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わがまま姫の王子様

1 わがままな王女



 ある国にリーゼロッテというそれはそれは、美しいお姫様がおりました。けれど、彼女にはとんでもない欠点があったのです――


「お父様、新しいドレスが欲しいの。あと、新しいお化粧も。あ、あと新しいドレスに合わせたネックレスも欲しいわ」


 砂糖のようにお甘い国王様は、なんと娘になんでもかんでも買い与えたのです。

 そんな風にお姫様は周りからもうんと甘やかされて育てられたために我が儘なお姫様になってしまいました。

 さて、そんなお姫様もやはり、国のため結婚をしなければなりません。

 国王様は娘のために各国から王子達を集め、パーティを開きました。もちろん、お姫様の結婚相手を決めるためです。けれど、なんということでしょうか。お姫様は、婿候補達に向かってとんでもないことを口走ったのです。

 一人目の婿候補は、丸々と肥えた方だったので


「樽のようだわ」


 と嘲笑いました。


 二人目の婿候補は、とても体の細い人だったので


「死に神みたい」


 と、また嘲笑しました。そして、ある王子の姿を見て高らかに笑うと大きな声で


「まあ、あの人のヒゲはツグミみたい。つぐみのヒゲの王様ね」


 と言って嗤う始末でございました。すると、とうとう王様はお姫様の無礼な態度に怒り心頭になりました。すると、さあ大変。お姫様に魔法をかけると子どもの姿にしてしまったのです。


「わしはお前のような娘は知らん。はやく、この城から出て行け」


 国王にそう言われお姫様は、城から追い出されてしまいました。お姫様が城の門をたたいても、誰も開けてもくれないし、叫んでも誰も取り合ってはくれませんでした。

 仕方なく、お姫様は歩き始めました。けれど、お姫様には行く当てなんて全くございません。

 歩き疲れたお姫様は、地面にうずくまってしまいます。そのまま眠ってしまおうかとお姫様は考えたけれど、外は寒く到底眠れそうにございません。

 宿へ泊まろうにもお金なんて持ち歩いていないものですから、泊まることも出来ません。困り果てたお姫様は、仕方なく歩き続けることにしました。

 寒さで指先がかじかみます。けれど、動いていない方が寒いと考えたのでずっと歩いておりました。けれど、寒さとずっと歩いていたせいでお腹が空きました。


(ああ、こんなことならお食事をたんと食べてくれば良かった)


 お姫様はそんなことを考えながらも歩きました。けれど、とうとう歩くことすらもつらくなってきて地面に倒れ込みました。そのまま疲れで眠ってしまいました。

 それから、しばらくしておりますと馬に乗った男性が通りかかりました。男性はお姫様を見つけると抱きかかえて宿の部屋を一部屋借りますとベッドの上にお姫様を寝かしました。



 翌日、目を覚ましたお姫様は驚きました。見知らぬ男性が眠っていたのです。お姫様は驚きで硬直しておりましたら、男性も目を覚ましました。

 お姫様は男性に「あなたは誰ですか」と問いかけますと男性は「マティアス」という名前と「旅人」であることを告げました。

 今度は旅人がお姫様に何者かを問いかけます。お姫様は自分がこの国の姫であること、それから追い出されてしまったことを旅人に告げました。すると、どうでしょう。旅人はまるでお姫様の言うことを信じず嘲笑いました。


「嘘なら、もっとまともな嘘をついてくれ」


 何度もお姫様は説明いたしましたが、男性は全く信じてもらえません。それどころか、子どもの妄想とまで言われしまう始末でございました。けれど、男性はお姫様が家に戻ることが出来るまでは一緒に来ていいと言ったのでお姫様は大喜び。

 そして、お姫様は心の中で自分の父親である国王に復讐を誓ったのでございました。



2 旅人、マティアス



 お姫様はマティアスに「何のための旅をしているの」と問いかけました。すると、予想外に「父親の病を治す薬を捜す旅をしている」と答えたのです。

 お姫様は助けて貰ったのだし、少しぐらいは手伝おうと考えておりました。

 そして、お姫様が「検討はついているの」と問いかければマティアスは地図を広げてある場所を指さしました。それを見てお姫様は、びっくり仰天。なんと、そこはお姫様が幼い頃から国王に近づいてはいけないと言われていた場所でございました。

 マティアスは「知っているのか」とお姫様に詰め寄ります。けれど、お姫様は返事にためらいました。

 とうとうマティアスの熱意に負けて国王に言われてきたことをマティアスに話します。けれど、マティアスはあきらめる気が無いのか立ち上がりました。

 お姫様は「危ないわ」と言ってマティアスを行かせないようにするけれどマティアスが「“いのちの水”しか父上を助ける手立てが無いと言われた」と言ってお姫様が止めても行こうとします。

 逢っても間もないというのにこんなに心配になっている自分に驚きながらお姫様は、「どうしても行くというのならわたしもいく」と言いました。

 マティアスは驚きつつも「足手まといになるだけだ」と一蹴してしまいます。

 けれど、お姫様だって今までただ単に我が儘であったのではございません。自分が言ったことは絶対叶うと思っているお姫様でございましたから、こういう所でもその我が儘が発揮されます。

 ついにはマティアスの方が折れてお姫様を連れて行くことにいたしました。




 さて、宿で食事を済ませますとお姫様と旅人は宿を後にしました。それから、二人がしばらく歩いて行きますと古いお城に着きました。そこは魔法のかかったお城で何やら仕掛けがあるというのです。

 けれど、お姫様は国王様からその仕掛けについてよく聞かされていたので知っておりました。

 二人が城の中へ入ろうとすれば小人が声をかけてきました。


「そんな所へ何をしにいくんだい?」


 立ち止まろうと旅人がすればお姫様は不服そうに旅人の裾を引っ張りました。けれど、立ち止まって小人に旅人は事情を説明しました。すると、小人は


「お前はれいぎにかなった振る舞いをした。お前にはどうしたらいのちの水を得られるか教えてやろう。いのちの水は、この城の中庭から湧き出ている。だが、わたしの鉄の棒と二つの小さなパンがなければ進めないよ。城の鉄の扉をこの棒で3回叩きなさい。すると、扉はパッと開く。中にはライオンが二頭、大きな口を開けて待っている。それぞれのライオンにパンを一つずつ投げればライオンはおとなしくしているからね。それから、十二時になる前に急いでいのちの水を取ってくるんだ。そうしないと、扉がまた閉まって閉じこめられてしまうからね」


 旅人は小人に礼を言って棒とパンを受け取りました。そして、お姫様の手を引いて城の敷地内へ進んでいきました。すると、小人が言ったとおりでした。門をくぐってしばらく進みますと城の扉は鉄で出来ておりました。旅人は言われたとおり、鉄の扉を棒で3回叩きますと扉がぱっと開きました。

 旅人とお姫様は、手分けしてライオンにパンを投げればおとなしくなりました。それを確認してからお姫様と旅人は城の中へさらに深く進んでいきます。すると、豪華な広間に着きました。そこには魔法にかけられた人々がおりました。お姫様は放っておいて行こうと言いましたが旅人は、また立ち止まり人々の指輪を外しました。すると、どうでしょう。固まっていた人々にかかった魔法が解け、自由に動けるようになったのです。

 そのあと、二人は近くにあった部屋へ入りました。すると、そこにはベッドの上で横たわる見目麗しいおとめがおりました。

 やはり旅人は、おとめに近づくと指にはまっていた指輪を外しました。おとめは、目を覚まして旅人に深く感謝をしてお礼を言いました。


「あなたは私を助けてくださいました。あなたこそ、運命の人。私と結婚してください」


 それを聞いてお姫様はどこか面白く無さそうにしています。それを横目で眺めて旅人は、やんわりとおとめの申し出を断るといのちの水がどこにあるのかを尋ねました。

 それから二人はさらに奥へ進んでいきます。ある部屋へ入りますと、そこにはきれいなベッドがございました。とても疲れていた二人からすれば、すぐにでもベッドの中へ潜りたいというもの。お姫様が思わず誘惑に駆られ眠ろうとしましたが、旅人はこれが罠であることがすぐにわかったのでお姫様を抱き上げて中庭へと急ぎました。



3 いのちの水



 中庭へ出ますと泉がありました。それをガラス瓶で汲みますと旅人はお姫様を抱き上げたまま城の外へ出ました。すると、時計はちょうど12時を指しました。

 そしてまた、小人に出会いました。


「そういえば、兄たちを知らないだろうか。俺よりも前に出かけていて戻ってこないのだが」


 旅人が小人にそう言えば小人は、「山奥に閉じこめているよ。あまりに傲慢だから」と答えました。旅人は小人に言い二人の兄を解放するように頼みました。小人が足をならすとぐっすりと眠っている兄二人が現れました。けれど小人は「二人には気をつけるんだよ」と言って姿を消してしまいました。

 お姫様は兄二人を見て旅人に言います。


「まるで魔王のような悪面ね」


 兄二人をそう評したお姫様を旅人は軽く叱ればお姫様も黙り込んでしまいました。そして、また口を開くと


「小人の言うとおり、気をつけるべきだわ」


 お姫様がそういうものの旅人は「疑うのは良くない」と言ってお姫様を諭します。それから、兄二人を宿へ移しますと兄二人は目を覚ましました。旅人は兄二人にいのちの水を持ち帰ったことをつげました。

 それを話している間もお姫様は疑わしそうに兄二人を見つめます。

 それから、夜に兄二人は二人で話し合うとまず邪魔になると考えたお姫様を閉じこめてしまいました。


「お前はここでじっとしているんだな」


 そう言われ、扉を閉められますとお姫様はどんどんと目の前の扉を叩きましたが、いっこうに開いてくれる気配がございません。さあ、困ってしまいました。けれど一人、暗闇の中でお姫様は考えました。


(あまりにわたしが傲慢であった罪なのかしら…)


 翌日、お姫様の姿が見えないと旅人は不安を覚えます。兄二人に先に行くように言いますと旅人は、お姫様を探しに行きました。けれど、いっこうに見つかりません。

 もう戻ってしまおうと思った時でした。どんどんと叩く音が聞こえてくるではございませんか。

 旅人は慌てて音のする方へ行きますと衣装箱から音がしました。衣装箱を開けますとお姫様が手足を縛られ口を布で覆われた状態で発見しました。

 旅人は驚いて慌ててお姫様を縛っている手足と口を覆っている布を取りました。すると――


「遅い!」


 助けて貰って第一声がそれかと思いましたが、よく見ればお姫様の目には涙が浮かんでおります。ずいぶんと恐い思いをさせてしまったと思うと同時に旅人は、お姫様のことを愛おしく思いました。

 それから、お姫様は旅人に兄二人に閉じこめられたこととまだ何か企んでいるはずだと言いました。けれど、身内である兄二人を疑うことが出来ない優しい旅人はどこか渋い顔をします。

 とにもかくにも、兄たちの元へ急がねばなるまいと旅人は思って乗ってきた馬にお姫様を先に乗せてから自分も馬に乗ると駆け出しました。

 しばらく駆けていますと船に乗り込もうとする兄二人を見つけます。その船に二人は慌てて乗り込みました。すると、兄二人はお姫様の姿を見つけて驚いていました。まさか見つけると思っていなかったようです。

 次に兄たちは、二人が眠っている間にいのちの水の中身を海の塩水に変えてしまいました。

 さて、病院に着きますと旅人は父親にいのちの水を持ち帰ったと言い、ガラス瓶を渡して飲ませました。すると、父親の体調はさらに悪くなってしまいます。そこへ兄二人が来てすり替えておいたいのちの水を父親に渡しますと、父親は元気で丈夫になりました。そして、兄二人は父親に言いました。


「こいつは父上のいのちを狙ったのだ」


 旅人とお姫様は驚いて兄二人を見つめます。だまされたのだと気づいた時には、遅く兄二人に雇われた猟師が旅人のいのちを狙ってきました。

 なんとか、その場を二人は逃げ切りましたが二人は途方に暮れてしまいました。

 二人は当ての無い旅に出ることにして、その場を去って行きました。

 さて、その数日後。旅人が助けたおとめがお礼をしたいと言い、旅人の父親の元を訪ねておりました。おとめはなんと、隣の国のお姫様だったのです。おとめは兄二人に求婚を迫られましたが、おとめは「私を助けてくれた殿方はあなた方では無いので出来ない」ときっぱりと断れば父親は、息子を無実だったのでは無いかと考え始めていました。そして、息子を戻ってくるよう近隣諸国に呼びかけることにいたしました。



 お姫様と旅人がある街にいた時でした。ある国の王様が息子を捜していることが二人の耳にも入りました。その息子の名を聞いてお姫様は、驚きです。前にお姫様が「つぐみのヒゲの王様」と嘲笑った相手だったのですから。



4 わがまま姫の王子様



 宿へ戻りますと旅人は、明日は用事があるから戻れないと言いました。お姫様は、どこかさみしそうにしながらも頷いて旅人を送り出すことにいたしました。

 朝になり、お姫様が目を覚ましますとすでに旅人の姿はありません。いつも隣にあった姿がなくなりお姫様は、とても心細く感じました。

 夜になっても、旅人は戻っては来ませんでした。さすがにいつも意地を張っているお姫様でも寂しさのあまり泣き出してしまいます。すると、扉を叩く音がしました。旅人かと思い出ましたが、そこには宿主が一通の手紙を持って立っているだけでした。涙を拭きながら手紙を受け取り、宿主に礼を言うと部屋へ戻って手紙を開けました。そこには、「つぐみのヒゲの王様」から話があるから明日は城へ来て欲しいと書かれておりました。

 どうしてここにいることを知っているのだろうとお姫様は思いましたが、それよりも前に言ったことを言及するのだろうかと思いました。

 けれど、今のお姫様は旅人との旅の中で気位の高い王女では無く自分の過ちをちゃんと認められる女性になっておりました。なのであの時のことを誠心誠意、謝ろうとお姫様は心に決めますと隣が寂しいベッドの中で眠りました。



 翌日。お姫様は、「つぐみのヒゲの王様」がいる城へ向かいました。そして王子から国王になった彼に跪き頭を垂れて嘲笑ったことを誠心誠意謝りました。ののしられるとお姫様は思いましたが、不思議と降ってきた言葉は暖かで優しい言葉でした。


「あなたはかつてのような傲慢なお姫様では無い。どうかわたくしと結婚してくださいませんか」


 お姫様は首を横に振り、かつての過ちを悔いて謝るばかりで彼からのプロポーズを滅相も無いと断り続けました。


「それに今は旅人さんと旅しているのです」


 お姫様がそう言えば国王は、椅子から降りてお姫様の前までくると膝を折ってお姫様に言いました。


「あの旅人はわたくしだったのだよ。あなたの婿を選ぶパーティーのあと、父上が病に倒れられてね。旅を始めたところだったのだ。お前を助けるつもりなんてとんとなかったのだが、困っているあなたを見ていると放っておけなかった」


 それを聞いてお姫様は目を丸くしてしまいます。それから、国王は宿を留守にしてしまったことを謝り何があったのかを話しました。


「城へ戻ると父上に謝られました。それから、兄たちに裏切られたこと。それを黙っていたことを話したら兄たちは、すでに逃げていてどこに居るのかも分からない状態だった」


 お姫様はまじまじと国王を見つめます。すると、旅人と名乗っていた国王はお姫様に手を差し伸べて言いました。


「そして、わたくしはこの国を譲り受けました。けれどわたくしには、妃がおりません。どうかわたくしと結婚してくださいませんか」


 やはりお姫様は国王の申し出を断りました。それでも、国王はお姫様に求婚を続けます。やがてお姫様の方が折れて求婚を受け入れますと魔法が解けて元の美しい姫君に戻りましたとさ、おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実際にある童話をモチーフに書かれた物語とのことで、全体的にふんわりとした童話らしい優しい雰囲気が出ていますが、その分、前半のお姫様の我が儘っぷりは中々にとげとげしい印象を持ちました。 閉じ…
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