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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第一章:同一性
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同一性 11

 さて俺が悩んでようが関係なく朝日は上る。

 もう少し寝ていたい気もするが、完全に体に染みついた起床時間はいやおうなく俺を起こす。

 

 魔法で水を出すと布に吸わせて体をふく。風呂なんて無いからな朝のシャワー変わりだ。

 一通り拭き終わると俺はベットの脇に投げ出していた服と、最低限の身を守るプロテクターを取った。


 元は革鎧1セットだが銅の部分はつけていない。動きづらくなるし何より自分の剣の動きに合わなかった。まあ俺の剣は元の世界の剣術の一つだろうからしょうがない。


 膝と肘あとは脛を守る防具を取り付け、手甲とベットに立てかけておいた剣を取って部屋を出る。いつも通りこの時間に起きているのは俺だけだ。

 そのまま炊事場に降りて適当に飯を作る――と言っても自分の分だけだが。


 前に「どうせ起きてるんだから他の人の分も作ろうか?」と言ったが断られた。まあしょうがないと思うが。


 レルカから「食べられなくは無いけど何と言うか、"雑"ですね」という極めて高い評価を貰った料理だ。まあ自分でも良く言って不味いと思う。


――いいじゃないか、焼けばだいたい食えるんだから。


 そんな考えだから雑と言われるんだろうか、まあ被害をこうむるのは俺だけだしいいか。

 魔道具の扱いはだいぶうまくなったが、まだ少し…結構コゲが見える。食材を無駄にしないように完食はするが。


――コゲってガンとか大丈夫……いやこの世界だとそれ以上に心配しなきゃいけないことが多いか?


 まあどっちも同じだろう。それより食材を無駄にすることだけはなんとなく許せない。

 

 ちなみにフェリエラさんたち二人も起きていなさそうだ。

 昨日は結構遅くまでイリヤさんと話していたからそうなるか。

 

「おはようございますクレナイさん」

「ああ、おはよう」


 手早く作り、食卓で食べ始めたあたりにレルカがおきてきた。

 

「今日も早いですね」

「そうか?いつも通りだが」

「クレナイさんいつも起きるの早すぎませんか?」

「3時間くらい寝てるし大丈夫だろう」

「大丈夫なんですかそれ?」


 さあどうなんだろうか?

 睡眠時間が短いとストレスがかかるという知識はあるが、1か月くらいこんな生活でも殆ど影響ないしな。

 

 手慣れた様子で朝食を作り上げたレルカが正面に座る。


「ところでクレナイさん昨日の事ですが」

「待ってくれ、必ず話すから」

「いえ、ただ私はクレナイさんがどんな人でも受け入れるつもりですよ」

「そ、そうか……」


 なぜだかレルカからの俺の評価は異様に高い。

 どうしてだろうなと彼女が持って着てくれたお茶を飲み干すと。どことなく逃げるように俺は仕事に向かった。

 

 

 

 

 

 

 盗賊に注意するとしても魔物の狩りは変わらない。結局のところ、どちらとも里の脅威には違いはなかった。

 相変わらず命が軽い世界だなと思いつつ、俺はいつもの様に鹿を見つけた。いつも通り木を飛び移り狩ろうとしていたのだが。

 

――見失ったか……

 

 途中で逃げられて見失った。足跡を探して追うかと思ったがやめておく、魔獣化している動物は不意を打つ以外は戦いたくない。


 そのまま帰ろうと思って身を返すと、今いる木の根元から小声で話す声が聞こえた。

 

「おい……が一……なくなっ……」

「マスで……いてるん……ねえのか?」


――なんだ?


 見れば今いる木に身を寄せるようにフードをかぶった小汚い男が二人。里の者ではない、道に迷ったにしてはここは隣里との接続している道とは反対の方向だ。

 

――盗賊か。


 昨日の話を思い出してやっぱり居るじゃないかと心の中で悪態をつく。


「一度にいる衛兵は2人か余裕だな」

「明日の襲撃が楽しみだぜ」


 10人……なるほど。さて、どうするか?

 

 森の中のどこかにアジトが有ると思って間違いないだろう。できればまだ見つかってないアドバンテージを生かしたい。

 

 ちらりと里の方を見る、伝えに戻る間に逃げられたら先手が取れないな。

 

「しっかしエルフは警戒心が無いってのは本当だったんだな、これだけの里に数人とか」

「笑える、そういえば前襲った商人も笑えたよな」

「ああ、最後まで泣き叫んでたな、タスケテー!タスケテー!ってな」

「ギャハハハ似てる似てる」


 ゲスな話をする男たち。剣に行きかけた指を止め、今すぐ叩き斬りたい衝動を抑えじっと待つ。

 

――まだだ……まだ、駄目だ。

 

「さってそろそろ戻るか」

「おう」

 

 話飽きたのか男たちが動き出した、森の奥に入っていく。

 俺はその上をひとり音を殺しながらついて行った。




 男たちは森を歩きなれていないのか、かなり遅い木の上からでも悠々と追いついていける。

 エルフは結界の外に出ないと判っているからか、結界を抜けてからはかなり警戒が薄くなっていた。


 そして結構な時間をかけてたどり着いた先は……。


――ここかよ、俺も縁が有るな


 たどり着いたのは、俺がかつて1か月ほど過ごしていた洞窟だった。

 洞窟の前には見張りと思しき男一人、偵察に来ていた男たちは挨拶してそのまま中に入って行く。


 大きな湖が近く、周囲は切り開かれていて見通しが良い。やや壊れかけだがバリケードも残っている。

 作った俺が言うのもなんだが、例え見張りが一人でも攻めにくい要塞のような地形だ。

 

――さてどうするかね。


 アジトは割れたが問題は時間だ、今から里に戻って準備を整えようとすると確実に夜になってしまう。

 夜の森はさすがにエルフ達も出歩かない。結界の外となればなおさらだ。

 

 必然的に応援は呼べないがひと当てはしておきたい。ただここで帰るだけはもったいない。

 自然とそんな考えが浮かんでいた。


――そうすると開けた場所で一対十は……むりだな。


 囲まれて叩かれるだけだろう。


 となると襲撃に出たところをゲリラ戦で削るか?


 例えば今から罠を用意して森の中で襲撃をかけるとする。

 少しでもとり残しが出ると厄介だ。


――ここだったら弓の一つでも持ってくれば良かった。


 見張りを狙撃後に急襲がオーソドックスだろう。洞窟の中なら囲まれはしない。

 何か使えない物は無いか?そう思い周囲を見渡す。


――ん?


 見ると洞窟の正面、山脈の方で鳥の群れが飛び立っていた。


 竜峰と呼ばれているドラゴンの住みかのある山脈だ、エルフたちはドラゴン達に敬意を払って近づかない。

 だがそこに違和感を感じた。


――誰かに見られた気がしたが……。


 目に魔力を集めると、視力を強化して山の方を見る。

 雄大な自然はそのままの姿を晒したままだ、誰もいる感じは無い。


――いけないな……緊張しすぎだな。


 大方気のせいだろうと決めつけて。高ぶった気を落ち着けるべく動く。


 と言っても意識して大きく鼻から息を吸い鋭く口から吐くだけだ。それだけで気持ちが落ち着いてくる。


 知識によれば一定のパターンを体に刷り込み、動作によって気持ちを整える一つの自己暗示と言うものがあるらしい。

 なんでそんな暗示が自分にかかっているか判らないが、今は一人だ使える物は使ってしまおう。


 よし


 気持ちを落ち着けて作戦をもう一度考える、崖に面した洞窟、洞窟の前は切り開かれてて隠れる場所は無い。


――崖?


 俺は一つ思いつきニヤリと笑うと、木々の間を移動し始めた。






 これはまだ俺がこの洞窟にすんでいた時の話だ。


 洞窟の周囲を探るために高い所に登ろうと周囲を探っていた俺は、少し離れたところにがけを登れる場所が有ったのを発見した。

 崖の上は植生が微妙に違い、人がぶら下がっても大丈夫なくらい強い蔦が生えた植物などが有った。

 その蔦を使い俺は火おこし機やバリケードなどを作っていたわけだが、まあその話は置いておこう。


――こんなもんか


 俺は崖の上に着くと崖際に生えている木に長めの蔦をしっかりと結びつける。


 ぐいぐいと引っ張り丈夫さを確認すると崖に足をかけた。


――行けるはずだ


 20mほどある崖の中間あたりまで垂れ下がった蔦はちょうど見張りの真上あたりにたれている。


 位置を確認して蔦をしっかり握ると崖から身を乗り出す。

 命綱なしのラぺリングだ、蔦を魔力で強化しつつ気づかれないように接近する。


――しっかし命綱なしとか、まあ20mくらいじゃ命は落ちないか


 だが落ちたら確実に少しの間動けなくなるだろう、山賊の目の前で動けなくなったらあとの道は一つだ。


――……スー、ハッ


 息を整え正常に戻す。今は落ちた時の事は考えない目の前の事を正確に……。


 一歩一歩降りているせいで速度は出ない。

 いや崖を蹴って跳ねるように降りれば速度は出るとは知っているが、さすがに蔦に負担をかけるのは危ない。


「あー暇だ……ったくこんなところに領軍なんて来るわけねえのに……まあいいか明日になりゃ、ぐへへ」


 ゲスな想像をしたのか見張りが気持ち悪く笑う。


 そうだ、今ここで俺がこの山賊どもをやらなければ、里の皆が……。

 蔦を握る手に力が入る、ここにいる意味を思い出す。


 剣を抜き下向きに構えると蔦から手を放す。重力に従って男の上に飛び乗り。


「ぐぇっ」

――まずは一つ。


 カエルを潰したような声が、湖畔に小さく響いた。

お読み頂いてありがとうございます。

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