Heroes who is not returned. 2
「依頼、受けてくれて良かったよ。要らないだろうけど詳しいデータは後で送るから見てほしい」
「ああ、アイリスがすでにデータを盗んでるかもしれませんね」
「ひどいですね?」
「まずはその不正ハッキングをやめた方が良いと思いますよ?」
一緒に歩いていたアイリスが私の文句を受けて足元から粒子と変わり消えていく。
時間はミーティングの後ライト少将のご家族と夕食を取ったあとだ。ライト少将はこの要塞の将にもかかわらず、宇宙港まで見送りに来てくれた。
「夕食も、ごちそうさまでした」
「ああ、良いよ。娘がすごい喜んでくれたからな」
夕食の時の話はやめておこう、彼の娘さんがやけに曲解された私へのイメージを持っていてあまり楽しめたとは言えない。
持ち上げられすぎるのも困るという話だ、私自身行動も責任も軽すぎるから神輿には良いのかもしれませんが。
「それでは、いい知らせを待ってるよ」
「ええ、微力を尽くしますよ」
「貴女に任せておけば安心だろう」
少将の敬礼に見送られながらネヴァーサンセットのエアロックが閉まる。すでに主機出力は上がっている。
船は程なくしてアイリスの操縦で港を離れる、その間に慣れ親しんだ執務室に移る。ライト少佐に呼ばれる前に読んでいた本がまだ読みかけだったはずだ。
「アイリス、次の航路は整備に出しているライフルを受け取りに行きましょう」
「まさか?フル装備ですか?」
「ええ、未開惑星の調査には必須でしょう?」
了解、航路をAB星系方向に移るというアナウンスを聞きながら本のしおりを取る。紙の本はすっかり少なくなりましたが、やっぱり風情があっていいですね。その分高いんですけど。
「ところでなぜ依頼を受けたんです?」
続きを読み始めた所で、航路を整えたのかアイリスから疑問がかかる。そういえば言って無かったですかね。
「報酬がよかったとかこまごました理由は色々ありますけど。大きな理由としてはまあ二つ。一つは、軍の払い下げ品がないとこの船と私の装備の改造と維持できないところ」
「優先交渉権を得ようって魂胆ですか?」
「あなたの船ですからね。あなたも体を改造したいでしょう?」
私たちの足であり、アイリスにとっては体でもあるこのネヴァーサンセット号。この船はアイリスの意向で定期的に最新の技術を買い取って大改造を行う船である。
彼女自身最新の技術が好きなんでしょうが。200年前から外見以外、いや外見も少し含めて別物と言うのはやり過ぎている気がする。
そのたびに莫大な資金が必要になって探偵社が火の車になるのがいつもの流れだ。
「いや、そうは言いますけどヤミさん。あなたの装備の整備費もやけにお金かかってますよ?」
「そうですか?」
「この間帳簿を見たらマガジン一つに駆逐艦並みの値段がかかっていたんですけど?」
「ああ、今回の整備のメインですね、普段通りの大きさで、なんと36mm砲弾が25発も入るんですよ!」
「それ何個用意しました?」
「とりあえず4つ注文したはずです」
「それだけで結構、法外な値段がかかってるんですよ!」
スピーカーが割れるほどの声を上げて憤慨するアイリス。
いいじゃないですか、本当に良い物にこそお金をかけるべきでしょう。そのマガジンを作った技術者は、それこそカルト教団なんかよりよっぽど有用な研究をしているんですから。
そういえば教団と言えば――
「そんなこと言ったらアイリスも。この前教団から、新しい生体CPUの設計書買ってましたよね」
「ええ、あれは良い物です。現在培養中でスペックデータだけですが久々に性能アップが期待できますよ。まさかオリジナルも無しにあそこまで近づけるとは」
「いや、あの設計図も私の分と同じくらいの値段がかかっていましたが?」
「ええ、いい物には相応の対価が必要です」
「はあ……」
アイリスと同じ意見過ぎて、ため息をつく。
結局の所私たち不死の二人組にはこういう趣味の物しか金をかける物が無いのですよね。そのあたり似た者同士になるのは仕方がない事なんでしょう。
「と言うかオリジナル?もしかして買ったものはなにかのコピーなんですか?」
「いや、大昔にあったんですよ生体コンピューターのオリジナルが」
「ああ、どっかの歴史学者が言ってましたね現在の生体コンピューターはデッドコピーだって」
「まあ歴史から失われましたからね」
生体コンピューターとはとある星からとれる万能細胞群を使った、現在主流の非ノイマン方式の高性能コンピューターの事だ。
万能細胞群とか不死細胞群とか呼ばれているそれは。電気刺激や薬剤でで遺伝子を変えてやるとあらゆる物になる。その細胞は時間はかかるが有機物を取り込んででいくらでも育つため、今の船には整備用品の一つとして標準装備で搭載されている。
その細胞も取り扱いにはある程度気を付けないといけない部分もあるらしいんですが、そのあたりはアイリスに任せているのでいいでしょう。
アイリスがそういう部分で間違える事は無い、悪ふざけはしたりしますが致命的な事は起こさないですから。
「へえ……そのことを学会とかには言っていないんです?」
「言わないですね。昔の人間達が捨てたものですし積極的に歴史から消し去った事ですから。私たちの様な知る者達は、人間たちが取り戻そうとするまで放っておこう、という見解で一致してます」
「いろいろあるんですね」
賢者は語らずという物でしょうか。確かに知っていると使いたくなる、という知識もあるでしょうかね?
「本当はあなたもその一人なんですけど……話を戻しましょう。それで?もう一つの大きな理由はなんです?」
「そうですね、こっちはわりと個人的な理由でもあるんですけど」
「はい?」
「私の記憶を封印する前の状況を少し再現してみようかと思いまして」
「……はい?」
理解できなかったのかしばらくして答えが返ってくる。私は読み終わった本を閉じると一口コーヒーを飲み話を続けた。
「前回の次元断層が見つかり異星文明が見つかったのが210年ほど前。そこから獣人文明との戦争が始まりやっと終わったのが205年ほど前、私が記憶を封印したのが200年前」
「時期がほぼ同じですね」
「その戦争に私が参加していた事なんて調べればいくらでもわかることですから。その当時と同じ状況になれば、その時の気持ちが少しでもわかるかなと」
「戦争を起こす気だと?」
「そうは言いませんよ?ただ未知との遭遇は面白そうじゃないですか、その時どう思ったのかが気になるんですよ」
「あなたの記憶はこの船にだって搭載しているんです、普通に読み解けばいいだけのことでは?」
合理的な事が好きなアイリスはそんな浪漫のかけらもないことを言う。だがこれは私の趣味だ、そして私の重要な事でもある
「それだと答えを直接見てるみたいで面白くないんですよ。その時思った時と、いつか答え合わせをした時、その時に合って居るかどうかが面白いんじゃあないですか」
「面白いも何もないでしょうが、結果は一つなんですから」
「いいえ、面白いって事は重要ですよ」
――特に不死な私達にはね。
そう言うとアイリスはその言葉を聞き飽きていたのか。間もなくAB惑星方面のゲートを潜りますとだけ言うと。ブツリとわざと音を立てて、スピーカーを切った。
意見の不一致は今に始まった事ではない、だがそこをあまり追求しない事も長く続けていくコツだ。
「そういえばヤミさん、ゲートを通った時にライト少将からのデータ受け取りましたよ?」
「情報の精査は?」
「もちろん、机のモニターに回しますよ」
ゲートを通った後しばらくして、私は次の本を書庫から取りかけた時。そんな風にアイリスから声をかけられた。
どうやら休息は終わりらしい。私は手に取りかけた本を手放して、着々とデータが送られてきている執務机に向かった。
座ると同時に大小さまざまなホロモニターが展開される。重要な情報は大きく付随情報は小さく、乱雑な印象も受けるが見やすい配置だ。
「相変わらず丁寧な仕事ですね」
「仕事は素早く正確に終わらせて後はしっかり休む、が教えなので」
「誰か知りませんがいい事言う物です」
ちらりと見ればクロークデバイスを開発した。ユリアーナ博士の経歴の様だ。
――はてさて何がでますかね……
資料を読み込んでいく。生まれも育ちもJ008惑星ヴィッセン、最終学歴はヴィッセン第一大学。2945年15歳時に中退……飛び級しているにもかかわらず中退ですか?
していた研究は研究は「六次元機械における観測者の存在と機械動作の消失について」ってこれ、藪蛇ところじゃないこと書いてありますよね……?
「待ってくださいこれ本当です?オブザーバーエフェクトの論文発表って彼女じゃないですよね」
「ええ、改ざんされているようです。どうやらもみ潰したようですね」
「六次元機械における観測者の存在と機械動作の消失について」オブザーバーエフェクトと呼ばれる現在の機械の中核をなしている論文だ。
「潰された天才ってやつですか?」
「ええ、そうみたいですね。ただ本人は研究さえできればよかったらしく何も影響なさそうですね、その後細々と開発しながらいろいろ研究していたようです。調査中ですがもしかしたら金を掴まされたのかもしれませんね」
研究資金目当てに学歴すら捨てたと……マッドサイエンティストのにおいがする。
もし存命ならば、65歳ですか。人間の寿命が300歳くらいですから、まだ若い方でしょうね。
「……広く浅くいきましょう。他、輸送船に積まれていた荷物は?」
「これですね、これも面白いですよ?」
奥に合ったモニターが正面に飛び出してくる。手に取ると付随するモニターが展開し情報を補助する。
どれどれと、その情報を見て思わず噴き出した。
「ってLPSに生体装甲1小隊!?なんで試験艦に積んでるんですか!どこかの基地に強襲でもするつもりなんですかこれ!」
「理由としては、実践訓練と言うもっともらしい理由がついてますよ?」
「どこの世界に新型兵器で実践試験をする軍があるんですか!」
「ですよね」
皮肉気に、アイリスが笑いながら同調する。
しかし、なんでこの会社はいつもまともな仕事が来ないんでしょうか。
私はたまにはネコ探しとか浮気調査とか真っ当な探偵らしい仕事をしたいと思い。でも、そういった仕事はアイリスが一瞬で終わらせてしまうのを思い出す。
「ですよねって……」
「継続して調べますよ、なかなかどうして叩けばいくらでも埃は出そうです」
結局今は、深いため息をつく事しか出来なかったのだった。
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