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「よっし、それじゃあ鐘4つに漁業組合の食堂に集合だ。そこで昼を済ませて出発する。それまでに用事を済ませること。では解散」
そう言うとベルン達はそれぞれ用事があるらしくてんでバラバラに歩いて行った。
「リエさん、まず最初にローレンの簡単な地理を」
ファルはそう言うと、南を指さして青く光る海原を示す。
「わぁ、海だ!」
「今いるのが陸側で南を見ると海が見えますよね。あちらが海側と呼ばれています。逆にこちら側が陸側です。ローレンの門は陸側はここだけで、海側は漁業用の港と商船や旅客船などよそからくる船が入ってくる港の2箇所が海の門代わりになります。海に向かって左方向の湾にあるのが漁港、右方向にあるのが商港です。ちなみに軍港は町から離れたところにあります。魚市場は漁港、土産物市場は商港にあるんですよ。で、あそこに見える鐘撞き塔がローレンの広場になります。迷子になったら、あの塔を目指して歩いて、海がどちらにあるか確認してここの馬車預り所までくれば元に戻れます」
「なるほど、海と鐘撞き塔を目印にすればいいんですね」
「そうです。では行きましょうか」
「はい」
アマーリエはファルに連れられてローレンの魚市場へと向かう。バルシュティン辺境伯領の海の玄関口も兼ねるローレンの港町は、すでに様々な人で溢れかえっている。
「さすがに人が多いですね。逸れてしまってもなんですから手を繋ぎましょう」
「はい。人の混み具合が御城下と全然違いますね」
「バルシュは人も多いですが、街そのものが大きいですからね。門は3箇所にあってそれぞれに市がたっていますから人が分散されるのでしょう。ローレンはどうしても港側に人が流れますからその分密度が高くなってしまうのですよ」
「なるほど」
「この広場を抜けて、通りを港に向かってまっすぐ下りると左が漁業組合、右側が港湾管理局になります」
広場には、ちょっとした屋台が出てそれを買い求める人や食べる人、思いも思いにくつろぐ人などそれなりの人混みになっている。
そんな中、広場を抜け緩やかになった坂道を人混みを交わしながら、二人は通り抜けていく。
「オー、立派な建物ですね。お昼にこの漁業組合の食堂ですか?」
「ええ、一階に一般開放された食堂があるんですよ。もちろん町にも食堂はありますが、ここに来たら一度は漁業組合の食堂で食べるというのが醍醐味なんですよ。さ、市場はこっちです。魚市場は組合の方に通りを折れるとずらっと続くんですよ」
色鮮やかなテントとそこを歩く人の波ですごいことになっている。
「わぁ、ほんとだ!ファルさん、何を買うんですか?」
「配達の依頼を受けている海産物を買うんですよ。後は、この漁業組合の食堂で調理してもらう食材も買います」
「配達依頼ですか?」
「ええ。ふふ、不思議そうですね。私達クラスの冒険者がそんな簡単な依頼をなぜってところでしょうか」
「あははは」
「そうですね、まず冒険者のクラスアップは魔物の討伐ポイントと世間貢献度の二評価あるのはご存じですか?」
「初めて聞きました」
「基本的に数調整の魔物の討伐依頼は討伐ポイントが高く、貢献度が低く設定されています。逆に町中の依頼や配達や薬草採集などの依頼は討伐ポイントがないかもしくは低くなっていますが、貢献度は高くなっています。もちろん討伐依頼であっても緊急事案などは貢献度も上がってきますし、採取依頼もレアな素材や危険度が上がれば討伐ポイントが高くなります。クラスアップ試験は討伐ポイントと貢献度が一定数に達して初めて行われます」
「ああ、なるほど。それでファルさんたちのクランはダンジョンで討伐ポイントを、道中の配達や採取依頼で貢献度を稼ぐんですね」
「そういうことです。そして、このシステムのお陰で、質の高い冒険者だけが生き残れるようになります」
「んー、初級クラスが功を焦って討伐ばっかりしても貢献度が貯まらないからクラスアップできない。慎重すぎて町中依頼ばかりこなしてもクラスアップできないわけですね。遠くへの配達依頼はどうしても馬や荷馬車が必要になるからそれを維持できるクラスがそういった依頼をこなすように必然となるわけですか。で、そういう移動手段や維持費をきちんと稼いで、運用するには計画性が必要になるからどうしても淘汰されていってしまうと」
「そういうことです。特にアルバンのダンジョンがあるバルシュティンはハイクラスが集まります。初級クラスは上級クラスでも討伐ポイントの低い依頼をこなしているのを見ることになります。見ていれば考えるでしょう?わからなければ聞きにきます。ただ闇雲に強いだけでは上のクラスに成れないと学ぶことになります」
「それで、ある程度下地ができた状態でよそに出て中級依頼をこなして自分の実力を知るわけですね。はぁ、よく出来たシステムだわ」
「ええ、ですからいい冒険者はバルシュテインからスタートをきることだって言われてますよ」
「なるほど」
「まぁ、でもバルシュテインで登録してすぐ外に出てしまって潰れてしまう冒険者もいますけどね」
「どこにでもいるわけですね、短絡的な人って」
「そういうことです。さ、リエさん。まずは依頼品の購入です」
「はい。おお、海藻がいっぱい」
かなり大きなテントの前に付く。ビール樽ぐらいの大きさの樽に海藻が山ほど盛られてところ狭しと並べられている。
「ええ、山間部では薬になるんですよ」
「ああ、ヨード欠乏症か」
アマーリエが小声でうっかり出してしまった前世の病名にファルが不思議そうな顔をする。
「?」
「あ、なんでもありません。どうぞ買い物してください。見てます」
バルシュではワカメのスープや海藻サラダなどが普段の食事でも出されヨウ素を普段から摂取しているが海から離れた土地では売りに行くものや運ぶものがいなければアイテム保存グッズがあるといえどもやはり海藻類は手に入りにくいものになっている。そうなるとどうしてもヨウ素不足で起こる病気が発生しがちになる。それ故に海藻は薬扱いになるのだろうとアマーリエは考え、普段の食事に取り入れやすいレシピがないかと海藻の山をにらみ始めた。
「ご主人!すみませんがこの乾燥わかめ、のり、昆布、寒天を2樽分ずつ、このアイテムポーチに別けて入れてください」
「お、ファルさん、久しぶりだねぇ。今年もダンジョンごもりかい?」
「ええ、海の方はいかがですか?」
「このところ魔物が出るって話も聞かないな。テンレスの方じゃ海賊が暴れまわってる話は聞くけどこっちじゃ影が見えただけですぐ御用だからなぁ」
「そうですねぇ、ここの海軍も並外れてますから」
「後は、深海の魚が揚がったって騒ぎになったぐらいかな。組合にしばらく飾っとくみたいだぞ」
「お昼に食堂に寄るのでみてみます」
なるほどこういう買い物の時にも噂の収集をして情報の精査をするんだなとアマーリエはマリエッタの言っていた話を思い出す。
「そっちのお嬢ちゃんは新人かい?」
海産物屋の親爺に声をかけられたアマーリエは不自然にならない程度に設定を話す。
「いえ、わたしも依頼品です。料理修業を終えて村に帰るんですがついでに送ってもらえることになりまして」
「なるほど料理番をしながらなら依頼料は少なくて済むな」
おどけて言うアマーリエに、店の主人が納得したように勝手に答えを出す。
「そうなんですよ。おじさん、私もそこの青のり、ヒトエグサ、乾燥わかめを一升ずつと昆布の束を3つ、棒寒天10個ください。あ、じゃがいもって売ってる所あります?」
「はいよ。八百屋系はもう少し漁業組合よりだな。港寄りが鮮魚系、真ん中あたりはうちみたいな乾物系になる。で、八百屋や果物屋は組合側にあるんだ。調味料なんかは、港湾局すぐの位置に出てるぞ。しかしじゃがいもなんかどこにでもあるだろ?」
「なるほど、ありがとうございます。組合の食堂で揚げたじゃがいもにこの青のりと塩を振って食べようかと」
「おお!その組み合わせは思いつかなかったな。旨そうだ。俺も後で頼んでみるかな」
「大将!準備出来ました」
「応よ、ほいじゃあ、ファルさんはおまけして5万きっちり、嬢ちゃんは9500のところを負けて9千だ」
「はい、ではこちらでちょうど」
ファルは店の若い衆からポーチを受け取って普通の袋にしまう。
「おじさんありがとう!はいこれ」
アマーリエはアイテムリュックへ買ったものをしまい込む。
「まいどあり〜、また来年よろしくな」
二人は店の親父に手を振って歩き出す。
「後はお昼の分ですね。リエさんはどうします?漁業組合の食堂は食材持ち込みで作ってもらえますよ」
「おお、ブイヤベースって作ってもらえるのかしら。いっぱい作ってもらって空いたマグに詰めるんだけどな。ファルさんはどうするんですか?」
「まだ時間に余裕がありますし、端から見ていっていいのがあれば持ち込みにしますか?」
「いいですねぇ。私は甲穀類もみたいです」
「穀類関係の商店も港湾局寄りですね。では先に漁港の方から順に見て行きましょう」
二人は、まず最も水揚げ場に近いところまで歩いて行く。