Heroes who is not returned. 1
やっと出てきた第二主人公。
時間が結構巻き戻ります。
「降下シーケンスまで残り60秒、ヤミさん止めるなら今のうちですよ?」
「止める気はありませんよ、アイリス」
コンテナの中に入り込んだ私は、外からかけられた言葉に即座に返す。
「……了解、1番3番排気開始します」
外からの音声と共にコンテナから空気が抜けていく。
どうして私がこうして降下コンテナで惑星降下を敢行しているのか、それは1ヶ月も前にさかのぼっていた……。
「はい、こちらネヴァーサンセット探偵社」
それは久々の大気圏内での休日のことだった。仕事後仕事の合間に待機の揺らぎのように発生した空白期間。
スペースラジオの気だるいジャズを聴きながら、執務室でコーヒー片手に読書。
そんな優雅に過ごしていると突然通信の通知が鳴り響いた。
「もしもし?やっと繋がった。ヤミさん、聞こえているかい?」
「その節はお世話になりました、ライト少将、お変わり無いようで」
執務室のテーブルの上に美中年ののホログラフが現れる。宇宙軍のライト少将だ、たまに依頼をもらったり、軍の放出品を安く売ってくれたりする、いわゆるお得意様だった。
「君こそ変わらないようで安心したよ。……ん?ラグが少ないね、もしかして圏内かい?」
圏内と言うのは超光速通信の圏内と言う意味だ。複数の構成系にまたがって張られた超光速ネットワーク、その中に居ればほとんどラグなく通信ができる。
「ええ、久々に戻ってきてまして今はケンタウリB003に」
「そんな中枢にいるなんて珍しいね、実は君に依頼があるんだけど……そうだな、ディナーでもどうだい?」
「……?あなたとのディナーが依頼内容かしら?」
私の冗談に少将は一瞬面くらって、すぐに人懐っこい笑みを浮かべる。
「そんな所かな、じゃあ僕はD007の要塞に居るから」
彼がそう言うと通信が切れた。どうやら彼も出世してかなり中枢の方の勤めになったらしい。
私が働いていた間も彼もまじめに働いていたと言う事だろう。そんなことを一瞬だけ考えて、私はこの船のもう一人の乗組員に声をかけた。
「アイリス、聞いていましたね?」
「はいはい、では出発しますね」
備え付けのスピーカーから変わらない声が聞こえ、船の炉に火が入る。
彼女の名はアイリス、独立型のAI 「Legse」の一人で私が目覚めてからもう二百年も一緒に探偵と言うか何でも屋稼業をやってきている相棒だ。
本人?曰く自分はオリジナルのコピーらしいですけど、自立型人工知能のコピーってどういう意味なんでしょうかね?
飲みかけだったコーヒーを飲み干しブリッジに向かう。廊下の途中、館内放送でアイリスから話しかけられた。
「しかしライト少将、結構老けていましたね」
「前会ったのはどの位前でしたっけ?」
「たしか30年程前かと」
「なるほど、人なら少し老けますね」
「私たちは、変わらないですからね」
機械生命体である彼女は基本寿命がない、そういう意味ではある意味不死であるのだろう。
そして私は……自分では良く判らない。
二百年ほど前、私はこの船ネヴァーサンセットで目が記憶をなくした状態で目が覚めた。
「ところで記者を名乗る者が、獣人戦争の英雄に話を聞きたいと取材を迫ってきてますが」
「丁重に断りましょう。私は英雄でもないし、その事について何も知らないんですから」
「いつも通りですね」
大きな機械につながれ、大量のクリスタル状の記憶媒体が置かれた部屋で目が覚めた私は、直後自分の声で記憶を無くした原因を聞かされた。
『情けない話ですが、私は自分の記憶を封印することにしました。何もわからないと思いますが、どうか過去にとらわれずにどうか自由に生きてください』
要は記憶の重み耐えられなかった、と言う事らしい。
封印しただけで記憶自体はメモリークリスタルの中には残っているわけだが、私は過去の記憶を再び読み解く気にはどうにもなれなかった。
「にしてもしつこいですね、もう二百年も前ですよ?私はしがない探偵だってのに……」
「ソウデスネ」
どうして読み解く気にならなかったか……それは、自分の名前で検索をかければ、いくらでも過去のことが出てくるからだ。
それこそ残っている人の歴史、そのほぼ初めかから名前が出てくる。
はじめは襲名制でヤミという同じ名前を使っているのかと思っていたが、すべて自分のことらしかった。
歴史の教材のほぼ全ての章に自分の名前が出ていた時なんて、自分は何をやっていたのかと頭を抱えたものだ。
「そうですよ?」
なので、ちょうど記憶は無くしているし過去は過去だとすっぱり切り捨てて。私は私の生活をしているのだった。
ちなみに歴史の教材の下りで判るだろうが、私は人ではない、もっと丈夫な何かだ。
何か、と言っているのは調べていないからだ。少し気になりはするが、研究機関に行ったらモルモットにされるのが落ちでしょう。
ブリッジで艦長席に着く、遠くに天まで届く加速リング群が見える。アイリスの操縦でどうやらマスドライバーに着いたようだ。
「そういえばここ、重力圏内なのに重力加速リング方式なんですね」
「確か数年前に技教が重力圏内で安全にフィフスドライブを運用する技術を開発していた筈ですが、それじゃないです?」
「流石、連邦の中枢と言うべきですかね?」
フィフスドライブ、5次元すなわち重力を操作できる装置だ、要するに重力制御装置。
宇宙空間上での船の推進器にもなっていて、ほとんどの船に標準搭載されている装置だ。ただし星の重力圏内だとそちらの影響を受ける。
筈だったが、どうやら克服していたらしい、技術の進歩は恐ろしいくらいですね。
「しかし。あのカルト教団が……」
「そんなこと言ってるのヤミさんだけですよ?管制との通信入ります」
技術研究所教団、通称『技教』教団とついているが宇宙シェアの殆どを持っている技術販売業者だ。
昔追い回されて以来、私はどうも好きになれないですが。
<<こちら船舶番号AFECCAA4C6F3 ネヴァーサンセット使用許可願います>>
<<照合中……照合完了。アイリス様、この度はケンタウリB003へのご滞在ありがとうございます>>
<<操作変更、オートパイロット。ええ、なかなか楽しかったですよ>>
<<それでは、良い旅を>>
そんな声に導かれながら、加速リングを抜けてケンタウリを後にした。
「さてと」
ディナーを終え仕事モードに変わったライト少将が接触コントローラーに手をあて準備している間、私は周囲を確認する。
場所は移ってD007惑星の周回軌道にある宇宙基地、そこのミーティングルーム。人数は私のほかには少将とその部下の3人と――。
「さてと今回の依頼なんだが……」
「私も参加させていただきます、よろしいですね?」
そして私の隣の席に突如として、蒼い長髪の活発そうな少女が現れる。
慣れた光景だ、私は特に驚きもしないが――。
「貴様!どこから入ってきた」
少将の部下が腰のレーザーピストルを抜いて少女に向ける。
そう言えば彼は初めてでしたか?素早い反応です、よく訓練されているようです。
「私はアイリス、ネヴァーサンセットのメインプログラムとさせて頂いております。それと、お久しぶりですライト少将」
少女は椅子を引いて立ち上がり少将にお辞儀をすると席に戻る。そう、彼女の正体はアイリスだ。
宇宙軍の中継基地、その中枢だと言うのに、ネヴァーサンセットからミーティングルームのホログラフ装置にハッキングをかけている。
セキュリティは?と思うかもしれないが、彼女の前にはほぼ無意味でしょう。その昔理由を聞いたがはぐらかされた、恐らく特権階級の権力を乱用しているのでしょうが。
ちなみにホログラフなのに椅子に触れられるのか?とも思うかもしれないが触れらるはずは無い。
機械化されているあらゆる物を使ってそのように見せている。要するに宇宙要塞を完全に掌握しいるということだ。本人に悪気はなさそうなのが唯一の救いでしょうか。
「嗚呼。あいからわず心臓に悪いね……」
「それと基地システムにバックドアを見つけたので、後でそちらにお渡ししますね?」
アイリスが少女らしい笑顔でまったく悪びれずいう。
親友の悪い癖に私も皆同様に苦い顔をするしかなかった。
「……話を戻そう。実は先日、一本の救難信号を受信した。通信を送ってきたのは第126輸送隊所属のズィカーダ級輸送船D-エスペランサ。未知の恒星系に遭難したため救助してほしいと言う内容だ。この調査に当たってほしい」
ズィカーダ級、二世代前の輸送艦だ、古いが構造はしっかりしていて、滅多な事では故障しない。古いが頑丈さで買うならこの船だと言われるほどの名機だが。
そんな船が……遭難?予定航路を外れたんでしょうか、しかも未知の恒星系……?
「しかし救難信号なら辺境方面軍の仕事では?」
アイリスが真っ当な事を言う。
「そうなんだが問題がある。実はこのD-エスペランサ、35年前に消失した船なんだ」
「消失?」
行方不明なら判るが、消失ですか?
「35年前、一隻のズィカーダ級輸送艦が特殊装備の試験と輸送任務に当たった。その船は安全地帯を順調に航行していたが、突如すべてのセンサーからの反応が消えた」
「特殊装備?」
「クロークデバイスと呼ばれるステルス装置だ」
クロークデバイス?ずいぶん懐古な名前な気がしますね。
「まあセンサーから反応が消えるのはそういう類の装置の試験なので仕方がないが。その後、試験の終了時間になってもその船は現れない。私達は即時に探索部隊を送ったがその船の痕跡すら見つけられなかった」
「それで消失……ですか?」
「そうだ」
なるほど、確かに消失と言えるでしょうね。
しかし35年前――今更過ぎませんか?
「話を戻そう、最近その宙域で大規模な次元断層が見つかってな」
「次元断層ですか……?」
次元断層、正式名は第六次元断層帯。宇宙空間にできた大きな探索不能領域だ。探索電波もほとんど通らないため、中がどうなっているかもわからない。
「大きさは……前に見つかったものよりかなり大きい。この意味が分かるな?」
「ええ」
そしてこの断層、研究者の間では文明の繭とも呼ばれている
少し昔の話だ。大規模な次元断層が見つかり、そこの調査をしたところ、中の星系に獣人たちの文明を発見した。
そこの好戦的な獣人文明との戦争になったりしていたようだが置いて置こう。重要なのは異星文明があったと言う事だ。
今回見つかったのはそれより大規模……と、ならば前例から従うと文明がある可能性は高いのでしょう。
なるほど話は見えてきましたね。
「そして救難信号はその先から発せられていたようだ」
「すでにその文明と接触している可能性は?」
「もし乗員が生きていれば、その可能性は高いだろう」
アイリスの声がスピーカーから響く。
その疑問は最もだ、いくら何でも補給せずにいるのは難しいだろう。
「近々再調査隊が出ることになっている。今回の君たちの任務はに同行してその輸送艦の回収……それが無理なら破壊してもらいたい」
お読み頂いてありがとうございます。
ご感想お待ちしております。
馬鹿な私には珍しく風邪ひきました;
更新が遅れるかもしれせん。




