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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第二章:Heroes who is not returned.
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Heroes who is not returned. 6

『空間ジャンプ開始』


 周囲のユニットが音もなく発光し跳躍が始まる。疑似的な事象の地平線を作りだし別次元に跳躍する。ここまで来たらもう止まらない。

 と言っても跳躍自体は一瞬で終わるはずだ、一瞬だけ別次元に移送されそこから引き戻し現象で復帰して終わり――。


『隔離空間内にて誤差増大!1.00、5.5、10さらに増大中!』

『計器が全て異常値を指示しています!ジャンプ中止を進言します』

『あい判った、ジャンプ中止。繰り返す、ジャンプ中止』


 突然の異常事態にオープン回線と警報が鳴り響く。自身の感覚が肌が泡をふいたような異常を感じる


「ちょっとフラグの回収早すぎませんか」


 アイリスの意味不明な叫び声を無視しつつ、止めていたモニターを即刻立ち上げ計器を見る。


――何ですかこれは!


 一目でわかる異常だった、室内温度計、酸素濃度計をはじめとして『正常値』をさし示している計測器が一つもない。


――四次元空間すらあやふやに?……なっ!?


 ブリッジの室内のデジタル時計が意味不明な時間を示す。閉じていた懐中時計を開く。完全にアナログで動いているはずの時計の針が、好き勝手にバラバラな方向に回っている。


 外を見れば空間の発光が少なくなり、星明かり一つ無い隔離空間が広がっていく。外部と隔離され、外が観測できない、そして外からも観測が出来ない空間が広がっていく。

 

『ジャンプ中止、隔離空間から通常空間に復帰……できません!』

『なんだと!』


 通常空間に復帰が出来ない……まずい!

 これ以上、個人の存在が観測されないと、この船と私たちの存在自体があやふやになっていってしまう。その先に待っているのは死より厳しい消失だ。


『全艦無線使用自由!』

『了解、緊急事態に基づき、全艦無線使用じゆ……』

『おい!しっかりしろ!誰か!ヴァイスが倒れた!』


 もはや悲鳴のようなオープン回線を聞きつつ、艦についてる全ての計器を見渡して何かヒントが無いか探す。……あった。六次元の次元安定を示した、計測器。そこだけが私の感覚で正しい数値を示している。


「アイリス!」


 何時も帰ってくる返事が無い。

 待つわけにもいかず自分で無線機を操作してオープン回線につなげる。指先からボタンを押す感覚が無くなってきていた。観測の異常は体にも回ってきている。


『こちらネヴァーサンセット。全艦計測機器をオープン表示してください、全員で対応策を練りましょう』

『りょ、了解!』

 

 叫び声のような返事が返ってきて、他の船の計器をオープンさせる。一瞬で広がった各船の計器の値を数秒で見渡す。どの船の計器も六次元の安定以外、異常値を指している。


『こちらネヴァーサンセット。ジャンプを継続、六次元空間内に逃げ込むことを進言します!』

『何!?だが計器が……』

『その計器だけは正常値を指示しています』

『こちらルマンダ。信じられない。確かにそこだけ他の船と同じ数値だが、こんな数値を見たことは無い!それに一度止めた以上、誤差が数光年単位で出るぞ』

『ですがこの不確定な空間にとどまる方が危険です!』

『……』

『早く!』


 無線機に叫ぶ。先ほどからスカートに包まれた足の先から自己の存在が崩壊し、自分が自分でなくなってきている。

 空間からの相互観測が無くなり自分の存在が消えかかっている。


『わかった、ジャンプ開始だ、全員己を強くもて!』

『了解しました!ジャンプ開始しま――』


 ジョシュア艦長は一瞬悩み、そして決意した。直後無線が途切れ、旗艦の操作に伴ってか再び外のユニットが発光を始める。


 静かになったブリッジで己を強く持つ。アイデンティティを保ち自己を保存する。

 

 私はヤミ、この船ネヴァーサンセットを独立AIのアイリスときりもっている探偵だ。

 ここにはライト少将からの依頼で来た。輸送船を回収、もしくは破壊しなければならない。

 

 好きな物はコーヒーと読書、そして実弾銃。

 二百年前に記憶を閉じていて、そしてその記憶はこの船の奥に厳重に保管してある。

 

 激しく発光して外が見えなくなる、跳躍の前兆だ。大丈夫だ、そう言い聞かせて成功する事を信じる。

 

 無意識に席から手を伸ばす、愛用のライフルを感覚の無い手で引き寄せる。

 ずしりとした重さも、もう感じなくなっている。50kgはあったはずだ、重量を思い出すと少し感覚が戻り重くなった気がする。

 

 不安から目をそらすため他愛も無い事を考えたくなった。私はスポッター、観測手の居ない狙撃手だ。風速も、距離もスコープを覗いたまま観測できる。だらか観測手は必要なかった、たとえ共闘したとしても一時的な物だった……。

 いや、違う気がする。誰か、誰かが隣に。いや、今でも私を観測して……。

 

 観測手が居た……そう確信めいて思えたのはどうしてなのか。そこまで考えたところで外が一際は激しく発光し、私の意識は途切れた。












「……いえ、想像していたものと全然違いましたよ」


 駅前の道の端で電話越しに私はため息をついた。いや、ヴィクトリア風のメイド服を着てメイド喫茶とやらに言ったのが間違いだったんでしょうが。中の従業員からキラキラした目で「本職なんですか?」と根掘り葉掘り聞かれてしまった。

 さらにはオーナーが出てきてマナー講座をしてくれと頼まれてしまう。一応お茶の入れ方等は簡単に教えたが、これじゃ客じゃないですね。


「そいつは残念だったな」

「クレナイ様は?読まれました?」

「ああ、面白かったぞ?あまり趣味には合わなかったがな」


 あれ?そうだったんですか?

 

「そうですか……ジャパニメーションは好きそうでしたので、趣味に合うかと思ったのですが」

「そうか……?」


 私が運転している間に横のモニターで熱心に見てたから、てっきり好きだと思ったんですが。どうやら違ったみたいですね。

 そう思っていると電話とは反対の方向から声をかけられた。チェッカーなシャツを着てカメラを構えた男だ。


「すみません一枚いいで……電話終わった後でお願いします。」

「失礼、撮らないでもらえますか?コスプレとかではないので」


 手の平を向け断る、なぜだかこの街ではこの手の手合いが多かった。


「どうした?」

「いえ、ナンパや写真を撮らせてくれと言う方が多くて多くて」

「そりゃな」


 彼はなぜだかクックックとおかしそうに笑う。理由は……この後、合った時にでも聞きますか。


「よし駅で落ち合うか?」

「お願いします」

「すぐ向かう」


 電話が切れた、足元に置いておいたライフルケースを取り彼が来るのを待つ。

 これでもスナイパーだ、待つのには慣れている。ただ敵意なく向けられる下心の交じった視線は、どうにも慣れない物だった。


「銀髪とかっぺーって、すげー美人じゃん」

「誰か待ってんのかな」

「おい、声かけてこい声」


 私を視界に入れたのか一つの若者グループが近づいてくる。

 こういうのが面倒くさいから、彼を呼んだんですけど。……まだですかね?


「あの~すみません、よかったらー」


ドン!


 遠くで何かがぶつかる音が聞こえる。直後一際大きく悲鳴が響く。

 

「えっ何!?事件!?」

「交差点の方からだぞ!」


――あの人ったらまた何かに巻き込まれて……!


 私は銃をケースに入れたまま、その方向へ走り出した――。









「ヤミさん!ヤミさん!」


 ブリッジに響き渡る警告音とアイリスの声に夢から目を覚ます。


「良かった目を覚ましてくれたんですね」


――今のは夢?夢を見ていたんですか私は?


「……どうなって……るんで……す?」


「現在艦隊全域で約半数の人間が、目を覚ましていない状況です、恐らく無理なジャンプで、存在の一部が六次元に取り残された影響だと思います。軍医の方は時間経過で引き戻され意識が回復するとみています……」


 私の言葉を別の意味に受け取ったアイリスが、何か話している。中身が頭に入ってこない。


 前に眠ったのは何年前だったか。眠ったというのを活動を停止していたというのならば二百年前か。

 少なくともここ数年では眠ってはいない、もちろん夢も見ていなかった。


「……それと計測の結果ですが。ジャンプアウトは約一光年ずれ、現在位置は恐らくMXコクーン内。現在動ける人員で外部に向けて調査船を出している状況で……ヤミさん?大丈夫ですか?もし体調が悪いなら部屋に戻ります?」


 アイリスが様子がおかしいと思ったのか心配そうに聞いてくる。

 そのことにありがたいと思いつつ、私は口を開いた。


「アイリス……私は夢を……見るんでしょうか?」


 私の口から出たそれは、どこかで聞いた質問で。


「……見ますよ、知的生物なら必ず見るでしょう」


 そして彼女から帰ってきた言葉も、どこかで聞いた言葉だった


「そう……そうですね。失礼しました、状況を確認しましょう」

「それでこそヤミさんです」


 アイリスから説明を再び聞く。

 ジャンプした地点がずれ現在地点はMXコクーン内、調査するはずの星域の中だ。当初の予定通り太陽系星系が一つ入っていたようですね。


「事故の原因は分かっているんですか?」

「MXコクーンが予想より約1.5光年ほど広かったことが原因のようですね、現在はコクーンの境界面をメインに調査中です」


 感覚を取り戻した足で椅子から立ち上がる。ロングのスカートを翻しながらブリッジの外を覗く。


 いつも通りの星の広がった宇宙だ。どうやら視界情報は次元断層内でも変わらないらしい……。


「恒星系の調査は?」

「ひとまず後回しです」


 視界少し上に上げ、恒星MXに向ける。一般的な太陽型惑星だ、見える限りだと5個ほどの惑星が……。


――あれは!?


 視界の端に普段の宇宙では見えない色が見えた。目視で恒星から1億5000万km程離れた位置を回っている惑星。


「アイリス!右舷72.453度、仰角30.0035度!最大望遠!」

「了解、何か見えたんですか……?」


 アイリスがブリッジのメインモニターに望遠カメラの映像を回す。私の言ったとおりに角度が動きそして一つの星を中心に寄って行く。


 モニターに一つの星が映る、先ほど肉眼で見えた通りだ。


「やっぱりですか」

「これは……!」


 一つの衛星を携え、MXからの光を受けて、緑と白そして水が青く輝いていている宝石の様な星。

 居住可能惑星だ。

お読み頂いてありがとうございます。

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