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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第一章:同一性
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同一性 15

 男か女かもわからない作られたような声に驚き飛び退く、と同時に明かりを強める。

 強めた明りに映し出されたのは、右腕の大きく発達した鎧。


「魔人……」


 大戦復興後に突如現れた破壊の化身。


――なぜここに


 剣を抜き魔神に向けながら考える。


 体力は、少し休んだとはいえ回復しきってはいない。

 剣のコンディションも最悪だ。


 逃げるにしてもどう森を抜けるか。そもそもなぜここに居るのか。


『危害を加えるつもりは……いやこの言葉はダメか』


 左の手の平をこちらに向け、この世界の言葉ではない言葉を話す魔人は語尾を弱める。


「危害を加えるつもりは、ない」


 魔人から出た言葉は、たどたどしいが共通語だ。

 意思疎通を図ろうとしている!?


「話せる……のか?」


「ええ、もちろん。私をなんだと思っているんです?」


 話に聞いた魔人は意思が通じないと言われているが。

 こいつは口がきけ意味が通じる、さらにはどことなく柔らかい雰囲気さえ出している。


――そうだ、思い出した


 クレナイと言う名はこいつの言葉から聞いたんだ。と言う事は……。


「お前は……俺を、知っているのか?」


 俺は警戒を緩めないように一言一言吟味する様に言葉を発した。

 それに対し魔人は――。


「もちろんですともクレナイ様、直接会うのは2回目ですが、私はあなたをよく知っている」


 そう返したのだった。


「しかし、クレナイ様ほどのお人がおかしなことを言うものです」


 おかしなことだと?


「ええ、私もライブラリで読んだ程度ですが……ああ、そういえば記憶を無くしていると。そう言う事ですか」


「誰に……聞いた」


「彼から……ああ、言ってはいけないんでしたか」


「……彼だと?」


「いえ、心当たりがなくても結構。彼は……彼の言葉を借りるならば「僕は登場人物にはなれない」きっとそう言う事なのでしょう」


 彼?登場人物に……なれない?

 良く判らない言葉で煙に巻かれる、しかしこいつはなんなんだ?


「お前は何をしている?」


「隠すようなことではないでしょう、この機体の回収に来ただけなのですが……。ですがここで貴方に出会えたのは幸運です。仕事見ました、実に手際よく、実に美しい仕事だ」


 魔人は柔らかい雰囲気のまま、転がっている男たちの死体を指す。

 俺が首だけをかき切った、死体たち。


「きっとこの洞窟の中に居たモノもあなたが殺しつくしたんでしょう?」

「あ、ああ……」


 この場の空気に反射的に答えていた……。


「お変わり無いようで実に結構です、魔王クレナイ様」


 魔王…だと?


「どういう……ことだ?」


「どういう事も何も、言ったままです」

「違う、俺はあいつらが襲って来るから仕方なく――」

「いえ、貴方は昔から変わりません」


 魔人が確固として言い切る。


 俺は昔からこんなことをやっていた?魔王として?まさか――


 魔王で思い出すのはこの世界の歴史にある大戦。世界征服をしようとした魔王と勇者が争い魔王が滅ぼされて終わった戦い。


 だが俺は――


「俺は異世界からやって来たんじゃないのか?」


 気がつけばそんなことを呟いていた。


 瞬間、魔人の雰囲気が変わる、一瞬あっけにとられ。そして――


「……クフフフフフ、アッハッハッハッハ――」


 微動だにしない魔人からした声は、笑い声だった。まるでおかしくてたまらないといった様子の声がする。


「異世界!異世界と言いましたか!まるで三文小説の様に!異世界に転生し、神々からズルを貰い!そして気まぐれのようにその力をふるい!」


 なんだ?なにか決定的な間違いをしているのか俺は?

 笑い声のままの魔人が続ける。


「そして、まるで襲われて仕方がなく人を殺めてしまったかのように?」


「そうだ、俺だって仕方がなく」


「いえ違います。ええ、違いますとも!その証拠にクレナイ様あなたは今――」


 そして、もったい付けるように、芝居がかったように、魔人は静かに確実に言い切った。


「――笑っていらっしゃるでしょう?」

「……」


 その言葉の衝撃に思わず剣を取り落す。

 ガシャンと言う音をどこか遠くに聞きながら、ゆっくりと手を顔に当てる。


 顔の形を確かめるように。

 眼の位置を確かめるように。

 口の形を確かめるように。

 頬の位置を確かめるように。

 自分の在り方を確かめるように。


「――!」


 弾かれたように、湖畔に向かう。

 途中魔人の横を通るが、もう魔人なんてどうでもよかった。

 月明かりの反射する湖面に確かめるように、探すように自分を映す。


 水面に移る黒い髪、黒い眼、黄色い肌、そして……


「私と同じでしょう?クレナイ様」


 笑っていた。

 水面に移った俺は、確かに笑ってるように見えた。






「正直に言えば、私はただの模倣者なのです」


 俺が愕然として動けないでいると芝居がかった様子で魔人は語る。


「貴方の偉業を知り、憧れ、そして完全な真似が出来ずに不完全なことを続けている」


 真似だと……?


「私だけがあなたの偉業を知っている。皆偽りの姿しか知らず、正当な評価をされず。貴方は魔王と呼ばれ陥れられている」


 そう言うと魔人は変質していない左手を差し出した。


「見返させてやりましょう、あなたを陥れた世界の全てに」


 俺にこの手を取れというのか……。

 思考がまとまらない……。


「お前は、俺が誰で何をしたのか知っているのか?」


「もちろん、お望みでしたらあなたの栄光を語りましょう」


「お前がいったい何者なのかも、言うというのか?」


「私なんていう模倣者の人生で良ければ話しましょう」


「なら――」


 俺はすがるように手を伸ばしその手を――


「ッ――!」


 触れる直前、突如魔人は飛び下がると、右腕をまるで盾にするかのように胸の前に構える。


「ああ、なるほど、貴方がいるということは彼女もまたいるという事ですか」


 なんだ、と思っていると魔人の右腕で守った胸に突き刺さる赤い光。


――レーザーサイトだと!?


 魔人の胸を狙うように赤いレーザー光が発されている。

 知識にあった、銃に付ける可視光性のレーザーサイトだ。


 それを認識した瞬間に何か音を立てて思考が切り替わる。


 発生元は方向から確実に湖の先の森、だがこの光が敵か味方か分からない以上振り返れない。


――いや、これは魔人に対する脅しだ。



 この狙撃手はレーザーを見ながら合わせたわけではなく、標準を合わせてからレーザーを見せた。

 それだけの腕が有れば、レーザーを見せずに撃てばよかったはずだ。


 つまり脅し、だが何のために?


 まさか……俺が魔人に触れようとしたのを阻止したのか?


「残念ですがクレナイ様」『また会いましょう、どことも知らず、いつとも分からないですが』


 魔人は盾にした右手はそのままに跳躍すると、洞窟のある崖の向こうに一足で飛んで行った。

 レーザーサイトは魔人を追うように動き、そして消えた。


「なんなんだよ、俺は……」


 湖を振り返る。湖は覚めるような丸い月を移し、その向こうにいる誰かは既にわからない。


 そして当たり前のように、質問の答えはまるで返ってこなかった。

お読み頂いてありがとうございます。

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