おじいちゃんずるい!
魔力溜まりの件が世界で一斉に発表されたあと、領地漫遊を切り上げて領都に戻ってきたゲオルグ。ウィルヘルムやダール、フリードリヒとともに領地としての方向性や国とのかかわり合いを協議した後、アマーリエからの温泉村計画を受け、あっさり孫に仕事を割り振った。
「この難局を乗り切れば、一回りも二回りもでかい男になれる!わしを越えるのももうすぐじゃな!では、ウィルヘルム!頑張るんじゃぞ!」
そう無責任な根性論でゲオルグが孫を鼓舞して、アマーリエのもとに東の魔女とともに跳んでいった(文字通り)。東の魔女からは、ウィルちゃん大きくなったわねー、偉いわねぇ頑張ってねと祖母のように褒められたが。
「……ダール」
「なんでしょう?」
「お祖父様だけ、ずるくない!?」
「すでに家督を譲られておりますれば」
「父上は王都で頑張ってくださってるからまだいい!まだ、許せる!」
「……」
「何故、お祖父様だけアマーリエの作る美味しいものを食べられるんだ!ずるいじゃないか!」
バーン!
執務室の扉が蹴破られたかのように開き、お屋敷の料理長が転がるように入ってきた。
「大隠居様がアマーリエのところに行ったというのは真でございますか!」
血走った目の料理長にしがみつかれて少し冷静になったウィルヘルムだった。
「え、ああ。行ったよ」
「大隠居様だけずるい!私も行きます!首でいいですから、行かせてくださいませ〜!」
もちろんウィルヘルムは必死で止めた。自分が行けないのに、料理長だけ行かせてなるものかと。それに料理長が行ってしまえば、水準の落ちたものしか食べられなくなってしまうからだ。
なんとか、下の者を鍛えるまではと引き止めることに成功したウィルヘルムだった。
「疲れた……お菓子」
「アマーリエから、新しいお菓子が届いておりますよ?」
ちょっぴりかわいそうに思ったダールが、アマーリエから届いたお菓子を小出しして引き伸ばし作戦を行うと決めた瞬間であった。
このままでは領主と料理長が手に手を取ってアルバン村まで逃避行を行いそうだと思ったので。
たとえ本音が菓子や料理にあったとしても、現領主に男同士で駆け落ちしたなどと噂がたてばさらに婚期が何処かに行ってしまうことになりかねなかった。
手の者に、領主の監視強化を頼み、料理長には仕事を増やし、早々逃亡しないよう手段を講じていくダール。
そして、西の魔女と南の魔女にはくれぐれも領主のくだらない願いを叶えないようお願いしますと魔法ギルドに足を運び、先手も打っておいた。もっとも南の魔女は皇都から呼び出しがあって不在ではあったが。
「……まったく。アマーリエにちょっかいを出そうとしてきたあのバカ野郎には、生まれてきたことを後悔させて差し上げます」
そう言って屋敷の人の居ない場所でつぶやいたダールの禍々しい姿をうっかり見てしまい、肝を冷やした影者達であった。




