同一性 16
レルカのH(eroine)ポイントが足りない!
それからの事はあまり覚えていない、気が付けば夜明け前に里の前にいた。
日が明けてから俺を探しに出ようとしていた、アランとレルカにギルドカードを押し付け。
そしてそのまま泥のように眠った。
翌日、俺は部屋の荷物をまとめて執務室のイリヤさんの前に立っていた。
「行くのか?」
「はい、お世話になりました」
「……結局、秘密は言ってくれなかったな」
「ああ……」
そういえば色々あって忘れていた、さてどう言うか。
――本当のことを言うか?
「……実はクレナイって名前、違うかもしれないんだ」
俺は少し悩んで、俺は言った。
だがそれは嘘ではないが、本当の事ではなかった。
「偽名なのか?」
「さあ、わからない。ただそう呼んだ奴がいたからそう名乗っただけだから」
「呼んだだと?だが森の中では誰にも会わなかったんだろう、誰だが」
本気でわからないといった様子のイリヤさん。
俺は一言だけ――
「魔人」
そう答えた。
「――!?」
何度か言ったかもしれないが、一般的に魔人は魔物のように意思疎通の出来ない危険生物だと思われている。
いや、違うな。魔物ような意思疎通できない危険生物がいるから、同じように魔物のようなものだと物と思ってしまっていた。
昨日出会って思ったが、あれは恐らく遠隔操作の兵器の類だ。
「……本当なのか?」
「ああ、確かにクレナイと俺の事を呼んでいた。どうやら俺にご執心らしい」
これも本当の事だ、魔人はあの時、また会おうと言っていた。
どのくらい先になるのかはわからない。
明日かもしれない数十年後かもしれない、だが確実にまた出会うのだろう。
そして、その時はきっと戦いになるだろう。
俺は何も確証はないが、そんな予感がしていた。
だから俺は――
「そうか……確かに言えないな」
「イリヤさんたちを巻き込みたくない」
彼はそれで納得したのか数回頷いた。
「ちょっと待ってろ」
イリヤさんが棚をあさり、中から出てきた袋をこちらに投げ渡す。
片手で受け取り中身を確認する、中には鉄貨が数枚入っていた。
「お金?」
「衛兵が稼いでた分だよ。必要だろう?」
「ああ、なるほど」
そう言えば、そこのところを考えてなかったな。
俺は頷いてマジックバックにしまう。
「では世話になった」
「ああ、またいつでも帰って来い」
人のよさそうな笑顔にそう言われて一週間住んでいた家を去った。
「クレナイ?どうした、荷物なんか持って」
「アラン隊長、突然で悪いんだが――」
手短に里を去るから衛兵は続けられないと話す。黙って聞いた彼は話が終わると一言、「そうか」と言った。
「驚かないんだな」
「まあ、帰ってきた様子で予想はしていたからな」
「監視してたからそりゃわかるか」
「気づいていたのか?」
研修だとか言って必要ないのにずっと同じ仕事をしていたのだから、警戒されているのくらい判るだろう。
まあ警戒されている理由も何となく想像がつくし。何もないから、放っておいて言わないではいたが。
アランはそこは気づかれても構わなかったのか、指摘しても調子が変わらない。
「だってそれが本職だろう?」
「なっ……」
だが、そこまで気が付かれているとは思わなかったのかアランは息をのんだ。
睨むような探るような目を見つめ返す。
少し考えればわかることだ?仕事の一つも無い冒険者のギルドの支社がなぜ必要なのか。
それは、そこにギルドがあることが重要なのだ。
例えば、賢者の監視とか……な。
「たぶん気が付いてるだろうけどな」
「……だろうな、でもイリヤは友人だからな不利な事は報告しないけどな」
みんな色々思いながら、でも平和にこの里は時間が進んでいくんだろう。
それは幸せな事だ、そして恐らく俺には獲られない事だ。
「そうだクレナイ仮登録証出せ」
にらみ合いを解いたアランに言われて紙を渡す。アランが手早く何かを書き込み返される。
紙を見ると、やった覚えのない仕事が書かれていた。
「ほら、ここでの衛兵をギルドの依頼としておいた。これで大きい所に行けば本登録になるだろう」
「後出しで、良いのか?」
「お前は腕も頭も良いんだ、どうせ早いか遅いかだろ」
「そ、そうか」
ギルドカードは身分証になるが、はじめに発行されるのは身分証にならない仮登録だ。そこから正式なカードを貰うためにはギルドからの依頼を幾つかこなす必要があった。
適当にどこかで受けようかと思ったが受けなくて良くなったらしい。
「何もかもありがとうな」
「じゃあな、たまには戻ってこ――」
「待ってください!」
別れ里を出ようとした時、里から見知った声がかかる。
声の方に振り返る――
「レルカ?」
レルカがいた。
弓を背負い、まるで狩りに出るような恰好で。
走ってきたのか肩で息をしながらそこに居た。
「お爺ちゃんから聞きました、魔人が自分を狙っているから里を出ていくって」
「そうだが?」
「私も連れて行ってください」
な……に?理由は何だ?どうしてここに?
「この里に居れば安全なんだぞ?」
「判っています……でも!」
真っすぐ見つめ返される、俺を見る目は真剣そのものだ。
「なんでだ?」
「私だって、魔人が……魔人が、憎いんですよ!」
――ッ!
それは初めて聞いた彼女の黒い感情の発露だった。
いつも、普通に過ごしていた様に見えた彼女の、秘めていた感情だった。
「あの日、魔人が来て全てを奪い去ったんです。家族も友達もいなくなって、頼れる人も誰も居なくて。一人きりで、でも私は生きていた」
それは俺が救ったから。
「だからみんなの分まで生きていこう、ってそう思ったんですよ」
サバイバーズギルト――災害から生き残ってしまった、と言う罪悪感。
あの日、俺が助けてしまったから起きた悲劇。
「それからクレナイさんの記憶のことを聞いて、自分はまだ救われてるとも思おうとしました。思い込もうとしたんです」
自分の置かれた状況は、いたってごくごく自然な、どこにでもある悲劇、そう思い込もうとして――。
「クレナイさんも前に進んでいる、だから私も進もうって思って……」
自分より不幸な目にあっているように見える、俺ははた目には里に溶け込んでいるように見えて。
「でも駄目だったんですよ……クレナイさん」
でも出来なかった、恨まずにはいられなかったと。
そうだ、彼女はそんなに強くはない。まだ16かそこらの普通の女の子だった。
俺は自分のことばっかりで。その当たり前のことを、そんな当たり前のことをすっかり忘れていた。
「でも……」
「でも、は無しだクレナイ」
ここまで隣で聞いていたアランが俺の否定の言葉を途中で止めた。
アランは連れて行けと思っているのか?
「でも危険すぎる!」
「ここまで言ったレルカちゃんを裏切るのか!」
アランの言葉が刺さり、俺の言葉を制する。
そのまま彼は俺に近づくと俺にだけに聞こえるような声で言った。
「(それにな……このまま残したらレルカちゃんが持たねえよ)」
「それは……」
アランの言うとおりだった。
彼女は耐えられない。平和な日常に、きっと耐えられれない。
「自分で助けた面倒くらいは自分で見ろ」
「……」
俺が何も言い返せないのを見ると、アランは里に去って行った。
レルカは今なおこちらを見ている、答えを待っている。
結局のところ、あそこまで言われた時点で俺の負けだったのだろう。
それでも負けを認めたくないように、誰かの影に後ろ髪を引っ張られたように。
迷って。
迷って。
さんざん迷って。出かけた声を途中で止めて。
悩んで。
悩んで。
いくら悩んでも、それ以上の答えは出ずに。
彼女の目が潤んできたころに、どうしようも無いように、一言だけ言葉を発した。
「……わかった」
「ありがとうございます、クレナイさん!」
彼女はそう言って、無防備に抱き付いて来て。
「……」
だが俺は何も言えなかった。
――――――――――――――――――――第一章:同一性 END.but his story goes on……
次章予告
はじめまして
人と出会ったときに初めて交わす言葉
辞書にならそう書いてあるだろう
始まりの言葉、初めての予兆
詩人ならそう語るのだろう
次章『ハジメマシテ for the first time』
何?僕ならどう語るかだって?実は嫌いな言葉なんだ
お読み頂いてありがとうございます。




