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「それでは、新しい料理に移りますかな?まずは何から?」

「えっとまず、竈を見せて頂いてもよろしいですか?」

「もちろん。どうぞ、お嬢さん、城下で注文した最新式の焜炉ですよ」

そう言って胸を張る料理長が見せたのは、薪ストーブに似た形でガスコンロ並みの火力調節の出来る魔導焜炉(これもアマーリエが魔道具屋に火の調節ができたら嬉しいとわがままをいった結果)だった。

「すごいですね。予約がいっぱいでなかなか手にはいらないと伺ってました。値段もかなりするとか」

「ええ。ですがこの焜炉のお陰で調理時間が短縮出来ましてね、問題なくその分回収できてますよ」

アマーリエは料理長の言葉に頷きながら、必要な物を伝える。

五徳の上に焼き網を載せてもらい、その上に底の浅く、口径の大きなフライパンを用意してもらった。もちろんそのフライパンに合う蓋も。

「この焼き網は?」

「網が熱されてフライパンの底にまんべんなく熱が伝わるようになるんです」

「なるほど焼きムラがでにくくなるわけですな」

「はい。後、酒蒸しが出来る程度の深さのあるフタ付きのフライパンをひとつ。ボールやバットはもうそばにあるから大丈夫です」

アマーリエは調理台を見回して頷く。厨房は調理台を中央にして、その三方を囲うように水場、魔導焜炉、石窯、保存庫が置かれている。残りは配膳口だ。アマーリエと料理長は魔導焜炉の側の調理台に立っている。

「じゃあ、次は材料ですね。4人前の分量です。これがこの新料理のメインになる穀物、お米です。精米というのをし終えた状態のものです。これを計量カップで1杯分。漁師鍋のスープを出汁にします。これをカップ3杯。追加用に2カップほど分けてあると助かります。イカが1杯、エビ4尾、ムール貝4個、アサリ8個、トマト1個、カラーピーマンは赤でも黄色でも彩りのいいほうを半分、玉ねぎも半分で大丈夫です。サフランは1つまみほどを戻しておいて、後は白ワインとオリーブオイル、塩コショウです。できれば8人前欲しいので、もう一度同じ分量で作ってください」

アマーリエは説明しながら、材料を8人分並べていく。料理長は言われたとおりに4人前の米を計りボールに入れ、漁師鍋のスープを手の開いている料理人に持ってこさせる。

「トマトは皮を剥いて指先程度の角切りに、ピーマンは少し太めの千切りにしてください。玉ねぎは米粒ぐらいにみじん切りします。イカは下処理をして食べやすい大きさに、貝と海老も下処理を済ませます。まとめて白ワインで酒蒸ししてください。貝の口が開く程度の火の通しで大丈夫です。でた汁は使うので、一度バットとボールに具と汁を分けて出してください」

料理長は、指示通りに素早く材料を処理し4人前ずつに分けていく。

「次は?」

「本来お米は洗うものなのですがこの料理に限り洗いません。このまま、オリーブオイルを入れて米の表面を覆うようにします。小さじで1杯ぐらいで足りると思います」

「こんなものかな?これは出汁を吸わないようにするのかい?」

「はい、この料理は少し固めに炊くので、水の吸い上げすぎ防止です。あ、炊いている間に水分がかなり蒸発するので出汁を多めに用意します」

「なるほど。つぎは?」

「強火にした焜炉の上にフライパンを乗せ、オリーブオイルで玉ねぎを透き通るぐらいまで炒めます。そこに米を入れ、米が透き通る程度に炒めます。さらにカップ3杯の出汁、先ほどの酒蒸しのだし汁、トマト、サフランを戻した水をサフランごと入れます。塩、胡椒を加えますが、煮詰めますので仕上がりよりも薄めにしておきます」

「ふむ、このくらいの塩加減でどうかな?後で魚介も入れるんだろう?」

「あ、いいですね。あと鍋肌についた米を出汁の中に落として、米が平らになるように均します。煮立ってきたら、中火にし、出汁が減って米が見えてきたら米が浸かる程度に足していってください。かき混ぜないでこのまましばらくは出汁を足しながら煮ます」

「この出汁の継ぎ足しはいつまで?」

「米がだしを吸って膨らんで、少し出汁の嵩が減るまでですが、目安としては脈を数えるといいです。60回1セットで、8〜10セットほど」

とっさに、脈で時間を計る方法を行ったアマーリエだった。時計やタイマーが無いこの世界では、こういった加熱などの具合は体感で覚えていくしかないのだ。

「ホウホウ、面白いね。どれやってみるか」

料理長は自分の首筋に左手を当てて数え始める。もちろん右手はお玉をもって、出汁の継ぎ足しをしている。アマーリエはアルバンの村の魔道具屋でキッチンタイマーを絶対作るとこの時心に決めた。

「7セット目。そろそろ出汁は足さなくていいんじゃないか?どうだい?」

「ええ、こんな具合の米の膨らみ具合で大丈夫です。出汁も程よく減ってますし」

「よし8セット目。で?もう一セット行くかい?」

「いえ、これぐらいで大丈夫です。手早く魚介とピーマンをきれいに載せたら蓋をして、弱火にして脈を数えて5セットほど待ちます」

「よしきた、分けやすくかつ美しくだね、こんな感じかな?」

「わ、さすが!きれいです」

「それじゃ蓋をして、火を弱く。こんなものかな?数えるよ1…60!よし5セットだ、蓋を取るよ」

「「おお!」」

あたりにいい匂いが立ち込める。

「汁気がなくなっているのでもう火を消して大丈夫です。もし汁気が残っていたら強火にしてさっと飛ばせば大丈夫です」

「味見をしようか?」

料理長はいそいそとスプーンで小皿に炊けたお米をよそう。

「では、まずお嬢さんから」

「頂きます…うん!美味しい。これですこれ!このおこげが!」

「どれどれ…うーん。だしを吸って素晴らしく美味しくなってる。かなり腹持ちが良さそうだねぇ」

「はい、噛めば噛むほど味わいが出て、しっかりお腹にたまります。あ、しかも体力回復(微)の効果がついてますよ」

「おお!こりゃすごい。魔力持ちの素材を使えば何らかの効果が出る料理ができると聞いてたが。よし、じゃあもう4人前作ってみるかな」

「よろしくお願いします。出来たのは個々に盛りつけてもらって構いませんか?」

「大丈夫だ。ではお嬢さんは席で待っててくれ、すぐに今作った分は用意するよ。ああそうだこのレシピの登録なんだが」

 料理長は、新しい料理のレシピ登録をどうするかアマーリエに確認する。登録レシピの審査期間があるとは言え、ここでアマーリエが名前を登録してしまっては、狙っている者に存在がバレる可能性が高い。それこそダールに雷を落とされる。アマーリエのお菓子のレシピに関しては一旦非公開で登録することで、審議する領都の商業ギルドのトップと領主だけが閲覧可能になっている状態だ。

「料理長の名義で登録していただいてよろしいですか?」

「は!?かまわんのかね?」

「その代わり、無料レシピにしていただければ嬉しいです。そして料理長が応用で作ったレシピは、そのまま料理長が登録してください。私の確認は必要ありません」

「もちろん、お客さんがそれでいいなら無料にしよう。これが広まるほうが私も嬉しいからね。応用も楽しそうだ」

「それではそのように。後、米の入手については穀物屋のご主人と打ち合わせしてください」

「了解した。いや、久々に心躍る」

「よろしくお願いします」

アマーリエはいそいそと3人が座っている席へと戻った。

「お待たせしました。上手く出来ましたよ」

「おお!出てくるのが楽しみですねぇ」

「ちなみに、体力回復(微)の効果もつきました。ただどの程度の効果があるのかよくわかりませんが」

「それは!是非欲しい!リジェネの効果か。私にも食べさせて欲しいんだが?」

ダリウスが目を輝かせて言う。

「もちろんですよ。4人前できてますから。あ、持ってきてくださいました」

給仕によって、きれいに盛り付けされたパエリアと大きな皿に盛られた揚げ芋、取り皿が持って来られた。

「漁師鍋の方はもう少しお待ちください。あと、こちらはサービスのフリュ茶になります」

「ありがとう。もう4人前作ってもらってますから、ベルンさんたちにあとで食べてもらいましょう。先にこれは頂いちゃいましょう」

そう言いながら、アマーリエはリュックから買った青のりを取り出す。

「あら、さっき海藻屋で言ってた揚げ芋に青のり?」

パエリアを食べ始めた皆をよそに取り皿に揚げ芋をとって海苔をふりかけるアマーリエにファルが話しかける。

「美味しいですよ。たべてみます?」

「お、うまそうだな、どれ」

後ろから伸びてきた手がのり塩ポテトをつまむ。振り向いたアマーリエの後ろには、食材を持ったベルンとマリエッタが立っていた。

「あ、ベルンさん、マリエッタさん。すみません先に頂いてます」

「あら変わった料理ね?新しく出来た料理なの?」

マリエッタがそう言いながらアマーリエの隣りに座る。

「うふふ、先ほど出来たばかりのできたてホヤホヤです。まだあとから4人前くるんでマリエッタさん先にどうぞ」

「お、この揚げ芋に海苔ってのいいな。エールが欲しくなるな」

ベルンは取り皿に揚げ芋を載せて、リエから青のりをふりかけてもらって食べている。

「なかなかいい組み合わせでしょ」

「ちょっと、リエ!これリジェネ効果付いてるわよ!どういうこと!」

「マリエッタさん、効果よりも味です味!」

「いや、リジェネ効果だろ!」

「ベルンさん、リエさんにはおいしい幸せのほうが大事なんですよ」

ファルの言葉にウンウンと頷くダリウス。もちろんこちら二人もパエリアを一生懸命食べている。

「美味しいわよ!この海鮮の出汁を吸った穀物が最高よ!でさらにこの効果が気になるの!」

「それはこのアルバンで取れるというこの穀物、米に微量に魔力が残ってるからだと思われます」

「アルバンのダンジョンで取れる穀物?あら、それって3階層の湿地に生えてる草の種じゃないかしら。非常食として駐屯地の騎士が採集していくけど、騎士たちは美味しくないって言ってたわよ」

「え、非常食なんですか?美味しくないってどんな食べ方してるのかソッチのほうが気になりますが、その非常食がなんでこっちに売られてきてるんでしょうか?」

「ああ、それはたまたまあちらで仕入れた商人が試しに出したみたいですねぇ。うちはうっかりで仕入れちゃったとしか言いようがありませんが、これからはしっかり買い付けようと思います」

「ええ、ぜひそうしてください」

穀物屋の主人と固く握手するアマーリエをベルンが不思議そうにみている。

「アレ〜、もう食べ始めてるの?俺も頼まなきゃ。給仕さん〜」

「私も頼む」

最後に来たグレゴールとダフネが給仕を呼びながら席につく。

「お二人は持ち込みじゃないんですか?」

「俺は買ってる時間がなかったんだ」

「私は此処で食べるものはいつも決まっているんだ」

「あ、お二人の分のパエリアもありますからその分も考慮して頼んでください」

「お待たせしました。残りの新料理と漁師鍋、パスタのお客様は今から始めますね。お客様コチラお持ち帰りの分です」

アマーリエはそそくさと保温ポットをリュックにしまう。

「あ、パスタなんですが量を減らしてください」

「ハイかしこまりました。そちらのご注文は?」

「これがパエリア?それなりに量があるね。そしたら俺はあと白身魚のフライセットにしよ」

「私は海鮮焼きを2人前にステーキを3人前頼む」

「かしこまりました」

「わー漁師鍋美味しそう」

「「リジェネ!?」」

「あーそれはねぇ」

驚いている二人にマリエッタが説明し始める。

「うん今日も美味しいものがいっぱい食べられて幸せ」

賑やかに食事を済ませた一同はこの後北に向けて次の街へと旅立っていった。


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