Heroes who is not returned. 8
「人は自分で意味を与えない限り、人生に意味は無い……ですか」
「エーリッヒフロムですか?」
アイリスの操縦で船は進んでいく、場所は小惑星体を抜け間もなく目的のMX003周辺へ着く位置だ。
私はと言えば操艦も特にすることもなくライブラリから引っ張ってきた母星のころの本を読み漁っていた。
――と言っても電子書籍だとあまり読んでる感じがしないんですけどね……
次のページへめくるようにモニターを操作する。この本を読んでいるというのに宙を掴むような何もない感触があまり好きではなかった。
「そうですよ、昔の人も良いこと言いうもんですね?」
「昔の人も良いこと言うではなくて、結局技術は進歩しても中身は進化していないんじゃないですか?」
「んー?まあそうかもしれませんけどね……」
すこし捻くれてるアイリスの言葉を流してページをめくる。
相変わらずだ、長年生きてる彼女の言葉もまた一つの真理なのかもしれないですがね。
そう言えば母星の本はことごとく著作権が切れていますけどライブラリにはほとんど残っていない。
おそらく星を脱出する時に何かが有ったんでしょうね。
理由は母星からあまり持ち出せなかったとか、歴史を隠すためにあえて残さなかったとかさまざまな説が考えられていた。
特に母星から脱出する当時の事を書いたものは文書、と言うか絵本が一つだけ残っているのみだ。
『その昔、人々は地上に栄え、新たな隣人たちや天を裂く塔を立ち上げるまでに至った。
だがいつまでも地上のゆりかごにおり新しい世界を開かない人々が、神の怒りに触れたのか空の果てから紅の魔王が現れる。
地上の人々は彼に対し戦いを挑み多大な犠牲を出しながら、なんとか魔王を空の果てに追い返すことに成功した。しかし魔王は去り際に地上を蝕む毒を振りまいた。
その毒は徐々に大地を犯し海を腐らせ、地上を人々が住めない土地に変えていく。大地に住めなくなった人々は宇宙を飛び回り新たな世界を開いていくようになった。』
そんなおどろおどろしい事が書かれた本だけが母星を脱出した時の状況を語る物だ。
しかしたかが絵本の事だから全部空想だろうと断じる訳にはいかない。
ここでいう新たな隣人と言うのはLeges達の事だろうと考えられてるし、この地上を蝕む毒と言うのも万能細胞の元として存在する。実際に母星を含む星系は毒の拡散を防ぐためにゲートごと封鎖されていた。
そう、完全に封鎖されているのだ、母星の本当の名前すら呼ばせないという徹底ぶりで――
「ヤミさん、至急ブリッジに来てください!」
そこまで考えたところでアイリスから急を知らせる声がかかる。
さて、何が出たのやらと思いつつ、私はモニター類をそのままにしてブリッジに向かった
「さてヤミさん、これをどう解釈しますかね?」
「ええ……」
フィフスドライブを切り慣性航行のまま入った月の周回軌道。ブリッジから見える、すぐ近くにあるその星の表面をみて私は悩んだ。
場所はMX003惑星のすぐ近くを回っている衛星、仮称月の周回軌道だ。あんなに豆粒のような大きさだったMX003がもうすぐ近くまで見える。ここからはもう数時間で行けるレベルだ。
この月はMX003の周回軌道を取っているが、周回軌道の一致から必ず太陽とMX003を挟んで反対側にあるように周回している。
このため恐らく地上から見ると常に満月のように見えるのではないだろうか。
自転周期は計算によればMX003が一回公転する間に十二回自転すると出ていた。
表面G0.16程度、水も大気も無い一般的な地球型惑星だ。
まあそんな情報は良いですが。問題は……。
「これ剣?ですか?」
「のように見えますよね」
まるで渾身の力で大地につきたてたような剣がその灰色の大地に突き刺さっていた。
もちろん人の生きていけないテラフォーミングされていないような星に……だ。
空気も風もない空間に突き刺さる剣はどこか寒々しく、何かの墓標にも見える。
そんな剣が月の表面見渡す限りに点々と突き刺さっていた。
「何かの儀式……?でしょうかね」
「こんなだれも住んでいない場所に剣を突き刺すことが?」
「それが文明なら否定するわけにもいきませんからね……」
たとえ奇妙に見えることでもその星の文明を尊重する。それが獣人戦争を経た私たちの得た結論ですからね。
「ですが一つ判ったことが有りますよ」
「なんですか」
「少なくとも宇宙開発の初期段階は突破できるだけの文明力はありそうです、とりあえずMX003の近くに言ってみましょうか」
音もなく進路を変わっていく、外を見つつアイリスの発言に頷く。
少なくともこれで資源を目の前にして指をくわえるという事は無くなったわけだ。
あとはどうやってかコンタクトを取るだけ、そう思っていると彼女から水を差された。
「そもそも大気圏内に降りる力はあっても、この船に大気圏の突破能力は無いのですが」
「とりあえず私だけでも……コンテナを使ってはどうです?」
貨物ブロックに貰ってきたコンテナが有ったのを思い出した。
あのコンテナを改造して大気圏を降下出来ないだろうか。
「了解です、降りる方法については計算して試作してみます」
「私は持っていくものをまとめて――」
その時ポーンと起動しっぱなしのパッシブレーダーから音とともに何かをキャッチした反応があった。
「MX003から重力異常……これは……」
「なんです……?」
船長席に立ち上がったホロモニターを覗く、そのまま重力波の発生源と固有パターンを計測する。
程なくアイリスが固有パターンを計測し終えモニターに出力する。
パターン自身は一般的な輸送艦のフィフスドライブの重力波パターン。恐らくはD-エスペランサのものだ。
今は月の裏側を回っているせいで見えないが、そのパターンがMX003のその地上付近で観測されていた。
「通信回線を開いてください!連絡を取ります」
「了解!」
オープンの回線を開く、非常事態用の緊急回線だ。私は通信に向かって声をかける。
『こちらネヴァーサンセット、救難信号を受信してきました!大丈夫ですか?』
『……………………』
返信はない、向こうの通信機が不調なことも考えてなんどか通信をかけるが変わらない。
月の影を抜け、夜の青い星が地平線の向こうに現れ始める。
「地点への望遠かけます」
アイリスの掛け声で重力異常の起こっている森への拡大が開始される。モニター内で星がどんどん大きくなり、山脈の谷あいに広がる広大な森を拡大されていく。
「船がありませんよ!」
だが映っている物はどこまでも広がる森だけだ。あるべきはずの船が見えない。
なぜだ?波形を見ると確実にフィフスドライブの重力はパターンは計測されている。
――これが新兵器ですか!
クロークデバイス、軍の試作段階の新兵器。電波や光を透過する新手のステルス装置だと言っていた……。
なぜ起動している?救難信号を出すような状況だというのに。
いや、救難信号を今は出していないと言う事は……何かしらの行動をとっていると言う事でしょうか?
ならば電波を送っても透過して感知されない。
では、なぜ重力波だけ見えている……?
「オープン通信クローズ!船をMX003の周回軌道へ!ただしフィフスドライブを使わないでください!」
「ロケットエンジンだけで行けっていうんですか?」
「フィフスドライブだと、感知される可能性があります」
重力波だけが観測できるというならば、逆にそれだけを頼りに航行している可能性がある。
惑星からの重力はほぼ一定だ、それを頼りにすれば一定の高さを保持できるだろう。
つまり完全ステルスした状態で行動しなければいけない理由がある。
「了解、必要な計算に入ります」
「私は周囲の森を光学監視します、モニターを」
「了解!」
アイリスが大きなモニターに重力異常の起こっている付近の森を映し出す。カメラの一機の菅政権をこちらに渡してくれたようですね。
中央に巨大な木を中心とした街がある、そこから周囲にまばらに村が点在している森だ。そんな森の深くから重力異常は感知されている。
森は深くさらに夜だ地上があまり見下ろせる場所がない、必然と村の方を注目することになる。異常地点から近い村を見ていって程なくその村はあった。
その村は夜だというのに火をつけていた。そしてその火から浮かび上がった大きなシルエット。
――まさか……。
「計算終了、50秒後に月から離れます!ヤミさんそちらは……ってこれは」
その影は火に揺れて鬼武者のようにも見える。そして、この影を私たちは知っていた。
「生体装甲……」
右腕を発達させた近接型の生体装甲がその村を襲っていた。
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