同一性 10
日の落ちる前に交代がきた。ちなみにアランはイリヤと話してくると行ってしまった。
あまり気を貼るなと言ってたがそれもどうなんだろう。
「お疲れ様、今日はじっとしてるんだね」
「ええ実は……」
見張り台で交代した弓を持ったエルフにも盗賊の事を話す。
話したが「なんてことは無い隊長と賢者様が守ってくれる」と言っていた。
「気を張りすぎだよ」
緊張感がまるでない。良く言っても暢気だ、暢気すぎる。
まあ彼もバカではない、仕事はまじめにこなすだろう。
「そうか?まあ任せたぞ?」
「ああ任せておけ」
気前よく彼は返す。
もしかして俺が考えすぎているだけなのだろうか?
だが守りたい物すべて失ってからでは遅いのだ。
見張り台から降りる寸前森を振り返る。
真実も嘘もすべて覆い隠すような、じめりとした森が覆っている。
――大丈夫なはずだ……。
どうも言い知れない焦燥感だけが、どこまでもしつこく残っていた。
夕食はフェリエラさんたちと一緒だった。レルカと意気投合したのか、彼女が冒険の様子を聞いている中、男たちが黙って飯を食うという良くわからない空間になったが。
「そうだクレナイ君、レルカちょっと執務室に来てくれ」
食事の終わり際、そうイリヤさんから呼び出された。
もしかして、箱のことで何かわかったのだろうか?
「なにかわかりました?」
「そうだそうだ、解析が終わったよ」
「何の話です?」
疑問を浮かべるレルカと執務室にはいる。
何ですかこれ?と机に置いてある箱に疑問を持つレルカに森で拾ったんだと答える。
「やはりマジックバックの一種だな。だがな」
「なにかあると?」
「……チグハグなんだ」
イリヤさんが少し悩んだ末に出てきた言葉の意味が少し良くわからなかった。
この箱がチグハグ?確かに少し歪んでしまっているが。
「まず魔方陣の張り方が特殊だ。技術が異様に低いのに無理やりマジックバックの機能を再現しようとしている感じと言えばわかるか?魔方陣だけで言ったら約300年物の年代物ってところだな」
「骨董品すぎないか?」
確か本格的に魔方陣の技術がつかわれだしたのが200年前の大戦時代の終わりって言ってたか??
魔方陣の初期の初期のもの?しかし、そんなに古い物のようには流石に見えないが。
「そんなふうには見えませんよ?」
「そうだな、逆にこの箱自体は技術が高すぎる。この軽さでミスリルよりも固い金属なんて今まで見たことが無い」
「えっ?」
まさかの答えだった、イリヤさんが見たことないほどの強い金属。
少し歪んでいるように見えるから、まさかそこまで強くは無いだろうと思っていたのだが。
「チグハグと言った意味が分かるだろう?」
「たしかに」
言われてみれば確かにチグハグだ。意味が分からない。
実験に使うのだったらそこまでの金属で使う必要はないだろう。
実用品にしては魔方陣の能力が低すぎるし、そんな金属を使う必要が無い。
と言うかミスリルあるのか、そりゃあるよな異世界だし。
「とりあえず君に反しておこう」
「あ、ああ……」
イリヤさんから渡されるが、いやこれをどうしろと……?
「中の大きさはおよそリュック程度で重量軽減は無し。布じゃないから口はそれ以上開かないが、一応マジックバックの代わりとして使えなくはない」
なるほど、高いマジックバックの代わり……。
いや無理だろう。
伸縮性のない箱の口は小さく、入るのは小物程度。
持ち手もない箱は持ち歩きにも不便だろう。
「まあ置いておけ、困ることは無いだろう?」
「それもそう……か」
「それにこれは話の本題じゃないしな」
ん?本題じゃない?
てっきりこの箱の事で呼ばれたかと思っていた。
イリヤさんが居住まいを正す、そして真っすぐこちらを見る。
「クレナイ君、君は何か私たちに隠している事があるんじゃないか?」
「ええっ!?」
レルカが驚いている、彼女にはまだ気が付いてなかったのか?
「クレナイさん、記憶無いんじゃなかったんですか?」
それを言われると少し辛い……。
だが少し考えればわかるだろう、記憶がないって言ってるのに計算ができたりするんだから。
「驚かないのか?」
「そりゃ俺も怪しいだろうしな、まあ言いたいんだが……」
疑われたらお手上げだと、両手を上げて降参する。
元の世界の知識の事は誰にも話せていないことがあだになったか。
「だけど、自分でも整理し切れていないんだ」
「そうなのか?」
自分でも持て余している事を伝えても説明しきれる気がしない。
だがそろそろ頃合いか。しかしどう言うかな……下手に言うとこれまでに信用を全部壊すぞ?
「自分でも良くわかってないし、説明に時間がかかる。この騒ぎが落ち着いたらでいいか」
「わかった、それまで待とう」
俺のアイデンティティにかかわることだ。
話したらどうなるか、それは俺にはわからない事だった。
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