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出発前日に送別会を終えて、アマーリエはクラン『銀の鷹』の泊まるゴドフリーの宿に領主の指示で宿泊した。髪の色も変えるようにと道中の間の染め粉も渡され、夜のうちに染めた。

アマーリエは城下で料理修業を終えて村に帰る娘の設定だ。クランに護衛の依頼を受けてもらうが、クランの料理番をすることでハイクラスの冒険者が村娘一人を護衛するというまわりが感じる違和感を払拭する。すでに、ギルドでも護衛依頼が出され銀の鷹が依頼を受けている。

目覚めて、ベッドから抜け出すとドレッサーの前に座って髪を整え始める。

「あー、久しぶりにゆっくり寝た。習慣で目が覚めるかと思ったけどそうでもなかったな。しかし、髪の色が茶色になるとすっごい落ち着いて見えるなぁ。私の赤毛ってピンクゴールドだから。ふぅ…見送りなしか。寂しいなぁ、もう。まぁ、しょうがないか。見送りがあったら、私がここにいますってアピールするようなもんだからなぁ。旅程が長いのも要するに、私の影武者とかが先に出て最短時間でアルバン村に行って囮になる。本命はあとからのんびり行って無事到着ってところかしら?まあ、銀の鷹相手に喧嘩売るってよっぽどだしねぇ」

1週間前に説明されなかった事情をなんとなく推測するアマーリエ。自分が真っ先に動くよりもまわりの専門家に事態の対処にあたってもらい、自分は問題が起こればその都度対処していき、軌道修正はご領主かダールに任せればいいとこれまでの経験から納得しているアマーリエであった。

「できることをやればいいのよね。よしっと」

髪をまとめ終わると旅行用の少し厚手のワンピースにズボンを履いて、革の長靴を履く。

「剣帯はっと、武器屋のおじさんなんて言ってたっけ?えーっとこうつけて…こうか。ナイフを装着と。このナイフじゃ鳥やうさぎぐらいまでは解体できるけどそれ以上は無理だな。刃がこぼれる。必要になったら途中で買うか。あとはマントか。ここらはもう暖かいからなぁ。ううん?」

バルシュはすでに春だが、アルバン村は領地のと言うより大陸の北の端っこに近いのでまだ寒さが残っているとはギルドの受付の話。さすがに街道の雪は除去されて入村できるようにはなっている。某星の何処かの峡谷の雪の壁のようになってはいないだろうとアマーリエはみている。

「一応マントはすぐ出せるようにアイテムリュックに入れてと。さて、行きますかね」

アイテムボックスは昨日のうちに銀の鷹の幌馬車に積み込まれた。

宿の受付に行くとグレゴールとファルがすでに来ていた。

「おはようございます、グレゴールさん、ファルさん」

「おはよう、リエ」

「リエさん、おはようございます。ベルンがここの支払いを済ませたら東門に行きます。鐘1つ(6時)の前なので朝食は幌馬車で済ませますから」

「はい、わかりました」

これから、アルバン村までは愛称である「リエ」と呼ばれることになっている。これもカモフラージュの一環だ。あまり違いすぎる名前では、アマーリエの反応がぎこちなくなる可能性があるからだ。

しばらくすると皆集まり、揃って東門へと向かった。

「お嬢、鐘2つ(8時)前には港町のローレンにつく。ローレンで昼を食べたら出発するから、それまでに欲しい物や見たいものがあったらファルと一緒に買っておくんだぞ」

「はい、ベルンさん」

ワクワクしながら返事をするアマーリエにマリエッタが笑いながら声をかける。

「ぷくく、リエ、先は長いからお小遣いは使い込みすぎるんじゃないわよ」

「う、わかりましたマリエッタさん」

「さて、あの幌馬車がうちのだ。リエは最初は御者台にグレゴールと一緒に乗って御し方を教わるんだ」

「はい、わかりました」

ベルンが指差す方を見ると二頭立ての幌馬車が、すでに預り所から引かれて来ている。グレゴールが担当者に割符を渡して馬車を受け取っている。

東門はすでに開門しており、港町ローレンから戻ってくる荷馬車が次々と入ってきていた。出て行く馬車は2台ほどだった。徒歩の者も何人かのグループになって固まって移動し始めている。

グレゴールは御者台に乗るとアマーリエを隣の席に引き上げ、残りの5人は幌のかかった荷台へと乗り込む。

「じゃ、行くよ。リエはまず俺と馬をよく見てるんだよ。まずは、手綱を軽く当ててれば、馬は歩き始める。で、あの左側に見える列の後ろに付きたいから、馬に左に行ってもらうように指示しなきゃいけない。で、その場合は手綱の左側を引いて、左側のリルに指示を出す。要するに行きたい方向に居る馬の視線を進行方向に向けさせるんだ。右ならハルね。馬が分かる程度に引くのが大事だよ。あんまりきつくや急にやると馬が嫌がるからね。自分だって急に引っ張られたら嫌だろ?かと言って弱すぎて馬に伝わらなきゃ意味が無い」

「わかりました。指示そのものは馬が混乱しないように明確にってことですね」

「そうそう。止まるときは手綱を両方ゆっくり引く。急に引くと馬が驚くからね。だから止まるちょっと前からゆっくり手綱を引き始めるのが大事だよ」

列の後ろについたのでグレゴールは馬車を止める。前の馬車が動くと、馬に進めと合図を送る。アマーリエはその手綱さばきと馬の動きをまじまじと観察している。検問官のところで一旦留めて、グレゴールは通行許可証と身分証を見せる。

「はい、結構です。良い旅路を」

検問官と衛兵に見送られて馬車は街道を進み始めた。

「今日はかなり街道が空いているし、うちのリルとハルは賢こくてこの道に慣れてるからある程度ほっといてもローレンまで行ってくれる。さて、朝ごはんにしようか」

「はーい」

アマーリエはニヤリと笑うとあるものを取り出した。

「え、リエ、それ何?」

「飲み物ホルダーです。この穴の開いた部分に、飲み物を入れた容器をおくんですよ。瓶ケースの簡易版ですね。これ御者台に固定していいです?」

「え、ああ、いいよ」

アマーリエは生活魔法の土属性を使ってボックスを座席にくっつけてしまう。そしてリュックからマグカップぐらいの大きさの筒を取り出した。

「で、とっておきがこれです!どうしても欲しかったんで、この短い期間で馴染みの魔道具屋のおじさんと鍛冶師のおじさん巻き込んで作った魔法瓶型マグ!指のタップで飲み口が開く仕様。どうですこの便利さ!片手で持てるので運転中でも飲めるんですよ〜。揺れてもこぼれません。で、このホルダーに置けます。いつでも片手で取れるんですよ!ちなみに販売は登録が済んでからになります」

「え、ちょっと、この短期間でそんなの作ったの?」

「は〜い。馬車移動と聞きましたので、揺れても大丈夫、出しっぱなしでも保温機能のある容器が欲しかったので作ってみました」

「なんつースキルの無駄遣い」

基本旅の飲水は革袋が殆どで量が入るよう拡張魔法がかかっている。あとは、中に浄化石が入れてある程度だ。どんな状態になっても安全を維持できる程度で身軽な支度をするというのが基本だからだ。

「いやいや、うちの領みたいに安全基準が高いならその分旅の快適度を上げるのも大事じゃないでしょうか。美味しいご飯は幸せの素です。おじさんたちも死に体にはなってましたが出来上がったらかなり喜んでましたし。普段使い出来ますからねぇ、これ」

「さすがパン屋の娘さんていったほうがいいのかな。今頃ダールさんが頭抱えてそうな気もするけど」

「何面白そうな話をしてるの?」

後ろから顔を出したマリエッタが一般的な携帯食を片手に話しかける。

「いや、旅の食事情改善のために一食分のスープ用の飲み物容器と気持ち多めに入る飲み物容器作ったんですよ。ちなみにこっちのマグカップサイズはコーンポタージュ、こっちの水瓶サイズには温かいパシュのお茶が入ってます。アイテムリュックにはこの容器のを3日分ずつ、アイテムボックスには出来たてのスープを鍋ごと持ってきました。すぐに温かいものが食べられる方がいいかなと思いまして。アイテム保存グッズってホント便利ですよねぇ」

「リエ、あなた食い意地張りすぎ」

多くの冒険者は、アイテム保存系グッズを食べ物でいっぱいにすることはない。現地調達が基本だからだ。出来ない場合に携帯食を食べて凌ぐ。

「まぁ、そうおっしゃらず。いかがです温かいスープ?春とはいえ、この時間はまだ冷えますから体が温まりますよ。ちなみにコーンポタージュとミネストローネ、かぼちゃのポタージュです。お茶はパシュのお茶のみになりますが」

「リエさん、お茶とかぼちゃのポタージュをください。いくらですか?」

早速食いついたのはファルだった。

「お茶は保温ボトル込みですと2150シリングでボトル返却ですと150シリングです。スープは保温マグ込みでどれも2000シリングで返却ですと200シリングです」

「お茶は保温ボトル込みでスープは返却で、はい2350、ちょうど」

「ありがとうございます。ご新規さんキャンペーンでモルシェン特製ライ麦パンサンドをおまけで付けましょう。ちなみに具はチーズに照り焼きチキン、レタス、ソースはマヨネーズになってます。ささ、どうぞどうぞ」

アマーリエはリュックから次々と品物を取り出しファルに渡していく。ファルは包みを開けてサンドイッチにかじりつく。

「んっく、美味しいです!リエさん。で、この保温マグですが?」

「こうやって、上の蓋の部分を指で一回タップすると小さく蓋が開くんです。閉める時は二回です。ちなみに3回叩くと大きく蓋が開いて、スープを入れやすく、またスプーンで掬って食べられます」

「こうですね。あ、あきましたね」

ファルはすぐに真似をして小さく蓋を開け、そっと口をつける。

「はぁ、温まりますぅ」

そのあまりに幸せな様子に、残りの5人が我慢できなかったのは言うまでもない。

「よっし!港町で何買おうかな〜」

「ちゃっかりしてんな、お嬢は」

「でも、お茶の容器は本当にいいですよ。出しっぱなしにしていても温かいものがそのまま飲めますから。御者役の時は助かります。片手が空くのもいいと思います。量も半日は保つぐらい入りますし」

グレゴールがそう言うと、ダリウスが機能について聞いてくる。

「そうだな。これは冷たい物も大丈夫なのか?」

「はい、いれた時の温度を保つ設定にしてあります。ので、あんまり熱すぎるものを入れると飲む時にやけどしちゃうんで注意してください」

「これって貴重な液体採取物の保管にもいいんじゃないの?なんで今まで誰も気が付かなかったのかしら?」

「考えなかったわけじゃないみたいですよ。ただ、アイテムボックスにアイテムポーチやアイテムリュックって入れられないじゃないですか。今までの水容器も水を確実に確保しておくために拡張魔法かかっていたでしょ。魔法条件が反発してたんですけど、その条件をクリアできるようになったんで作れるようになりました。要するに保存機能だけ保たせたんですよね。だから容量は普通のマグやボトルと変わんないんですよ」

「ああ、そういえばアイテム保存系グッズの入れ子をしたら、無制限に持ち運びができると初めは思うんだが出来ないんだよなぁ」

「そうなんですよねぇ、入れ子にできちゃうと本当にばかみたいに持ち運べるようになっちゃうからそれを防ぐための禁止条件がくみこまれてるんですよねぇ。おまけにその条件は解除できないし。その上、空間拡張と拡張が魔法同士で反発しちゃうんですよ」

「なるほどね」

「なぁ、このサンドイッチってお店で売ってたっけ?」

そう言って物足りなさそうにサンドイッチの包を見るのは虎耳がヘタっているダフネだ。

「緑の日の昼のみの販売なんで、出るとすぐ売れちゃうんですよ。口に出来てる人って少ないかもしれません」

「あれ、そうなの?」

「はい。定番のサンドイッチとは別に、色日によってパンと具材が変わるんですよ。青の日はパニーニにエビとアボガド、赤の日はカツサンド、紫の日は平マフィンイングリッシュ・マフィンにチーズと白身魚のフライにタルタルソースを挟んだの、黄の日はコッペパンにコロッケを挟んだの、茶の日はバンズにチーズにレタス、トマトと牛肉のパテを挟んだのになります。あ、ちなみに白の日は定休日です」

「う、そんなに色いろあるのかー。いつもバルシュは、アルバンに行くための許可証をもらうだけだから滞在期間が短くって全然知らなかったよ。帰りに色々試そうかな」

「私が3年ほどアルバンにいますので、一応モルシェンのアルバン支店として色々出せるよう頑張ります」

「「「「「「期待してるからな!」」」」」」

「ひとりなんで、あんまり無茶できないんですけど、まぁ頑張ります。じゃあ、飲み終わったスープの保温マグ回収しますね」

アマーリエは、マグを集めると浄化魔法をかけ、リュックに放り込んだ。

「はいはい、もうすぐローレンに着くよ」

グレゴールは、港町の門番に許可証を見せて、馬車預り所へと向かった。

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