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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第一章:同一性
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同一性 14

 終わった……な


 鉄臭くなった洞窟の壁に寄りかかる。


 これで10人、入り口から順にみていったからこれ以上誰かいる気配はない。


――結局、一人で先走っちまったな。


 「一人殺せば殺人者で100万人殺せば英雄」なんて言葉が知識から出てきた。

 たしか映画のセリフだっただろうか。


 じゃあ俺は英雄か?


 彼らをここでつぶさなければ少なからず被害はでていただろう、それは間違いない。

 そしてもし負ければあの部屋に積まれていたモノのように、いやあの魔族のように……。


――そういえば介抱に行かないとな


 奥の部屋に放置された女を思い出して重い腰を上げる。


 魔術師を貫いている剣を引き抜きそのままローブで拭う。

 危険は無いだろうがひとまず持っておこう。そもそもこの剣もかなり切れ味が落ちているだろうが。


――魔族ねぇ。


 奥へ再び向かいながら、イリヤさんから聞いた魔族についての話を思い出す。

 

 身体的な特徴は頭に生えた角、大きさや形は様々で大きい物は頭の半分ほど、小さい物は帽子で隠せる程度だ。

 この角は魔力を蓄えておく器官で。このおかげで魔力の量に優れた者が多い種族だという。

 

 古くは砂漠に都市を作って栄えた……とは言えないが栄えた種族だ。

 だが魔族で有名な物はやはり200年前に現れたという魔王とそれに伴う大戦の存在だろう。

 

 そう、魔王だ。

 

 魔王はその個人の魔力量のみならず魔物を従える力を持っており。その力の元、砂漠から出て他の国々に進行していった。

 

 魔王の軍才も有ったんだろうが、そもそも損耗を考えなくても良い魔物を使った進行だ。他の国どおしのあまり交流が盛んでなかったことも手伝い、魔王の軍勢はあっという間に世界の半分を勢力下に置いた。

 このまま世界征服かと思われたところでヒト族の中から一人の英雄が生まれる。

 

 勇者だ。

 

 彼については諸説ある。孤児だったというのも有れば、どこかの村で生まれた忌子だった等の話には枚挙にいとまがない。

 だがどの話でも彼自身については、しめし合わせたかのように珍しい黒い髪をした、すさまじい強さを持った戦士で一致している。

 

 彼はその力と勇気をもってヒト、エルフ、ドワーフなど当時バラバラだった種族をまとめ上げ魔族に対抗する。

 そしてとうとうその軍勢を率いて魔王を討ちはたした。

 

 そこで彼を語ったお話は大体ここで「平和になった世界で平和に暮らしましたとさ。」めでたしめでたしとなり終わるわけだ。

 まあ現実はお話のようにすぐにはうまくは行かず。民族問題やら復興問題、領土問題でまた一波乱あるんだが。ここでは置いておこう。

 

 ここで問題なのは魔族だ。

 要するに魔族は領地の拡大の戦争に負けたわけだ

 

 戦力の大部分を依存していた魔物が魔王の死亡で言う事を聞かなくなった魔族は、戦力差が覆り敗走をたどることになる。

 そしてとうとう貧しい砂漠の片隅にあった小さな国さえ奪われ魔族の国と言うものは歴史上から消滅した。

 

 敗軍の将は兵を語らずとは言うが、負けた国の国民がどうなったかなんて想像に事欠かない。

 しかも当時は中世レベルの文明レベルだ、戦争の責任を取られ、各所の問題に貯まった鬱憤を一身に向けられ。

 何もかも……それこそ人権まで根こそぎ全て奪われた。


 時がたち今では大体は普通の生活を出来るようにはなったが。今でも一部、特に貴族で迫害が続けられているという。


 そう思い出したところで、ちょうど最後の小部屋の入り口付近に着いた。


――ここまで行ったが俺は関係ないか、そういう扱いはしないでおこう。


 どうせ過去は無いんだ、俺は俺で行こう。

 それに一人でも救えたなら価値のあった事だそう思いたかった。


 正直言えばこの部屋に放置してしまったことは悪い事だと思う。しかし、俺自身囲まれてしまえばどうしようもないから仕方なかったのだと自分の中で言い訳する。


 一人しかいないのだから囲まれればどうしようもない。

 地形、相手の心理すべてを使って一対一を繰り返すようにしなければならなかった。

 

 しかしこれ、人どうしの戦いのをするための知識だよな……


 今更ながらその事に気が付いた。


 俺の使ってる剣術と言えないような剣も。

 俺の持ってる元の世界の知識も。


 そして。


 俺の今やっている事も。


 全て人殺しのための知識だろう。


 俺は忘れる前は何者だったんだろうか


 もしかしたら、どっかの兵士で……そしてどこかの戦場で死んだんだろうか


 結局俺は、記憶を失う前と同じことをしているのか?


 そんなことを考えながら奥の小部屋に入る。

 

 部屋の奥で彼女は何もまとわず、壁を向きこちらに背を向けて倒れている。

 

「おい、あいつらは倒したぞ?」


 生の気配が薄い、怯えているのか?

 祈るように胸の前に手を置き倒れている彼女に近づく。


「おい!」


 彼女の肩をゆする。

 ゆすった勢いのまま、抵抗なくだらりとこちらに倒れこんだ。


「嗚呼、畜生が……」


 その言葉は自然と口からもれた。


「結局……いつもこうだ」


 魔族の女は自分の胸に短剣を突き立てて死んでいた。


 俺は、いつもこうしてこの手から何かを取りこぼしていたんだろうか。






 自分ではなかなか死ねなかったのだろう。

 苦痛に見開いていた眼と口を閉じさせて、そこらにあった汚れた毛布を掛けてやる。


 幾分か見れるようになった彼女に一つ手を合わせて部屋を探索する。


 寝床が4つ、この部屋は恐らくあのボスたちの寝床件宝物庫になっていたんだろう。


 何か彼らの身元を特定する物は無いだろうか?

 

 賊の討伐後は賊の持ち物は討伐した者の扱いになっている。

 だが当たり前だが賊だという証が無ければ、逆に俺が捕まってしまう。


 部屋と男たちをあさると彼らの生活物品と合わせて彼らのギルドカードとエルフの短剣が数振り。

 そして彼らの使っていたと思われるマジックバッグが出てきた。


 マジックバックの中に手を突っ込む。

 中から出てきたのは食料やローブそして……。

 

「うわっ……」

 

 中から出てきたものに思わず声を上げる

 出てきたのは冒険者や商人のギルドカード。

 

 どうやらキルマークの代わりにしていたらしい。

 

――これなら賊だとわかるか。


 それだけ確認すると返り血の浴びた格好を隠すために新しめのローブをかぶり。

 マジックバックなどと共に部屋を照らしていた、光を出すランタンのような魔道具を回収する。


 薄暗くなった小部屋にもう一度手を合わせて洞窟を引き返した。




 もしあの部屋で戦ってたら彼女を救えたのだろうか。


――いや"もしも"なんてイフは関係ないか


 そんなことを考え死体をあさりながら洞窟を一人で歩く。

 明かりは自分の灯している明りだけだ。


 コツリ、コツリと一人分の足音が空しく洞窟に響く。


 持っているランタンに照らされて、俺が書いた文字が照らされる。

 何となく英語で書いた異世界の哲学書の言葉だ、その言葉が目に入りまた気落ちする。

 

――哲学的な事を考えるにはな。


 壁に書いた知識を詳しく読み返す気は既に無くなっていた。


「はぁ……」


 生き残った、疑問も増えたし、救えなかった物も有る。


――また生き残ってしまったな……


 また……?またか……。


 自分の考えにつっこむ気力もない。

 今は何も考えられそうにない、休息が必要だ。


 きっと山賊たちを壊滅させて、気が抜けていたんだろう。

 きっと彼女を救えなくて、気落ちしていたのだろう。


 だからだろう、その声の主に気が付かなかったのは。


『もし自分の持っている物が自分を意味するならば。それを失ったとき自分は何者なんだろうか?』


 洞窟の壁、そこに書かれていた内容を"正確"に読み上げたソレにすぐ気が付かなかったのは。


『哲学か?クレナイ……いやクレナイ様』


 洞窟の先、湖の前で月明かりを塞ぐように魔人が立っていた。

お読み頂いてありがとうございます。

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