同一性 13
戦闘シーンって難しい。
魔法で小さく明かりをともし奥に入っていく、こんなに奥は暮らしてた時は来なかった。
どうやらこの洞窟はいくつかの小部屋のような場所が連なってできているようだ。
少し前の部屋には略奪した獲物なのか乱雑に物が置かれていた。
その奥の部屋には木組みの牢。
そこには誰も入っていなかった。
この時点で嫌な予感がしていたが先に進む。
そして今の部屋には……。
――うわっ……
これまた乱雑に、人……だったモノが重ねられていた。
適当に放り込んだんだろう、狭い部屋には腐ったような強烈な死臭が充満している。
軽く手を合わせて、弔いにもならない祈りをささげると。乱雑に山積みにされている遺体を探る。
どの遺体も衣服ははぎとられ無意味に痛めつけられており、男も女も顔は苦痛にゆがんでいる。
――男も女も無差別か、節操がないな。
種族はエルフが多いだろうか、ヒト族が1人そして。
――亜人と魔族?
犬のような女の亜人と角の生えた魔族の男の遺体。
……まさにファンタジーな種族だけど……こんな形で出会いたくなかったな。
――いや、エルフの時点でファンタジーか?
死体の山から目を背けてさらに奥に進むと最奥の小部屋の一つから明かりが漏れてきていた。
どうやらここが最終部のようだ……どこかくぐもった水音と声が聞こえてくる。
俺は小部屋の手前に身を隠して音を潜ませる。
膿んだような匂いと酒が混じったような嫌な匂いが流れてきて顔をゆがませる。
音を立てずに剣を構える部屋から聞こえてくる声に耳を澄ませた。
「まったくこいつも飽きて来たな、もうすっかり反応がねえ」
「いやエルフも良かったですけど、やわいのが難点でさ」
「お前が首絞めるからだろうが、壊すなよ?もうこれが最後なんだから」
「あ……うっ……」
「そういや知ってるか?何でも魔族とヤったのが亜人の起こりなんだってよ」
「へぇ、するとこいつは亜人をはらんでるって事か」
声は5つ、そして部屋の中から嬲っているらしい音が聞こえる。
会話の内容からむなくそ悪くなるが……まあ予想はしていたことだ。
飛び出したくなるのをぐっとこらえる。
「しっかしエルフの奴らは結界を信じ切ってるから見張りがすくねえってのは本当だったんだな」
「今日見た感じ警戒心0だったからな」
「そう言えば魔人が来て逃げ出したんだっけ?あのエルフたち」
「おかげでこの短剣が手に入ったからな、まったく魔人サマサマだ」
成程……あの魔神の襲撃から逃げたエルフたちが結界を抜けてこっちに来たのか。
それでその後に来た山賊たちが結界を抜ける短剣を手に入れたと……。
「そう思うだろ?お前もよ……ファイアースピア!」
――なに!?
大慌てで岩陰から転がり出る、後ろを見ると岩がファイアースピアで溶けていくところだった。
転がった俺を狙うように振り下ろされた剣を咄嗟に抜いた短剣で受け止め流す、そのままの勢いを使って体を引き起こした。
「ほう、エルフかと思ったけどな」
目に入ってきたのは臨戦体制の山賊ども、片手剣を持ったのが一人、短剣二刀流が一人、ローブ姿の奴はこちらにつえをこちらに向けている。
そしてボスっぽいガタイの良いやつが持っているのは両手斧か。
奥に瞳から光を失った魔族の女が倒れている、息はしている命は大丈夫そうだ。
俺はできるだけ警戒心を解かそうと軽薄そうな口調で返した。
「見てのとおりヒト族だ、人違いじゃないのか?」
「いや違わねえよ、その短剣エルフのとこのだろ、てことはエルフのとこから来たやつって事だ」
――チッ目ざとい奴め
ボスっぽいやつの答えに心の中で舌打ちを打つ。その間にも片手剣と短剣二刀流が死角に入ろうと回りこんでいる。時間はかけられない
――こいつらやけに統率が取れてるな……。
「いや実はエルフの所から森に入ったはいいが、迷子になっちまってな。道を聞きたかったんだが?」
「へえそうかい、そいつは運が無かったな」
軽口を叩きつつ短剣をしまい剣をおろす。
害する気は無いように見せつつ、立ち位置をずらして山賊たちが全員見える位置をさぐる。
「いやいや、そうでもないさ、ここに道を知ってそうな人たちがいたからな」
「ここに来るまでに俺の部下たちがいただろう、そいつらには聞かなかったのか?」
「いやぁ……この時間だからかみんな眠っててね、つくづく俺は運が無い」
「ほんとうに運が無い男だな」
「もしお前たちが道を教えてくれれば、まだまだ俺も運が有ると思うんだが」
ダメだな左右に散っててどちらかを視界に入れると片方が見えなくなる、これは相手の計算の内か。
仕方ないので身軽そうな短剣持ちを視界の端に入れ。強化の前段階として魔力を引き出しておく。
「それで?道を知らないか?」
――さてどうだ……
「ああ、教えてやるよ……お前たち、やれっ」
「うおらあああ」
判り切った山賊のボスの合図とともに全員が動く。
予想通りだ、俺は抜かりないように体を強化して前に踏み込む。
山賊があわてて短剣を振り上げたところを、さらに下からかちあげる。
キィン
金属同士が音を立て、短剣が山賊の手を離れ小部屋の奥に飛んでいく。無防備になった片手を掴んだ。
そのまま腕を取り、体を捻りつつ引っ張り込む。
「うぉっ」
相手の勢いを利用して、足にひっかけ片手剣持ちの方に投げ飛ばす。
ひっくり返った短剣持ちと攻撃を躊躇した片手剣持ち。
追撃に入ろうとしたところで、横から魔力を感じて上体をそらす。
ヴォン、と音を立てながら俺の頭のあった位置を火の槍が通過していく。
上体を引き起こすと、すでに山賊たちは全員体勢を立て直していた。
――ふりだし、いやマイナスか……
先ほどの立ち回りで部屋の入り口から遠くなってしまった。逃げるにせよ、戦うにせよ、小部屋はまずい。
思考は一瞬、俺は剣を振り上げ動いていないボスの方へ襲いかかる。
「うぉっ俺か!――?」
と言うのはフェイントだ、斧でガードしようと前に出した瞬間にその柄を蹴って押し込むとそのまま小部屋の入り口に向かう。
ボスと打ち合っている間背中から来ようとしていた二人にもフェイントを入れて躱し、通路に逃げ込む。
――やけにフェイントに引っかかるな……
「お先に失礼」
手練れだと言っていた割にはやけにフェイントにかかる。
そこに疑問を覚えつつ小部屋を飛び出す。
「こひゅっ」
「なっ、よくもグースを!」
と見せかけて、あわてて追ってきた短剣持ちの首を狩る。
無防備な男の首に吸い込までた剣をそのまま引く。そのまま男の空気の抜けるような息と共に首を断ち切った。
――切れ味が悪い……!
首が落ち倒れようとしていた体をさらに追って来ると剣持ちに蹴りこむ。時間を稼ぐと通路に逃げ込んだ。
「まちやがれ!」
倒れ伏す短剣持ちに激昂し追ってくる山賊たちをいなしていく。
洞窟での戦いは小部屋よりはましだ。一度に2人は並べたとしても、両手斧を振るには狭すぎる。さらに後ろの魔法使い風の男は同士討ちが怖くて魔法が撃てていない。
一時的な優位だ、だが冷静になられたらすぐに気が付かれるだろう。
「ちょこまかと動きやがって」
「ほら、敵がここに居るぞ?」
軽口を立てて不利に追い込んでいるのを気付かせないようにする。
しかし、剣筋が判りやすい、対人馴れしていない感じだ。
「この、逃げるな」
「もっと早く振れば当たるかもしれないぞ?」
俺の軽口におこった山賊がさらに剣の振りを早める。
だが怒りで振りが安直だ、先ほどよりも直線的な剣をいなすと剣をからめとる。
「あっ……」
そのまま、剣を失った盗賊を切り伏せる。
――切れ味が少し悪い!
魔力で強化していたが、流石に8人も切ると剣が悪くなってきた気がする。
――これであと2人、だがもう持たないな
剣が持たないと判断して手元の剣を詠唱していた奥のローブに投げつける。詠唱はやめたが剣が洞窟に落ちる。
「隙だらけ――」
ボスが大振りに斧をふるう。
逃げ場はないが――。
「嘘だろっ」
強化した裏拳で軌道上の斧をかちあげ避ける。
迎撃されるとは思わなかったのかそのまま大きな隙になる。
その隙に山賊が落した剣と地面に這わせておいたソレを掴みとった。
「おいおい、そんなものでどうするんだ?」
「そうだな……」
俺が剣と共に手に取ったのは、洞窟の入り口付近で見つけたロープだ。
迷わないように洞窟の入り口から最後の小部屋までまっすぐ這わしたロープ。
そこに魔力を流し今までの練習通りに操る。
魔力を流すとロープが先ほど投げた剣に絡みつく。
そしてそのまま杖持ちに襲い掛かった。
「ぐはぁ……」
弾いた剣を気にしていなかったローブはそのまま串刺しになる
――戦場で回りを気にするな。
「な、なに!?」
後ろの異変に気を取られたのか振り返ったボス。
その隙を見逃さずにそのまま構えて突進した。
「俺達は……元Cランクだぞ、お前はいったい……何者だ」
元Cランク、なるほどこいつらは冒険者だったのか。
成程、魔獣はそんなに知能は無いからな、通りでフェイントとかによく引っかかるわけだ。
突き刺した剣が肺を貫き、ガランと音をたてて斧が山賊から滑り落ちる。
「……さあな」
握った剣を捻る、傷口から血が噴き出し山賊のボスは動かなくなった。
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