Heroes who is not returned. 9
そして冒頭に戻るわけですが……。
<<降下10秒前、9,8……>>
アイリスからの通信で回想を中断する。
彼女が即席で作り上げた、狭いコンテナの中にギリギリのスナイパーキャノンを握りしめ。降下時間を待つ。
<<3、3番コンテナ射出、2>>
私の乗り込むコンテナの前に必要そうなものを入れた物資を入れたコンテナが射出される。
<<2>>
正面のハッチが開いていく。のぞき穴から見えたのは、夜明けを迎えようとしている青と緑の美しい星。
<<1>>
私の知っている星々とは違う"人間"が暮らす別世界。
<<0、降下開始>>
その世界に今、私は自らの意志で足を踏み入れた。
降下は実にスムーズに進む。
コンテナを改造して作った降下カプセルだが。即席で作り上げた物とは思えないような堅牢さで、大気圏突入時の圧縮空気のプラズマによる熱を耐えていた。
降下開始から約1時間、のぞき穴からの見る景色は少しずつ近づいてきている、ようやく半分と言ったところだろうか。
地上でどうしてBOA……生体装甲が暴れていたかはわからない。初期段階では化け物の様になった自分に耐えきれず暴走すると言う事があったようだが、最近では全く聞かない事だった。
<<……ちら、ネヴァーサンセット、聞こえますか?>>
ネヴァーサンセットとの通信が無事に復旧する、通信感度はなかなか良いようだ。
<<こちらヤミ順調に降下中、と言っても操作できることは無いんですが……そちらは?>>
<<両コンテナとも順調に降下中、パラシュート展開までおよそ10分――>>
<<どうしました?>>
アイリスの声が不意に切れる。まだ通信はつながっているようだが、なにかあったのだろうか?
<<緊急事態です。推定、竜と思われる原生生物の大規模な軍団が降下地点に集結……いや、一部突出しそちらに向かってきています>>
まさか空を飛ぶ生物の縄張りだったか?コンテナに入ったままじゃ攻撃されてもどうしようもない。
<<出て迎え撃ちます。このコンテナはそのままの進路で>>
<<ヤミさん!?>>
後ろの緊急開閉用のノブを思いっきりひねると気圧0のコンテナの中に勢いよく空気が入ってくる。
外気温セ氏0度、宇宙空間に比べればまだましな環境でしょうね。
降下カプセルから顔をだしもう一つのコンテナと高度を確認。隣のコンテナは約100mほど上を並走している、現在高度は約100km。
ライフルを握ったまま乗っていたコンテナに張り付く。さすがに命綱なしパラシュートなしのフリーフォールはする気が無い。
<<そちらの方で演算のバックアップを>>
<<あ、アイマム!>>
ネヴァーサンセットのメインフレームとの回線を開くまでにライフルを下に向ける。
小さい黒点のような大きさに見える竜たちが降下予定の森の上空を旋回。
その中でもひときわ大きい個体を中心とした一団がこちらに向かってきているようだ。
「牽制射撃、撃ちます!」
ドオオオォォォォン
キャノンの銃口を一番大きい個体に向け、狙いも甘いうちに引き金を引く。
36mm砲弾が空を裂き、竜に掠るほど近くを通る。
砲弾の撒き散らす衝撃波が、竜に当たっているはずだが。
「衝撃波程度はあの大きさでは無意味ですか」
片足をコンテナの出入り口に引っ掛け反動を何とか抑えると体勢を立て直す。
竜は人ならズタズタになっているレベルの衝撃波が当たっているはずだが影響はなさそうに見える。
慣れた手つきでレバーを引き排莢。手首ほどの薬莢が空中に飛び出していく様を横目に、次弾を薬室に叩き込む。
その間にも竜との距離はどんどん近づく。竜はこちらに口を向け、火球が生みだした。
――まさか……ブレス!?
まるで小説のドラゴンみたいだ、何もない所から火球を生み出すとはどういう原理でしょうか?
原理はわらないが今、確実にわかっているのはこちらに攻撃の意志があると言う事だけだ。
<<メインフレーム接続、暫定竜の熱量上昇>>
接続によって精度の増したライフルを向け標準を合わせる。距離は約5㎞、狙いをつけているその間にも火球はどんどん大きくなり。
「……!」
GAAAAAAAAAAAA!
ドオオオォォォォン
ほぼ同時に発射した砲弾と火球。
かするように放った砲弾は竜の頭に向かい。だが火球の熱に煽られ僅かにずれ竜の右目に着弾する。
GYAAAAAAA
「まずった……!」
火球がかすり、乗っていたコンテナに畳まれていたラシュートに引火する。
即座にコンテナを蹴って自由落下に移行する。
互いに狙った物をわずかに外し、降下する私と迎え撃つ竜が空中で交差する。
(なぜ、外した)
(敵では、ないので)
一瞬の交差、竜に残った眼でそう問いかけられた気がして同じく視線だけで返す。
<<暫定竜、空中で停止、大丈夫ですか?>>
「ええ、でもまだ仕事が残っています」
空中で体を振り、銃口を点しか見えない村に向ける。
村では生体装甲と一つの影が向かい合っている。降下前にはもっといたはずだが、すべて倒れてしまったか……。
「これ以上、やらせるわけには」
空中で安定しない体をライフルでひきつけ、一つの陰に引き金を引き続ける。
ライフルは咆哮を上げ、マガジンに入っている全ての弾丸を撃ちつくした。
着弾までは時間がかかってしまいますが、もし直撃すれば生体装甲と言えど無傷ではいれないはずだ。コアにかすっていたら万々歳でしょう。
「着弾は!?」
<<ここから着弾は約5分後です、そのころにはもう見えないと思いますが>>
「そうですか、あの男の人が逃げられると良いのですが……」
姿勢を制御し上空で並走していたコンテナのすぐ傍まで行き手を伸ばす。が、わずかに届かない。
手を伸ばしても届かなさそうだ、もう反動になる物が無くしょうがなくスナイパーにつけていた大型のマガジンを外す。
大型の辞書サイズのスナイパーライフルにしては異常なほど大きいマガジン。しかし扱う36mm砲弾からしたらむしろ小さいと言えるだろう。
およそ25発の弾丸が入っていたとは思えない、最新の6次元工学技術の塊である。
「これ高かったんですが……」
一応マガジンについているビーコンを起動すると、私はそれを思い切り横に投げ。投げつけた反動で反動でコンテナに取りついた。
コンテナの外を伝い上に乗る、後はこのままパラシュートが開くのを待つだけだ。
だいぶ近くなってきた地面を見ないようにしたかった。
弾切れのライフルのセレクターをレーザーに切り替える。
竜を見たがこちらを伺っているようで特に何かをされることはなさそうだ。
まもなくパラシュートが開くというところでアイリスが何かを呟いた。
<<はい……?コード911要請?とりあえず却下で……ですが、まさか……>>
「どうしました、アイリス?」
<<……いえ、独り言です>>
「そうですか……うわっ!」
返事を返す時にコンテナが大きく揺れパラシュートが展開される。
展開された時の衝撃で私はバランスを崩し、とっさにそのひもを掴んでしまった。
「あっ」
<<ヤミさん!?>>
咄嗟に掴んだせいでパラシュートが絡まる。絡まったと言うことは当然パラシュートも減速する効果をなくしていき……
「いやあああああああああ」
<<ヤミさああああああん!>>
アイリスの珍しい声を聴きながら、深い森の泉に向かって落ちて行った。
<<ヤミさん?ヤミさん?>>
「っぷはぁ……な、謎生物万歳」
墜落した先が湖で助かった、水面から顔を出して空気を取り込む。
いや実は呼吸は必要ないのだが、どうも謎生物の本能なのかそういう行為がしたくなるのだ。いや今は関係ないだろう。
どうやらコンテナも湖に落ちてしまったようだが、どうやって引き上げようか。
ひとまず湖から未開の森にあがってアイリスに通信を入れた。
「こちらヤミ、アイリス?」
<<こちらアイリス、無事で何よりです。どうやら通信機は壊れてなさそうですね?>>
そのようだ、体内に埋め込んでいる物だが、ネヴァーサンセットと通信ができるだけでも安心感が有る。
あとは墜落していても持っていた球切れのスナイパーライフルとスカートの中に隠していたナイフ等の装備一式くらいか。
ライフルは軽く引き金を引くと近くの木に向けレーザーが発射される。
レーザーのあたった個所が焼け焦げ貫通して向こう側が見える、どうやら壊れてはいないようだ。
次に足に着けていたナイフを取りだす、軍の払い下げのサバイバルナイフだ。
柄の先をくるりと回して中の装備を確認する、中身はライトと火打石。
火打石は良いとしてライトは……きちんとつくし絞りも利きますね。
そのほか常備の雑多な装備も、手早く確認しているとアイリスから通信が入った。
<<ヤミさん、そろそろ惑星の影に入りますが、何かありますか?>>
「ん……?」
惑星の影……ああ、そうでしたここは地上でネヴァーサンセットはまだ宇宙空間でしたね。
船は惑星の外側を回っている以上常時通信できるわけではないですね。
「……いえ特に、良ければ地図を作ってください」
<<わかりました、危険な原生生物もいるかもしれないので気を付けて>>
「そうですね」
大まかでもいいから地図かあれば今後の探索の役に立つだろう。しかし先ほどの竜といい危険な生物が――
<<それと先ほどの竜がそちらに向か……>>
「えっ!?」
そこまで言うとぷつりと通信が切れた。
どうやら完全に惑星の陰に隠れてしまったようだ。
しかし最後の最後で何か不穏な事を……。
「GULLLLLLLL」
空から響いた咆哮にライフルを構える。
銃口の先には先ほどの竜、片目を穿たれた竜が大きく羽ばたきながら湖畔に降り立とうとしている。
「お早い到着ですね……」
咄嗟にシニカルな笑みを浮かべながら考える。
36mmは装填されてない、レーザーなら?
あの衝撃波を無効化した相手には無理かもしれない。
竜が降り立つ、衝撃で湖畔に激しい波がたつ。
立った高さは10mは行くだろうか、見れば見るほどおとぎ話のドラゴンだ。
降り立ったドラゴンはこちらを観察しまだ動かない、私はそのうちに残っている目に銃口を合わせた。
<<待て、ソレを向けるな敵ではない>>
銃口からそらすように、顔をあからさまにしかめたドラゴン。そして重厚な男の声が頭に響いたのであった。
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