同一性 9
「クレナイです」
「珍しいな……入っていいぞ」
返事と貰いイリヤさんの執務室に入る。
中は壁一面の本棚と書類で埋まった執務机、壁にかかった杖などの実用品。質実剛健な実に彼らしい部屋だった。
ちなみにこの部屋はあまり見せてもらっていない、機密も交じってると言われたらさすがに踏み込めなかった。
「どうした、衛兵の方でなにかあったか?」
「そうじゃないんだが、狩りの途中森で変なものを見つけて」
「変なもの?……まあ座ってくれ」
勧められた椅子に座りつつ黒い箱を取り出す。
どこに置こうか迷っているとイリヤさんが書類を片付けてスペースを作ってくれた。
置くなりイリヤさんが手に取って鑑定し始める。
「うーんマジックバッグの類のようだが……金属製とは見たことがないな」
「アラン隊長も同じことを言ってましたね」
「魔法陣の形式は……四角い……珍しいな?クレナイ君ちょっとそこの本棚にある魔法陣大全とってくれないか?」
言われたとおりに本棚から魔法陣大全と書かれたかなり分厚い本を取り出して渡す。
イリヤさんは書類を落とさないように机の上に本を開いた。
集中して調べているようでかなり時間がかかりそうだ、さてどうするか。
衛兵に戻っても良いんだが……。
本棚を見ると、けっこう色々な種類の本が有る。
魔法理論、魔導理論の本が多いだろうか、次点で過去の帳簿。さすがに帳簿は見る訳にはいかない。
「……ん?これなんです?」
書類の束の中から、先の曲がった細長い金属のパイプの様なナニカが出てきた。
書類に押されコロコロと転がって机から落ちようとしているのを救い上げる。
「ああ、エルフ煙草だな。知り合いから送ってきたが私は吸わないから持て余していた」
「へえ……」
綺麗な装飾のされた金属で作られた煙管だ、こう言う娯楽もやっぱりあるんだな。
「吸うなら外で吸ってほしいが」
「じゃ、お言葉に甘えて」
書類の束の中から発掘した刻んであるエルフ煙草の葉を持って外に出る。
軽く叩いて埃を飛ばし、刻んだ煙草を丸める。まだ火も付けていないのにさわやかな香りがした。
そしてそのまま指先に火をともして……
「仕事サボって喫煙なんて不良な感じ――」
「クーレーナーイー、聞こえてるかー」
アランの声だ、タイミングの良い声にビクリとしてすぐに煙管を懐にしまう。
鐘を鳴らしていないと言う事は緊急性は無いみたいだが、何かあったのだろうか?
俺は聞こえてると返すと見張り台に向かうのだった。
「アラン、どうした?」
見張り台の下から声をかける。
アランは他の集落とつながっている道の方を見ているみたいだ。
「クレナイ、お客さんだ」
こちらを見ずに言うアラン、お客さん……?里に誰か来たって事か。
彼は動く気がなさそうなので、詰所付近の門に向かう。
門に着くと、森に伸びた道の先に二人連れが見えた。
両手剣の女戦士にハンティング帽にローブをまとった魔法使い、旅の冒険者達のようだ。
向こうもこちらを認識したのか足を速める。
「お疲れさん、ようこそ……ドリェーの里へ」
「「お疲れ様」」
一瞬里の名前が出てこなかったが、二人から渡された身分証を借りる。
予想してたとおり、二人ともこの間俺が作った仮の物とは違う正式な冒険者ギルドのカードだ。
「どういった御用で?」
「手紙ついでに、ここにいる賢者様を訪ねてみたくてな」
詰所から埃の被りかけている読み取り用の魔道具を取りだしてきながら、二人と雑談する。
返してくれたのは両手剣を背中につった女戦士だ。魔法使いはなぜか魔道具を見ている。
にしても賢者……賢者様ねえ、イリヤさんかな?
本人不在の時にエルフ達からそう呼ばれているのは確認している。
だが彼自身あまり言ってほしくないようだ。たしか若気の至りだとかそう言ってたはずだ。
「彼の前ではあまり言わない方が良いですよ?」
「そう?ならそうするかな」
雑談しながらも魔道具を操作はとめない。
これ身分証の中に記載された情報を読み取るための物だ。魔道具に置いたカードの情報が自分にだけ見える視界情報として表示された。この辺りこの魔法文明は進んでいると思う。
二人とも犯罪歴は特になし。
得意武器は、両手剣と火属性魔法と見たまんまだな。
依頼を見ると、直近で手紙の運搬依頼がある。これがさっき言ってた手紙かな。
「ところでこの里に宿屋は?」
「何日位だ?」
「まあ3日くらいかな」
「なら里長……賢者様のところで泊めてくれると思う」
ランクはEで種族は……二人とも登録されてない。
種族まで登録されていないのか、見た目はただのヒト族なのだが実は違うのか?
そう思いながらカードにこの里に来たという情報を書き込んで終了だ。
「はいどうぞ、フェリエラさんライテントリットさん」
「ありがとう、ほら行くぞトリット」
フェリエラと言うのが女戦士で、ライテントリットと言われたのが魔法使い風だ。
彼、最後まで魔道具を見ていたな……。
「どうせなら、里長の家まで送っていくか?」
「いいのか?」
「どうせ誰も来ないからな」
彼女らに並んで里に入る。
途中見張り台のアランと目が合い、大丈夫だとアイコンタクトを送っておく。
「そういえば外の話あるか?」
「そういえば、ここに来るまでに盗賊の噂があってな」
「なに?」
盗賊?
「隣の集落の近くで商隊の一つが襲われたらしい」
彼女曰く馬と商人は殺され荷馬車は焼かれた。
やけに手際が良く、どのくらいの規模かは不明だと言う。
訓練された盗賊か?これはアランさんにすぐ伝えた方が良いだろう。
「情報ありがとう、里長はあそこの建物だ。一応彼にも伝えておいてほしい」
「え?ああ……」
「俺はちょっと隊長に伝えてくる!」
「って、ええっ!?」
強化を起動して地面を蹴る、驚いた声を聴きつつ屋根を飛び移り、見張り台へ向かう。
結局エルフの土地は結界に守られてるとしても完全に安全ではない。
エルフの結界は結局、強い森の魔物を除ける程度しかない。
悪意を持った人間でも鍵になる短剣さえ持ってれば入れてしまう。
あとは森以外、空からも侵入できるとか。そちらはドラゴン達が守ってるから大丈夫だろうが。
屋根を蹴って、持っていた縄を見張り台へ放り投げる。
見ていたアランが意図を組んで引き上げてくれた。
「どうした、クレナイ!」
俺の移動から、ただ事ではないと察知してくれている。
手早く付近で盗賊が出たと聞いたと説明する。
「そうか、判った」
頼もしい声がする、このあたり元冒険者のアランは早いと思う。と言うか彼以外の数人しかいない衛兵とは練度が違う。
「俺たちが気を付けないとな」
「そうだな」
その日は、日が沈むまで訓練をせずに見張りを強めていた。
余談だが俺が懐にしまった煙管を思い出したのは寝る直前だった。
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