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クリムゾンスカイ  作者: えーじゃん
第一章:同一性
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同一性 8

 ドリェーの里で起きてから一週間の時が流れた。

 すっかり癖になった魔力操作の訓練を手元でしつつ、里の見張り台からあたりを見渡す。


「今日も平和だな」

「そうですねアラン隊長」


 一緒に見張り台に居るエルフのアランの言葉にあいまいに返事をしつつ、この一週間を思い出す。

 この一週間でこの里での生活は安定した。

 

 居候とはいえ衣食住の安定した中で、日々成長していかないと無残にも死ぬだけだ。

 それくらい命が軽い世界だと言う事は確かだった。泣けてくるね。

 

 少し冒険者と言う響きに男として憧れはしたが、安定しているならこちらの方が良いだろう。

 手に持った縄を鰻のようにぐにゃぐにゃさせていると呆れたようにアランさんが言う。

 

「しっかしそんなに鍛錬ばっかりで飽きないもんかね」

「うーん確かに、筋トレにしようかな」

 

 やっぱり辺境、衛兵の人数自体少ない、だが商人もほとんど来ないし訪問者も皆無、見回りをしつつ日長一日訓練しかなかった。

 こんなんでいいのかと思うが良いらしい。

 まあ給料に関しては里長であるイリヤさんの懐から出るから安定なわけだ。ちなみに、その給料はイリヤさんに納めている。金を使う場所もないしな。

 

 そう言えば、聞いたところによると魔力操作と言うのはこの世界の人に置いて呼吸するようなもので。わざわざ訓練するような人は少ないのだとか。

 まあ確かに呼吸をわざわざ訓練する人は少ないだろう、昔の俺はしていたみたいだが。

 

 しかしだ、魔力とは魔法を使うための燃料のような物。それを効率よく扱えれば少ない魔力の量でより良い効果が得られるのではないかと。

 

 結果は大当たり、訓練すれば訓練するほど僅かずつだが効率よく使えるようになっていく。

 それですっかり味を占めた俺は、今では半ば無意識で魔力操作をしていた。

 

「いや変わってないだろそれ……?」

「と言っても他にすることないしな」


 魔力を操り縄で足を縛り、見張り台の柵から身を乗り出し腹筋をしていると、呆れたようにそんな事を言ってきた。

 

 実際この世界は娯楽が少なすぎる。エルフの森の片田舎と言う事も有るが本も少ない。

 楽しみと言えば雑談か鍛錬かそれとも――。

 

「アラン留守番任せた、ちょっと行ってくる」

「なんだキックバックか?なら狩ってこい」

「了解!」


 ここでの楽しみ、その3つ目は狩りだ。辺境で冒険者もいないとなると魔物の駆除は衛兵の仕事だ。

 木々の間に見えたシカのような魔物。名前をキックバックと言うが、まあシカで良いだろう。


 足を解いて見張り台から落ちる、空中で一回転して身体強化をかけるとともに着地。


 身体強化もだいぶ効率化した、と言ってもアランのように肌を剣で切っても傷一つ無く耐え、鉄すらただの剣で切れるようになる、にはまだまだ時間はかかるだろうが――。


 一足飛びに近くの平屋の屋根に飛び移り、中の人に迷惑をかけないように、静かに屋根をかける。

 そのまま里の端まで来たら、三角飛びの要領で木から木へ飛び移って追っていく。


 イメージとしてはニンジャだ、理由もなしにそんな動きをしているわけではない。


 と言うのもあのシカ、視界が横に広く危険を察知したらすぐ逃げる。

 ついでに後ろに立ったものを条件反射的に蹴り飛ばす習性が有る。

 エルフたちなら遠くから弓を行ってしとめるが俺にはまだ無理だ、じゃあどうするか?


 木を飛び移ってシカの真上までくると、枝に体を固定して音をたてないように剣を抜く。

 しばらくしてシカが苔を食べようと首を下したところで――。


 ザン

 

 一刀両断、自身の重さも入れて一気に首を断ち切る。

 何処か驚いたようなシカの顔が地に落ち、そこから数瞬遅れてドサリと胴体も倒れこんだ。


「最後気が付かれたな……まだまだだ」


 つまりは、気づかれる前に首を落とせばいい訳だ、今回は最後の最後で失敗したが。

 

 剣の血を振り軽く手を合わせて弔うと、下処理を始める。

 倒れた足と角を持って魔力をこめてシカの血を操り、抜くと同時に冷やしていく。これは内臓が腐らないようにするためだ。


「まったく便利だな……ん?」


 血抜きの最中、警戒して周りを見渡していると、森なか何か黒く光るものが有る。

 土に半分埋まったそれは、強い衝撃にあったのか少しひしゃげている。

 

「なんだこれ?」


 形は金属でできた辞書をしまうケースと言えば判りやすいだろうか、大きさもその程度だ。


「魔導具のようなそうでもないような……どこかで見たような、そうでないような」


 どうも思い出せない、イリヤさんに聞いたらわかるだろうか。

 俺はその箱をしまうと里に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいクレナイさん。それ、狩ってきたんですか?」


 里の入り口に居たレルカに話しかけられる。どうやら屋根を伝っていたのが見えていたみたいだ。

 彼女もだいぶ元気にはなっていた、俺のおかげだと言ってくるがそれは無い、勝手に助かっただけだ。


「ああ。解体任せて良いか?」

「はい……って重た!」

「胴体は持つ、こっち頼む」


 頭を落とし血を抜いたとしても胴体だけで100kgくらいははする、レルカには少々つらかったか。

 シカの頭を渡して、俺は片腕で再び胴体部分を背負った。


「ほとんど魔力出さずにそれだけの重さを持ってるの見ると、さすがに違和感ありますね」

「そうか?ちゃんと身体強化は使ってるんだけどな」

「外に漏れてる魔力の量がすくなすぎます」


 身体強化は周りを覆うその特性上、強化の度合いによって外に魔力が漏れてしまう。

 だが俺には別世界の知識がある、それによって他の人の身体強化より細かく強化ができた。


「言わなかったか?筋肉とか骨とかだけ強化してるって」

「"キンニク"っていうのは体を動かしている物でしたっけ……」


 要は必要な場所だけを強化して、効率よく体を動かしているだけだ。

 魔力を体外に出す必要もないから燃費もいいし力もでる、その代わり防御力は殆ど無いが。


 余談だがこの世界で解剖学と言うのは殆ど発達していないようだ。

 おかしな話だがたとえ体の構造がわからなくても、回復魔法で傷は治ってしまう。

 なるほどそいつは素晴らしい、変な風にくっついたりしないのだろうか。


 レルカさんと雑談しながら里の共同の井戸に着く。

 井戸の周りにはいつものように、エルフの奥様方が井戸端会議をしている。


「あら今日はクレナイさん?」

「ヒト族なのにすごいわねぇ」


「ええ、運よく見つけられまして、レルカさんあとは頼んだ」


 背に背負ってた肉を置いて井戸を離れる、あとはみなで手伝って分けるだろう。


 見張り台に戻ろうと梯子を上っていると上からアランに引き上げられた。


「おつかれさん」

「はいどうも」


「見てたが剣で狩る獲物じゃないだろあれは」

「そうか?森に居た時からこんな感じだな?」


 基本的に生き物と言うのは真上が死角のことが多い、だから森は奇襲にはもってこいだ。

 実際上からの奇襲は森に居た時に剣を石に変えてよくやっていた。


「そういえば」

「どうした?」

「さっき拾ったんだが。これ、何だかわかるか?」


 カバンから黒く鈍く光る金属の箱を取り出す。

 先ほど拾ってすっかり存在を忘れていた。


「なんだこれ、壊れては……無いな。たぶんマジックバッグの類っぽいが」

「マジックバック?」


 魔道具か何かだろうか?


「見た目より多く入る鞄だ。重さが軽減される物なんかは冒険者とかがよく使ってるな」

「へえ、そいつは便利そうだ。高いのか?」

「安いやつでも銀貨数枚、高いやつだと金貨で数百枚とかになるな」

「うへえ」


 あれば非常に便利なんだろう。

 そんな便利な物なら手元に一個くらいほしいが。


「で……その箱が、そのマジックバッグなのか?」

「そう見えるが良く判らんな、マジックバッグは殆ど布製なんだが……クレナイ、イリヤんとこ見せて来い」

「いいのか?」


 森はまだ明るく交代の時間までもう少しある。


「この里であいつ以上に魔法に詳しい人はいないし、もし危ないものだったら困るしな」

「了解」


 俺は家で仕事をしているだろうイリヤさんのもとに向かって走り出した。

 しかしこの箱、本当にどこかで見たことがある気がするんだが……。

お読み頂いてありがとうございます。

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