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ダンジョン村のパン屋さん1〜ダンジョン村道行き編  作者: 丁 謡
第10章 旅は道連れ世は情け
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日が昇りきり、春の柔らかな日差しの中、眠気を誘うような馬のポクポク駆ける足音が街道に響く。

「なぜこうなったし?」

御者台の隅っこに体を寄せベルンがぼやく。

「あぁら、なんか言った?」

「いえ、何も」

そこそこ広い御者台の真ん中に設置したドリンクホルダーが外され、南の魔女がベルンにべったりくっついて座っている。

ベルンとアマーリエが御者台に乗るはずだったのが、その間に割り込んできたのだ。

「…せっかくのドリンクホルダー」

「なぁに?お芋ちゃん」

「なんでもないです」

スケさんとカクさんは騎乗で馬車の後ろを護衛し、ダフネは相変わらず馬車と並走している。

幌の中は温泉に浸かって身も心もすっきりした人々がうたた寝中である。ちなみにシルヴァンはアルギスの抱きまくら中である。子供の頃から動物を飼いたかったらしく、ちょっと堪能したかったらしい。

「南の魔女さま、神官様の護衛はいつまでですか?アルバンにつくまで?」

後ろを気遣い、声を落として隣の極楽鳥に声をかけるアマーリエ。

「ず〜っとよぉ」

「ず〜っとですか」

「そうよぉ。ベルン、ダンジョンもよろしくねぇ」

「う、はい」

「ちょっと!いつそんな話になったのよ!」

「温泉でな…。断れなかったんだ」

「ベルン〜!」

「あ、マリエッタさんおはよ。南の魔女さまが一緒ってことは、あれ、神官様もダンジョンに潜るんですか?」

「そうよぉ。アルバンのダンジョンで付与効果のある穀物が取れたんでしょ?」

「お米のことですか?すんごい早耳ですね」

「しかも美味しいって、色んなギルドの報告書に書いてあったわよ」

なんだかんだギルド本部の上層部は各ギルドの報告書も回し読みすることになったらしい。

「あれ?皆さん報告上げてたんだ」

「一応な。微弱とは言えリジェネ効果のある穀物を黙ってるわけにいかんだろ。神殿はとくに薬関係にも関連がある。米を栽培できるようになって、各国に行き渡るようになれば難易度の高い魔物の討伐も少しは楽になるからな」

「あれっ?でも、ダンジョンの魔素の濃いところで生えてるからそう言う効果がついてるんじゃないですか?普通の土地じゃただの米のような気が?これまでのこと考えると」

「それを調べる役目をアルギスが任されたのよぉ」

「え、じゃあかなり長いことアルバンにいることになるんじゃ?」

植物の生育の観察なんてたとえ一年草といえども、ともすれば10年は軽く超えることなどしょっちゅうだ。

「そういうこと」

「私は兄に放逐されたのですよ」

幌から苦い表情で顔を突き出し、シルヴァンを抱きしめてアルギスが自虐的に答える。

「うぉ、びっくりした。え?あれ?神殿の依頼で足運んだんじゃないんですか?」

「表向きは、私が官位を辞して自ら調査に赴いたことになっていますが、兄にそうするよう命じられたのです」

「ちょぉっと、アルギスゥ、言っちゃだめでしょぉ」

「ここに居るものは口外しないよ」

ブスくれて、シルヴァンに顔を埋めるアルギスに、テシテシと撫でるがごとく前足をアルギスの上に置くシルヴァン。

「あ、なるほど。隔離か」

「ちょ、お芋ちゃん、あんた答えにたどり着くの早すぎぃ。もぅ、内緒なのよぉ」

「つまり南の魔女さまへの護衛依頼は皇帝陛下直々ですか」

「あちゃ」

「語るに落ちましたね」

「…どういうことですか?後、兄上は兄上でお願いしますね」

大っぴらに位を話すわけにはいかないのでアルギスが釘を刺す。

「ちょ、シルヴァンの首しまってますから緩めてやってくださいよ!」

「え、ああっごめんね。シルヴァン」

「ちょっと、ファルさん。昼行灯じゃないって言ってましたよね、この人」

寝ぼけ眼のファルにアマーリエが昨日話してたことを突っ込む。

「リエさん、人を指差しちゃだめです。ええ、聡明な方だとお伺いしてます。兄上が絡まなきゃって但し書きつきますけど」

ファルが、帝国の神官たちがこぼすように付け加えていた一言に今、納得した。

「つまりあんちゃんが好きすぎて、あんちゃんが絡むととたんに話が通じなくなるんですね」

「ちょっとぉ、お芋ちゃん。あんたぶっちゃけすぎぃ」

「たしかに私は兄が大好きですが!」

「…アマーリエ説明してあげたら〜」

この流れで大凡を察したマリエッタが面倒事をアマーリエに押し付ける。

「えー、マリエッタさんが説明すればいいじゃないですか。面倒だからって私に押し付けないでくださいよ、あ、ゲオルグ様お願いします。一番説得力あるし」

「わしじゃ、納得せんよ。貴族じゃからの。リエ、ちーっとぐらい助言してやったらどうじゃの」

「じゃあ、助言一個につき帝国の美味しい素材をもらうってことで」

「相変わらず容赦ないのぅ」

「最初ぐらい、おまけしてあげなさいよ」

「わかりました。最初の質問にはただで答えましょう。それ以降の助言にはなんか美味しいものください。どうです?」

「わかった」

「いや、わかったってなんでその流れに流されるのかねぇ。大丈夫か、この人?」

「ベルンは黙ってなさいよぉ」

「う、はい」

「んじゃ、えっと。帝国の粛清ってどっからどこまでだったんですか?」

「皇族、及び諸侯だね」

「おお、やるね皇帝陛下。普通はそこまで思いきれないし身動き取れないのに」

「だからこそ氷とあだ名されるのです、兄上は」

「でも、あなたは生き残ってる。これが一つね」

「私には帝位に邪な気持ちはありません、だから兄上は私を残したんです」

「んじゃ、継承権は放棄した?」

「しようとしましたが許されませんでした。現状、継承権を持つのは私一人ですから」

「しないままで神殿に放り込んだんだ。神殿の粛清はなかったから撒き餌ってことか?」

首をひねるアマーリエに、ゲオルグが苦笑して答える。

「いや、神殿をそれなりに信用されて居ったんじゃろ。当時の神殿長は名にし負う方じゃったからの」

「ふーん。だから神殿側は誰も粛清されなかったんだ。じゃあ、状況が変わったってことか。うちの神殿しかわかんないからなんとも言えませんが、帝国の神殿も朴訥としてるんですか?ファルさん」

「わ、私に話を振るんですね」

「ここではっきり知ってるのファルさんしか居ないし」

「そうですね、朴訥とされている方もいらっしゃればそうでない方もいらっしゃいますとしか」

「じゃあ、端的に。アルギス様、今の神殿長は信頼のおける方ですか?」

「…それは」

「なるほど、でしたら殿下放逐の遠因はバルシュテインの物流を神殿に預けたことですね」

「?」

「ゲオルグ様、うちが神殿に物流お願いしたのって、三方良しだからですよね?」

「応、そうじゃぞ。民が潤い、我らも神殿も利益と権威を守れるからの。誰かが損をするようなものはうまくいかぬよ。そなたもよくわかっているじゃろ」

「色々渦巻く帝国の今の神殿で物流を任せて三方良しになりますかね?アルギス様?」

「!」

「神殿の権威が上がりすぎるもしくは民や皇帝、貴族の利が侵される可能性があるんじゃないですか?」

「そのとおりだが…」

「じゃぁ、目的のために手を汚すのも辞さない皇帝陛下が、帝国内の物流をうまく回すために次に打つ手は神殿内の粛清、もしくは信頼のできる人物を据えること。ただしあなた以外で」

「は?」

「あなたに継承権がある以上、今の陛下にお子が出来るまではあなたが次代。でその次代に悪名をつける気がサラサラ無いとなるなら、安全な場所に移すでしょ」

「しかし!」

「何この、盲目的なあんちゃんスキー!あのさ、あんたが守りたいって思うものを周りの人にこれが大事なんですっておおっぴらに言う?あんたの立場でそれ言った時、大事にしてたものはどうなった?」

「…子供の頃それで大切にしていたものは姉や異母兄弟にに奪われたり、周りの貴族に付け入られて身を貶す事になったりしたから、私は大事なものを口にしたり行動に出るようにはしなくなった…」

「それは陛下も同じだとは思わない?」

「!」

「やれ、やっとネジが締まり直したか。いいですか?あなたがこれからしなきゃいけないのはアルバンで人脈を作ること。信頼なり信用できる部下なり貴族なりを作ること。民に利益を与えて揺るぎない信頼を民から得ること。それを引っさげてあんちゃんのもとに帰って、帝位を継ぐこと。これがあんたに望まれてるあんちゃんの望みだよ」

「しかし、兄上に子ができれば!」

「正妃の噂を聞いたことがないんですがいらっしゃるんですか?寵愛を受けてる方は?」

「…今は居ないが」

「もしお子が出来て帝位を受け継ぐのだとしても、後ろ盾は?今度はあなたがそのお子様を守れる力を付けてなければ、また元の木阿弥ですよね?陛下が血を流したのはなんのためですか?」

「あ」

「やっと腹落ちしたか。このブラコンめ」

「ちょっとぉ、お芋ちゃん、きついわねぇ」

「まぁ、南の、あなたがそれを言っちゃお終いですよ」

「な、あたしはここまで言わないわよぉ」

「あなた言わずに行動するでしょう?」

「ふんっ」

「…私は兄上に大事にされていたのだな」

アルギスの目に滲んだ涙を拭い取るようにシルヴァンが舐めあげる。

「ありがとう、シルヴァン」

「いや、大事かどうかは知らないよ。ただ、次の治世のために必要だとは考えてるんでしょ」

茫然となったアルギスに、ダリウスがため息を付いて言う。

「なんでそこで落とすかね」

「好きかどうか気になるなら聞きゃいいんだよ、直接、人のいないところで。馬鹿馬鹿しい」

「直球だね」

「直球ですね」

「き、嫌いだって言われたらどうするんですか!」

「嫌いだって言われたら、あなたはあんちゃんが嫌いになるんですか?」

「そ、それは」

「じゃぁ、好かれて様が嫌われて様が関係ないじゃないですか。あんちゃんが好きなら好きであんたがアルバンですべきことは変わんないでしょうが」

「…」

「どのみち帝都にはすぐに戻れないんでしょ?」

「結果が出るまで帰ってくるなと」

「なら、さっさと結果を出して帰るか、帰るのが怖いならアルバンで好きに暮せばいいじゃないですか」

「ちょっとぉ、あたしはあんな田舎に引きこもるつもりはないわよぉ」

「だそうですので、さっさと結果出して帰ってください。はい終了」

「ひどっ」

「…すみませんのぅ。作る菓子は優しく滋味あふれる甘いものなのに、本人ときたらこれじゃからのぅ」

「あ、あのアルギス様。お米の件は私も手伝いますから、結果頑張って出しましょう!」

「ファルって優しいよね」

「グレゴールさんも手伝って下さいね!」

「いや、一応依頼なんでしょ?手伝うよ」

「結論出ましたし、さっさとアルバンに行きましょう。いい加減日数かかりすぎでダールさんに叱られます」

「「「「「「お前が言うな!」」」」」」」

ポクリポクリと馬はうるさい人間どもを無視して街道を終点へと走る。


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