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ダンジョン村のパン屋さん1〜ダンジョン村道行き編  作者: 丁 謡
第1章 城下町のパン屋さん
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翌日、マルセルにドナ・ドナされて領主館の少し大きめの客間に着いたアマーリエ。そこにはすでに、関係者が集まっていた。

「皆、知っている者もいると思うが、彼女がアマーリエ・モルシェンだ。よろしく頼んだぞ。まずはそれぞれ自己紹介してもらおうか。アマーリエ?」

アマーリエは領主に手招きされて、その側に行き、挨拶をする。

「ご紹介にあずかりました、パン屋モルシェンの娘アマーリエと申します。アルバン村までどうぞよろしくお願いいたします」

「アルバン駐屯地の交代要員でもある騎士たちだ。それぞれ簡単にな」

「騎士グゥエン・ダールです。この任務で騎士側のリーダーを務めさせていただきます。今ここにいるのが左から騎士ノール・キャンベル、騎士ミカエラ・ルーベンス、騎士アーノルド・ランス、騎士イーニアス・メイリー、騎士コンスタンス・リブライになります」

それぞれ軽く騎士の礼を取る。

「ここにいないが、あとは騎士側は彼らに付く准騎士と従者が数名だ。冒険者は、毎年この時期スキルアップをしにアルバンへ向かうAクラスの有名所クラン『銀の鷹』だ」

「紹介に預かったクラン『銀の鷹』のリーダーでAA(ダブル)の剣士ベルンだ。よろしくな、嬢ちゃん」

落ち着いた雰囲気の中肉中背のおじさんがにこりと笑って自己紹介する。それに続いたのは口元のほくろがチャームポイントの魔術師のローブを纏った女性だ。

「同じくAA(ダブル)のマリエッタよ。魔法士よ」

AA(ダブル)のタンカー、ダリウスだ。よろしく」

ヨコにもタテにもがっちりした、いかにも頑丈そうなのが低く響く声で挨拶する。

A+(シングルプラス)のファルです。神殿術士をしております。よろしくお願いします」

神官服をまとった真面目そうな女性が優雅に会釈をする。

A(シングル)のグレゴール、探索、索敵、弓士ってところだな。よろしく」

タレ目のお人好しそうな男のあとに虎耳トラ尻尾の頑丈そうな女性が挨拶をした。

A(シングル)の重剣士ダフネ、トラの獣人と人族のハーフだ。よろしく」

「あとこっちは、冒険者ギルドの職員デルフィナと商業ギルドのオルティアだ」

あまりにも有名なトップクラスの冒険者クランにアマーリエは内心でこのクラスをつけなきゃならないほどの事態が起こったのだろうかと懸念するが疑念はおくびにも出さず素直に挨拶をする。

「はい、皆様よろしくお願いします」

「それで、旅程なんだが…」

ご領主によって、アルバン村までの旅程が説明される。

基本、騎士が騎馬で先行で荷駄に従者、准騎士が乗って行くことになる。アマーリエは冒険者とともに幌馬車でその後を違和感のない距離を開けてついていくことに決まった。もちろん場合によってはその形態も変わってくることになると領主は言いおく。日数はアルバンまで2週間を予定していた。急げば5日程の旅程だが、宿泊した先々の村や町で、騎士たちはそこの現状を確認する業務があり、冒険者たちもなかなか冒険者の来ないようなところの急務依頼や塩漬けになった依頼をこなしたりすることになっている。そして、宿泊先がない場合は街道の駅で野営することになる。

「アマーリエの仕事道具や、生活用品などの荷物は転送陣で送るからまとめておいてくれ。あと、向こうで足りないものがあったら連絡してくれれば送るから問題ない」

「え、いいんですかそれ?」

転送陣は無生物を固定位置から固定位置へと転送する魔法陣だが魔力を食うので滅多なことでは使うことはない。もちろん魔力消費が抑えられるように改善されてきている。ちなみに転移陣は人を移送することができるが、これはさらに魔力を食うので魔力が多いダンジョンにしか設置されていない。

「3年ひとりで、あの村の主食を賄うんだ。まあそのフォローだな。だったら職人が育つまでパンを転送すればいいんじゃないかってのは却下な。アマーリエの安全を守るのにアルバンが一番いいんだからな。城下じゃ有象無象が多すぎて守りきれん」

突っ込もうとしたアマーリエに速攻かぶせてきた領主だった。

「さて粗方の説明はこんなものかな、グゥエン達は業務にもどれ」

一礼して騎士たちが部屋を出たあと、領主は残った者に座るように言い、アマーリエの方を向いた。

「アマーリエ、これが旅程表と日程表だよ。質問はあるかい?」

「はい、あります。メモを取りながらお伺いしてもよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ。皆色々答えてやってくれ」

領主の言葉に頷く周囲にホッとしてアマーリエは質問を始めた。

「それじゃあ、あちらで暮らすためのものは、転送していただくとして、基本的に私が道中持っていくものは何を用意したらいいんですか?」

「水と食料だな。これは各人用意するようになる。何かが起こってはぐれても、水と食料があればなんとかなるだろ?」

ベルンが真っ先に答える。

「なるほど」

「武器というわけではないけど、いろんな作業をするのに小型のナイフがあったほうがいいわね」

マリエッタが小首を傾げながら言う。

「ふむふむ」

「寝るのは幌馬車の中だけど、毛布があったほうがいいかな。中位のアイテムボックスなら余裕で乗るから、そこに入れるものとあと身につけられるアイテムリュックに分けて食料と水、自分が必要だと思ったこまごましたものを持つといいよ」

グレゴールが丁寧に答える。

「アイテムボックスとアイテムリュックに分けて用意するんですね、わかりました」

「あとはそうねぇ、生活魔法は習得済み?」

「はい、四属性とも大丈夫です」

「なら、まぁ何とかなるわね」

生活魔法とは火、水、風、土の四属性を少量の魔力で単体もしくは組み合わせで使う魔法である。火や水は単体で料理をする際に使うし、火と土を組み合わせて竈を作ったりもする。水と風、時には火と水と風を合わせて清掃、浄化の魔法にしたりする。繊細な魔力操作と属性の組み合わせのバランス操作が必要になるので実は攻撃魔法よりもはるかに難しかったりする。基本的に普通の人は、属性を単体で使うことしか出来ない。コップに一杯程度の飲水を出したり火種を出したりだ。あれができたらいいなとかこれができたらいいなと無意識に小器用にあれこれ使うアマーリエは、実は普通の粋からずれてしまっている。今のところそのずれている認識はアマーリエにはない。アマーリエが小器用に使っているところを他の人間が見ていないため、それを指摘される機会がないからだ。また錬金術に関しては、領主から珍しいスキルだからあんまり人前で使ってはいけないと幼いころの事件の際に言い含められている。また拐われちゃうぞと。

「食料とか水って、途中の宿泊先で手に入れられます?」

「いいこと聞くね。その年によって違うって言えばわかるか?」

「あー、不作の年は人に分けてる状態じゃないと」

「そう。だから旅をする場合、余裕のある日程を一旦組んだら、ギルドで街道の状態や宿泊先の状態を仕入れるの。あとは、懇意の行商人や商人ギルドでも確認するといいわ。どっちかの情報が古い場合があるけど、情報量がある程度あれば判断がシビアにできるから」

「ご安心ください。去年はどこも豊作傾向で売り渋りはありません。むしろ現金の収入ということでどこも売り傾向にあります。あと街道の安全状況ですが、今のところは特に問題はありません」

マリエッタの後を受けてオルティアが街道の現状を伝える。

「まぁ、ここに来る冒険者は上級者か初心者しかいないっていう極端なところだからなぁ」

ダリウスが顎を撫でながら呆れ気味に話す。

「?」

首を傾げるアマーリエにニコニコ笑いながらデルフィナがバルシュティンの冒険者の状況を説明する。

「領内は、街道を完全に整備してあって、騎士団が巡回整備にあたっています。つまり、領内で中級クラスの冒険者が必要になるような事案がおこりにくいんですよ。ちょっとした野生動物なら村の狩人が何とかしてしまいますしね。ですから、この領内で安全に中級の取っ掛かりまでクラスを上げて、他の土地で中級から上を目指すんですよ、冒険者は」

「そうなんですね」

「アマーリエさんは幌馬車は初めてですか?」

ファルが思い出した様に問いかける。

「はい、生まれてこの方この街から出たことがないんですよ。幌馬車もですから乗ったことがありません」

「なら、酔い止めの薬を用意しておいたほうがよろしいですね。慣れていないと揺れで酔うことになるかもしれません」

「はい、用意しておきますね。クッションを持って行ってもいいですか?」

「フフ、大丈夫ですよ。移動が長いとおしりが痛くなりますから」

「それは、厳しそうですね」

「あとは、ちょっとした薬や回復薬を用意しておけば凌げると思います。ギルドそばの薬局で旅行用の応急セットが売ってますからそれを買うのもいいですよ」

ファルが回復役らしく必要な物を教える。

「ハーシズ薬局店ですね」

アマーリエはメモを取りながら、必要な物を分類仕分けしていく。

「他に何かわからないことがあれば冒険者ギルドでご相談ください」

「はい、分かりました。ご領主様、あと、向こうのパン屋の設備なんですが」

「ダール」

「アマーリエ、こちらが一覧です。足りないものなどはあちらで誂えるなり、こちらから転送するなりしますのでご連絡ください」

「ありがとうございます。あちらは生活鍛冶師もいらっしゃるんですか?」

「いや、もっぱら武具系の専門鍛冶師だね。ただ打つのが業物で、一つ売れれば10年は普通に暮らせるから研究以外は結構暇を持て余してたりするんだ。技術は王都の職人に負けるとも劣らずな連中ばかりだから上手くおだてれば究極の道具が手に入れられるかもしれないよ?」

「それは面白そうですね。ふふふ、色々作ってもらおうかな」

「あまりうるさく言うのがいないからといって、羽根を伸ばしすぎてはいけませんよ」

「うっ、はい、ダール様。肝に銘じておきます」

恐怖の笑顔を浮かべるダールに、思いつきだしたあれこれを引っ込めて姿勢を正すアマーリエだった。

「嬢ちゃん、俺達は御城下じゃゴドフリーの宿を常宿にしてる。なんかあったら宿屋の受付かギルドの受付に伝言を残してくれればいい」

「はい、わかりました」

「アマーリエさん、良かったら一緒に買い出しに行きませんか?慣れた人がいたほうが助言もしやすいですし」

ファルが気を利かせてサポートにまわる。

「助かります、ファルさん」

「さて、だいたい大丈夫そうかな?アマーリエ」

「はい」

「では5日後の鐘1つに東門に集合だ。お開きにしよう」

こうしてアマーリエはアルバン村へ向かうことになった。

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