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ダンジョン村のパン屋さん1〜ダンジョン村道行き編  作者: 丁 謡
第10章 旅は道連れ世は情け
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翌朝早くから、村の女衆にガレットの作り方を教えて朝食を済ませたアマーリエは再度村長の家に呼ばれた。

村長宅で東の魔女も交えて様々話し合いが成され、様々なことの大枠が決まった。それさえ決まれば、後は関係各所との調整などでアマーリエの出る幕は殆ど無い。

午後からは、マリエッタとともに明日の朝出発のための準備をしつつ、村の人と話をして普段の生活に足りないものや必要なものなど村の状態を詳しく仕入れていく。

「…東の魔女様のやる気がすご過ぎてついていけない」

村興しの温泉計画に東の魔女が食い込んできたのだ。

「リエ、あの方たちが名付きの魔女になったのは必然よ。魔法馬鹿なの。魔法馬鹿が自分の魔法技術が磨ける状況に乗り遅れるわけ無いでしょ。何が何でも絡んでくるわよ」

時間のある時に魔力量の上乗せ方法を聞かれたり空の魔石に魔力を入れる方法など根掘り葉掘り聞かれて被害が集中しているマリエッタだった。アマーリエは魔法についての説明が今ひとつなので、何か聞かれても見せるだけでおしまいである。後はご本人に研究いただくか、詳細な説明などはマリエッタやファル、ミカエラに丸投げになっている。なにせ生活魔法を子供の頃に習ったきりで、本格的な魔法など習ったわけではないからだ。

「いいの?魔法バカなんて言って?」

「ふん、聞かれたって問題ないわよ。ご自身で言ってらっしゃることだからね。上達したけりゃ馬鹿になりなさいってね」

「しかし、転移陣の実験と魔法士の修行のためにうちの領内で輸送業やるとか言い出すんだもんねー」

温泉村のインフラ整備のための物流に実践形式で魔法士を使えとねじ込んできたのだ。

「あくまで実験だからね。帝国内じゃ色々周りがうるさすぎるし、むしろバルシュテインは王国の端っこな上にアルバンダンジョンとスタンピードがあるから、周りは何かと目をつぶる傾向にあるのよ」

「バルシュテインがなくなると困るし、ここで実地で実験したほうが自分とこで独自にやるより結果が早くてお金がかかんないってことか」

「そうそう。そうして齟齬のないシステムがある程度出来てから、他国に回すほうが無駄が少なくて、ここ何代かで大人しくしてる方が利益が出るって身にしみたみたいよ」

「へぇ〜」

「だから利口なトップはあなたを拐おうなんて馬鹿なことはかけらも考えないわね。あなたとバルシュテインが出すものをうまく取り入れたほうがリスクも少なく利益も出るって理解してるの」

「つまり、ここにちょっかい出すやつってどうしようもないバカってことか、相当追い詰められて見えなくなってるってことか」

「そういうことね」

「やれやれ、目立たずにやりたいことやるのって難しい」

「まあ、あんたの場合はほぼ無理ね」

ぼやくアマーリエを笑い飛ばしながら納屋に戻った二人だった。

「二人共、準備はいかがですか?」

「ああ、ファル。万端よ。そっちは?」

「大丈夫です。と言いたいところなんですが、何故か神殿の上層部も西か南の魔女さまと一緒にこちらに来られるようなんですが」

「「は?」」

「ここの村に泊まる場所はありませんので、おそらくアルバンに直行かなとは思うのですが。でもアルバンに直行も難しいですね?結界がありますし。じゃあ、やはり座標も含めてここにいらっしゃるんでしょうか?」

東の魔女とゲオルグの会話を漏れ聞いたファルが首を傾げながら推論を立てる。

「いやいや、何で来るの?神殿の上層部なんて偉そうにふんぞり返ってるのが仕事なんじゃないの?」

これ以上の面倒はゴメンとばかりにマリエッタがファルに突っ込む。

「あはは。上層部でもあんまりそういうのに興味ない研究家肌の方がいらっしゃるようですよ」

「へ〜」

「外界をウロウロするのなんざ若いのに任せて、神の権威なんだから、神殿で大人しくしてりゃぁいいのにねぇ」

「一応若い方になりますよ。本当は神官にならずに冒険者になりたかったようなんですけどそうもいかずってところなのでは?」

「げ、ちょっとファル、それって皇都の神殿に入った、生き残りの変わり者末弟殿下のことじゃないでしょうね?」

「あたりです。ご存知です?」

「噂だけはね。政には興味なかったために、あの氷帝が唯一生き残らせた皇弟でしょ?あんた会ったことあるの?」

「あちらの神殿でチラとお姿を拝見したぐらいですね」

「ほうほう、どんな感じよ?」

「皇帝陛下に似てらっしゃいますよ。歳は随分離れてらっしゃいますが同母のご兄弟ですから。そうですねぇ、春の日だまりのようなのほほ~んとした方です」

「あ、行灯?」

「のんびりされた方と言うだけで昼行灯ではありませんよ。昼行灯でしたら、陛下も遠慮なく首転がしてますよ。実際、同母の妹殿下は物理的に首が飛んでます」

あっさりとんでもないことを口にするファルであったが、皇国では皆が知る事実なので余り気にしていない。皇国内ではあえて、皇帝の非情さが強調されて噂話されているフシがある。

「確かに。まあ、でも私達下々には関係ない話よねー」

必死に政治関連に関わりたくないとマリエッタは思っているが、アマーリエに関わり合ったがために抜き差しならない状況になる可能性ももちろん頭の隅で考えている。ただ実際に関わることになるまでは現実逃避したいだけなのだ。

「そんな偉い人が来るってことは、お供の神官さんもいっぱい来るんですか?」

のんきにファルにたずねるアマーリエのたまに鈍くなる思考にマリエッタは頭が痛くなる。

「どうでしょう?魔女様方いわく、魔力の関係上、長距離の転移が出来るのは今のところ名付きの魔女さまだけのようで、一度に転移できる人数にも限界があるそうですから、そんなにいっぱいいらっしゃらないのでは?」

「アルバンの宿もそんなに大人数が泊まれるわけじゃないからねぇ」

「宿屋あるんですね」

「一応ね」

「ギルドと一緒になってる冒険者御用達の宿と冒険者が手に入れたアイテム類を買い付ける商人や貴族が泊まる宿屋の二箇所があるわね」

「へ〜こんな辺境まで来る変った貴族も居るんですね」

「好事家ってやつね。誰よりも先に変ったものが見たいって言う人ね」

「ほうほう」

「まあ、滅多なことでこないけどね。バルシュテインのご領主と国王陛下の許可が要るから。ただ、あんたが居る3年はよほど身元が確かな人物じゃないと許可でないでしょうね」

「人物は確かですけど、その皇弟殿下って本人は別としても周りがいろんな意味でやっかいなんじゃ?」

「まあ、あながち外れじゃないわね。かかわらない。これがベストね」

「狭い村でかかわらずにって出来るんですかね?」

「ぶっ、パン屋に来る皇族なんて聞いたことないわよ。大丈夫でしょ」

「ですよね!買い食いしに来るうちのご領主様が規格外なだけですもんね」

(知らないほうが幸せなことってありますよね?)

「なに、ファル?」

「いえ、なんでもありません。明日は早いですし、今日も早く寝ましょうね」

「そうね」

「明日の道中にでも皇国のお話もきかせてください」

「いいわよ。っと言ってもそんな大した話はないけどね」

「?」

「はいはい、夕飯の支度して寝る寝る」

「はい」



まだ日も昇らぬ朝ぼらけ。

「…来た」

いきなり、藁布団から跳ね起きて地獄から響くような声でつぶやいたのはマリエッタ。それに驚いて起きたのは両隣のアマーリエとファル。

「これは南の?」

「え、なになに?」

アマーリエは寝ぼけ眼で周りを見回す。

「ふわぁああああ。南の魔女さまがいらっしゃったようだ」

ダフネが耳を村の入口の方に向けて伸びをする。

「な、南の魔女さまなのか!?」

焦った声を上げるのはベルン。

「取り敢えず、会ったらご挨拶でいいんじゃないか?わざわざ出向かなくてもいいだろ?どのみちやんごとなき方も一緒なんだろうからさ」

ダリウスが落ち着けと言うようにベルンの肩を叩く。

「そ、そうだよな」

「ファルはご挨拶にいかなくていいのかい?」

「とくに神殿の方からは申し付けられているわけでもないので大丈夫だと思います」

「???君子危うきに近寄らず?皆さんくらい有名なパーティーなら一応挨拶しに行くのかとか思ったんですが」

「リエ、俺達は冒険者だ。権力におもねることはあまりしない」

嘘くさい笑みで爽やかに言い切ったベルンに何か触りがあるのかと余り納得してない様子で頷くアマーリエ。

「はぁ、さようで」

「さ、関わる前に出発するわよ。ていうか、皇都の神殿からここまでどんだけ距離があると思ってんのよ。なぜこんなに早く着く訳!?」

キビキビと動き始めるマリエッタにさらに座りの悪い心持ちになるアマーリエ。

「マリエッタさんが…あの寝起きの悪いマリエッタさんが起き抜けからキビキビと」

「ンー、まあそれだけ避けたい相手ってことで。ほらリエも片付けて」

聞かないであげてほしいと言わんばかりの苦笑を浮かべてグレゴールがアマーリエを促す。

「はい、グレゴールさん」

「まとまった?炊事場に行くわよ!」

「俺達は馬車の用意をしてそっちに行く。くれぐれも鉢合せんようにな」

「もちろんよ」

戦場に立ったことのないアマーリエでも戦場ってこんな感じか?と思うような、ベルンとマリエッタが醸し出す出陣間際のような緊張感漂う空気に首を傾げる。普段ののんびりした二人の雰囲気とのあまりのギャプ故に。

「あの二人の珍しいほどにキリッとした行動…。そんなに会いたくない人なの?」

「そうですねぇ、魔女様方の中で一等変わったお方ですね」

「ほえー」

炊事場で手早く朝食の用意をしてベルンとグレゴールを待つ。その間中毛の逆立った猫のようなマリエッタに思わずアマーリエがこぼす。

「あのー、ここでご飯食べないでもう馬車ででちゃったほうが良かったんじゃないですか?馬車で食べればいいんだし」

「その手があったか!うっかりしてた」

「あー、このところ御飯ちゃんと食べてたから、その考えが浮かばなかったね」

「いや、あのまま出てたらすれ違ってただろうからいいんじゃないか?」

「…そう思いたかった」

そうポツリと呟いたマリエッタが炊事場の入り口で見たのは、ド派手な色彩の人物を先頭に来てほしくない人々がベルンとグレゴールと共にやってくる姿だった。


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