って勝手に出来上がる物でしたっけ……?」


「……断じて違うにゃ……」

「……出来たら革命ですよ」

「ハッハッハ、革命かそりゃそうだな」


「……クレナイさん、明り含めて何個魔法を使ってるんです?」

「ん~今は2個くらいだな、これは身体強化のちょっとした応用だ」

「身体強化ですか?」

「詠唱もしてないだろ?」


 確かに作業を始めてから彼は詠唱をしていなかった。それにしても身体強化?確か昼間来た戦士の人の話だと文字通り体の強化をする魔法と言うか技術らしいですが。


「まあ多分に俺独自の解釈も含まれてるが、魔法の講義でもするか。レルカ魔力ってのは何だ?」

「エーテル界から引き出す魔法を使うための力ですよね?詠唱で魔法を発動できます」

「同じ魔力で身体強化もできるぞ?」

「あっ」

「同じ力で二つの違う現象が起こされると言う事ですか?」


 魔法と身体強化、二つとも私の常識にはない事ですが。


「……そもそも。この二つは本当に違う現象か?」

「どういう事にゃ?」

「魔法は自分のイメージを詠唱に乗せてその現象を引き起こす。俺は望む……凍れ」


 彼は小さく詠唱してこぶし大の氷を生み出すとマリオンの飲みかけのブランデーの中にいれた。


「対して身体強化は自分のイメージ通りに身体能力を上げる、この二つの同じところは?」

「……イメージで現象を引き起こす?」

「つまり魔力にはイメージを現実にする力があるって事だ、これは実は別の事からも判る」


 そう言って硬貨を一枚取って弾く態勢に入ると「表だ」と一言言ってコインを弾く。

 音を立てて弾かれたコインは表を出して落ちた。これってまさか一昨日の謎の儀式ですか?


「中級魔法を出すくらいの魔力を練ってやればこうなる」

「……何やってるのにゃ?」

「俺は人より魔力量が多いらしくてな」

「だとしても無駄使いゃないです?」

「……まあ良い、では魔法と身体強化の違いは?」


 逃げましたね?と言うか中級魔法って一人前の魔法使いなら使えるってレベルの魔法ですよね。なんで彼は剣で戦うんです?


「……詠唱ですか?」

「無詠唱もあるぞ?」

「にゃー頭痛くなってきたにゃー」


「俺の答えは魔力を外に出すか内側に向けるかだ」


 なるほど、魔力を外に向ければ魔法になって、内側に回せば体が強化されると。

 ……おかしくないです?


「それでどうしてこの裁縫が身体強化の応用なんです?それを聞くだけだと魔法の分野な気がするのですが」

「内側ってのはちょっと正確じゃないな。認識の内側だ、すべてを認識の内に入れて魔力で自由に操る、前にイリヤさんに聞いたが無詠唱とはそういう意味らしい」

 

 まさかこの布の縫っている場所全部を把握してやってるんですか?

 そんな事が身体改造も何もやって無いただの人間である彼にできる筈が……。


「だから強化するのはココだ」


 そう言ってコツコツと自分の頭を指さした。

 頭……まさか脳を直接強化してるって事ですか!?

 確かに空間認識力を上げればできるのでしょうけど――。


「アドレナリンを過剰分泌させて抗鬱化と呼吸効率の上昇、βエンドルフィンを使い痛みの鈍角化、シナプスの神経伝達速度を加速させ思考速度を上昇、これらを複合化して脳の機能を効率化。筋細胞と血管を強化し動作の向上、骨の強度を強化……」

「あど……なんですか?」


 レルカさん達はいきなり訳のわからない言葉で喋りはじめた彼をいぶかしむ。


 そんな中私は、いや私だけが理解できてしまう。

 脳内麻薬で思考を早め、それに合うように体自身も強化。そしてそれらを更に制御しきっている。

 強化というのもおぞましい、文字通り体をすり潰す様なものだ。


「……痛くないんですか?」

「死ぬほど痛いから誤魔化してるんじゃないか」


 男は何でもない顔をしながら答える。

 頭の中をスクランブルにされる様な痛みを感じていながら。


「……いつか死にますよ?」

「実際初めのうちは何回か死にかけたな」


 男は何でもない顔をしながら答える。

 一瞬でも把握を間違えれば命を失うこと理解しながら。


「……どうしてあなたはそこまでして生き急ぎますか?」

「フッ……」


 男は縫うのを止めずに薄く笑う。

 その邪悪な笑みを見て今完全に理解した。


 あの生体装甲がこの男に"魔王"と言ったことも。

 アイリスがなぜこの男について語ろうとしないのかも。


 この男は、狂人だ……まごうことなく狂っていて――。


「元よりヒトの一生は短いんだ、出来るだけのことをしないと死ぬだけだからな」


 そして、その事を彼は理性的に理解していた。

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