Heroes who is not returned. 11
朝方、私が拠点にしてもらっている山間の洞に戻ってくると竜の姿で寝ていたドランさんがもぞもぞと起き出した。そのまま人化ししてこちらに来た。彼の奥さんはまだ奥で寝ている、彼女?は朝が弱いらしい。
「おはよう、今夜も偵察か?」
「ええ、時間は有限なので」
あれから7日程の時間がたっていた。
私はドランさんたちからの共通語と呼ばれている言語や常識的な事の講義を受けていた。
一日の時間や年の概念がこちらの標準時間とほとんど変わらないという衝撃的な一致も有ったが。
中でも興味を引いたのは彼らドラゴン達がきちんと意思疎通のとれる人間と言う種族の中に入っているという事でしょうか。
たとえ人型でもなくても意思疎通が取れるなら人間と言うくくりに入るようで。そのことが少しカルチャーショックだった。
「外なんて何もないだろう?」
「そうでもないですよ?」
その合間合間に外の偵察をしているが、いまだにコンテナの落ちた湖の周りは調査できていない。
理由はあのバリケードを張った人間達だ。降りてきた数日後、戻ってきた彼らは数人の縛った人たちを連れていた。
どうも、かなり野蛮な奴ららしく。毎晩のように湖畔で男を無意味に傷つけ悲鳴を楽しんだりと悪趣味な宴を繰り広げていた。
一緒に連れてこられた女たちは洞窟の外に出てきてないが……どうなってる事やら。
できれば助けたかったが、どの程度の戦力を持っているか不明の相手だ。下手を打てない以上、手が出せない。
仕方なく、周囲の植生や生態系等の調査をメインにしていた。
「まだ一週間しかたっていないというのに、もう言葉を使いこなしているな」
「そうですか?なら良かったですが」
「空の彼方にいる者たちはみなこんなに頭が良いのか?」
「んー……」
「違うのか?」
どうだろうか、たとえば脳を直接機械と繋ぎブレイン・マシン・インターフェースを構築した人がいる。
または生体CPUのようなバイオコンピューターをコンピュータの拡張メモリのように体に追加するのでもいい。
こういう自分の体を改造するトランスヒューマニズムが盛んだ。頭の回転と言う意味ならとても速いだろう。
だがこうした改造を施した人を本当に頭が良いというのだろうか?
いやユリアーナ女士の様な人も居る、頭の回転の速さはそう関係ないのかもしれませんね。
「まあ……そうかもしれませんね?」
「そうかそうか、そいつは楽しみだな」
私の答えを聞くと彼は笑いながら、非常に面白そうに空を見上げる。
きっと彼の眼にはもっと先、星々の先まで見えているのでしょうか。
それにしても宇宙がそこまで面白いんでしょうかね?
そう思っていると横からその疑問に答える様な声がした。
「俺は好きなんだ、空が……空は自由だからよ」
横を見ると、空を見上げる彼が笑顔のまま夢を語る。
「その空がもっと広がってるってわかったんだ、そりゃ嬉しく無い訳が無いだろ」
そのまま彼はいつか自分の力で宇宙に上がってやると宣言した。
それは恐らく宇宙に上がった私たちがどこか無くしていた物だった。
「結局のところドラゴン族たちはあの剣の持ち主ではないって事なんですよね……?」
昼ごろ彼らが今日の糧を取りに行った。私は山腹の森の木の上でスコープを単眼鏡にした。
そしてバリケードを見張りつつ考え事をしていた。
ドラゴン族たちは月に剣が刺さっている事を知らなかった。
一番飛べると言っていたドランさんも、これまでは対流層の上部あたりまでしか飛べなかったらしい。
結局まだ剣を指していた犯人は判らない。
彼ら曰く人の中に月……ルノを崇めている宗教が有るらしいが、その宗教の物だろうか?
雲一つない明るい空の元、スコープを滑らせ湖の先を見る。
「人道的に……ね?」
湖の周りの野蛮人達にも一応警戒心はあるようで、常時一人見張りを立てていた。
その見張りが眠たそうにあくびをしているのが見える。私が見ている事はまだ気が付かれていないらしい。
「アイリスとの通信の予定は夜、バックアップが無いのは辛いですが……そろそろ潮時ですかね」
いまや連れてこられた人たちが何人生きているかは不明だ。
スコープから目を離し、背中に背負ったライフルと接続する。セレクターをレーザーの対人出力に変えてスコープを覗く。
調整のために少し離れた木の幹に向かって一瞬だけ引き金を絞った。
ジュッっと焦げる音がして木の皮の一部が焼け付く。その焦げ付いた匂いに驚いたのか木に止まっていた鳥がすこし羽ばたいた。
「精度は……まあまあですか問題は大気でどの程度減衰するかですけど」
恐らく大丈夫だと思うが出力を少し上げておこう、そう思ってライフルを構え洞窟の周囲を見渡した。
何処か次の獲物の見定めに言っていたのか、二人ほど出ていた野蛮人達が返ってきていた。どうやら時間は無いらしい……。
――ん?
視界の端、洞窟の前の広場のすぐ近くの森の木の上に人がいる。黒い髪に黄色い肌をして剣を持った男その男は周囲を見渡し――
――!
枝から手を離し落ちる、落ちた拍子にひるがえるスカートを掴んでまとめると木の幹に隠れる。
私が急に動いたせいで驚いた鳥たちがどこかに飛んで行った。
――見られた!?。
あの男の異様に鋭い視線が、湖を飛び越えかち有った気がしていた……。
あり得ない話だ、そもそも人の肉眼で見えるような距離じゃない……。
気持ちを落ち着け、森の中を移動して別の狙撃ポイントに移動する。
再び崖の周囲を見る、黒髪の男はすでに木の上から去っていた。
――どこだ?
居ないと確認した瞬間、緊張度を最大にまで引き上げる。
――どこに行った?なぜ居なくなった?
思考速度を上げ、鼓動や息をカットして音をなくし、周囲を観察し続ける。
しばらく観察し続け崖の上から男が見えた時、思わず声に出た。
「いた――!」
黒髪の男はこちらを見ていない。
まさか気が付いていない?
男は蔦を木に巻きつけている、こちらに気が付いている様子は無い。
「……ふぅ」
こわばった指をトリガーから離しつつ、安全装置をセーフティーにかける。
だめだ、緊張しすぎている。一息ついて男の動向を伺った。
どうやら黒髪の男は洞窟の彼らを襲撃するようだ。
剣を腰に釣った状態でラペリングを敢行している。一体どういう関係なんですかね?
そう思っている間に蔦の先まで来ていた。エビぞりになって下を確認して剣を取り出す。
――!
男が崖を飛び降りて見張りをしとめる。その光景を見て鳥肌が立つ思いだった。
遠くから見ただけで判る、恐ろしい程の無駄のない効率的な動きだ。恐らく降りた時ですら音一つ立てていないのだろうか。
すなわち落ちた時の衝撃を音にせず、すべて下の男に伝えたと言う事だ。
自分の体をどう動かせばどのような効果を得られるか十二分に知って居なければ出来ないだろう。
「しかもエグイですね……」
男が洞窟の内側から少し見えるように死体を設置して反対側に潜む。
おそらく中から見たら居眠りしているように見えるのでしょう。調べたら背後からブスリだ。
その通りに、数時間後黒髪の男がもう一人しとめ、洞窟の中に入っていた。
「さて、私も移動するとしましょうか――!?」
全身の毛が逆立ったような背筋にゾワリとした感覚がする。
どこか地に足がつかないような、不気味な感触……。
ライフルのいや、体の重量が少し軽くなったような感覚。
空を見上げる、相変わらず雲一つない晴れた空、しかしどこか暗い気がする。
――上に居ますか!
フィフスドライブとクロークデバイスを使った輸送船。それが恐らくここに居る!
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