Heroes who is not returned. 5
「それではカイン君、作戦の途中で合うこともありましょうが――」
「もうカイン君で固定なのか俺は……」
「カイン1等兵、でもいいですよ?」
「心の距離が遠い気がする……」
――元からそんなものはつまって居ないでしょうに。
場所は次元断層の見つかった星域の近く、NZ星群のゲート付近に居る調査船団の旗艦ヴィルヘルム。軍艦から調査艦に鞍替えした旧式の大型戦艦に作られた外部接続用のベイだ。
そこにネヴァーサンセットを接続、曳航してもらいつつ旗艦内に入った所だった。
あの後逃げるように宇宙港を出た私たちは、一路進路を依頼のあったNZ星群方面に変更した。
いや逃げるようにって言うのは違いますね。事情聴取とかそういう面倒ごとから一切合切まとめて逃げている最中ですから。
「おーカイン久しぶりだなー元気だったかー?元気だったよなー?」
「げ、隊長」
「お前にはみっちり話があるからなー、ヤミさんは依頼ご苦労様でした」
「え、ええ……」
突如現れた黒い肌の巨漢にカイン君が引きずられていく。彼がカイン君の上官ですかね?
行きずりに私たちの船に乗り込んだ彼は、無線越しに任務を対象である私にばらしたことを上官から怒られ。そしてそのまま私たちに依頼される形で任務地まで運ばれた。
「部下が迷惑かけましたな」
「いえ、任務ですので」
「そうですかな」
入れ替わるようにこの船の艦長と思われる老人がやってきた。軍服に身を包み、歳を取り色の抜け落ちた灰色の髪と対照的にらんらんと輝く瞳を持った老人だった。
「獣人戦争の英雄にご同行いただけるとは、この調査隊の成功は約束されたようなものですな」
「はい尽力します。ええっと……ジョシュア提督?」
「……ん?はっはっはそう言う事ですか」
アイリスから教えられていたた指令の名前を口にすると。彼は一瞬何を言っているか分からないという顔をした後、納得したように笑い出した。
「いやはや前回の獣人戦争以来ですから私のような物はお忘れで居ても仕方がない。ジョシュアです、どうぞ昔みたいにジョシュア君と呼んでください」
――あー、そう言う事ですか……
彼の言葉を聞いて納得した。どうやら、この老人は獣人戦争の経験者でその際に昔の自分に出会っているらしい。
偶にこういう人がいる、彼らは私の昔を知っていて、そして私の知らない自分を知っている。
彼に過去を閉ざしたことを説明する。
「……なので慣れるまではジョシュア提督とお呼びしても?」
「なんと……あなた様が記憶を無くしたという噂は本当でしたか。ええ勿論ですとも」
私はこの説明が嫌だった。皆一様に複雑そうなそして辛そうな表情をするからだ。
この老人も例にもれず辛そうな表情をした後、ありがたい事に持ち前の明るさで気性を取り戻した。
「しかし何もお変わりないようですね。もしかすると定期的な記憶の消去がお若い理由かもしれませんな、はっはっは」
「ははは……」
そのジョークには笑うしかなかった。
「さて、全員出揃ったところで今回の調査についての最終会議を始めようか」
会議室で円卓を囲った揃った面々を見渡したジョシュア提督が会議の開始を宣言する。
彼はそろったと言ってるが半数はこちらに来れないとかでホログラフだ。そもそも各船舶の船長クラスの会議だから、全員集まるのは物理的に難しかった。
そんな中私は提督の要請でネヴァーサンセットの艦長としてアイリスと一緒に会議室に来ていた。しかし一探偵社がこのクラスの会議に出席するのは場違いな気もするが。
<<私たちはあまり口を出さずにいましょう>>
<<そうですね>>
超単距離通信でアイリスとコンタクトを取る、日和見でネヴァーサンセット内では意思統一できていた。思考放棄ともいうのでしょうが。
「それではハル、説明を頼むぞ」
「はい、艦長より説明を任されましたLegesのHAL2900です」
円卓の中央に赤いカメラレンズを模したロゴが現れ、直後対象の宙域を映し出す。NZ星群からかなり離れた場所の三次元宙域図は中央に不透明な黒い膜でおおわれた繭のようなものが有り中が見通せなくなっていた。
「これが先日発見された次元断層帯、公式名称はMXコクーンです。大きさは半径約二光年。大きさから推定するに、内部に太陽系型恒星系が一つ入っていると予測されています」
ホロ映像が黒い繭の周囲にクローズアップしていき、内部に中央に一つの太陽、暫定名称MX惑星とその周囲に複数の惑星が回る太陽系型恒星系が現れる。
「今回の調査ではこのコクーンから0.5光年離れたポイントαまで、この船の設備で六次元空間ジャンプを行います。その後無人探査機でMXコクーン内を調査。その後は無人機の帰還を待ってから順次突入という流れになります。ここまでで何か質問は有りますか?」
繭の近くに現れた戦艦から無人探査機のドローンが放たれ付近を調査。その後ドローンたちは調査を続けつつ、動きやすい小型の船から徐々繭の中にに入っていくイメージが表示される。
<<アイリス、この小型の船って……>>
<<十中八九私たちでしょうね>>
通常補給なしに数か月航行できるサイズの船は、凍結した非常人員を含めないとしても数十人の規模がどうしても必要になる。一方ネヴァーサンセットは二人だ、小回りが圧倒的に違う。
ちらりとジョシュア提督を見る。彼はこちらの考えを見透かしたかのように笑っていた。
――しょうがないですね……。
「もし異星文明がいた場合の対応ですが。こちらからの接触は極力避けてください。未開惑星の探索は資格者のみとし武器の使用は非常事態のみとします」
ハルが説明を続ける、このあたりは法律通りだ。
「一応、旗艦の方に未開惑星への探索資格の資格試験を受け付けています。こちらは各艦通知しておくようにお願いします」
私達は必要ないですね、永久資格ですし確か持ってたはずです。
あらゆる意図を飲み込み、 しかし表面上は特に質問などは無く会議は進んでいく。
補給品の備蓄量の確認、そして非常時の命令系統の確認等が各セクションから通知される。
「それでは、本日銀河標準時15:00より転移を始めるから、各自準備をするように、解散!」
こうして最終確認にも似た会議はつつがなく終了した。
ネヴァーサンセットのブリッジに入った私たちは船の最終調整をする。と言ってもここに来る前に装備等は調整していたためドッキングベイなどの接続を最終確認するだけだ。
ヴィルヘルムに張り付くように曳航されている船のブリッジから、外に大型の空間ジャンプユニットが展開されているのがみえる。
各星系をつなぐゲートを通れない大型船舶についている、空間ジャンプを行うための設備だ。原理としてはゲートとな時で三次元空間と直角に交わっている六次元空間上に、一瞬だけ存在を転移させ。そこから三次元空間内に引き戻ることによって見かけ上の場所を移動するとかいう原理だったはずだ。
ユニットは取り囲むように、すでに大規模に展開していて現在はエネルギーを高めている最中だ。
服から懐中時計を取り出してふたを開ける。時計は14:45分を刺していた。
『全艦に告ぐ、こちら旗艦ヴィルヘルム、これよりジャンプユニットを起動する、船外員は至急艦内に入ること』
ジャンプユニットが発光をはじめ外が見えずらくなる。
ブリッジ内の計器はすべて正常だ。
「私いつもこのタイミングドキドキするんですよね」
アイリスがそんなことを言ってくる。
完全無欠に見える彼女でもそんな感情があるんですね。
『ジャンプユニット全機正常、目標MXコクーン0.5光年のポイントα誤差0.001』
全艦に向けたオープン回線が響く、ジャンプユニットから不透明な幕が広がり周りの星を覆い隠す。
「そうですか?私としてはこの任務の数年単位の暇をどうやって潰すかって方が気になるんですけどね」
「ライブラリはヴィルヘルムの物と同期しておきました。あれなら数年本の虫になれますよ」
「電子書籍ですか……」
ライブラリと呼ばれている多角同期型書庫、そこにはこれまで発行されて著作権の切れた本が登録されている。私たちが母星で生きていた時の物も数は少ないが存在していた。
「そうですね、母星の本なんか読んでみるのも面白いかもしれませんね」
「そうですねえ」
『ジャンプ開始1分前』
コーヒーを飲み干してカップを固定する。作戦前だが緊張感はない、いつも通りで行きましょうかねね。
「まあ大丈夫ですよ」
『ジャンプ開始10秒』
「そんな気がしますから」
『5秒』
「なら大丈夫そうですかね」
『4秒』
こういう時の私の勘はよく当たりますからね。
『3秒』
『2秒』
『1秒』
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