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ダンジョン村のパン屋さん1〜ダンジョン村道行き編  作者: 丁 謡
第10章 旅は道連れ世は情け
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炊事場までやってきたド派手な衣装の一行は、ゲオルグによって紹介された。

「おはよう。旅日和じゃの。儂らも相伴させておくれ。皆、こちらは帝都の副神殿長のアルギス様じゃ」

そう言って、全身真っ白の神官服を着た30前の青年が紹介される。アマーリエはあまりにも真っ白な装束に目を眇める。

「はじめまして。元副神殿長のアルギスと申します。今はただの神官です。かしこまらないでいただきたい。そしてこちらは私の護衛を引き受けてくださった南の魔女殿」

(((((((元って何?どう言うことですか?説明お願い!)))))))

銀の鷹とアマーリエの内心の声は放置され話は進む。

「銀の鷹の皆は久しぶりねぇ。マリエッタ〜元気だったかしらぁ?」

「はい、南の魔女さまもご健勝でなによりです」

能面棒読みで応えるマリエッタにアマーリエが顔をひきつらせる。

「ふふん、早くくたばれって思ってるのが顔に出てるわよぉ、マリー」

「くたばれと思ってくたばってくださるのならいくらでも思いますよ。けれど、憎まれっ子は世にはばかりますから、素晴らしい人格者だと思うようにしてます」

「あぁら随分ねぇ。あたしはこ〜んなにあんたのこと心配してるのにぃ」

「ありがた迷惑です」

「まぁまぁ、マリエッタ。およしなさいな、可愛いお顔が台無しですよ」

「東の魔女様!わたしはもう心配いただくようなお子様じゃありません!」

「あぁら、男も見抜けないねんねちゃんじゃないのぉ」

「いつの話ですか!」

キレッキレのマリエッタの様子にびびったアマーリエはダリウスの後ろに隠れ、隣のダフネの服の裾を掴む。

(あ、あれはなんなんですか?)

(あー、昔マリエッタの男が南の魔女殿に寝取られたんだ。ただ、その男はかなり質が悪かったらしい。それで強硬手段をとったようだ)

(ねとり?いや、でも)

「はい、いきなりで申し訳ありません!男でも魔女なんですか!」

あえて空気を読まず、ダリウスの影から顔を出していきなり突っ込むアマーリエ。

極楽鳥も裸足で逃げ出しそうな衣装をまとった、仁王様の向こうを張るマッチョでオネェなおじさん魔女は、器用に片眉を上げてアマーリエの方を向く。

「あら、あんた初めてみる顔ねぇ。どこの芋っ娘?」

「バルシュ産の芋です!」

ドヤ顔で言い切るアマーリエに毒気を抜かれた南の魔女はフンと鼻息一つ、アマーリエを睥睨してのたまう。

「あっそう。あのね、わたしはこんなだけど心は女なの。そこんとこよろしくね、お芋ちゃん」

「はーい」

(一応、男は魔法使いの尊称になるのですが、あの方はああですので南の魔女の尊称なんですよ)

(なるほど)

ファルがコソコソとアマーリエに耳打ちする。

右頬にキスマークを付けたベルンが勇気を振り絞ってアマーリエが変えた空気をさらに変えにかかる。

「さ、さあ、朝食にしましょうや。腹が減ってると気が立ちますから。リ、リエ?準備は?」

「はい。出来てますよ。ダリウスさん、配りましょう」

保温マグにいれたスープは、新たに加わった6人分を追加して渡し、木皿にベーコンレタスサンドとゆで卵を乗っけてそれぞれに渡していく。ダフネは数の減ったゆでたまごを哀しそうに見つめる。

「ゴメンね、人増えちゃったから」

「仕方ない」

ヘチョッと倒れた耳を思わず触りたくなったアマーリエだがそこはぐっと堪える。

「これは?」

不思議そうに手渡された保温マグを調べるアルギス。

「ほうほう、これがマシューとステファンをこき使って作った新しい入れ物じゃの?」

「大隠居様〜、こき使うだなんて人聞き悪いですよ。なんか新しいものって言うから手伝ってもらったんです!フタを指で一回叩くと口があきます」

「ふむふむ、こうかの?」

「わっ、開きました!ああ、いい匂いですね。玉ねぎのスープですか?」

「はい。熱いから気をつけてください。あと、フタを2回叩くと閉じます。3回叩くと大きく開きますから」

「これいいですねぇ、持ち運びにすごく便利だ。バルシュで手に入るのかい?」

期待満々の顔でアルギスがたずねる。

「多分、今頃は審査も通ってますから量産に入ってるんじゃないでしょうか」

アマーリエが頼んで作ってもらってだいぶ経つ。

「ダールが呆れて居ったぞ。それじゃがの、魔力溜まりの件で魔道具ギルドも鍛冶ギルドもてんてこ舞いでの、それどころじゃないぞ」

「それは大変ですね」

「アチャー」

「お前さん、流石にこの旅路の合間に色々やりすぎじゃわい。周りがおっつかぬよ」

「すみません」

「もう少しせねば、日常の仕事にもどれんよ。まあ、魔力溜まりや新たな物流のお陰でいろいろと大変ではあるが、皆の技術も上がっておるがの」

「おおぅ、みんなごめん。頑張ってスキルアップしてくれー」

他人事のように言うアマーリエの言葉にマリエッタがカチンときて吠える。

「リエ!あんたほんとに自重しなさいよ!」

「魔力溜まりの件に関しては、わたしだけのせいじゃないと思うんだ。あれはああ言う流れになっただけ。物流に関しても、ご領主様が決めたことで、遠因に私のお菓子があるとは言え全部が全部私のせいじゃないはず?」

「まあまあ、魔力溜まりの件に関しては色々あなた達が先を考えて動いてくれて、他の者もその危険性をきちんと把握したからこそ必死で動くのですよ。皆にはとても感謝してますよ」

「東の魔女様!そこで褒めるとリエが調子に乗りますから!」

「乗りませんよ!」

「まあリエの好き勝手は周りに多大に負担を増すがその分の見返りがきちんとあるからのう。ブツブツ言いながらも結局関わることになるんじゃ」

「自分だけが楽しく得してたら、恨みを買うじゃないですか。そんな怖いことできませんて」

「まあ、真理だな」

「だがしかしじゃ、あれにあんまり甘いものを見せびらかさんでくれんかの?領主家業をほっぽり出しかねん」

メッと叱るふりをして言うゲオルグにそれはナイナイと手を振って笑うアマーリエ。

「いや、流石にダールさんが首根っこ押さえてるでしょ」

「ダールが怖いから言うて居るのじゃ」

憮然とした顔で付け足すゲオルグにさっと顔色を変えて真面目にアマーリエが答える。

「あ、はいそうですね、なんか付け届けしときます」

「ウムウム」

そんな二人のいつものやり取りにカークスウェルとスケルヴァンが苦笑をこらえる。

「まぁまぁ、お二人は仲がよろしいのね。いつも?」

「ええ、東の魔女様。主人には女孫がいらっしゃらないので孫代わりのようなものですよ。孫にそそのかされて、領地巡遊してますし。隠居しても元気なら領地を巡って悪を退治するといいんだそうですよ」

「我々は名前のせいで巻き込まれたんですよ」

「?」

「ご隠居のお供はスケさんとカクさんでなきゃだめなんだそうですよ、リエいわく」

「まぁ?」

「そう言うお話があるんですー」

「聞いたこと無いぞ?」

「とっても局地的なお話なんですー」

「はぁ?」

「まあ、騎士が巡回し我々が巡回することで目が行き届きにくい場所も少なくなっていますからね。ゲオルグ様もじっと館にいらっしゃるよりお元気ですし」

「フン、自分が守っておるものをこの目で見る幸せは何物にも代えがたいのじゃよ。悲しみに浸る余裕があればよし。悲しむ者が少なければなおよし。そういうものじゃよ」

「そうですわねぇ。今を必死に生きるしかなければ、喜びも悲しみも味わう余裕などありませんものねぇ」

「わが領地はようやく一息つく余裕ができてきたところじゃからの。じゃがそれでもまだまだ足りぬところはあるゆえの」

「温泉計画腰据えて頑張りましょうね、大隠居様!」

「ムッ、そなたは温泉が気兼ねなく楽しめるようになるのが待ち遠しいだけじゃろ?」

「みんな楽しく健康に倦まない程度に長生きできれば幸せだと思うんですー」

「まぁうふふ。たしかにあの温泉は素晴らしいものでしたねぇ」

「あらァ、東の?温泉入ったの?どうだったのよぉ?」

「身体が軽くなりましたねぇ。ああ、物理的に体重が軽くなったと言うんじゃありませんよ。体の中のあらゆる流れが滞りなく流れるような感じがしました。こわばっていた箇所が緩む感じですねぇ」

「全身を温めるからかしらぁ?」

「そう思いますわ。後は水の浮力かしら?身体が浮きますけれど内臓も浮く感じがします」

「あぁ、歳を取ると内臓を支える筋力が落ちるから体の中の筋力にも負荷がかかりすぎてるものねぇ。それが軽減されるわけねぇ」

「ええ、中までほぐれる感じなのですよ。温泉に浸かるというのはかなり体に良いことじゃないかしら?」

「確かに、あれだけの湯を用意するのはなかなかに労力のかかることですからの。一家に一つというわけにはゆかぬもの。まあ、金に物を言わせれば出来ぬことでもないじゃろうが…ん?リエそなたもしや?」

温泉の良さを知っているアマーリエのすっ飛んだスキルを考えれば家に風呂を作っているのではと思考がたどり着いたゲオルグ。

「ははははー、家に浴槽作りましたよ。父が取り敢えず窮屈じゃない大きさのものを。疲れが取れるからよく使ってますよ」

「…聞いてないぞ?」

「ダールさんは知ってますよ」

あえてアマーリエはダールに責任をなすりつける。

「ぬ、ダールめ」

「大隠居様は村の温泉をしばらく堪能されればいいんですよー。お屋敷の方はもうちょっとじっくり考えて作ればいいんじゃないですか?」

「むぅ、そうするかの」

「しばらくは、アルバンから通いでしょうけど、宿泊場所さえ出来たら連泊は問題ないわけですし」

「ふむ、騎士の駐留所も合わせてサクサク作っておくかの。種まきが済んだ頃に始めるかのぅ。その頃には人も集まっておるじゃろうし」

「無茶のない範囲でお願いしますー」

「ちょっと、お芋ちゃん。でその温泉どこにあんのよぅ?」

「え、入っていかれるんですか?」

「話に聞くだけとか無いわ〜」

「え、神官様の護衛は?」

「あらん、もちろんアルギス様も入っていくでしょ?」

「ええ、是非。こんなお話を伺った後で入らなかったなどと報告できません」

「わしも、今一度堪能したいかの」

「私もですわ」

「はぁ、ご一緒にアルバンに行かれるのでは?」

どうせなら一緒に行こうと同行をねじ込まれたベルンが顔をひきつらせながら確認する。

「ちょ、一緒って?転移でアルバンに行かれるんじゃないんですか!?」

「まぁ、マリエッタ。旅はゆっくり楽しむものですよ」

「いやいや、馬車は?馬は?歩くんですか?」

「そちらに乗せていただけると」

にこやかにアルギスが言う。

「我々は馬を借りることになっているから安心しろ」

カークスウェルとスケルヴァン改めカクさんとスケさんは騎士から馬を調達(略奪?)したようだ。

「いや、安心てっ」

「私は道中走るから問題ないんじゃないか?4人増えても」

「ダフネェ、あんた誰の味方を…!」

「諦めろマリエッタ」

ダリウスの言葉にがっくりうなだれたマリエッタだった。


後もうちょっとで道行き編完結するはず!?長らくおまたせしました~

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