ラガーポート Scramble 10
結論から言えば俺は馬に乗れた。どうもこれも武術と同じように体が覚えこんでいたらしい。
しかしこれはおかしくないか?。そもそも俺の覚えている中での21世紀には馬はほとんど趣味でしか乗らない物の筈だ。
まさか馬が趣味だった……?それは我ながら少々懐古趣味過ぎないか?もしかしたら似た所で単車と言うのもあるのかもしれないが……。
その事に少し疑問を覚えつつも盗賊に等にも合う事も無く、ラガーポートに直帰する。
時間はくれ始めてから走り始めて既に夜中になっていた。
警戒するために魔導灯が輝く街の門を抜け、門を抜け入ると並走している馬車から声がかかった。
「助かったよクレナイ、お前のおかげで何もなかった」
「俺は何もやって無いよ並走してただけだろ」
「全く冒険者の割に無欲な奴だ……」
「それにまだ終わってないさ」
「ん?ああ、それもそうだな」
しばらく魔力が切れかけ明りの少なくなった街中の通りを抜け、横道にそれてさらにうす暗い裏通りへ。例え日中でも人通りが無いと思われるような裏通りの奥、そこにその建物はあった。
この都市特有のレンガ造りの周りより少し大きい建物、そこだけ見れば周囲との違いはあまりなさそうに見える。だがよく見れば窓の多い他の家に比べて一階部分に窓がなく2階以降も窓が極端に少なかった。
見る人が見れば牢獄のようにも見える建物だ。そしてある意味それは合っている、ここは囚人を売る監獄だ。
「ここか?」
「そうだ、ようこそブリッジ商会へ」
「ブリッジ商会……お前、商会主だったのか?」
「驚いたか?まあ小さい商会だけどな」
そう言うと併設されている馬車の乗り付け場所に入っていく、たぶんそこが荷下ろしの場所なのだろう。
「うん……あっお帰りなさいませブリッジ様!おいみんな帰ってきたぞ!」
音をたてないように入り込んだが、馬の音に目覚めたのか従業員が彼を向かい入れた。
もう大丈夫だろう、依頼は完遂だ。
「ここらへんで良いか?」
「ああ、助かった。そうだ、ここの通りを少し行った先にガストっていう小さな酒場がある。金を持って行くからそこで待っててくれ」
「こんな時間にでもやってるのか?」
「大丈夫だ、こういう時間にもやってる珍しい店でね」
「……ふうん」
確かにラガーポートは大規模な街だから夜間に働いている人のための酒場などは多い方だ。それがこんな裏通りにまであるとはね?
いろいろと思うところはあるが、馬を繋いでライト片手に通りを進む。しばらく進めば確かに明かりの漏れている店屋が開店中の看板を掲げていた。
上を見れば神経質そうな字でガストと書いた看板が揺れている、どうやらここらしい。
ドアを開ければドアベルが俺の存在を店内に知らしめる。
知らない顔だと睨むような視線に、俺はここがどんなところかを悟った。
「ご注文は?」
「ラム酒をロッ……グラス半分だけ」
カウンターの手前に入り込む、この店には不釣り合いなバーテンに注文をする。俺のおかしな注文に首をひねりつつも色の濃いラム酒を分厚いグラス半分まで注いでくれた。
「悪いこと言わないですよ、できれば飲んだら早めに出てったほうがいい」
「だろうな」
俺は囁くように詠唱しながら。新顔の奴に睨むように不躾な視線を送ってくる奴らを見渡してそう言った……いや、そもそも躾けられているような奴は居ないが。
一言で言うならアウトローの吹き溜まりだろうか。どこの街でもこういう場所はある物だが、それはどうやら異世界でも同じらしい。まあ、この店主は善良っぽいが。
ぱっと見渡した限り気になるのは、子分と思わしき奴らを引き連れた水夫風の男、それとカウンターの奥でフードをかぶって視線を隠している奴だろうか。ほかはゴロツキといった様子だ、全員これ見よがよしに武器を吊ってるのはご愛嬌と言ったところだろう。
そう思っていれば水夫風の男が酒瓶片手に近づいてきた。言わんこっちゃないと小さく呻くバーテン。見ればこいつも腰にはサーベルを吊っている。
「よう新顔、ラム酒を半分だなんてチンケな事言わないで男なら瓶ごと行きな」
「あいにくこいつはまだ未完成でね」
「はあ?ラム酒はラム酒だろうが」
カウンターからグラスを水夫風の男との視線の間に持ち上げる。視線がグラスに注目したのを確認すると――。
「氷よ」
「なっ魔法!?」
水夫風の男との間に丸い氷が現れて酒場全体が殺気立つ。男がサーベルを抜き放つとピタリと首筋のつけてくる。やっぱりこいつ腕が良いな。
「どういう真似だ?」
その言葉には答えずニヤリと笑って空中に保っている氷の制御を離す。
支えの外された氷は重力に従ってチャプンとグラスに落ち
た。
「ロックって飲み方だ、世界が変わるぜ?」
笑いながらそのまま首筋についているサーベルにグラスをカチンと合わせ一口含む。ああ、やっぱり酒は冷やしたほうが美味いな。
「飲むか?作ってやるぜ?」
「……俺はこれでいい」
水夫風の男は、釈然としない様子で隣に座って瓶をあおる。どうやらフラれてしまったらしい。
「見ない顔だが誰に教わってきたんだよ」
「ネストって言う……商人だ」
「ああ、あの偽善者か」
「偽善者ねぇ、知ってるのか?」
「俺も何人か買ったことがあるからな、鞭が無くても動くいい商品を卸すやつだ」
「そいつは凄いじゃないか」
「この世界まともそうな奴ほど、裏で何やってるかは知らねえがな」
それだけ言い捨てた水夫風の男を見送る。忠告だけ済ませた奴はテーブルに戻って部下たちとまだ飲むらしい。
「……まあ、確かにな……」
俺は近くに誰も居なくなった所で小さく呟いた。
暫く氷が解けていって風味の変わっていく味を楽しんでいるとドアベルが鳴る。どうやら待ち人が来たらしい。
「ようネスト、先に始めてたぜ」
「おうマスターこいつと同じ物を……なんかお前注目されてねえか?」
「見ねえ顔ってことで警戒されてるんだろ?金があったら一杯奢って機嫌を取るんだが、無い袖は振れないからな」
「持ってない袖は……なんだって?」
「故郷で持ってない金はどうやっても出せないって意味の言い方だ」
「なるほどな、ってこれほんとに同じものか?」
出された半分しか入っていないラム酒を見て唖然とするネスト。手早く氷を出して入れてやればやけに驚いた顔をされた。
「お前なんて事を……酒が薄まっちまうじゃねえか」
「いいから飲んでみなって。良いか?ゆっくりだぞ」
軽く杯を合わせるとネストがおっかなびっくり飲み始め……目を見開いた。
「凄えな、氷魔法なんて硬くして魔物にぶつけるだけだと思ってたが。酒を冷やしただけでここまで変わるか?」
「だろ……ん?」
もしかして異世界の文化持ってきちまったか?
「この街は魚を氷で冷やさねえのか?」
「そんなんで氷魔法を使うか。氷魔法ったら戦場の花だろ」
「そ、そうか」
この街が港町にしてはどうも鮮度が悪いと思ったらそういう事か、せっかく魔法があるんだからそれで冷やせよ……。いや、冷やして鮮度が保たれるって発想がないのか?
すっかり雫のついたグラスを啜る。汗を吹いたようなグラスを拭うと俺は話を変えた。
「……まあ酒の話はいつでも出来るだろう」
「それもそうだな。ほら、これが報酬だ」
ネストが布袋を置く。袋?
中を開ければどう見ても大鉄貨2枚以上の金が入っていた。
「多くないか?」
「感謝のしるしだよ、何かと要り用だろ?」
「そうだがな……」
「まあ正直渋ると思ってた……じゃあ貰いっぱなしが嫌だっていうなら……」
ネストはグラスを軽く振って中の氷を揺らす。カランと氷がなると途端に商人の目になって言葉を繋げた。
「俺の所でちょっと仕事をしないか?」




