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昼過ぎに村長の家に戻ったアマーリエ達は簡単に昼を済ませて一度解散する。

「リエ、すまぬが夕食の支度の指示を頼めんか?食材はこのアイテムボックスに用意してきた。好きに使え。グゥエン達もな」

ニヤリと笑って騎士もうまく使えとアマーリエにそそのかす。

「はい、承知いたしました」

立ってなくても使えるものはなんでも使うアマーリエとしてはお墨付きを貰えばなおさら喜々として本領発揮する。いつものこととグゥエンがアマーリエに近寄る。

「で、誰が必要だ?」

「調理の補助をお願いしたいので得意な方を。後は炊き出し用の鍋とフライパン貸してください」

「わかった。ミカエラ、調理の得意な従者も使え」

「かしこまりました」

「村長様、村の女衆を集めて頂けますか」

「はい、もちろんです」

村長は自身の妻と娘に言付け村の炊事場に女衆を集めさせる。

夕刻前に炊事場に集まった女衆はアマーリエとミカエラの指示の下ゲオルグが用意した食料を使って村の夕食を用意する。

辺境の村はようやく春の声が聞こえるぐらいでまだまだ新鮮な野菜も肉も手に入りにくい。

そのため、ゲオルグは村人のために振る舞い酒ならぬ振る舞い飯を用意したのだ。

「おお、大隠居様色々持ってきてくださってる。ごちそうにしちゃっていいんだね」

「ちょ、リエさん。やりすぎないでくださいね」

「まあほどほど?」

「え〜」

「頑張ったら美味しいものが食べられるって、原動力になりますよね」

「そりゃそうですけど〜」

先程のゲオルグの護衛に付いていたミカエラも話は聞いているので村の人間がやる気になったほうが話しが早いのはよく理解している。が、やりすぎるなと河原でカークスウェルに釘を刺されてるのも聞いている。

「村長の奥方様、村人が集まって食べる場所ってあるのですか?」

「祭りのときにこの炊事場の横の広場に集まって飲み食いいたしますが?」

そう行って村長の妻が指差す方を見る。西洋芝に近しい種なのか既に青々とした芝生が広がっている。周囲にベンチ代わりの丸太も置かれている。

「そりゃ机や椅子持って集まるのも面倒か。皿やコップは持ち寄り?」

「ええ、汁物はこぼしてしまうので作らず、焼き物が多くなりますねぇ」

「なるほど。ありがとうございます」

「何を作るんですか?」

「根回しって大事だと思うんだ。とくに女衆には。父ちゃんたちのケツをしっかり蹴ってもらわなきゃいけないし」

「…容赦ない」

「あの、集まってもらって早々なんなんですがお家に古いというか固いパンが余ってたら持ってきてもらえますか?」

「固いパンですか?」

「はい。女衆と子供たちが食べられるだけあればいいです。あ、後お皿も持ってきてくださいー」

その言葉に、首を傾げながらも女衆は家にパンを取りに帰る。

「男衆の分はいいいの?」

ミカエラが不審そうな顔をしてアマーリエに問いかける。

「出来たてが美味しいので、仕事の手を止めちゃあまずいですし。ぶら下げる人参も必要ですしね」

ニヤッと笑って答えるアマーリエの黒さに腹落ちしたミカエラだった。

「つまり、女子供からおいしかった~と聞かされ続け、食べるためには頑張らないと駄目な状況を強制的に作り上げるんですね」

「食い物の恨みってすごいですよねー」

「あんたのドラゴンさ加減がすごいわ」

ボソリとつぶやいたミカエラだった。

そうこうするうちに女衆が戻ってくる。

「それじゃ、まず、牛乳と卵と蜂蜜です」

アイテムボックスから順に取り出すアマーリエ。

「この後、先々代様から村の発展のお話があると思います。その発展の過程でみなさんも卵や牛乳が今より手に入りやすく、蜂蜜も生産できるようになるかと思います。で、先にそれを使った料理を教えちゃいます」

ニコニコ笑ってアマーリエが言う。

「蜂蜜をですか?」

村長の娘が目をキラキラさせて問いかける。

「ええ、売る物になってしまうとは思うんですが、それでも手に入りやすくなると思います」

「鶏や牛も増やせるんですか?」

「皆さんの頑張りで、いろんなことがうまく進めば家畜も増やしていくことになります」

集まった女衆は嬉しそうな表情になる。

「でも、頑張りすぎたり、困ったことがあっても我慢しちゃったりは困るんだ」

「「「「「?」」」」」

「頑張りぎて病気や怪我をしちゃったら、なんのために頑張ってるのかわかんないでしょ?」

アマーリエの言葉に女衆は頷く。この世界はまだまだ医療が未発達な分怪我や病気はすぐ死につながるのだ。

「困ったことや何かがおかしいと思ったこともすぐに皆が知って、対処できれば小さな問題の内に解決できるでしょ?」

「そうだねぇ、大事になるのは大概時が経ちすぎちまうからだねぇ」

「それに不満を小さなうちに吐き出さないと、溜め過ぎればドカーンと爆発しちゃうでしょ」

「アハハハ、たしかに。そりゃぁそうだ」

「うちのご領主様方も騎士様方もちゃんと話を聞いてくれるからさ、無理しすぎないで話をしてほしいんだ。そのほうがうまくいくからさ」

「ああ、わかった。ありがとうよ、お嬢ちゃん」

「じゃあ、美味しいものを作ろうか」

そう言うとアマーリエは、まず一通りの流れを教える。

「持ち寄ったパンを集めてもらっていいですか。一応小麦のパンが主流なのか、良かった」

「ここ数年は、小麦がそこそこ取れてるからねぇ。それでもソバは何かあったときのために作ってるよ」

村長の妻がそう教えてくれる。

「なるほど。じゃあ、ソバの美味しい食べ方もあったほうがいいかなぁ」

「美味しく食べれるならそれに越したことはないよ」

「わかりました、その方法もご紹介しますね。まずは持ってきてもらった古いパンを美味しく食べる方法かな。バゲットを指二本分ぐらいの厚みにカットします」

これぐらいねと、切ったパンを見せる。

「そこそこお腹が満たされちゃうから、小腹がすいた程度で食べるならバケット2カットぐらいでいいと思う。なので四人分8カットの分量を教えるね」

皆がちゃんと聞いているのを確認して続きを始める。

「ボールに卵二個割り入れます。そこに蜂蜜をこの大きさぐらいのさじなら2さじ分入れます。砂糖が手に入るなら替わりに砂糖でもいいよ。そして牛乳はこれぐらいの大きさのカップで6分目ぐらい。で、かき混ぜて、これぐらいの濃さ卵液を作ります」

この村は計量カップや計量スプーンがまだ普及していない。バルシュの方はアマーリエが小さい頃に父親と鍛冶屋の親父に頼んで規格のものを作ってもらい既に登録普及させている。

「お嬢ちゃんのそれはなんだい?便利そうだね」

「計量スプーンと計量カップと言って、正確に量が計れるものです。元になる量がわかっていれば、後どれぐらい足したりとかわかりやすくなるし、料理の失敗が少なくなるんですよ」

「なるほどねぇ」

「行商の方に仕入れてもらってはいかがでしょう?バルシュでは普及してますから」

「そうね、頼んどくわ」

「で、この卵液にパンを浸します。浸す時間をかけられるなら、パンの数はそのままで卵をもう一個増やして、牛乳は8分目、蜂蜜や砂糖はもうひとさじ足してもいいですよ。ミカエラさん、様子見ながらパンをひっくり返してもらって、パンにしっかり卵液が馴染むまでみてもらっていいですか」

「了解」

「パンを浸している間に、かまどに火を入れて、フライパンを熱します。火はあんまり強くなくていいよ」

これぐらいね、と火の大きさを見せる。女衆が順に見ていく。

「で、フライパンが温まったら、バターを一欠か植物油をひとさじ。バターならコクと風味が出て、植物油ならあっさりした感じかな」

「リエさん、一応パン全体に行き渡ったと思う」

ミカエラから受け取ってボールの中のパンを女衆に見せる。

「短時間漬けてる程度なのでこれぐらいしかパンに吸い込まれてないですが、ある程度時間をかければもっと吸い込むからね。取り敢えず、今日はこのぐらいで焼きます」

パンをフライパンに置いていく。じゅわーっと音がして卵の焼けるいい匂いがし始める。

「で、このぐらい焼けたらひっくり返して、残りの卵液を入れちゃってください。で、フタをしてしばし待ちます。音がこれぐらいになったら、蓋を開けてひっくり返して焦げ加減を見てください。で、パンを軽く押さえて、卵液が出なくなったら完成です。ひっくり返しながら焦げすぎないように火を通していってください。ミカエラさんお皿ください」

「はい」

「で、お皿に盛って、蜂蜜をかけます」

「「「「「おおー」」」」」

「じゃ、一口ずつまずは味見をどうぞ」

そう言って皿を村長の妻に渡す。

「んんー」

「え、私も私も」

「はぁあ」

ジタバタ始める女衆にニヤニヤ笑うアマーリエ。

「ちょ、私も一口欲しいですぅ」

「はいはい、ミカエラさん。じゃ、残りを皆で作りましょうか。パン切ってください。かまどの準備もお願いします」

アマーリエの言葉に皆いそいそと動き始める。

「パンはどのくらいになりました?じゃあ、卵と牛乳とはちみつ用意しますね。卵液を作る人を決めたら次の夕飯の準備に移りますね」

女衆の二人に卵液づくりとパンを浸すところまでを任せ、残りの女衆に次の仕事を割り振る。

「ちょっと変ったものを作ります。まずパン種を作りましょう」

そう言って、皆でパン種をこしらえ始める。

「ねかさせてる間に、さっきの卵液に漬けたパンを焼いて、子供たちも呼んでおやつにしましょうか」

アマーリエの言葉にそれぞれ女衆が動き出す。

子供と女衆はできたフレンチトーストを楽しそうに食べていく。もちろん手伝いのミカエラと従者たちの分もある。

「古くなったパンもこれで美味しく食べられますね」

「でしょ。朝に食べてもいいし、今みたいに昼と夕の間の子供のおやつにいいのよ」

「こどもは一度にいっぱい食べられませんからねぇ、間食はありですね」

「そうそう」

「後は何を作るんです?」

「塩漬けしてない豚肉の塊があるから、それと白菜を合わせて蒸し焼きにしようかな。あとじゃがいもと人参のサラダ。パン生地の方は平らに伸ばして上にチーズや塩漬け肉、トマトソースなんかをトッピングして焼こうかなって思ってる」

「よくわかりませんが、言われたとおりに」

「アイテムボックスがあるから出来たものは順次収納して、先々代様のお話が終わったら皆に皿を持たせて配ればいいと思うんだ」

「わかりました。じゃ、はじめますか」

女衆を集めて夕飯の準備に取り掛かった。

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