同一性 7
「それにしても、クレナイさんは凄いですね」
「ん?」
レルカとの夕食時、ふと彼女が呟いた。今日はイリヤさんは友人の所に行くとかで今日は食べないらしい。
しかし凄い?何がだ?
「先のことをいろいろ考えてるんだなって思ってしまって」
「そりゃな、大人だしな、独り立ちはしないと」
「えっ?」
西洋系の顔立ちの多いエルフ達からすると童顔に見えるらしい。そういえば俺っていくつなのだろう、顔だちからすると二十歳そこそこ位だろうか。
「それに比べて私は……」
「家族を亡くしたばっかりだ、そんな簡単に未練を捨てられたら、それこそ人間じゃないさ」
「そう……ですか」
レルカはどうも納得行って無い様子だ。
と言っても折り合いをつけるのは大変だろうが、俺が言う訳にもいかない。
部外者に限りなく近い居候にはどうしようもない、彼女の両親の顔さえ知らないのだ。
ちなみにもう葬儀は終わってるらしい。
葬儀と言っても焼いて森に撒くだけだ。お陰で助けてくれた人の顔もわからなくなったわけだが。
喪に服す時間も短く葬儀も簡易的なのは、それだけこの世界が危険だと言う事だろう。いやな効率化だ。
「まあ逆だ、過去がないから前に進むしかないって部分もあるのさ」
俺はそう言うと夕食の最後の一口を食べ切った。
レルカは半分も進んでない、食欲自体があまり無いようだ。こういう時は陰鬱とさせずに吐き出させた方が良いのだろうか。
「そうだな、なんだったら両親の思い出とかを話してくれ、俺も助けてくれた人のことは知りたいし。幸い記憶は空きまくってるんだ」
俺が魔法の練習に出してるライトの淡い光の下。彼女は少しずつ語ったのだった。
レルカは話の途中で嗚咽が混じり、そのまま眠ってしまった。話の内容は別に触れないで良いだろう。
ただ彼女は愛されて育っていた……それだけだった。
彼女を部屋まで送ってベットの中に入れてやる。
「おとう……さん」
寝息に合わせてゆっくりと肩が上下する。
無防備なのは信頼されているからか、どうなのか。
襲いはしない、傷心に漬け込むのはフェアじゃないし。なによりイリヤさんの信頼は崩すものじゃないだろう。
ただ、こんな無防備さは俺には真似できない。そんなふうに漠然と思った。
レルカの部屋をロックして自分の部屋に着く。
俺の記憶のように何もない部屋は、どことなく寒々しい感じがする。
まあ考え事には何もない方が良いだろうか。
そう結論付けていつも通りに窓際に行く、新鮮な森の空気は良い物だ。
「それにしても……」
維持をしていたオレンジ色のライトを動かす、光源の移動を伴って俺の影が部屋を踊る。
裸電球が揺れているような感じがする、違うのはこれが魔法だってことくらいだろう。
ちなみにライトの色は人によって微妙に違う、イリヤさんはほのかに暖かい淡めのオレンジだった、他には冷たい青白い色の人もいるらしい。
「魔法って便利だな」
昨日までは魔法なんて知らなかったのにあっという間に使えるようになったのは、イリヤさんの教え方が上手かったのか、それとも……。
まあ俺自身の順応性が高いって事は確かだろう。
「しかしこの詠唱ってのはどうにかならないのか」
再度試すべく、いったんライトへ送って居る魔力を切って魔法をかき消す。
本当に電灯のような感じがするな。まあこの世界にはそんなものは無いんだが。
――ん?電灯?
イリヤさんのライトもそうだったが、淡いオレンジとかなのはもしかして太陽の明かりをイメージして魔法を使っているからか?
「となるともしかして」
何となく思いついたことを実践すべくごにょごにょと詠唱する。ライトだからそんな危ない事も怒らないだろう。
しかし我は望むとかどう考えても中二病だな、この世界では普通なのかもしれないが。
そう裏で思いつつ詠唱が完了し魔法が発動する。
「やっぱりか」
思ったとおりだ、出来上がったライトは青白い光を放っていた。
今までのイメージが白熱灯なら、今回イメージしたのは蛍光灯だ。そしてその通りライトは光の質感を変えた。
魔法はイメージによって大きく変わってくる。
なるほど、これがイメージが重要と言っていた意味か。
イメージがとなると詠唱と言うのはなんだ?
それが無いと魔法が使えないんだから、発動に必要な儀式?いや……
思考に引っ掛かりを覚え止める。どこかしらで詠唱無しの魔法を見たような……?
「そうか!強化か!」
魔力を使って力を強めたり物を固くする強化はそれだけで一つの魔法とも言えないか?
そしてそれに詠唱は必要ない、魔力とイメージだけだ。
「ここでもイメージか」
やはりイメージと言うのは魔法にとってかなり重要なのだろう。
なら詠唱は?イメージの固定化に必要な引き金って事か?多分間違ってないだろう。
なんとなくだが、魔法の大枠が見えてきた。
まず魔力、これがどこから来るのかは不明だがイメージを具現化する力が有る。
これを使って不可思議な現象を起こすのだがその際にイメージをしっかりする必要がある。
そこで出てくるのが詠唱だ、特定のキーワードを盛り込んだ詠唱を行いイメージしやすくする。
「なるほど……それで、我は望む……か」
色々な詠唱に出てくる共通ワードは望むとか"しろ"とかそう言った強制するワードだ。
おそらくだが魔力に何か働きかけやすくする力が有るのだろう。
つまり原理的には魔力とイメージだけで魔法は発動できるはずなのだ。
だができない、何が足りないんだ?
そこまで考えたところで思考がノックで中断される。
誰だ?レルカが起きたか?
「クレナイ君起きてるか?」
部屋の外からイリヤさんの声がする。
はいと返事をして、鍵を開け迎え入れる。
ん?ローブの中に何かを持っている?
「帰ってくる時に光が漏れてるのが見えてね眠れないのかい?」
そう言ってイリヤさんは持ってきたグラスとワインを取り出し注ぐ。
なるほどこれか、そう思えば彼は少しだけ酒臭かった。
「少し考え事をね」
酒は飲めるのかわからないが、一杯くらいならと貰う。
そういえば魔法使いって言っていたな、彼なら何が足りないかわかるだろうか?
そう思い、先程まで考えていた魔法の理論を話す。
「驚いたな、ほとんど無詠唱の正解だ。もう少し出来るようになったら教えようかと思ったが、すでに知ってたのか?」
「いや全然、詠唱が嫌で考えていただけだから」
「ヒト族の魔法は詠唱と魔法陣を重視してると聞いていたが」
「そうなのか?まあ記憶がないから考え方が違うだけだろうな」
そう言ってグラスのワインを一口含む。
ブドウとは微妙に違う香りも混じってるが良いワインだ。酒は大丈夫そうだな。
「そういう事か……?あまり広めないようにな、そういうものは秘匿するものだ」
「なるほど、暗殺とかに使えるからか」
忘れてたが、攻撃魔法もあるんだったな。そう思って口に出すと合っていたのかイリヤさんが少し驚いていた。
「まあ……そういう事だな」
「まあそういうことに使うつもりはないですよ」
俺は安心させるようにそう言う。
イリヤさんが一口飲む、どうもこれまでに結構飲んだのか眠そうに見える。
「イリヤさん眠そうですね」
「あ?ああ、そうだな……」
おおかた孫の世話の礼で飲んでない俺に酒でも持ってきたのだろうか?
俺はふらつく彼に肩を貸してベットまで運ぶのだった。
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